第3話 プロローグ3
座り込んでいたところから立ち上がって伸びをしたアマルダが何かを見つける。
「あ、お父さん、あれって」
「お、流石アマだな。よく分かったな。そうだ、あれは紫蘭(シラン)。丸まった根、偽球茎(ぎきゅうけい)を蒸して日干しにすると白及(ビャッキュウ)、肺の病に効く生薬(しょうやく)になる。でもすぐ向こう側が崖で危ないから今回は諦めよう」
「はーい」
「ラルフさん、ここで昼食休憩にしましょう」
ゴブリンの処置が終わったらしい護衛の3人のところに、ラルフは行ってしまう。
「ねぇユリ、せっかく見つけたのだから採取しに行こうよ」
「え、でもパパが危ないからダメって……」
「大丈夫よ、気をつけたら。それに練習材料は多いに越したことが無いわよ」
姉の押しに負けて崖に近づく2人。シランは崖上でも生える草である。
「ほら、簡単でしょ」
無理矢理にシランを抜いたところまでは良かったが、勢いでバランスを崩したアマルダ。慌てたユリアンネはアマルダに抱きついて引っ張るが、3つ年下で体格も劣るユリアンネの方がさらにバランスを崩して自分だけが崖下に。
「ユリー!」
「あれ?なんか前にもあったような……」
崖上から落下しながら何故か違和感を覚えるユリアンネ。そして斜面の岩に一度当たって跳ね上がったところで思い出す。
「あ、私……」
自分は、こことは違う世界で、薬剤師になることを目指して薬学部を受験した18歳の少女だった。睡眠を削ってまで勉強を頑張っていた。第一志望の大学試験が終わり気力も使い果たして爆睡するため真っ直ぐ帰宅。自宅マンションの玄関にたどり着いたところで、隣家の子供が廊下の手すりから落ちそうなのを見かけ慌てて助けたが、寝不足でふらついて自分だけ落ちてしまったことを思い出したのである。
***
そして時はめぐりユリアンネが15歳の成人を目前とするところから物語は始まる。
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