第17話 報告

 砦休憩室


 フォレストボアの肉に貪り付きながら睨みつける二人。そして、巨大なスケルトンを倒したルセインは何故か姿勢を正し、正座をしていた。そのすぐ側には横たわるゴブ、巨大スケルトンは薄気味悪さとその図体の大きさから砦の外に放置されている。


「スケルトンを倒して貴方が無事なのはわかったわ。でもね、今回はほんとーーにたまたま上手くいったから、こうして生きていられるわけで、通常であれば貴方もあのスケルトンの仲間入りをしているのは間違いないんですからね!」


 先ほどの騒動で悲鳴をあげ、尻餅をついたアヤカ。鳥頭で顔が見えない状態であるにも関わらず、口元と口調からはっきり怒っているのがわかる。いつも味方になってくれるオルタナも今回ばかりはすぐに許すつもりはないようで、腕を組んで厳しい表情をしたイケメンになっている。


「で、本当に体は何ともないんだな? その身体中の血を見た時はまじで驚いたぞ」


「こ、この血はフォレストボアを帰りに回収して、血抜きに失敗したのであって。だから」


「「だから?」」


(命に別状はないとはいえ、怪我人に正座なんて……)


 とは言いづらい。


「いやなんでもない。心配かけて悪かったよ」


 アヤカとオルタナからため息が漏れる。


「まあ無事で良かったよ。ほら、お前が獲ってきた肉だ。椅子に座れよ」


 焼け上がった肉と濡れたタオルを渡される。


「オルタナはいつもルセインに甘い。私は貴方の独断をまだ許したわけじゃないですからね!」


 文句を言いつつ、右手には大きめの貝殻に入った軟膏を持っている。どうやら傷の手当てをしてくれるようだ。


「それにしてもよく倒せたな。頭を潰したって聞いたけど?」


「いや、頭に大きな風穴が空いているだろう? 色も一箇所だけ違うし。狙うならここかなって」


 アヤカとオルタナは顔を見合わせてる。ルセインの安直な答えに改めてため息を吐く。


「私が教えた炸裂弾でダメージを与えたようですが、正直信じられません。例え千発当ててもあのスケルトンを倒せるとは、到底思えません」


「俺もそう思ってたんだけど……」


 おもむろに道具袋から器具を取り出す。器具には持ち手があり、その先には小さな小箱が付いている。


「それ私が貴方に渡したマジックロードですよね?」


「そう。魔力を持ってても、大半の人は自分で放出する事はできない。だけどこのマジックロードを使えば僅かだけど物に魔力を詰めるって聞いて、色々試してみたんだ」


「幸い貴方には魔力は幾分かあるようですし。手先が器用で魔力を使いこなせそうですので教えました。しかし、一週間やそこらで物になるとは到底思えませんけど」


 辛辣な発言に傷つきながらもルセインは横たわるゴブに意識を向け近くに呼び寄せるとマジックロードを掴ませる。


「そうなんだよ。俺が作った炸裂弾は湿気った爆竹程度の火力。威力もなければ衝撃も全くない。正直使えないと判断したんだ。だけど、今回はこれで試してみたんだよ」


 ゴブにマジックロードを掴ませゴブの体を通して魔力を放出してみせる。


「何とも奇妙な事を。んっ? 少量ですが禍々しさが伝わってきます」


「そう。俺が魔力を込めた物とは全く別物の魔力が精製できたんだ。ちなみにこれで炸裂弾を作ると相手の耐久度を下げる事ができるみたいなんだ」


「なるほど。打撃に弱いとされるそのスケルトンの耐久度を下げる。今回の戦いにはもってこいだったわけだな。あいつ、だいぶ硬かったからな」


 オルタナはルセインの道具袋から見えるスリングを取り出すとまじまじと眺める。


「短い期間でだいぶ使い込んだな。しかも留め具がニ箇所? これで投数を増やしたのか?」


「ああ。これといった決めてがなかったから、手数を増やす事にした。短距離限定だけど使いこなすのにはだいぶ苦労したよ」


 そう言ったルセインが少し自慢げな表情を浮かべる。


「苦労って。いや、器用すぎるだろお前。俺にはこのスリングを使いこなす自信はないぜ」


 戦いの過程を話したルセインは満足げであり、アヤカとオルタナは呆れ半分、感心半分といった様子だ。一通りの説明を受け、アヤカがまとめに入る。


「独断専行には腹が立ちましたが結果としては上々でした。最低限の目標は達成です。ルセインの傷が治り次第帰還することにしましょう」


「そうだな。今回の探索はここまでだな」


 オルタナとアヤカが帰還の方針を話し始めるとルセインが申し分けなさそうに話を遮る。


「帰還だけどもう少し待ってもらえないかな? 提案があるんだ」


 ※


 数日後


「待ってくれ」とは言ったものの、ルセインは朝から晩まで巨大なスケルトンと睨めっこである


 にわかに信じられない事だが、スケルトンが支配下に入って以降、ルセインはスケルトンの記憶を垣間見ると言うのだ。この発言から、ラマダンの謎を解き明かせるのではないか? というアヤカの提案で、ルセインがスケルトンの記憶を探るための期間を設けたのである。


 数日が経ち、アヤカはルセインに睨めっこの成果を問いただす。


「で、何が見えたの? 私たちにもわかるように話して」


「多少曖昧だけど一から話すよ。俺の予測も含めてだけど……」


 ルセインが見た記憶はおおよそこんな感じだった。

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