第561話 風花の中つ国

「おい、本当に来るのか、うちに」

「皆さんと一緒に帰国できるならば楽しそうです」

 シャドウは戸惑いフェザーは喜ぶという兄妹で異なる反応ではあるが、ユリアンネ達が一緒に旅を続けること自体は否定されない。


「で、お前達の国って、船でどのくらいかかるんだ?」

「1ヶ月ぐらいですかね。季節によって潮の流れや風向きが変わるのですが、今ならば」

「そこから1週間ほどの馬旅で俺たちの家に着く」

「今さらだけど、なんて国名だっけ?」

「風花(ふうか)の中つ国(なかつくに)です」

「え?」

「こちらの言葉で言うと、ですが。風と花の中央の国という意味ですね」

 “葦原(あしはら)の中つ国”が日本神話での日本の異称で、神々の高天原(たかまがはら)と黄泉の国の中間にある国という意味だったことを考えながら、やはりインディアンというより日本っぽいのかもしれないと思うユリアンネ。となると、色々と懐かしいものが見られる可能性に期待して、シャドウ達について行きたい希望が膨らむ。


「簡単に言うが、本当にみんなそんな旅を続けられるのか?親達への相談は?」

「え?そりゃ説得して来るに決まっているじゃない。あ、シミは衛兵を……」

「あ、あぁそれもあるが。みんな、やっとトリアンに戻って来たところで、独立騒動も落ち着いて。これから親元に戻る話もあるだろう?」

「それぞれ事情もあるよな。俺も親に相談してくるよ」

 ジーモントも長男で実家の宿を継ぐ前提である。さらに旅をすることの許可がされるかは分からない。

「ま、珍しい料理を学んでくるなどの理由をつけて相談するが、な」

「私も珍しい素材って」


 ユリアンネが、後を継ぐ予定で相談すべきだった“オトマン書肆(しょし)”の主がもう居ないことで悲しくならないように、楽しそうな雰囲気を続ける。

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