第4話 薬師見習い改め書店員見習い?
迷宮都市トリアン。トリアンダンジョンを中心にほぼ同心円状に3重の城壁がある街。城壁はダンジョンから魔物が溢れることへの対策が主目的であり、国境の街のように外敵からの防衛目的では無いので、ダンジョンを囲う一番内側で一番小さい円状の城壁が一番頑丈であり、城門の閂(かんぬき)は扉のどちら側にも設置可能となっている。
同心円の北側には小山があり、頂上付近に領主館、そこから街との斜面には貴族街がある。街の東には海があるため、街の東部は港街になっている。
同心円の中心から2番目と3番目の城壁の間の北部エリアは、貴族街に隣接する高級街になっている。その一角、まだ円の中心に近い方に書店“オトマン書肆(しょし)”がある。
「ユリちゃん、また腰痛の薬をお願いできる?痛くなってきてね」
「オトマンさん、大丈夫ですか?少しお待ちくださいね」
「ユリちゃんの薬は良く効くのよ。助かるよ」
書店とは言うものの、この世界では活版印刷が普及していなく全て手書きであるため流通している書物は貴重であり、前世の書店のように隙間なく本が並ぶのではなく、美術館や博物館のような陳列になっている。
その店頭エリアの奥には、傷んだ書籍の修復等を行う工房エリアがあるだけでなく、それとは別にユリアンネのために薬の調合を行う工房エリアまである。ユリアンネがこの店舗に見習いとして来ることになった条件でもある。
各種素材が棚や引き出しに収納されており、作業台には薬研(やげん)、乳鉢、秤(はかり)などの調剤道具が並べられている。
「オトマンさんの腰痛には、この芍薬(シャクヤク)と甘草(カンゾウ)それぞれの根での鎮痛だけでは足らないのよね。附子(ブシ)で体を温めないと……」
よく作る薬なので、乳鉢と乳棒で調合するだけに準備はしてある。
「後から知ったけれど、そのブシってあの猛毒のトリカブトだよね。下手な薬師でなくて本当に良かったよ」
「はい、そうですよ。塩水に浸した後に加熱する修治(しゅうじ)が必要ですね。まぁ、毒と薬は匙加減、紙一重ですから。はい、出来ましたよ」
「おぉ、ありがとう!」
「しばらく安静にしていてくださいね」
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