第18話 垣間見た記憶
某城
広々とした空間。床にはオレンジがかった大理石、天井には異教の神がドラゴンと戦っている。ヒエルナのような宗教色の強い教会のような造りではなく、異文化色の強い玉座の間である。どうやら身分のある者からの王への陳情の様子である。
「王、※※※待ちください。※※※信用してはな※※※ぬ」
「う※※※。もう決まった事だ。※※※※※」
「今一度ご再考を、※※※※※※でございます」
「二度は※※※。衛※外に※※※」
「陛下。陛下ぁぁ! ※※※※※※※※※※※ます」
何者かの王への陳情が失敗に終わり、落胆する様子が窺える。
※※※
場面は暗転し切り替わる。次に見えるものは屋敷での一幕、木材で建てられた屋敷は、窓や扉が大きく、またしても異文化色の強い建物である。先程の陳情をした男らしき人物が建物に入り、異変を感じているシーンのようだ。建物内は荒らされており、寝室に入ると探していた人物の変わり果てた姿を見つける。
「エ※※※……。エミ※? おい、返事をしろ。エミル!」
倒れている人物はぐったりとしていて起き上がる気配はない。腹部には深々と突き刺さった刃物、どうやら致命傷のようだ。
「誰か。誰かいないのか!」
どうやら倒れている者は、非常に近しい者であり、男の深い悲しみと絶望の様子が伝わってくる。
※※※
再び場面は暗転。最後の一幕は同一人物が絶命する場面である。周囲は暗く何かの装置が放つ薄っすらとした光だけが室内を照らしていた。
「やはりそ※※※ことか。くそっ! くそ。あの時に無理にでも※※※いれば!」
「お前とも※※※※※※※※※」
「せめ※※※だけでも、ラマダンはまだ助かる。うっ。ぐっはっ」
「怨※※※※※※ない」
「やはり……お前か。へ、陛下※※※※※※※ん」
奮闘も虚しく状況は最悪の結末になったようだ。男は赤い刃紋の刀で止めを刺され、無念の中命を絶たれたようだ。
※※※
ルセインが見た映像は断片的なシーンをつなぎ合わせたようなもののようだ。
「スケさんから得たイメージはこれで全部だよ。水の中にいるような膜がかかって見えるんだけど、ゴブの時とは違ってスケさんは生前の記憶や感情が伝わってきた」
最初は城、次は自宅? 最後は地下の施設に続くどこか。ルセインから伝えられた情報を元にオルタナとアヤカは状況の整理を始める。
「考えていたより情報が少ないわね? それにスケさんって……。何でまた【さん】とかつけちゃってるのよ」
数日の探索延長で心がやさぐれ始めたのか、発言が刺々しい。
「ごめん。最初に感じた情報ははっきりしたものだったんだけど、その後は感情が強く伝わってきたり、他の視点が混ざっていたりして、二人に伝えづらいものになってしまったんだ。スケさんっていうのも仮の名前だよ。断片的な映像ではあったんだけどかなり感情移入しちゃってさぁ。【さん】を付けずにはいられなかった」
「俺たちはその【さんを付けずにはいられない】って奴に殺されかけたんだけどな。まあ、国の王様に直訴できるスケさんも貴族や軍のトップとか何だろうな」
「それで次の場面で貴方が言っていたエミルが出てくるんですよね? 女性の名前みたいですが?」
「エミルの顔が見えた訳じゃないけど、親しい間柄みたいだったよ。恋人か奥さんだと思う」
「これだけじゃ何とも言えないけど、ラマダンの人がごっそり消えたって話、もしかしたら何か関係があるのかもしれないな」
「でも、最後は元スケルトンが殺される場面しかわからないんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど」
「そもそもルセインがいくら魔物を操れるからといって、その見えたものが魔物の記憶とは限らない訳です。見えるビジョンについては、いずれ解明しなくてはならないと考えますが、危険を冒してまで探索を続ける必要はないと考えます」
ルセインも自信を持って話していたものの、この映像だけでは、今後の探索を続けるには決定力にかける。場の空気が帰還に向け傾きかけた所でオルタナが口を開く。
「アヤカの言う事も一理あるが、俺は探索を続ける事には賛成だ」
「……何か根拠があるのかしら?」
「推測の域を出ないが、気になることがある。まず一つ。ラマダン古城の少し離れた所に離宮がある。恐らくだがその離宮には地下があると思われる。その離宮がルセインの見た記憶と重なる。
二つ目。実は、スケさんと同じ巨大スケルトンを何体か見ている。城の周りか、城の中からの出入りでしか見られなかったけどな。ちなみに下半身がないスケルトンはスケさん以外には見られなかった。つまり、はぐれ巨大スケルトンはスケさんだけ。なんでそうなったかをしました考えてみる価値があると思わないか?」
オルタナからアイコンタクトを受けると、続けてルセインが話しを続ける。
「オルタナの話とスケさんの過去は一応つながるよね? それにスケさんがはぐれて行動してたのって、お墓を守っていたんじゃないかな? 墓の周りにいた時に襲ってきたわけだし。最初はスケルトンのボス位にしか考えてなかったけど、今は友達や家族のお墓を守っていたように感じるよ。エミルと仲間の墓を守る記憶の男。点と点がつながらないかな?」
場の空気が変わり強気だったアヤカが少し怯む。
「わ、私だって、行きたくなくて駄々をこねてるわけじゃないのよ……。総じて貴族や王族はやましいものを離宮に隠す傾向があります。い、行って見る価値はあるかも知れませんね」
少し困ったアヤカを見てルセインの顔がパッと明るくなる。
「ルセイン、アヤカ決まりだな。詳細を決めて明朝早くに出発しよう」
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