第5話 ダンジョンへ

 ヒエルナ大森林北 ダンジョン


 城壁を超え、大森林に向けて行軍をするカルディナ一行。ルセインが辺りを見回すと、いくつかの小隊もダンジョンに向かっている。各小隊からはお気楽な雰囲気が伝わり、今回の任務が比較的危険でない事が窺えた。しかし、一般人のルセインにとっては装備品の重さや、行軍のスピードが予想以上に早く、思いの外辛い行軍となる。


「あの、ちょっといいですか?」


 ランドルフがこちらに笑顔を向けると気を紛らわせる為に今回のダンジョンについて疑問を投げかける。


「そもそもダンジョンって何なんですか? 俺からすれば魔物がうようよする所にお気楽な冒険者達が入るイメージしかないんですけど」


「そうねぇ。ダンジョンがどういうものかはヒエルナより正式な公表はされていないわ。国のお役人と冒険者しかダンジョンの詳しいことは分からないんじゃないかしら? 一応、括りとしては天然資源の回収場として国が管理してるものよ。魔物が出たり、解明されてないところが多いせいで、国としてもダンジョン管理は諸手を挙げて喜べるものではないの。それに冒険者の事をお気楽なんて言ってると殺されるわよ。あの子達本当に強いんだから」


 思ったよりダンジョンとは複雑な所のようだ。そして、冒険者については認識を改めないといけないらしい。


「ダンジョンがどのような扱いかはわかりました。じゃあ魔物達はどっから湧くんですか? 何かを糧にしてるのは間違いないとは思うんですが。噂によるとダンジョンではお宝なんかも手にはいるみたいですけど」


 今まで聞く事に徹していたオルタナが急に口を挟んでくる。


「何らかの魔力が影響してるっていうのが通説だな。詳しい事は分かっていないのが現状だ」


 聞かれてまずいのか、オルタナはさらに顔を近ずけると、小声で話を続ける。


「一説では人の魂はダンジョンに還る。そんな、話もあるぜ。大きな声では言えないがな」


 オルタナが話を終えるのと同時に凄まじい殺気が二人を襲う。


「異端審問官に捕まってみんな揃って縛首になりたいの? 気軽に話してはいけない話よ。弁えなさい」


 縛首と言う言葉を聞いて思わずオルタナと顔を見合す。確かに一神教を掲げる神聖ヒエルナの教義からはあり得ない話だ。この話はここで終わりにするべきであろう。


(ていうかあの小声で話している声が聞こえるのか? これからはカルディナ隊長の認識も改めなくては……)


「ついたわ! お喋りはそこまでよ」


 切り立った崖に大きく口を開いた洞窟が見える。ここに居る全員が同時に入っても余裕がありそうな大きさだ。


「三人に作戦を伝える! 今回のスタンピードの原因としてこのダンジョンが候補に挙がった。原因を探る為、各小隊長はダンジョンへ入る。隊長を除く各小隊は、ダンジョンの回りを中心に散開。怪しい物や人物がいないかを探して。発見次第確保。オルタナは私達と一緒にダンジョンに入るわよ」


 自分と同じ立場のはずのオルタナの名前が呼ばれ、ルセインは思わずオルタナの顔を見る。


「驚いたって顔だな。適材適所てね。戦闘はイマイチでもダンジョン探索、索敵なんかは俺にもってこいなのよ」


「えっ、すごい。俺と同じで取り柄もないかと、あっ――」


 オルタナは自傷気味に笑顔を浮かべる。


「酷い言い様だな。うちの隊は何かしらみんな取り柄があるんだぜ。お前もなんかあるからここに居るって事だと思うぜ」


「早く来なさい! 私を待たせるの?」


 怒声が響く。悠長に会話をしている場合ではなさそうだ。


「おっ。やばい。じゃあな! また後で」


 オルタナは飄々とした足取りで隊長に合流して行く。


「ランドルフさんオルタナって凄い奴だったんですね。オルタナが言った通り、俺にも何か取り柄なんてあるんでしょうか?」


「そうねぇ~。今の私には何とも言えないわ。ただ何もなければ隊長も貴方の事を隊に置いとかないんじゃないかしら? まあ無理しない事ね。ゆっくり成長すれば良いのよ。背伸びするとすぐに死んじゃうわよ」


「死んじゃうって……。怖いじゃないですか、神殿騎士はホイホイ死ぬ職場だなんて一度も聞いたことないですよ」


「じゃあ、死なないように頑張りなさい。今回は辺りの捜索なんだから危ない目に遭う事も無いはずよ。さあ! 私達の持ち場はこの奥よ」


 ランドルフは森の奥へズカズカと踏み込んで行く。森の木々の背は高く、日中というのに陽が差してこないようで視界は薄暗い。しばらくの間無言で捜索に打ち込んでいたが、怪しいものや怪しい人物などは見当たらない。


「さて、一通り確認してみたものの何もなさそうね。まぁ、私達は念のためって感じだし」


「そうですね。そろそろ本隊に合流しますか? 隊長達も一度戻ってくるかもしれないですし」


 辺りに何もない事を確認し、歩いて来た道を戻ろうとすると木陰から子供程の背丈の何かが姿を現す。


「んっ? 子供が何でこんな所に――」


「槍を構えなさい! 多分一匹じゃないわ」


 ランドルフが注意を促すとゾロゾロと同じような背丈の魔物が姿を現す。


「一、ニ、三……六、七。結構いますね。これって例のゴブリンってやつですか?」


「そうよ。私達がよく相手をするゴブリン。頭数が多いとはいえ、真正面から襲うとはいい度胸ね。本職の兵士がゴブリンごときにやられわしないわ!」


「いや、ランドルフさん。限りなく一般人が一名いるのですが」

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