第13話 レッスン1
ラマダンに残る砦は魔王軍によって築かれたものであるという伝承がある。しかし、ヒエルナに調査された今では、そのような伝承が間違いであると証明済みではある。だが、数十年間放置されてこの佇まい。伝承もまんざら嘘でもないような気がしてくる。
「以前の調査隊が使っていた砦です。砦が魔物に占拠されてたら終わりだと心配してたのですが、どうやら大丈夫そうですね。さあ、裏手に回りますよ」
かつてはこの一帯を守るような立ち位置であったはずの砦。しかし、現在の砦はその役目を果たすことができず、少し寂しそうに見える。
アヤカは裏手の壁をスリスリと触り始める。すると、壁から小石が剥がれ落ちそこに小さな窪みができる。
「開けますよ。念のため警戒をして下さい」
バッグより取り出した指輪には小さな石が付いている。窪みに嵌め、力を加えるとガラガラと十センチ程の隙間ができる。
「ここからは男の仕事です。二人とも力入れてください」
ルセインとオルタナが隙間に棒を差し込む。てこを駆使して、精一杯力を入れると、さらに隙間はガラガラと拡がり、人一人が通れる程の大きさになる。どうやら中には何もいないようだ。
「大丈夫……のようですね」
安全が確認されるとアヤカが先行して中に入る。
「一部が休憩室として改造されています。ここが暫くの拠点となります。燭台に火を灯しましたら扉を閉めて下さい。通風孔は……? 活きていますね。そこまで空気が淀んでいなくて幸いでした」
燭台に火を灯すと部屋一帯に蝋燭の明かりが広がる。部屋の大きさや残っている調度品を見ると数人が使える休憩室であることが判明する。ラマダンの兵士が、有事の際に逃げ出すための隠し部屋を改造して使っているらしい。部屋にはこの場所を利用していた者達が置いていった数冊の本がある。
「私の持っている指輪がなければこの部屋は他の部屋と繋がる事はありません。安心して休めますよ」
オルタナとルセインは緊張が一気に解け地面に腰を下ろす。
「はあぁぁぁぁ。死ぬかと思った。あの化け物は何?」
「俺に聞くなよ。森にあんな化物いるって聞いていたら間違いなくここへきてないぜ」
「アヤカはなんか知ってるの?」
「アンデッドはある程度予測していましたが、あれが何かはわかりません。それに、私もあんな化物がいると知っていたらここへは来ていません」
「そういえばルセイン、ゴブは大丈夫なのか?」
「たぶん。体の破損部分を再構成して補修、魔力の流れが確認できればたぶん動く」
ルセインは唐突に自分の鞄から補修器具や材料を取り出す。
「げっ。ここで腹開いたりするのかよ?」
「ゴブの事そんな目で見ないでくれよ。血抜き済で無駄な臓器は無いし、俺の魔力が通うと結晶化? っていうのかな。皮膚以外は光沢のある木材のようになるか、ゲル状に固まるんだ。感覚としては人形や剥製を取り扱ってるような感じだよ。臭いもないし……」
「それでも十分グロいような……。まっ、まぁ、ゴブがまた動くならそれでいいか」
「明日には元気になってくれると思うけど。ゴブには悪いことしたな。オルタナ、さっきのデカイ奴、帰り道もいるんだよな?」
「間違いなくいる、逃げてきただけだからな。俺たちの攻撃では今は倒す事はできない。先程の奴の動きを鑑みるに、奴は戦闘が始まると何処からか、こちらに向かってくるようだ。頼りにしていたアヤカの聖水もなくなったから帰りは対策して戦うしかない」
ゴブの処置を終えるとルセインは埃だらけの床に寝転がり二人に背を向け小さくなった。
「俺、役に立たなかったなぁ。オルタナとアヤカがいなければ間違いなく死んでたよ」
「落ち込んでる暇なんて無いですよ。明日からやることが山ほどあるんですから」
しかし、アヤカの言葉を聞くことなくルセインはすでに眠りに入ったようだ。そんなルセインの寝顔を見て、アヤカがため息をつく。
「今日は私も疲れました。おやすみ」
ルセインに毛布をかけ、アヤカも背を向けると耐えがたい眠りに逆らうことなく眠りについた。
※
翌朝
話し合いの結果、オルタナは砦の探索。ルセインとアヤカは砦の周辺にて素材の採集しつつ、今後に向け戦闘訓練をする事となる。
「やっぱり砦の探索は三人でした方がよかったんじゃないかな?」
ルセインは昨日の件に負い目を感じているのか先ほどから消極的な発言が目立つ。アヤカは眉間に皺を寄せながら注意を促す。
「砦の中を探索するのはオルタナが最適ですし、何かあった場合は深入りしないよう三人で話し合い済みですよね。今回の目的を達成する為にも、帰路を確保する上でも、ルセインの成長は必須です」
「……たしかにそうだね」
口から出る言葉は自然と小さくなり、昨日の自分の不甲斐なさを思い出すようだ。
(やはり成長する事でしかアヤカとオルタナの気持ちに応える事はできない)
何とか気持ちを奮い立たせるとルセインは顔を上げた。
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