第101話 ギブとガイブ
「それでは宜しくお願いします」
深々と頭を下げるとギョウブは部屋を後にする。部屋に残されたのは獣人、儀礼服コボルト、ルセインの三名である。ルセインがギョウブを見送ると儀礼服コボルトが恐る恐るルセインに近寄ってくる。
「ハ、ハジメマシテ。ワタシノナマエはギブとモウシマス」
儀礼服を着ているコボルトは人語が理解できるようだ。ギョウブと比べるとたどたどしいが意思疎通を取るのに問題はなさそうである。
「こんにちは、ルセインです。宜しくお願いします」
ギブはルセインの言葉を鎧コボルトに伝えると獣人もギブに何かを伝える。
「コチラノモノのナマエハガイブデス。ルセインサンがコチラニイルアイダはワタシタチガゴイッショシマス」
監視だろうか? いや、単純に協力者なのかもしれない。
「ガイブさん宜しくお願いします」
ガイブは分かったのか分かっていないのか、こちらに目を向けるとそれきり視線を合わせない。コボルトの文化は分からないが彼なりの挨拶なのかもしれない。
「ではギブさん? 俺はこれからどうすれば良いのでしょうか?」
ギブはガイブに話しかけるがガイブはギブに通訳した内容を伝えさせないような仕草を見せ、ギブとガイブで軽い口論となる。改めて考えればギョウブはルセインに協力を申し出て来たものの具体的な内容は何も言ってこなかった。
(単独であの百足と戦えとか言わないよね……)
ルセインは一抹の不安を覚える。ギブとガイブの口論が長引くと話の途中で兵が割って入る。ガイブは短くやり取りするとその間にギブが向かってくる。
「ルセインサンのショジヒンをカクホデキタとレンラクがキマシタ」
「良かった! ありがとうございます」
最悪の事態を避け、ルセインは素直に喜ぶ。全てをゴブリンに破棄、或いは持ち去られてしまえばルセインの戦力は大幅ダウンしてしまう。
「デハ、ショジヒンをトリにムカイマショウ」
ルセインはギブとガイブに続き部屋を出る。ギブの話によるとコボルトがこちらに所持品を持ち込む際に一つ問題が発生したとの事であった。
「コレデス」
問題があった物を指され、ルセインはやはりと頷く。ルセインの前にはブリザーブドドラゴン。入口が拡張され、中の物が持ち出そうとしているのだが、その重さ故にその巨体は鎮座しているのだ。ルセインは申し訳なさそうにドラゴンに乗り込むとそのまま魔力を流す。
(ブリザーブドドラゴンがここまで大きいとやはり注目を集めるな)
ドラゴンが動き始める。巨体が動く所を目の当たりにするとコボルト達は一斉にざわめき立つ。やはり死体のドラゴンが動き始めるとルセインがネクロマンサーだと実感が沸くようだ。しかし、何とか入口は出られたもののやはりコボルトの住処の扉を越えるのは難しい。
(どうしたものか)
コルセイがギブを見るとガイブより何やら伝言を伝えられる。
「ガイブはチョウドヨイとイッテイマス。ドラゴンをゴサロまでツレテイッテクダサイ」
(丁度良い? 五叉路まで連れて行け?)
ルセインに嫌な予感が走る。五叉路までの道中もサポートはしてくれるもののギブもガイブも話しかけてこない。五叉路にドラゴンが到着するとギブが申し訳なさそうに口を開く。
「ドラゴンをカベにセンソウをシカケルとガイブはイッテイマス」
「はぁ。やっぱり」
五叉路上の扉にドラゴンを重しがわりに置くとルセインは再び三人で部屋へと戻る。ブリザーブドドラゴンにはコボルト数人の見張りをつけてくれるようだ。
「ん~~」
やはり、この作戦は無謀だ。いくらブリザーブドドラゴンが強力な個体といってもスレイプニルナイトの出涸らしである。あの百足の相手が単体で務まるとは思えない。ガイブの脳筋作戦にルセインは改めて溜息をつく。
(ギョウブさんに後で相談してみよう)
石造の応接間に戻るとそこには用事を済ませたギョウブ。丁度よかったとルセインが話しかける。
「ギョウブさん丁度良かった! ガイブさんに作戦は無謀だと伝えて下さい」
何事かと耳を傾ける。ギョウブはすぐさまガイブを呼び寄せギブを交えて三人で話し合いが始まる。
「ギャギャグ、ガウ、ガ」
「!? ググッ」
「ギャギャ!」
ルセインは三人が何を言っているのか分からない。しかし、ガイブの興奮する様子を見るからに自分の作戦が否定されたに腹を立てているようだ。
「ガルル。ガオォォン」
ガイブがギブを突き飛ばす。ルセインが急いで間に入ると激怒するガイブの言葉をギョウブが伝えてくる。
「ルセインさん、申し訳ない。外に出ろと」
「えっ?」
「ルセインさんに外に出ろと言っております」
赤い髪を逆立て、歯を剥き出しにするガイブ。腕は一般的な男性の二倍以上。どれほど武器を扱えるかは分からないが下手をしたらランドルフ級かもしれない。手元に武器はなく足はリュケスの借り物。近くで使役できる魔物はゴブリンのみ。以前ランドルフの一撃で自分が気絶したのを思い出す。
「いや、これ、本当にやばいんじゃないの?」
ガイブは右手でルセインの襟元を掴むと左手で強引に部屋の扉をこじ開ける。
メシッッ!
木の軋む音が聞こえる。ガイブの膂力に当然抵抗出来るわけなくルセインは情けなく引きずられて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます