第97話 探索2

「あれは……百足?」


 いや、二股狼を食いちぎった頭部が一瞬見えたがあれは顔。そう、人の顔に見えた。人の顔をした百足である。異常な事態を再認識したルセインに遅れて恐怖が込み上げてくる。


「あれは一体……」


 二股狼はこの探索中は使い物にならないだろう。一番探索能力が高い二股狼を失ったのは正直痛手である。ルセインは二股狼を抱えると一度休憩地点に戻ることにする。あの百足が扉を開けてこちらに来るのは難しいであろう。しかし百足にもあの場所から新しい餌が入ってくる事も教えてしまった。


 探索をしていたのは感覚で三十分程、その僅かな時間であの化け百足はこちらを探知して向かって来れるのだ。あのコボルトをやったのもあの化け物百足で間違いないだろう。


(このダンジョン。考えてた以上に脱出するのは難しいかもしれない……)


 ルセインは始まりの場所に戻る。乾いた喉をうるおすため水を一気に飲み、続いて盛大にため息を吐く。


「何だよあれ。脱出が絶望的になってきた」


 今後はこの場所を拠点として地下の洞窟を進む事になる。入口を起点として左右に分かれた先には崖と扉。崖は攻略のしようが無い、とりあえずはあの扉の先に進む事になるだろう。そういえば扉に行き着くまでに枝分かれしていた小道はどこにつながっているのだろうか? できることなら、あの百足にはもう会いたく無い。


「二股狼、少し休んでいてくれ」


 最低限の処理を施し二股狼を箱に収める。ルセインは準備を整え、ゴブと小道の探索に向かう。


小道は全部で四つ、それぞれ人がすれ違う程度の道幅である。


「あれ? ここもか」


 道は半ばで途切れ、土砂で埋まっている。四本中三本目。どの小道も土砂が崩れこれ以上先に進めない。小道に希望を見出していたルセインにとっては気が滅入る結果である。


(最後の一本。頼むぞ!)


 最後の小道を進む。しばらく歩くがどうやらこの小道は奥まで向かう事ができそうである。小道に大きな障害はなく、やがて突き当たりに着く。突き当たりには地下に降りる階段。五叉路に向かう階段と同じく石造の螺旋階段である。


 降りた場所には同じく少しひらけた部屋に両開きの扉がある。しかし先程とは違い、埃はそれほど溜まっておらず両開きの扉もルセインが少し力を入れると簡単に開く。


(ここは普段から開け閉めがあるのだろうか?)


 静かに扉を開く。その先には木で作られた縄梯子がぶら下がり、縄は円柱状にくり抜かれた空間をぶら下がるような形で設置されている。縄梯子にルセインが体重をかけると縄がメシメシと軋むが、何とか体重をささえる事はできそうだ。


(ここで引き返すか? いやまだ何もわかっていない。もう少しだけ進んでみよう)


 ゴブリンを先行させ、ルセインがその後を追う。縄梯子は十メール程続いており、梯子の先は仄かに明るい。同調使役に切り替えゴブリンで梯子の先を観察する。降りた先はどうやら部屋になっているようだが高く積み上げられた木箱や見かけた事がない調度品が視界を遮って部屋の全貌が見渡す事はできない。


(倉庫か?)


 続いてルセインが部屋に降り立つ。目の高さから見えたのは物が無造作に置かれた倉庫であり。所々に埃が溜まっている。どうやら出入りがあまりない部屋のようである。灯りは部屋の入り口が開けられ、そこから入ってくる光のようだ。


 ルセインはランプの灯りを消すと部屋の物をずらしながらゆっくりと進み部屋の奥を覗く。


 奥には五叉路で確認したニ足歩行の獣、コボルトである。腰巻きだけをつけ、ルセインより少し小さいコボルトは仲間と何やら話している。もちろんルセインにコボルトが何を話しているかは分からない。


(ここはコボルトの住処なのか? こちらには気づいていないな。どれくらいの規模なのか? どのような形態なのだろうか?)


 気になるところは多いが準備をする為一度拠点に戻る事にする。扉より首を引っ込めようとした時ルセインの後ろに何者かが立っているのに気付く。


「!?」


 そちらを振り向く事なくルセインの視界は閉ざされる。そこには上下に鎧を着込んだ誰か。剣の持ち手を使い一撃でルセインの意識を刈りとったようだ。


「ワオォォォォォ」


 何者かが一鳴きすると辺りが慌ただしくなり、腰巻きだけをつけたコボルトが集まってくる。コボルトはルセインの手足を縛ると、そのまま手足を掴み通路を歩き出した。


 

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