第119話 コ・ルセイン
「ギョウブさんの知り合いがコ・ルセイン、俺の名前はルセインですか」
「はい。先に申し上げておきますが、謀っていたり、嘘をついてはおりません。コボルト族の誇りにかけて誓います」
「疑ってなどいません。ただ、俺とその人に何かあるのかと考えただけです」
ギョウブのあの様子を見る限り本当に何も知らないのだろう。全てを知っているのはアイツ。そう、ミドガーだけである。ミドガーが考えなしに俺に近づいてきたは訳でないのはわかった。このダンジョンを出た暁には洗いざらい話して貰おう。
「だいぶ昔ですが私はコ・ルセインに会った事があります。このダンジョンの入口がまだ地上にあり、人族の冒険者がまだこのダンジョンに頻繁に入っていた頃です。コボルトも今のようなコミュニティは築けておらず何度も存続の危機に立たされていました」
入口が地上に? 地形が変化したのだろか? 死体を操るネクロマンサーの俺が言うのもなんだが現実味のない話である。
「ルセインさんはダンジョンには二種類の魔物がいる事はご存知ですか?」
「いえ、初めて伺いました」
「一つは生殖を行い、子育てをし、数を増やす。人族と同じですな。もう一つはダンジョンより自然発生する魔物です。自然発生する魔物は知性がなかったり無機質であったりする場合が多く、例外はあるようですが生物とかけ離れている事が多いようです」
ダンジョンの知識を全く持たずここまできたが、魔物の種類といい、ダンジョンの成立ちといいもう少しダンジョンについて勉強しとくべきだったと反省する。
「我々コボルトは冒険者の狩りと自然発生する魔物との板挟みで数が激減し、一時は絶滅の危機に立たされました。そんな時に現れたのがコ・ルセインです。初老で白髪、碧眼、痩せ型。ルセインさんと違い温和な顔立ちをしていました」
ルセインさんとは違いと言う言葉は必要だったろうか? 悪意はないのだろうが少しだけ傷つく)
「コ・ルセインは我々に近づくと幾つかの条件と引き換えに我々に援助する約束をしてくれました。一つは時が来るまで自分の事を匿う。もう一つはある人物が来た時にその人物の協力をして欲しいというものでした」
ガイブとギブもこの話しを聞くのは初めてのようで、ギョウブの言葉を聞き逃さないよう注目している。
「ルセインの手腕は見事なものでした。コボルトを下層に避難させると自然発生する魔物を一時的に退け、コボルトを教育し、武器を持たせ集団化させると上層の一部を占拠。要塞化すると徐々にですがコボルトの数も増えていきました」
話しを聞く限りだと戦闘を直接こなすタイプではなく知識を分け与える事によってコ・ルセインはコボルト導いたようだ。
「生活も安定した頃、勇者を名乗るものが現れました。ダンジョンに侵入した勇者は徒党を組んだコボルトと互角の戦いを繰り広げました」
「ちょ、ちょっと。勇者ですか? あの伝説の?」
「はい。人族の間で勇者がどのように語られているかは分かりません。しかし、コ・ルセインは勇者だと言っていました」
「ギョウブさんもう一ついいですか? 人族の伝説では勇者はべらぼうな強さだったと聞いています。コボルト族を馬鹿にする気はありませんが昔のコボルトはそんなに強かったのですか?」
捲し立てるように話すルセインに落ち着くように促すギョウブ。ルセインが椅子に座り呼吸を整えるとギョウブが続きを話し始める。
「たしかに昔のコボルト族は強かったです。常に敵と戦い続けていたので屈強の戦士も多かった。例えるなら今のガイブが数人。それに次ぐ戦士達がその倍といったところでしょうか? もちろんそれとは別に一般の兵もいましたので戦力だけ考えるならコボルト族は今よりだいぶ強かったのかもしれません」
「ナニ! コボルト族はソンナニツヨカッタノニ何故弱くなったノダ?」
話の途中ではあるが今度はガイブが話に食いついてくる。たしかに今のコボルト族から考えるとありえない話だ。その当時の戦力があれば化け百足もゴブリンも全く問題なかったであろう。
「ふむ。理由は簡単じゃ。この後、詳しい話はするが入口が移動し下層に結界を張ったおかげで外敵と戦闘をする必要がなくなった。これはどの種族にもいえる事だが戦から離れるとその種族は一気に戦力が落ちる。望ましい事ではあるがその反面危機に立たされた時には弱くなる。一言で言うなら平和ボケといったところかのぉ」
「ヌウ」
渋々ガイブも納得したようだ。戦に秀でたガイブから考えると複雑な心境のようだ。
「話が逸れてしまいましたな。コボルト族と勇者が拮抗していたのにはまだ理由があります。勇者がまだ未熟だったからです」
「未熟とは?」
「コ・ルセインの話ではその当時の勇者は九歳だといっておりました」
「きゅ、九歳ですって? その九歳の子供がガイブと同等のコボルトと戦ってたと言う事ですか?」
「はい。一人ではなくコボルト族の戦士全員とです」
「えっ……」
一発であの化け百足を屠る膂力を持ったガイブ。そのガイブ級の戦士が数名で戦う姿を想像する。それだけでも驚異的な強さである。その戦力を援護するコボルト兵。もちろん飛び道具も飛びかっていただろう。戦力だけを考えれば小国を落としかねない戦力である。
「最初は拮抗していた戦いも二度、三度と戦う内にコボルト族が押されるようになってきました。コボルト族と勇者の最後の戦闘の日、戦士の長が重傷を負い帰ってきました。そこでこれ以上は戦えないと判断。一族はコ・ルセインに相談しました。そして、その数日後にルセインはダンジョンの入口を隠す事にしたのです」
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