第99話 コボルト族
「うぅ」
日に二度も気絶したのは初めてである。腕を見ると縛っていた紐は取り外され、裸ではあるが着ていた服はすぐ横に置かれている。急いで服を着ると周りを観察する。目の前にはあるのは木でできた格子である。木でできているが太くしっかりとした格子。ルセインの力では壊せそうも無い。部屋の端には御座にゴブが寝かされているのも確認できる。
(殺されはしないが信用はされていない。あるいはどうするか考えているといったところであろうか)
格子の外を見れば先程ルセインが吊るされていた場所。机に広げられた自分の荷物が確認できる。もちろん脱出の手立てになるようなものは無い。今のところ自分ではどうしようもないだろう。
途方にくれて座り込むと、外から何やら声が聞こえる。ルセインには何を言っているか分からないがとりあえず聞き耳を立てる。声の主は二人。一人は先程の獣人、もう一人は聞いたことのない声だ。鎧コボルトが声のトーンを下げ、畏まって話しているのを見ると地位のあるコボルトなのかもしれない。
獣人がルセインの囚われている部屋へと入ってくる。続いて入ってきたのは先程の儀礼服をきた歳をとった老コボルトであった。獣人が牢の安全を確認すると、少し距離を置かれ椅子が置かれる。老コボルトが腰をかけるとルセインを見つめる。
「お客人、手荒い歓迎を許して頂きたい。私の名前はギョウブと申します。以後お見知りおきを」
※
「しゃ、しゃべった!」
ルセインがおもわず声を上げる。
(あっ!)
うっかり声に出してしまった事を後悔するが老コボルトのギョウムは特に気にする事なく話を続ける。
「驚くのも無理はない、我々が人族の言語を話す事はあまり知られていません。宜しければお名前を伺いたいのですがよろしいですかな?」
「し、失礼しました。俺の名前はルセインと言います。今は冒険者をしています」
「ルセイン? 本当にルセインですか? ……い、いやなんでもありません。時も大分経っています。私の勘違いでしょう。それにしても、このダンジョンは人族にはまだ見つかっていないはず。貴方はどうやってここまで来たのですか?」
自分の名前に異常に反応していたようだが何か意味があるのか? 気になる反応だった。後で聞けたら掘り下げてみたい。しかし、《どうやって来た?》をどう返すべきか。ミドガーの名前を出すことがもしかしたら命の危機に直結するかもしれない。しかし自力で見つけたと言って話を掘り下げられればボロが出る。困った挙句ルセインは正直に今までの過程を話す事にした。
「――ほぉ。ミドガーという者がルセインさんをこのダンジョンに迷いこませたという事ですかな?」
「はい。ギョウブさんはミドガーをご存知ですか?」
ギョウブは小さく頭を振る。
「貴方が仰っるミドガーという男を私は知りません。もし、人族がここを知っているとするならば私の知っている限り一人だけのはずです。しかし、それも大分昔の事になります」
視線を外しどこか遠くを見る。頭の中で遥か昔を思い出すような仕草である。
「しかし、何となく分かった気がします。貴方のお名前とこの手紙。これも何かの導きかもしれません」
老コボルトは手に持った手紙を意味ありげに見つめる。
「この手紙にはコボルトが好む犬マサハミという香料が微量ながら付いています。この手紙の主のコボルトに対する好意なのでしょう」
手紙に匂いなど付いていただろうか? いや、コボルトは犬同様嗅覚が非常に優れている。それも考え香りが付けられているのかもしれない。
「さて、ルセインさん。仲間の中には建物に侵入した貴方を殺せなどと言う口さがない者もいます。しかし、私には貴方が敵に思えない」
「俺もギョウブさん達と敵対するつもりはありません。できれば拘束を解いて貰えないでしょうか?」
「……分かりました。ギャオギャオグッ!」
ギョウブが獣人に何かを話すと一瞬驚く反応を示すが直ぐに牢の鍵を外しルセインを解放してくれる。
「それでは私に付いて来て下され。別室で話をしましょう」
牢を出るとギョウブの後に続き部屋を後にする。
部屋を出ると灯りが灯されており、手元に灯りが無くても進む事ができる。廊下は部屋同様、土をくり抜いた空間に張りと柱が付けられており、炭鉱のような見た目である。
「ギョウブさんこの建物はどれくらいの大きさ何ですか?」
「私が産まれる前からこの建物はあります。長く生きておりますがこの建物全てを把握しておりせん。そんなわけでルセインさんがいらっしゃった階段も把握してないのです、一通り話しが済みましたらその入口も教えて下され」
「はい。分かりました」
この老いたコボルトは何歳位なのだろうか? 人間に当て嵌めれば百近いのではとも考えられる。しかしコボルトの歳の取り方が人間と一緒とは限らない。
「さあ、こちらです」
しばらく歩いた先には今までの部屋とは比べ物にならない大きなホールである。ルセインは大勢のコボルトに見守られながら装飾の施された大きな机へと案内された。
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