第98話 探索3

 

 ギィィギィ


 軋むロープの先に吊り下げられているのはもちろんルセインである。痛みで目が覚めたのだが、そんなルセインを見てもコボルトは部屋を出入りするだけで特に何もしようとはしない。


(危害が加えられないのは良かったけど。これは……)


 現在、ルセインは何も身につけてはいない。そう、産まれたままの姿である。コボルトの前の机にはルセインの荷物が置かれ、その横には御座らしき物が引かれその上にはゴブが寝かされている。


(ゴブを動かしてコボルトを倒すか? その後に縄をほどき……無謀だな)


 目の前にはルセインをじっと見つめる鎧姿の人……いや、獣人である。赤い燃え盛るような髪に似つかわしくない垂れた犬耳。鋭い目付きは武人そのものを現している。鍛えられた体に獣の皮で造った武道着のような物を身に着けている。


 ここに来て初めて魔物以外の者をみる。しかし、コミュニケーションを交わすのは難しそうである。回りの様子を察するにあの獣人はコボルトの仲間のようだ。


 他のコボルトがルセインの装備品や足、ゴブを観察している中、一瞬足りともこちらから目を離さない。それだけルセインがこの獣人に警戒されているという事だろう。


(さて、どうしたものか)


 幸い目が隠されていない為、静かに周りを観察してみる。土を削りとった室内に張りと柱が加えらえている。どうやらこの部屋はコボルト達によって作られたようだ。目の前には獣人に机。自分が吊るされている奥には格子が見える。土と木で作られた空間。湿気が気になりそうなものだが異常な湿度は感じられない。何か細工があるのかもしれない。


「ギャウギャウ」


 また一人コボルトが入ってくる。白い上下の服に紺色のラインが袖と脚に入った……儀礼服であろうか? 今までに入ってきたどのコボルトとは違う。仕草に文化的なものを感じる。コボルトのブレインといったところであろうか? ブレインコボルトが獣人に何かを見せている。


(あれは……)


 獣人が受け取ってものはミドガーが強制的に渡してきた便箋。そしてあの薄気味悪い言葉が綴られた手紙である。遠くからよく見えないがあの手紙にブレインコボルトが注釈を加え獣人に何やら伝えているようだ。


 獣人は目を一瞬細めると、御座の上に置いてあるゴブリンを指差して何やらこちらに指示をしてくる。もちろんルセインにその意味は分からない。しかし《ゴブリンを動かしてみろ》と言っているようだ。


(俺がゴブリンを直接動かせると考えるだろうか? いや、あのミドガーの事だ。あのメッセージはこうなることを予想して作られたのかもしれない。だとすればゴブを動かす事によって拘束を解いて貰えるかもしれない)


 期待を込めて魔力を込めるとゴブを立ち上がらせ自分の前まで歩かせる。ゴブリンがルセインを背にし獣人を見ると一斉に部屋のコボルト達が喚きだす。


「ギャオーーン」

「グゥゥゥゥ」

「バウバウ!」


 明らかに歓迎されていない。言葉は分からないが、種族を超えルセインに負の感情を抱いているのはよくわかる。唯一動揺して無いのは獣人である。獣人はテクテクとルセインの前までやってくる。


(こいつの反応はコボルトと違う。指示通りに動かしたんだ! 解放してくれ)


 ルセインが僅かな期待を込め視線を送る。獣人は右手を上げるとそのまま首元に手刀を落とした。

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