第15話 作戦会議

「デートは終わったかしら?」


 アヤカは口角を上げ、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。


「おいおい、盗み聞きかよ。趣味が悪いなぁ……マジで違うからな」


「わかっていますよ。カルディナ様とのやりとり見ているわけですし、ルセインの女好きは確認済みです」


「女好きって悪意を感じるぞ。別に何かしたわけじゃないし、ルセインは良い奴だと思うけどな」


「別に悪人とは思ってないです。ただ、男なんてみんなそんなもんだと思っているだけです」


 潔癖気味のアヤカにやや同情しながらも、オルタナは本題について話を始めた。


「で、どうするよ?」


「それはどちらのですか? ルセインの育成? この探索の裏ミッションの事ですか?」


「それにもう一つあるだろう。帰り道のあの化け物どうするかだな」


「はぁ。厄介ごとが増えましたよ。聖水をじゃぶじゃぶ使ってなんとか抑えましたけど、帰りは同じ方法は使えませんからね」


「あれはマジでやばかった。できればもう会いたくない。本当はルセイン自身の戦闘能力を上げる事より、あのゴブを使役する能力の事が本命だったからなぁ。理想はルセインと一緒にのんびりと魔物の狩りに行ければそれが良かったんだけど」


「理想ですね。もしそんなことをしてればルセインは近いうちに死んじゃいます。本来の能力開花の前に戦闘能力の向上は必須です」


「そうだな。そこはルセインに頑張ってもらわないと。で、最後の裏ミッションだけど……やっぱりラマダンの古城か?」


「でしょうね。いや、でも無理ですよ。ただでさえ私たちには手の余るモンスターがいる地域なのにあのアンデットみたいなのがそこら中にいたら、それこそ私達は終了です」


 問題がすぐに解決できないとわかると二人とも自然にため息が漏れた。


「とりあえずルセイン次第か。次の行動に移るまでは半月くらいかな? 俺はこの近辺の把握、余裕があればラマダンの古城にも探り入れてみるよ」


「半月ですか。はぁ、長丁場になりそうですね。オルタナも自分の能力を過信して、無理しないで下さいよ。あなたが死んだらルセインと私だけであの化け物を倒さなくてはいけないんですから。とりあえず私はこれからの作戦の準備です。あ、今日の食事は私が作ります。美味しいものが食べたいので」


「有難い。アヤカの料理は美味いからな! じゃあ、これ渡しとく」


 先程仕留めた下処理済の獲物を渡す。


「大無垢鳥ですか。今夜はシチューにします! 日が暮れるまでにこちらに戻ってきてくださいね」


 こうして二人のため息の多い作戦会議は幕を閉じた。


 ※※※


 三週間後 黄昏時


 今日は成果報告日である。それとなくそれぞれの状況は聞いているが、実際の進捗を把握し、今後、どのように行動するかは今日の報告で全てが決まる。アヤカとオルタナは準備を終え、休憩室にすでに集合している。


 しかし、いくら待てどもルセインは姿を現さない。


「ルセイン遅くないか?」


「まったく。今後の方針を決めるて言ってあったはずですよね。意識が低いんじゃないですか? はぁ。そういえばオルタナはさっきから何を読んでいるのですか?」


「この部屋に何冊か本があっただろう? 暇つぶしに読んでいるのさ」


「私も軽く目を通しましたが、特段変わった事は書いてなかった様な気がします」


「まあね。でも当時のヒエルナの生活なんかも書かれていて暇つぶしには最適だぜ。どうやらこの本の作者は亜人に対して良くない感情を抱いているらしい」


「今のヒエルナでは考えられませんね。誰であろうとヒエルナの教義に反しない限り平等で争いのない生活が約束されています。その様な野蛮な思想が許されるはずがありません」


「その通りだな。俺みたいな若い奴が言うのもなんだけど、たかだか数十年で国というのは大きく変わるんだな。時代の流れっていうのはなんか怖いよな」


「オルタナ年寄りくさいですよ。それにしても……ルセイン遅いですね?」


「まあまあ、練習に熱が入りすぎて遅くなっているんだよ。とりあえずルセインが来るまで今後の方針の確認をしようか」


 ※ルセイン成長プラン

 戦闘が様になり次第、魔物狩りを再開。新たな魔物の使役、能力の解明を目指す。


 ※ラマダンの古城

 城門付近にアンデットが複数有り。現状の戦力では攻略は難しい。過去の調査隊もあのアンデット達にやられたと考える。


 ※巨大スケルトン

 作戦に向け下準備済み。ルセイン成長プラン後に移行予定。


「ってな感じだな。ルセインの様子次第では、今後はさらに半月ほどつきっきりで面倒見なくてはダメかもな」


「はぁ。古城攻略が出来ずカルディナ様にお叱りを受けるかもしれないのに、こんな所で更に二週間……憂鬱です」


 露骨に落胆し項垂れている。オルタナもやれやれといった表情ではあるが、同じ気持ちだ。二人の疲れはピークに近づいているのかもしれない。


「――ぃ」


「んっ? なんか聞こえなかったか?」


「ぉーーーーぃ」


「やっと来ましたか。今回はきつく注意しなくてはならないですね」


 口元をへの字にしながら扉の外にいるルセインへの下へと歩き出す。オルタナはそんなアヤカをこの後のどうやって諌めようか考えながら後を追うと――


「キャーーーーーーーー! オ、オ、オルタナーー!」


 尋常ではない叫び声が響き渡る。


「大丈夫か!?」


 尻餅をついたアヤカの前にオルタナが身体を滑り込ませる。目に信じられない光景が飛び込んでくる。


「クソッ! そういう事か!」


 腰の剣に手を掛けながら怒声を上げる。目の前にはこの場所にいるはずのない、あの巨大スケルトンが血だらけのルセインを咥え立ち塞がっていた。

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