第111話 メクラサマス

「なるほど。《グモード》は土の壁。《グモルド》は土の槍だね」


「はい。両魔法とも土に属した魔法のようです」


 部屋の中にはルセインと半ば強引に解体仲間になったコボルトのギブ。


「ギブちょっとこっちに来てもらっても良いかな?」


 ギブをルセインの後方に下げる。ゴブを使役し起動させると、続けてゴブに二人のメイジを使役させる。


(土で壁を作るイメージ、イメージだぞ)


「グモード」


 ゴブの声帯より生気のない言葉が発せられる。イメージが功を奏したのかはわからないが前にゆっくりと土壁が生えて来る。高さ二メートル、厚さ三十センチ程。それなりの強度がありそうだ。


「できた!」


 すぐに戦闘で使うのは難しいだろうが、練度が上がれば防御力の低いルセインにとってはそれなりに重宝するだろう。


(次はグモルドだな。土で槍だ。地面より生えてくるキラリと光る槍、槍だ!)


「グモルド」


 壁と同じ生成速度ではあるが槍が斜め前に生える。これまた練度が上がればこの魔法もルセインにとって重宝するのは間違いない。何度か唱えてみるが特に失敗はなさそうだ。


「ただなぁ。練度がどれくらいで上がるのかは検討もつかないな」


 チラリとギブを見ると牙を出し険しい表情を浮かべる。


「もうテツダイは嫌です。それとやくそくドウリそのホンハいただきますよ」


「ギブ。言葉が上手くなってないか?……ギブはギョウブさんくらい人族の言葉を話せたらと考えないのかい?」


「お、おだててもダメデス。わ、わたしはルセインサンみたいにはなれない」


 俺みたいになれないとはどういう事だろうか? 悪意のある言葉に聞こえる気がする……。しかし、もう一押しである。ギブの為にもここはもう一押ししなくてならない。


「ギブ。ギョウブさんは以前人族と交流があったからこそあれだけ流暢に言葉を話せると思うんだ。俺がここにいるのはチャンスだと思わないかい?」


「う、うぬ」


「じゃあこうしよう。ゴブリンを攻める際に色々な鹵獲できる物が出てくると思うんだ。それを君にあげるよ。今まで分からなかったゴブリンの生態に人族の言語習得。君のこれからの知識に磨きがかかるのは間違いない。どうだろう?」


 ギブは先程まであらわにしていた牙を隠すと鼻をヒクヒクとさせ迷い始める。


「そういえば、ガイブも言葉を話すけど俺と話す頻度が多いから言葉が上手くなってるんだよね。このままだと……」


「ヤリマス! ほんとうにルセインさんは……」


「ありがとう! じゃあ、早速なんだけどこの本を全て解読してゴブリンの魔法の習得に役立つものを全部書き出して欲しいんだ」


「ぜ、ぜんぶですか? すごいりょうデスヨ?」


 ルセインは無言で微笑むとギブの肩を軽く叩く。


「もう、ワカリマシタヨ。約束、ワスレナイデクダサイネ」


 ギブは両腕で大事そうに本を抱えるとルセインに踵を返し歩き始めた。


 ※※※


「ギャギャゴ、ギャギャ」


 部下と何やら込み入った話をしているギョウブ。


 しかし、ルセインも話をしなくてはならない。時間を空けてもらうまで、邪魔をしないようにギョウブを待つ事にする。


 ギョウブの元へはひっきりなしにコボルトが訪ねてくる武官はもちろん、文官に、時には女子供も相談に来ているようだ。皆、ギョウブを頼りにしている。相談が終わった後は、皆、安心した表情を浮かべているのがよく分かる。全てのコボルト達に対応すると申し訳なさそうにギョウブがこちらに駆け寄ってくる。


「申し訳ありません。途中から気付いてはいたのですが、なかなか伺えませんでした」


「いえ。お忙しいところ申し訳ありません。ちょっと話したい事がありまして」


「そうですか。私も疲れました。食事をしながらお話しは如何ですか?」


 そういえば腹も減ってきた。ギョウブの誘いを受け食事をとりながら話をする事にした。


 ※※※


 テーブルの上に用意されたのは、皿の上いっぱいにのる大きな魚。こんがりと焼けた腹の裂け目からは白身が見える。


「いい匂いがしますねー」


 焼き加減は完璧のようだ。岩塩も振りかけられ、見てるだけで涎が出てくる。地上にいる魚と変わりはないように見えたが……。


「あれ、この魚。目と口がないですね」


「ダンジョン内の水脈で取れる魚です。メクラサマスと言います」


(よく考えればダンジョンでまともな魚が獲れるわけないか。しかしモグラの件もある。意を決して白身の魚を口に入れる)


「う、美味い! あっさりとした食感でありながら口に広がる濃厚な旨み」


「ほっほっほ。満足してもらい嬉しい限りでございます」


 ダンジョン内に置いてかれた際は、しばらくまともな食事は食べられないと覚悟していたが、ここに来てモグラに魚。ダンジョン食も馬鹿にできない。あっという間に食事を終えると指を綺麗に舐め、手を合わせる。


「ご馳走様でした」


 ギョウブはその様子に満足そうに頷くと部下の者に皿を下げさせる。


「さて、お話しとは?」


「ゴブリンについてです。統率する者や代表や王などという存在に何か心あたりはないですか?」


「うむ。ゴブリン共とはそれなりに長い期間戦っておりますがそのような者を見てはおりません。強いて言うなら……」


「強いて言うなら何ですか?」


「あの百足が来るとゴブリンが後方に下がったり道を開けたりしているような素振りを見せます」


 やはり、あの百足を調べるのは避けて通れないのだろう。


「ありがとうございます。戦いまでまだ時間があります俺はあの百足をもう少し調べて見ようと思います」


「そうですか。何か準備するものはありますか?」


 ギョウブの申し出に甘え、幾つかの道具をお願いする。


(危険は伴うが百足の秘密がわかればこの戦いも勝てるだろう。鍵は百足だ!)

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