第96話 探索1
ランプに灯をつける。ランプの油には限りがあるため慎重に使わなくてはならない。先程のゴブリンの視界で見た限りルセインのいる入り口からは左右に道は分かれており、その先に何があるかは分かっていない。
「右、いやこういう時は左に行くものか……。右にしてみよう」
道は一本道であり、そのまま緩やかに降っている。しばらく歩くと唐突に道は途切れ、大きな崖が口を開けている。下を灯りで照らしてみるが底を確認する事は出来ず、石を投げ込んで見るが暫く経っても反響音は聞こえない。
(どういう事だ? とてつもなく深いのか? とりあえずこの先には進めそうもないな)
出発地点まで戻り、先程来た道と逆に歩く。道は幾つかに枝分かれしているがマッピング作業の為とりあえず真っ直ぐに進む。やがて行き止まりになり右手をみると石造の階段が下に向け続いていた。回りに特に変化はない、静かに慎重に階段を下がる。
靴の反響音が空間に響く。
先程までは石と土でできた構造で、自然の地形をくり抜いたような形状であったが、今降りている石造の階段は明らかに人口物のように見える。しかし、ダンジョンがどのように出来たかはまだ解明されてはいない。
(ミドガーが手紙に書いていただけで実際にここがダンジョンとは限らない。もしかしたらどこかの廃墟や洞窟かもしれない。安易に信用するのは危険だ。どんな事が起きても動揺しないようにしなくては)
階段は螺旋状になっており、しばらく歩いているが別れ道や扉などは見当たらない。最後まで降りると階段は小部屋につながっていた。空気が澱んでいる為、ルセインは袖で口元を抑える。
小部屋は階段と同様石造であり、調度品などはなく、永らく誰も使っていないのか埃が降り積もっている。
(何もないのか?)
壁や天井には特に気になるものは何もない。念のため地面を確認すると一箇所だけあまり埃が溜まっていない場所を見つける。足で埃をどかしランプで照らしてみると人一人入れる程度の両開きの扉を見つける。扉の先から僅かに空気の流れがあるため埃が少ないのかもしれない。
ルセインは腕を伸ばし取っ手を掴むと扉に力を込めてみた。
※
「うおおおおぉぉぉ!」
両手に渾身の力を込め扉を引くも僅かに隙間が開くのみで扉が開くことがない。
「はぁはぁはぁ」
扉に鍵がかかっていないのは把握したがルセインの力では開けられそうもない。立て付けが悪いのか? 長年開けてなかったので錆びているのか? どうしたものかと頭を捻っているとある考えが閃く。
「よし、そうと決まれば早速用意しないと」
※※※
「むしろ何で思い付かなかった……」
扉の前にはスケルトンのリュケス、傍には二股狼が待機している。ルセインはリュケスの棺に座り魔物の使役に集中する。
(何でも自分でやるんじゃなくて、これからは魔物の適正に合わせて行動しないと)
リュケスが両扉を掴むとメシメシと音を立て扉が軋む。リュケスがさらに力を入れると大きな土埃をあげ扉が開く。
(おおっ!)
思わず扉の先を見下ろす。扉の先には岩壁に大きな空洞。至るところに苔が生えており、仄かな生臭さが漂う。先程までの無機質な空間や人工的な空間とは大きく異なる。ルセインは二股狼を先行させると意識同調使役に切り替え、洞窟を可能な限り細かく探索した。
「虫が多い。これは糞か? しかもまだ新しい」
岩壁には魔物ではないのだろうが手のひらサイズの甲虫や胴が一メートルは超えるであろう羽虫が飛んでいる。ルセインが特に気になったのは大きな糞である。個体と液体の中間と言える状態であり、獣の類の糞ではなさそうだ。
「この糞の主とはできれば会いたくないな」
洞窟はルセインが開けた天井部分の扉を中心に五叉路になっている。これまでの探索中に見た事がない魔物の死体を見つける。
(これは……コボルトか?)
コボルトは上半身が犬のような姿をしており、二足歩行。知的な者であると装備品を身に着けたりコミュニティを築いたりする魔物である。仲間意識が強く報復にも余念がない。手を出す時はそれなりに心の準備が必要である。
ただ、このやられているコボルトは後ろから攻撃をされたようで前のめりに倒れ、背中は大きく裂け死体は干からびたような形状である。
「どういう攻撃をされればこんな死に方になるんだ」
五叉路の中心に戻り他の道も調べてみる。しかし、コボルトの死体以上の新しい情報は何も分からなかった。
(一度戻って休憩をしよう)
疲れが溜まったルセインは情報の整理を兼ねて休憩を取る為、二股狼を拠点に戻そうとする。そろそろ五叉路に戻るというところで、後方より何かが近づいてくる音に気づく。
トットットットット
規則正しく杭を打ち付けるような音。音は次第に近づいておりその速度も上がっている。
(二股狼急ぐんだ!)
デュケスが扉を開け、二股狼が大きく飛び跳ね扉の中に飛び込もうとする。その瞬間――
ウギョギュギュ
後方より近づいきた何かが大きく口を開けると一瞬で二股狼の下半身を食いちぎる。ルセインは急いで扉を閉め、扉の持ち手に自分の剣を差し込み栓の代わりとすると急いで二股狼を確認する。何とかリュケスが二股狼の上半身を掴んでいた為、頭部と上半身は喰われずにすんだが下半身は鋭い歯で食いちぎられていた。
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