第322話 ドロテア

「ドロテアと申します。どうぞよろしくお願いします」

 結局、捕虜30人ほどの中で魔法使いは1人だけであったのに、身代金の支払いはされなかったらしい。というより、貴族の子弟であった数人以外は、相手にされなかったとのこと。モンタール王国側の兵士で捕虜になっていた者との交換もなされたが、この魔法使いを含めて10人ほどがステフェンの街に連れ戻ってくることになったそうである。


 一般兵士の捕虜も欲しいかと問われたが断り、魔法使いの彼女だけを引き取ることになった。装備類も合わせて返却されたので、彼女にそのまま渡してある。

「ま、誰の戦果かといえばシミかユリだろうけど、女性奴隷の主人だからシミではなくユリの方が良いわよね。ドロテアは可愛いし」

「そうしてくれ。変なことを命令したとあらぬ疑いをかけられたくないから」

 結果、奴隷の主人はユリアンネということにはなったが、そのユリアンネから仲間たちの言うことはひどい内容でなければ聞くように、と命令されたのであまり違いは無い。戦争奴隷は、犯罪奴隷のように生命に関わる命令までは守る必要がないが、借金奴隷よりは強い命令をできるらしい。


「ドロテアは少し長いから、テアって呼ぶので良い?」

「はい、よくそう呼ばれていました」

 仲間になるのであればと、互いに自己紹介をする。カミラたちからは、それぞれ実家の商売やそれを継ぐ予定であるとか独立する旨などである。それに合わせて、特にユリアンネのポーション調合や魔法のことは秘密を守るように念押ししてある。


 反対にドロテアの話になった際には、皆の同情を誘う。奴隷命令をしているので嘘では無いはずである。

 孤児院育ちで、子供の頃から冒険者登録をして魔物を狩っていた。神官に魔法の素質を見抜いて貰い、火魔法を使うことで冒険者として生きていけるかと思えた頃、魔術師団員だった独身の老女に引き取られたが、その老女も亡くなった。今は兵長の立場であったが、貴族の子弟が言い寄って来たのを断ったのと、出自を理由にいじめにあっており、今回の村への派遣隊に魔術師団員が1人だけであったのもそれ故とのこと。

「ですので、捕虜の引き取り手が現れるわけがなく。今さら戻るところもありませんのでどうか面倒を見てやってください」

 皆より少しだけ年上の18歳の容姿も悪くない女性の言う発言ではないと、特に女性陣が同情している。

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