第10話 とばっちり

「それ、魔法じゃないのよね?」


 からくりの内容が気になるようでカルディナから確認される。


「はい、お婆様の物です。レリックですので、練習すれば誰でも使えます。宜しければカルディナ様も使ってみますか?」


「嫌よ。貴方の商売道具なんでしょ? 壊したら大変じゃない」


「そんなに使い勝手が良いものでもないんですよ。遮蔽物が多いところや、魔力が濃い所でも色々情報を拾って使い物にならないですし。あっ、映りましたよ!」


 金属板にぼんやりと座敷牢の様子が映し出される。先程置いてきたゴブリンを使い、右に左に歩かせてみたり、ベッド上から飛び降り、盛大にこける様子が映し出される。


 ルセイン本人は少し離れた所で椅子に座り、ゴブリンに集中しているようだ。そのうちに奥にあるモップを使って槍の真似事を始めようとするが細かい制御が難しいのかモップを落としてしまう姿が見受けられた。


 ちなみに机の上の食事は喉を通らなかったのかほとんど手がつけられていない。


「見間違いではなかったようね。死体のゴブリンがモップを持っているわよ」


 異常な事態を再確認し、一同は改めて口を閉ざす。


 しかし、一頻り無言で食事をこなした後にカルディナが笑みを浮かべる。何かを考え付いたようだ。今までに同じような表情を見た経験があるのか、顔色を曇らせ不安になったアヤカが声をかける。


「ひょっとして何か思いつきました? この先、彼ををどうするつもりなんですか?」


「最初は隊に置きながら事の顛末を拝むつもりでいたんだけど、もう私の想像を超える状況になっちゃってるし、ひょっとしたらひょっとするかもしれないって思ってきたわ」


「そ、それでカルディナ様。どうするんですか?」


「結論を急ぐ男はモテないんじゃないの?」


「むっ。私は女だからいいんですぅ!」


 揚げ足を取られアヤカは頬を膨らませる。口元しか見えないが怒っているのがわかる。


「冗談よ、冗談。うつろいの森にしばらく行かせましょう! あそこなら人目を気にする事なくあのゴブリン使えるでしょ?」


「カ、カルディナ様、本気で言ってるんですか! あそこは未開の地、人の行くとこじゃないですよ。島の奥にはラマダンの古城もあるじゃないですか! 一般人とゴブリン一匹。確実に死にます!」


「あら、ルセインちゃんの事心配してるの? アヤカも気になっちゃった? ルセインちゃん可愛いからしょうがないわよね~」


「ランドルフさん冗談はやめて下さい。私は年上の男性がゴニョゴニョ」


 勢いに任せてうっかり自分の好みを話してしまったことを恥ずかしがるアヤカ。言葉を最後まで言い切れずに口をモゴモゴさせている。


「アヤカも可愛いわねぇ。大丈夫、安心して。うつろいの森には貴方も一緒に行くのよ!」


「――えっ! ちょっ、ちょっと」


(ひょっとしたらラマダンの事もわかるかもしれないしね)


「ちょっとは無し。今日は気分が良いわ! ランドルフ、奥に大隊長から貰ったワインがあったわよね? 今日は飲むわよ!」


「いいですね隊長! 今日は女三人でパァーッとやちゃいましょうか!」


 満面の笑顔の少女に、それに続く満面の笑顔の大男、そして膝をつきうな垂れるカラス頭の少女。その後、三人の女達による女子会? は深夜遅くまで続くのであった。


 ※


 ヒエルナ街道


「で、何で、俺もこのメンツに加えられてるわけ?」


 両腕を組み、額に青筋を立てているイケメンがこちらを睨みつけている。


「カルディナ様から貴方も連れてくように強い要望があったの。オルタナの捜索能力は必ず必要になるって」


 アヤカは口調に一切の抑揚をつけず淡々と話す。こちらの話をまともに聞く気はなさそうだ。


「で、ルセイン何だそれは? 怪しい服着てるものは? ひょっとして、ま、魔物か? まさかお前が動かしているんじゃないんだろうな」


 ゴブリンが歩き回るのは宜しくないと言うことで、アヤカ作成の特注品レザーマスクを被っている。魔法にも耐性のある値の張るものだが、カルディナのポケットマネーらしいので詳しい額はわからない。ただ、マスクを被ったとはいえ、人にしては前傾姿勢過ぎるし、口を開ければはっきり犬歯が見えてしまう。よく見れば魔物とバレてしまうだろう。


 ルセインは一切こちらを見ない。下を向き、この世の終わりでも見ているかのような表情を浮かべている。それに対してゴブリンはコミカルな動きを混ぜながらゆっくりとオルタナに擦り寄り、首を縦に動かしている。


「はぁ。二人ともどういう事か説明しろよ」


 それからはオルタナの予想を超える答えが返ってくる。


「何々? 淡い期待を裏切られ拉致監禁。生命の危機に晒されながらも難題を出され、何とかクリアしたと思ったら、もう表の世界でいけない人間になりかけてた? うん。鬼畜の所業だな。


 んで、お前は? ただ、鑑定をして欲しいと言われたので来てみたら訳のわからないもの見せられて、もしかしたらこの世にいてはいけない人間かもしれないのに異形の森でその人間の成長を見守れって? うん。それも酷いな」


「「でしょ?」」


「まあアヤカは金貰ってるし、自業自得感あるけど。ルセインにはまじで同情するぜ。何でこうなったんだろうな。このままだとまじで面の世界で生きて行けないかもな」


「や、やっぱりぃ。う、うぉぉぉぉぉ」


 ルセインの目には一瞬で涙が溢れ出る。膝から崩れ落ち、地面に顔をつけると声を出し泣き始めた。


「まあ落ち着け。表向きはスタンピートの原因を調べに行くという程で、この場には三人しかいない。そうでなくてもうつろいの森に人なんていない。この森にいる間はとりあえず安心しろよ」


「そうよ。貴方のその訳の分からない能力をサポートする為に私達が呼ばれたんだから。貴方がそんな調子じゃ困ってしまうわ」


「なぁ、隊長はルセインを本当に育てたいんのだろうか? ルセインの成長目的以外にここには何かあるんじゃないか?」


「うーん。言われて見れば確かに不自然ですね」


「そうだろ。隊員二人と高い金を払ってアヤカを連れてくとか、普通に考えて有り得ないだろう。たぶん何かある」


「……確かに」


「よし。じゃあ、とりあえずの当面の拠点探しと食い物集めだ。ほら、元気出せよ!」

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