第118話 狸ジジイ
「ありがとう! 全ゴブリンを同時に使役できるかは分からない、けど大きな戦力になるよ」
「いえいえ。私も最後の解体ということですので頑張る事が出来ました。コボルト族の恩人に報いたいですからね」
「いやいや。俺はこれでダンジョンの出口まで案内してもらえる訳だしお安い御用だよ!」
「えっ!」
「……えっ?」
お互いを讃える場面から一転、ルセインとギブの間に不穏な空気が漂う。
「ゴブリンとの戦い終わったら出口まで案内してくれるんじゃ無いの?」
「……そんな約束でしたっけ?」
「上層十階はコボルト族が占拠してるんだよね? という事は入口も管理してるんだよね?」
「は、はい。入口は管理していますが入口はピレシー山脈の地下水脈ど真ん中です。出てすぐに死にますよ」
「…………」
※※※
扉のドアが開かれる。部屋に灯りが灯されるとそこに現れたのは壁際に数百と並べられた書物。ギブは背表紙を一つ一つ確認するとその一つを手に取り眺めてみる。
長い間放置されていたのか部屋には埃が溜まっている。先日に名もなきゴブリンとガイブが部屋に入ってきたのが久しぶりであったのだろう。
「うーん。ガイブ、ゴブリンを埋葬したと言っていましたが、一緒に埋葬したのは人族の男性ですか?」
「オレは詳しいコトハ分からない。ただ、あれが人族のダッタノナラ、コツバンノツクリと骨格がキョクタンニに細かった、女ではないかと思う。詳しくシラベタケレバ墓を――」
「いや、大丈夫です。眠らせてあげましょう。さあ、ルセインさんと合流しましょう」
※※※
意識同調使役の影響で現れた隈と鱗状の皮膚はまだ回復しておらず、ベッドのルセインの表情はいつもに増して優れない。合流したガイブとギブ、ギョウブはそんなルセインを見てギョッとする。
「具合が優れませんか?」
「いえ、そんな事はありません。ただちょっと聞きたい事があります」
「そうですか。それはちょうど良かった。私からもお話がございます」
ルセインとギョウブそれぞれでどちらから話すかお互いに戸惑っている。そんな二人を見てギブが恐る恐るギョウブに声をかける。
「ルセインさんのダンジョン脱出についてギョウブはどのように考えていらっしゃるのですか?」
「脱出ですか。ゴブリンも倒しましたし最大限の協力をするつもりです。ご安心下さい」
協力をして貰えると聞いてルセインの目に希望の光が灯される。しかし、先程のギブの話しを思い出しすぐにその光は消え失せる。
「しかし、入口は水脈の中だと伺いました。どうやって脱出するんですか?」
「はっはっは。その通りです。入口からは外に脱出はできません。もしダンジョンの入口で脱出できるなら私たちの事などほっといていつでも脱出できたではありませんか?」
(言われてみればそうである。使命感とミドガーの手紙でなんとなくゴブリン退治を引き受けたが、脱出に拘ればその方法もあったはずだ)
「脱出をするにはさらに地下に行かなくてはなりません。ゴブリン退治をすることによってかつて我々が住んでいた十階層まで取り戻すことができたのはルセインさんにもメリットがある話なのですよ」
「地下ですか……」
今更の話ではあるが一つわかった。ギョウブはルセインが地上に脱出でき無い事を理解しており、その上で共闘関係を築いていたのだ。恨む気持ちなどはないがギョウブがただの好々爺ではなく抜け目のない狸ジジイだったのは理解する。
「地下二十一階に何かがあるはずです。鼻が利き、戦力のある者を同行させます。先程申し上げました通り全力で協力させて頂きますよ。ホッホッホ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、地下に潜るにあたり私からもルセインさんに一つお話ししときたい事がございます。先程、ゴブリンの親玉と思われる者がいた書庫に行って参りました」
ギョウブが懐をゴソゴソさせると一冊の本を取り出す。
「先ほどギブから渡された書物です。この本の持ち主は多分私が知っているものと同一人物のようです。以前お話した唯一このダンジョンを知っている者と思われます」
そういえば出会ったばかりの頃にそんな事を言っていたような気がする。そういえばあの時に俺の名前を聞いてギョウブが狼狽えていたような気が……。
「全ての本を確認したわけではありませんがゴブリンの親玉はその同一人物の本を何らかの手段で集め、その本から知識を得ていたようです」
その同一人物がゴブリンに肩入れしていたという事であろうか? それとも奪い取った? 肩入れしていたのであればこの戦争に何らかの手段で参入してくるであろうし、それだけの知識がありダンジョンに行き来するような者であれば自衛の手段くらい持っているであろう。ゴブリンに大事な本を奪われる可能性は低いであろう。となると……
「あくまで可能性に過ぎませんが、その者と私たちコボルトの関係を考えるとゴブリンが手にしていたいあの本は偶発的に手に入れていた可能性が大きいと考えます」
少しだけ目線を落とすと少しだけ嬉しそうな表情を浮かべる。ギョウブにとって好意的な人物であったのだろう。
「ギョウブさん。その方の名前伺っても宜しいですか?」
「はい。その方の名前は《コ・ルセイン》といいます」
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