第12話 うつろいの森2
更に奥に進むこと数時間。陽が落ち、辺りは薄っすらと暗くなり始める。森の奥には少し開けた場所があるが、常に陽が射差がないのか、地面の植物は背が低く、色の薄い植物ばかりが生えている。
三人が開けた場所の中心に移動すると、そこには回りを囲うように大きめの石が立てられている。雨風でかなり劣化が見られるが墓石のようだ。ルセインが気にせずに先に進もうとすると、オルタナが手を前に出し制止を促す。
「今の時間に最も会いたくない奴等のお出ましだ。前方から二体、更に複数の足跡も聞こえる。このままだと囲まれる。砦の方向はわかるか?」
「オルタナの右斜め方向に」
アヤカが簡潔に応え、ルセインも戦闘態勢をとると辺りを見回す。
「俺が突破するからアヤカは援護。ルセインは俺が捌き切れない敵を頼む。どうやらスケルトンがメインのようだ打撃での攻撃を頼むぜ」
間も無くアヤカが瓶に入った液体を振りまく。液体は地面に落ちる事なく三人の周りに固定されると、同時にオルタナが走り出し、すぐ後を二人が続く。
オルタナが素早く腰から出したのは紐状のスリング。手際よく石を発射すると前方のスケルトンの顔面に石を命中させ、さらにその先で怯んでいるスケルトンには身体ごと体当たりをする。
スケルトンはオルタナに固定されている水滴に触れると激しく煙を上げ、そのまま後ろに勢いよく倒れ込み、そのまま三人はスケルトンを踏みつけ、後ろを振り向くことなく全力で森を走り抜ける。
※
進行方向の地面からはボコボコと骨の腕が生えてくる。視界は悪くなりつつあるが立ち止まっている暇はない。今は強引に駆け抜けるのだ。躱し切れない腕だけは背の低いゴブリンがモグラ叩きの要領で石で潰している。
「ゴブリン上手く使えるようになってきたんじゃないか?」
「ゴブの瞬発力や機動力かは把握したかな。手先なんかは器用になってきた。背の小さい俺がいると思ってくれていいよ」
「ルセインが二人いて戦力になるんですか? それにゴブ? めっちゃ感情移入してるじゃないですか! それって倫理的に大丈夫なんですか?」
「うっ。でも、今はゴブの事色々わかるようになってきた気がするんだよ。俺と戦った時は確かに敵だった。でも、今は何か通じるものがあるよ」
「えっ……本当に人間をやめ始めてるんじゃないですか?」
「そ、そんなこと言わないでくれよ。自覚は少しあるんだ」
オルタナとアヤカから漏れる失笑。その後にぼそぼそと言い訳を続けるルセインを無視して二人は走り続ける。
「逃げ切れたんじゃないかな? と言いたいところだが、……どうやら大物からは逃げ切れなかったようだ。もう少し走ったら俺とルセイン、ゴブで迎撃、アヤカは援護を頼む」
だいぶ距離を引き離したはずだが、すぐ後ろからは繰り返し聞こえる足音と、何かを引きずる音。三人の走る速度に付いてきている存在がいるようだ。
オルタナの合図で反転すると、アヤカが後衛、三人が前衛のフォーメイションで戦闘態勢をとる。
まもなく現れたのは下半身がない巨大スケルトンであった。
骨は黒ずみ手のひらの指は何本か欠けている。顔のあった所には変形、あるいは生前に受けた傷なのか大きな穴が空いていた。後ろから聞こえてきた規則的に聞こえていた足音は二本の手で、引きずるような音は下半身を引きずる音だったようである。
「でかい!」
ルセインとゴブが手に鉈を持ち、巨大スケルトンに走り出す。巨大な腕に向けて連続で斬りつけるが、骨が欠ける程度で大したダメージは与えられない。
巨大スケルトンはすぐさま反撃を繰り出し、斬り付けられた腕と逆の手でルセインとゴブを叩きつける。ルセインは紙一重でなんとか躱したものの、ゴブはまともにくらってしまい地面に叩きつけられてしまう。二人の攻防の隙にオルタナもスリングで攻撃を試みるものの、頭に当たった小さな石では大したダメージが入っていないようだ。
「くっ。ゴブが動かなくなった」
一撃でゴブが再起不能となる。見た目通り、巨大スケルトンの打撃はかなり重い一撃のようだ。態勢を整え、再び襲おうとする巨大スケルトンにアヤカがありったけの聖水の瓶をぶち撒ける、空気中には先程の数倍の水滴が固定され三人の前に水の障壁を作る。
しかし、巨大スケルトンは気にした様子を見せずに、そのまま巨体をこちらに向けると固定された空気中の水滴に全身に突っ込む。巨体が水滴に触れると凄まじい煙を上げ、流石の巨大スケルトンも大きくたじろぐ。
「今ので聖水、全部使っちゃいましたよ! これを突破されたら終わりです」
「わかった。今から時間を稼ぐ。ルセインはゴブを回収後、全力で砦に向かって走れ。アヤカ足止めの援護頼めるか?」
「「了解」」
水滴の障壁が薄くなり始める前にオルタナが動き出す。
「行くぞ!」
ロープの先に大きめの石を括り付け、円を描くように振り回す。巨大スケルトンの腕がこちらに向けられる瞬間を狙い投擲する。ロープが二本の腕に絡みついた所をオルタナが一気に引っ張り上げる。
「くっ。やはり俺一人では縛り上げられない。アヤカ頼めるか!」
「これなら!」
アヤカが丸い陶器のようなものを、巨大スケルトンの掌の部分に目掛けて投げつける。着弾と共に破裂音がすると、巨体がバランスを崩す。
「お手製の魔力手榴弾です。殺傷力は無いですが衝撃はなかなかですよ」
すかさずオルタナがロープを締めあげると巨大スケルトンは一時的ではあるがジタバタする巨大な物体へと成り下がる。
「よし、上手くいった!」
その隙にルセインがすばやくゴブを回収すると、三人は巨大スケルトンを背に砦に向けて走り出した。
※
小一時間ほど走ると、遠目に砦が見える。
「どうやら陽が落ちる前に着くことが出来たようだな!」
「ええ、ギリギリでしたが巨大スケルトンから逃げることができました」
「……」
何とか逃げられた安堵感を感じている二人とは違いルセインの表情は明るくない。
「どうした? 怪我でもしたか?」
「いや、何でもないよ」
ルセインは片手に抱えるゴブリンをみながら力なく答える。
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