第16話 VS巨大スケルトン

 時は少し遡る。


 砦手前の森の中、器用に組み立てた木材を使い、フォレストボアを担ぐルセインとゴブ。フォレストボアの頭部には大きな凹み。ルセインがスリングを使って仕留めた獲物だ。


「夕食の集まりにこいつを持っていったら驚いてくれるかな? それにしてもスリングさまさまだな。まさかこんな大物を狩れるとは」


 一週間程でスリングを使いこなせるようになったルセインは、ここ数日で小型の魔物を中心に狩りをしていた。今日はその中でも一番の大物となるフォレストボアを仕留めることに成功したのである。


 足取り軽く、陽気に歩みを進める。しかし、ルセインは気づいていない。フォレストボアを仕留める為に森に深入りしすぎたことを……。


「おっと危ない」


 足元を見ると丈の長い草に隠れていた小さな石碑。


「……」


 あまりにも小さな石碑。普段であればただの石ころと気にすることなく立ち止まることもないだろう。


「――これって、まさか、まさかだよな!」


 耳に入ってくるのは小さな地響き、そしてその地響きはじょじょに大きくなってゆく、続いて鳥の羽ばたきが起こるとルセインの背中はじっとりと汗に濡れる。


「やっちまったー!」


 あの音は間違いなく例の魔物だろう。獲物に気を取られ森の奥まで入りすぎたようだ。ルセインはその場にフォレストボアを放り投げると砦に向け全速力で走り始めた。


 ※※※


 気配を消して見下ろす先には先日の巨大スケルトン。穴の空いた頭蓋骨を右へ左へ振りながらルセインを探している。


 (骨だけになっているスケルトンはどこの感覚を使ってターゲットを探しているのだろうか?) 


 砦に向けて走り始めたものの、明らかに時間が足りない事を悟る。ルセインは意を決して戦う事にし、幹の太い常緑樹にゴブと二人で身を隠す。


(できればやり過ごしたいんだけど……難しいんだろうな)


 巨大スケルトンはルセインを中心にウロウロと移動を繰り返しており、ある程度どこにいるのかを把握しているようだった。


(ゴブ覚悟を決めたぞ! 最大限引きつけてからの攻撃開始だ)


 巨大スケルトンがこちらに身体をむける。息を殺して限界まで気配を断ち、しばらくするとルセインのいる木の下を巨大スケルトンが通過しようとする。


 ――その瞬間!


 バヂヂッ! バヂッ! バヂヂッ


 小型の炸裂弾が巨大スケルトンの頭頂部に炸裂する。木の上からはゴブとルセインの連続炸裂弾、スケルトンの頭上には黒い煙が立ち込めている。アヤカの炸裂弾に比べて衝撃は弱い。しかし、一度に複数の炸裂弾をスリングにて発射、しかも二馬力で発射している為、スケルトンの頭上には絶え間無く炸裂弾が発射され続けている。


 ルセインが僅かに期待したのもつかの間、勢いを落とす事なく煙の中からスケルトンがこちらに腕を振り上げる。


「やっぱりダメだよね」


 ロープの先に鉤がついた縄を素早く回すと、少し離れた木に向かって飛び移る。もちろん、肩口にはしっかりゴブがのっている。


 腕を振ろされた手はルセインを捉えることない。すでに、木から木へと飛び移り、再び姿を隠し終える。再び巨大スケルトンは気配を頼りに大雑把な位置まではルセインを追うが、やはり捉えきることなく再び炸裂弾の的となる。よく言えばヒットアンドアウェイ。悪く言えばハメ戦法である。


 しかし、その攻撃も長くは続かない。持っていた炸裂弾を全て使い果たすと木の上からの射撃をやめ、スケルトンと同じ地面の上に距離を置いて降り立つ。


「来い!」


 踏ん張るような体勢で腰を低く落とし、右手には鉈を、ゴブは小さなお手製の木の盾を構え、巨大スケルトンと向き合う。ルセインの前には小さな窪地があり、ゴブリンの盾と少しの地の理を活かして正面から撃ち合うように見える。


 僅かな間を置いてスケルトンがルセインに襲いかかる。相変わらず下半身は引きずるだけの状態ではあるがスピードは馬を超える速さ、その圧倒的な質量からくる勢いは相手を怖気付かせるには十分である。


 まともに喰らえば一撃であの世行きは間違いない。巨大スケルトンが間合に入り巨大な腕を振り上げる。


「この場所に来れて良かった……ゴブ!」


 窪地を軽々と乗り越え巨大スケルトンの腕が届くその瞬間。ゴブはルセインの背中に捕まり、ルセインは振り上げた鉈を自分の足元に振り下ろす。


 次の瞬間、凄まじい勢いで身体が上空に浮かび上がる。的を無くしたスケルトンの腕は空を切り、体勢を保つことが出来ずそのまま横倒しとなる。


「行けーー!」


 倒れたスケルトンの頭上には空から降ってくるゴブとルセイン。盾を前面に構え、体重と落ちる勢いでスケルトンの頭上に直撃する。


 バギィッッ!


 スケルトンの頭半分が崩れ落ち。全身を支えていた骨はゆっくりと地面に落ち始める。と同時に受け身などは考えていない体は巨大スケルトンの頭を経由して地面に落ちる。


「痛っっっ!」


 鈍い痛みが全身を駆け巡る。しかし何とか動く事ができそうだ。近くを見れば立ち上がるゴブ。どうやら大きな傷はないようだ。


「よしっっ! 即席の割には上手くいった。頭がダメだったらかなり厳しいかと思ったけどこれなら大丈夫そうだな」


 痛む体をさすりながら地面を掴み体を起こす。地面には先程のスケルトンの骨が無数にあり体を起こす際に何気なく骨を拾ってしまう。


「んっ」


 手に持った骨に奇妙な抵抗感を感じる。嫌な予感を感じ、骨から手を放すと骨が宙に浮き、再びスケルトンの体を構成し始める。


「……甘かった」


 ルセインが後退る。背を向け走り出そうとするが、鋭い痛みが足に走る。興奮して気付かなかったようだが、着地でどうやら足を捻ったようだ。痛みに耐えきれず再び地面に倒れると、上半身だけで起き上がり巨大スケルトンを見上げる。


 頭半分を残し、ルセインを見下ろすスケルトン。状況だけをみればルセインの人生は終わったと考えるべきであろう。


 ……


 …………


 ………………。


「あれっ?」


 体からはゴブリンを使役する時に感じるいつものあの感覚。ルセインは顔だけで辺りを見回すと先程まで起き上がっていたゴブが倒れているのを確認する。


「まさかこれって」


 ゆっくりと意識を伸ばす。全身を駆け巡る感覚を目の前に存在する巨体に隅から隅まで張り巡らせる。


 しばらくすると巨大な頭をルセインの前に下げるスケルトン。更に意識を巡らせると残った上顎と下顎を使いルセインを背中に乗せると、同様にゴブも背中へ乗せる。


「おおっ!」


 スカスカの背中の乗り心地は最悪だが、ゴブとルセインを乗せたスケルトンは砦に向けて勢いよく走り始める。


「うおっ、す、すげぇ。まじかー! オルタナ、アヤカ待ってろよー!」

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