第112話 五差路

 ぽっかりと空く大穴にスルスルと降ろされる梯子。以前、ゴブリンが大量にいなくてっているので警戒を強められている可能性が高い。


 人数は最低限のルセイン、ゴブ、ゴブメイジの三人である。考えていた以上に準備に手間取り、一週間程時間がかかった。最初の目標地点に着くとゴブメイジが魔法を唱える。


「グモード」


 地上ではなく地中に壁を作る。ゆっくりと盛り上がる土を谷底へ捨て、ある程度土を均せば簡易的な隠れ蓑の完成である。もちろん隠れ蓑は目立たない場所に設置する。


 灯りをつけ、良く注意すればわかってしまうかもしれないが、何も注意しなければ通り過ぎてしまうほどのクオリティではある。


(地中に壁を作れるようになるだけで一週間かかるとは……魔法恐るべし)


 ギョウブからもらった地図を頼りに奥へと進む。基本的には無人の小部屋や行き止まりなどに隠れ蓑を作る。長い時間いなければバレはしないだろうが隠れ蓑はそのまま残ってしまうためこの作戦限りの手段である。


(この作戦で百足の数減らし、あるいは詳細を知りたい、ゴブリンは攫えれば攫うといった感じか。もう少しで五叉路のはずだが……。見張りにも化け百足にも出会わないのはおかしい)


 五叉路に到着する。辺りには線虫が飛び回っている以外に目に入るものはいない。五叉路の内の一本に進んでいく。道は平坦で一本道。しばらく歩くが特に景色に変わりは見られない。地図ではこの先は武器庫だったはずだ。


(壁……? おかしい! 戻ろうゴブ)


 通路の先にあるはずのない厚い壁。足早に来た道を戻る。もう少しで五叉路に到着するという所で目の前から金属の響く音が聞こえる。


 ゴォォォォォォン


 これは銅鑼ドラか? 音と共に五叉路に走り込む大量のゴブリン。元来た道からは化け百足が二匹。ルセインが五叉路に戻った時には天井の扉を中心に全方向から包囲されていた。


(安易に侵入を繰り返していた自分のミスか。どこかに逃げ道はないか? ゴブを前に押し出し何とか突破できないか? ゴブメイジを使って……無理だ)


 今まで上手くいっていた為、過信していた。ルセインを中心にジリジリと迫る数百のゴブリン。次に合図が出された時、ルセインは間違いなく、死ぬ。


「ランドルフさん、アヤカすまない……オリビア。ヒエルナに一緒に行けなくてごめん」


 ゴォォォォォォン


 覚悟を決めるのと同時に再び銅鑼が鳴らされる。一斉にゴブリンが襲いかかってくる。しかし迫るゴブリンを前に一つの異変に気付く。パラパラと天井より小石が落ちてくるのだ。ルセインが頭上を見上げる。


 ドン。ドン。ズゴォォォォォ


「一体、何が?」


 崩落ではない! 見覚えのある巨体と共に今一番頼りになる男が降ってくる。


「ルセイーーン!」


 ガイブがゴブリンの輪の中心に真っ逆さまに落ちると落下点を中心に血飛沫が飛び散る。同時に天井より落ちて来たのはブリザーブドドラゴン。落ちてくる巨体にすぐさま乗り込むとゴブ、ゴブメイジと走り込み起動させる。


「ウォォォォォォォ!」


 ゴブリン数百匹の群れの中をブリザーブドドラゴンはただただ真っ直ぐに蹂躙する。ゴブリンも必死に抵抗しようとするがその巨体を止める事はできない。壁際まで一気に走り込むとその背後には赤い絨毯が広がっていた。


「ウギャーーー!」


 ゴブリンの合図と共にドラゴンの背後に数匹のゴブリンがしがみつき一斉にかけのぼってくる。


「ここまで来られるかな!」


 ルセインは体を乗り出すと予め載せてあった魔連弩を使い這い上がってくるゴブリンの頭に矢を撃ち込んでいく。凄まじい連射速度にゴブリンは圧倒され、逃げるゴブリンを除いて全て地上に叩き落とす事に成功する。


「まだまだ油断できないな」


 方向転換を終え、ドラゴンの前には波状に広がるゴブリン。前衛は全てのゴブリンが盾を持ち突進に備えている。勢いをつけずに突っ込めばブリザーブドドラゴンとてやがてはゴブリンの餌食になってしまうだろう。


(この一週間ブリザーブドドラゴンの使役も手を抜かずに良かった。ガイブ。本当に助かったよ)


 使役する手に魔力を込める。


絶対零度ブリザード


 勢いよく吐き出されたブレスは横一面に広がるゴブリンに満遍なく降りかかる。ドラゴンのブレスが一薙すると盾を持つゴブリンはそのまま氷の彫像と化す。そのまま勢いよく振り出された爪で薙ぐと盾を装備したゴブリンは粉々に砕け散った。


「後方のゴブリンも動きが悪そうだな。行け、ブリザーブドドラゴン!」


 動きの悪くなったゴブリンを再びドラゴンが蹂躙し始めた。


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