第14話 レッスン2
「ルセインの能力を伸ばすつもりでここにきましたが、昨日の件もあり、悠長な事を言っているわけにはいかなくなりました。即戦力が必要です。私から戦闘の心得をいくつか教えますので自分のスタイルに合わせて取り入れて下さい」
アヤカも金は貰っているのだろうが真剣に対応してくれてれる、自然と背筋が伸びてくる。
「因みにゴブの件は前例もありませんので、今後どの様になるかもわかりません。相談には乗りますが、空いてる時間を使って自分で考えてみて下さい」
「まずは現状のルセインですが戦闘の心構えが全く出来ていません。零点です。ゴブの戦闘準備だけではもちろんダメです。どの様な戦闘が予想されるか? アクシデントは何が起きるのか? 気候や天候。魔物の種類、わかる事は常に調べておいて下さい。装備品については騎士団からの支給品はそこそこ何処でも通用するものですが、常に最適化した装備を心掛けて下さい」
丁寧な言葉を使っているものの、カルディナと同じでかなり辛辣である。
ルセインは気持ちを強く持ち、受け答えをしっかりしているつもりでは合ったが、情報量が増えるにつれ、自分で何を聞いているのかわからない状態となっていた。
「ゴブの準備に、気候と、えー。装備品は気をつけて、後は?」
「ゴホン。一度に覚えなくて大丈夫ですよ。私が一番伝えたかったことは全ての事について準備が大切という事です。今回はお金も頂いてますし、特別にメモにしてきました。後でゆっくり読んで覚えといて下さい」
ずっしりとした重みと厚さある紙の束を渡される。これなら人を殺せる武器にもなりそうである。
「……メモ? 辞書ぐらいありそうなんだけど。あ、ありがとう。後でしっかり覚えるよ」
「では、具体的な話に入っていきます。ゴブと二人で戦うのも状況によってはありでしょう。ですが基本的にルセインはサポートに回る事をお勧めします」
「理由を聞いても良いですか?」
アヤカの助言をまとめると大まかには三点。
※ ゴブを前線に出す事により自分がダメージを負う事なく一方的に戦える。
※ 状況を把握してその後の展開をしやすい。
※ ルセイン自体の耐久性を上げる事が難しいと考えられる。
「細かく上げるなら他にもありますが、大きく分けるとこんな感じです。こちらも詳細はメモを読んでください」
神殿騎士団に入って、基礎を学ぶ間もなくここまできたが、よく考えてみれば今生きているのも奇跡的である。ルセインは自分自身を鑑みても何が弱点で何が強みであるかわかってない事に今更ながら気付かされた。
「っと言う事でサポート力を強化する為、貴方には私が使っている道具をいくつか教えようと思います。先程まで私の言った事を踏まえて、何を使うかは貴方が判断して選んで下さい」
実践向けのアイテムを教えてもらう。数が多く覚えきれそうもないが先程のメモにも記載があるようなので自分の戦闘スタイル合った物を後で考えれば良いだろう。こうして半日に渡るアヤカのレッスンが終わった。
※
翌日
昨夜の復習作業で眠りにつけず、しかも、頭を珍しくフル回転させた為、結局興奮してなかなか眠りにつくこともできなかった。そんな寝不足気味の体に喝を入れ、砦近くの開けた場所にオルタナと集合する。
「で、アヤカのレッスンはどうだった?」
「実践的な事は何もしてないよ。心構えから道具の使い方まで覚える事と考える事が沢山ありすぎて正直消化しきれてない」
「こればかりは一朝一夕では身につかないからなぁ。自分で見つけてくしかない。一緒にいる間はいつでも協力するぜ」
ルセインの周りにいる女性陣とは違い、オルタナはいつも気さくで話しやすい、ランドルフもたまに裏切るが最後にはいつもルセインの肩を持ってくれる。
「オルタナ……やっぱり男だよな」
勝手に感極まったルセインは真顔でオルタナに向かい肩に向かい手を伸ばす。
「おっおい! 俺はそっちの趣味はないからな!」
「んっ? い、いや違うぞ。俺はそんな気は無いからな。か、勘違いするなよ!」
「嘘つけ。ランドルフさんがお前の事を気に入っているからもしやとは思ったが……変な気迫を感じたぞ。もう一度言うけど、俺にそんな気はないからな。さあ、さっさと始めるぞ」
気のせいかオルタナのパーソナルスペースがルセインとやや離れた気がする。オルタナは懐から紐状のスリングを出すとルセインに投げ渡す。
「これやるよ。安物だけど物は良いぜ!」
紐の真ん中に石の「受け」の部分を作り、石をくくりつけ、投げ飛ばす。作りはシンプルなものである。しかし、スリングを使って投げた石の威力は大人に致命傷を与える事ができるレベルである。
「コツさえ掴めば弓を習得するより圧倒的に短期間で上手くなれる! そして安い! 警戒されている時は使いづらいが、中、長距離でゴブを前面に出しながら使うにはなかなか便利だ」
ルセインは中指に輪をかけ、親指と人差し指で紐を掴む。ゆっくりと石を落とさないように注意して遠心力を使い石を投げる。
「あっ!」
石は真っ直ぐに飛ぶ事なく、下から上空に向け勢いよく飛び出し、しばらくするとルセインの少し前に小さな音を立てて落ちる。
「なあ、これ投げた方がよくない?」
「はぁ。ルセイン諦めるのが早くない? まあ見てろって」
オルタナは砦の高台にスルスルと登ると上空に向けスリングから石を放つ。ビュッと石は風を切ると、次の瞬間には空を飛んでいる鳥に当たりルセインの前にぼとりと落ちる。
「よし。晩飯ゲットだな! とまあこんな感じだ。射程は最大数百メートル。威力は無防備な大人なら一発でいける。さっきも言った通りコツを掴めばさっき位の事は朝飯前だ。んじゃ頑張れよ!」
「朝飯前か気楽に言ってくれるよな。……まあ、ぐだぐだ言っててもしょうがないか」
ルセインは指に縄をつけ、ゆっくりとスリングを回し始めると、遠くの的目掛けて投擲の練習を開始した。
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