第505話 狼煙3
「確かにトリアンの街全体としては、冒険者のみなさんにはダンジョンに潜って欲しいのは分かる。だが、今はシャイデン男爵たちの目が街の西に向いているチャンスなんだ。ぜひこの隙に」
“選ばれた盟友”の仲間たちが暮らしている借家、通称“秘密基地”に来たマンファンからの申し出である。
「マンファンさんの意図も分かりますが、肉屋と倉庫に踏み込んだ後の、使い魔で証拠をつかんで1拠点ずつ潰して来たのと何が違うのでしょうか」
「我々衛兵は軍隊と戦う前提ではないので、トリアンの西に派遣はされない。ただ、シャイデン男爵たち寄子貴族は寄子騎士団を派遣する必要がある。だから、これまで戦力的に踏み込むのがためらわれていた拠点にも攻め込めるはずなのだ」
「全面戦争みたいで、大丈夫なのでしょうか」
「本当は他の冒険者クランなども巻き込んで大人数で臨みたいのだが、どこで敵方と繋がって情報が漏れるかわからない。安全な味方は王国魔術師団の15名とシミたちだけなんだ」
「家族も暮らす故郷であるトリアンがひどいことになって欲しくないし、オトマンさんの仇でもあるから協力はしたいけれど」
「そうだな、俺たちがどれほどの役に立つのか」
「結局はユリとシミとテアがどうするか、どう思うかに従うよ」
シミリートが仲間たちに相談しても微妙な回答である。
「私はユリさんの意向に従います。奴隷というだけでなく、仲間扱いをして頂いている意味でも」
「テア。そうね、私は恨みも色々とあるけれど、仕方なしに従わされている人たちにまで被害を与えるやり方は嫌ね」
「そうだな。独立賛成派ではないのに立場的に従っている将兵も多いだろうな。領兵だけでなく貴族の家臣団であっても」
「ということで、“闇ギルド”のように自分たちの意思で動いている奴らだけを相手にしたいです」
「そうか。本当はシャイデン男爵の別邸なども対象にしたかったのだが。ユリアンネさんたちの意向は分かった。その範囲で行こう。王国魔術師団さんたちにも繋ぎをとってくれ。明日にでも決行したい」
「承知しました」
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