第21話 VS黒外套
振り下ろされた刀はすんでの所で止められていた。オルタナと黒外陰の間には両手のショートソードで刀を受け止めるゴブ。
「大丈夫か!?」
「早く肩に捕まって撤退します」
二人が合流し、オルタナに肩を貸す。傷口はかなり深そうだ。オルタナは自分で立ち上がることができない。
「何でここにいる! 俺が時間までに来なければ撤退しろと言っただろう!」
「こんな時に何言ってんだ!」
「何で来たかと聞いているんだ!」
「仲間だろ!」
オルタナに応えながらルセインが黒外陰の鋭い刀を受け止める。ゴブと共に応戦する。
「……くそっ。ここは瘴気が溢れている気をつけろ」
「任せろ! ゴブ!」
ゴブの突きとルセインのスリングによる投石を避け黒外套は体勢を整えるため、後方へと下がる。
「……死ぬなよ」
オルタナが弱々しく声を残すとアヤカの肩に捕まり出口へと走り始めた。
※※※
「はぁっはぁ。クソ。ルセインとゴブではあの刀野郎を相手にするのはかなり厳しい。ここからは俺一人で行く。早く戻ってルセインの援護を――」
言葉を最後まで紡ぐ事なく鳥マスクの嘴でオルタナが突き刺される。
「い、痛ぁぁぁ。怪我人だぞ。俺は!」
「その割にはよくペラペラと喋るじゃないですか?」
「冗談言ってる場合じゃない。本気で言ってるんだ」
「……オルタナ。あのルセインの目を見てなかったんですか? あの言葉を信用できないんですか?」
確かにルセインは「任せろ」と言った。あの言葉を信じない者はルセインを侮辱する事になりかねない。しかし、あの黒外陰の剣技。一朝一夕でどうにかなるものではない。オルタナが無言で考え込む。
「私達も無策であなたを助けに来たわけではありません。オルタナと私の撤退は貴方を救う以外にも意味があるのです」
※※※
ルセインと黒外套は一定の距離を保っている。黒外套の剣技を警戒し、動くことができないためだ。
「提案なんだけど見逃してもらう事は出来ないだろうか?」
簡易的なマスクであるがアヤカに作ってもらった瘴気避けのマスクは機能しているようだ。話す分は問題はなさそうである。
「私はあの、あの人の側にはい、行けない!」
黒外陰は刀に力を込め、下段に構えると足を半歩開く。次にこちらが口を開いた後、確実にこちらに踏み込んで来るだろう。
「エミルって知らないか? もしかしたらお前の知り合いなんじゃないか?」
知り合いである可能性は限りなく低いであろう。そもそもスケさんが殺されたのが数百年前と考えられる。人間であれば寿命は尽きているし、あの言動から相手がまともな生命体でない可能性が高い。それでも状況的にルセインは話しかけないわけにはいかなかった。
「エ、エ、エミル? エミル様? エミルゥゥゥゥゥゥ!」
予想に反してはっきりとした反応があった。このまま時間を引き延ばす事が出来るかもしれない。ルセインは即座に撤退出来る体勢を崩さずに、さらに話しかける。
「エミル様? お前が仕えていたのはエミルなのか?」
黒外陰は肩をだらりと下げるとノーモーションで一瞬で間合いを詰め、ルセインに斬りかかる。いつでも対応出来るようにと構えていたにもかかわらず一瞬反応が遅れた為、刀を受けきれずに肩口に刀を押し込まれる。
「エミル、エミル! お前もエミルなのかぁぁぁ」
「ぐっ!」
鋭い痛みが走りショートソードを手放しそうになる。堪らずに足で黒外陰の体を前蹴りで突き放すと、すかさずにゴブが斬りかかる。しかし黒外陰はヒラヒラと刀で攻撃を躱すとバックステップで距離をとる。
エミルという名前に異常な反応を見せる黒外陰。何かしら関係があるのは間違いないが、会話でこれ以上引き伸ばすことは出来ないだろう。再びあのノーモーションからの一撃を食らえば間違いなく致命傷になる。
「許されない! 私は!!」
支離滅裂な言葉と同時に黒外陰が再びこちらに駆け出す。しかし、ルセインは構えを取らずどこかに耳を傾けている。
「よし。間に合った!」
囁くように小さな声を出す。
ルセインとゴブは水路に体を沈めると同時に爆風が駆け抜ける。水路は一瞬にして炎に飲み込まれ辺り一帯は灼熱の空間へと変貌を遂げた。
※
時は少し巻き戻る
「この止血剤すごいじゃないか!? 痛み止めと合わせたらだいぶ動けるようになったぞ」
「応急処置の域を出ていないので無理はしないようにして下さい」
「そういえばスケさんはどうしたんだ? ルセインの奴ゴブしか連れてなかったみたいだけど」
「この水路には狭すぎて入れなかったんですよ。ゴブリンは箱に入れ持ち歩いてきたので水路に問題なく入れました」
オルタナが降りてきた床下の扉からは縄梯子。アヤカが先に登り安全を確認すると、続けてオルタナも登る。
「早く登って下さい。これからルセインの援護をします!」
先程の朽ちたベッドの周りには、蓋が開けられた液体入りの複数の容器が並ぶ。オルタナが梯子を登り切ると次々とアヤカはその容器を蹴り落とす。
「これは?」
「刺激臭がしませんか? 多分揮発性の高い魔力燃料です。さっき貴方を待っている際に見つけました。水路はルセインがいる風下に向かい空気が流れていきますので。これに火をつければ――」
「その容器、そんな物騒な物が入っていたのね? ……そういうの早く言ってくれるかな」
一人で冷や汗をかいているのを横目にアヤカは容器全てを下へと落とし終える。間をおかずに懐から出した渦状の笛を咥き、一呼吸置くと小さな丸い陶器を投げる。アヤカはオルタナを引っ張りながら扉の陰に急いで隠れる。
ドシュッッッッ!
水路から激しい水飛沫が上がると同時に風下に向かい爆風が吹き抜け、数瞬後には建物全体が震える。
アヤカは梯子がかけられていた小さな穴を確認する。さっきまで小さな隠し扉があった場所には巨大な空洞が広がっていた。
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