第117話 代わり


「あ、うぅ」


「あっ! ルセインさんが起きました」


 簡易的なベッドの上に寝かされ、身体を動かそうとすると鋭い痛みが身体中に走る。


 こじんまりとした部屋にベッド。すぐ近くにはギブ。少し離れた場所にはギョウブがそれぞれ椅子に座っている。ギブは目覚めるまでずっと看病してくれていたようだ。


「戦いは、戦いはどうなった?」


「ルセインさんのお陰で全面的にコボルトが勝利しました。残党を追い立てていますがほとんどのものが下層へ逃げて行きました」


「そうですか」


 とりあえず安心するルセイン。最後のあの勝利の瞬間は幻ではなかったようだ。


「あっ、ガイブは?」


 戦闘の結果ばかりに気がいっていたが大事な事を忘れていた。するとドアの隙間から一匹の獣人が顔を出す。


「オレのコト、ワスレルナンテ酷いんじゃないか」


 片足を引きずりながらガイブが部屋へと入ってくる。


「もう起きれるのか?」


「オマエは三日もネテタノダ。俺はコノトオリだ」


 回復の速さをアピールしているガイブを椅子に座るギブが睨みつける。


「何を偉そうにしてるのですか。戦闘の終わりに姿を眩ませていた貴方が良く言いますよ」


「……」


 ガイブはニカっと笑うと犬歯を見せる。ガイブとギブの間に微妙な空気が流れる。そんな二人を見てギョウブが間に入る。


「まあ。無事なら良いではないか。今回の立役者はガイブとルセインさんだ」


 再びガイブが犬歯を出して笑うとギブも渋々納得する。


「分かりましたよ。ではガイブ、ルセインさんも起きました。戦闘の後、何があったのか伺っても良いですか?」


 どうやら戦闘の後に何をやっていたかはまだ明らかにされていないようだ。ギョウブ、ギブ、ルセインの視線がガイブに集まる。


「あぁ。そうだな」


 ガイブが椅子に座ると淡々とあの後の経緯を話す。戦闘の終わりに化け百足から去ろうとするゴブリンに気付き、こっそりと後をつけた。とある部屋に入るのを確認し、そしてとどめを刺した。経緯としては実に短く、呆気ないものであった。


「あいつ、戦闘の途中で一度ハナシカケテきた。テッキリ侮辱や蔑むコトバをかけてくるかと思ってたんだが、あの感じ、あの言葉に悪意はカンジナカッタ。父ちゃんをコロシタ仇だ……殺さないワケニハイカナイ。でも、アイツのことをオレハナニモシラナイ。なんか寂しい奴だった」


「……」

「……」

「……」


 予想外の言葉に皆、言葉を失う。種族間の戦争。ましてや親を殺され、住処を追われたガイブがそのような言葉を発するとは……。


「その後、お前はどうしたのじゃ?」


 沈黙を破ったのはギョウブである。場の切り替えはお手のものである。


「とどめを刺したゴブリンのスグチカクには死体が一つ。だいぶ前に死んでるようにミエタ。ゴブリンと共に埋葬した」


「そうか」


「部屋には色々と文献があった。後で見に行ってくれ」


 一通り話しを聞くとギョウブが立ち上がる。


「ギブ一緒に来てくれるか?」


「はい。少しお待ち下さい。ルセインさんと少しお話ししてから向かいます」


 ギョウブとガイブは部屋を後にする。ギブはルセインに向き直る。


「この度は本当にありがとうございました。悲願のゴブリン討伐終え、これからは復興の準備に取り掛かります」


「いや、俺はキッカケに過ぎなかったよ。ガイブとギブが助けに来てくれなかったら死んでいた。俺こそ二人に感謝してるよ」


「そう思って頂けるのは嬉しいです。しかし、ルセインさんのドラゴンは今回の戦闘でいなくなってしまいました。今後の旅を考えると大幅な戦力ダウンです。なので――」


「んっ?」


「ドラゴンの代わりと言ってはおこがましいですがあるものを準備しました」


 ギブが外の部屋に声をかけると数人のコボルト兵が担架を持ち部屋に入ってくる。心なしか担架を持ってきているコボルト兵が疲れているようにも見える。ルセインを乗せ、部屋を出てすぐ近くの大きな広間に案内される。目に入ってきたのはズラリと並ぶゴブリンの死体。否、処理、加工済みのゴブリンである。


「こ、これは」


「あらかじめ捕獲してきたゴブリンを含めちょうど百体のゴブリンが安置されています。今回は数が多いのでそこの彼等にも手伝ってもらいました」


 どうりでコボルト兵がぐったりとしているわけである。それにしても死体の加工の質が本当に高い。血抜きから始まり、臓物の処理、骨の加工。血の匂いも殆どしない。


「戦闘で傷が少ない物を選びました。ドラゴンの代わりというわけにならないでしょうが頂いて貰えますか?」


「もちろんだよ! ありがたく使わせて貰うよ」

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