第503話 狼煙(+簡易地図)

 ユリアンネと悪魔ベリスの契約はしないまま、シミリートがベリスの封印された≪吸血≫ダガーを使い続け、今まで以上に血抜きなどを行うようになったぐらいしか変化がない日々が続く。

『我の主はお前ではないのに』

「うるさいな。俺たちが倒した魔物たちの魂もやると言っているのだし、吸血もさせているんだから文句を言うなよ」

『我が自己修復することを理解した途端に、扱いも雑になっているではないか』

「……戦闘では些細なことを気にしていられないからな」

 意外とベリスとシミリートが仲良い掛け合いをしているように見えるユリアンネには、封印された悪魔という不安はなくなっている。

 “蒼海の眼”の不安がようやくなくなり、オトマンの死によるショックも仲間たちと秘密基地で共同生活をすることで和らいで来ているのもある。



 そんなある日、トリアンの北部、貴族街や高級街の街中が騒々しくなっている。

「シミ、何があったの?」

「王国の軍隊がストローデに侵入したと狼煙があったらしい」

「フェルバーさんやニキアスさんたちのことではないよね?」

「あぁ、それならばコルバックからの狼煙にはならないだろう。コルバックというのが微妙だよな。メイユは少なくとも独立派ではなかったし、モンブロワは中立を宣言していたからな」

「メイユは素通りしたけれど、コルバックで問題になったということね。あんな簡易城壁の街ではまともな戦争になれば、いつまでも持ち堪えられないわね」

「“御手の大剣”のヘンドリクやアディーレさんたち、大丈夫かな」

「冒険者だから上手いこと立ち回っていると思うよな。特にアディーレさんがいれば」


 シミリートは衛兵団から聞いて来た情報を仲間たちに伝えた後、王国魔術師団のフェルバーたちにも状況を共有する。

「シミリートさん、貴重な情報共有、ありがとうございます。しかし、我々からの手紙をもとに行動を起こしたにしては早すぎですよね。モンヴァルト山脈の南を経由して情報が届いて、軍勢が南回りで来るには。もしかして山脈の魔物は我々が減らしたままで、東西の往来ができるようになったのでしょうか」

「いえ、そんな話は聞こえて来ていないですよね……」




大雑把な位置関係:

・王領 – ローニョレ領 – ルオルゾン領 – ストローデ領

・モンヴァルト山脈 – メイユ – コルバック – モンブロワ – トリアン

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