第三章 悪夢の終わり


 新居に引っ越した私は、それまでつけていたマスクを外すことにした。もうその頃にはコロナ禍も下火になり、世界はもうパンデミックから脱していたからだ。だがこの年はひどいものだった。

 虫歯、胃腸炎、遅れて感染したコロナウイルス、体調不良など、病気のオンパレードだった。特に虫歯とその夏の暑さは体にこたえた。何度ももうだめだと思ったし、何度も吐いた。机の上に反吐をぶちまけてしまったこともある。つらい日々がしばらく続いた。

 浪費もしてしまい、食べ物にも事欠く日々もあった。よく生き延びたと思う。

 家賃をはじめとする固定費の支払いがこんなにつらいとは思わなかった。そのお金の確保で精一杯だった。

 そんな日々も一年続き、私はたまに行くポケモンセンターとレストランのランチが楽しみだった。

 ぬいぐるみはいつも私を癒してくれた。君は一人じゃないんだよ。そう言ってくれる気がした。今では、絵画のパズルやチェスに興味が移っているが。

 年がまた明け、2023年になった。私は元日には久しぶりに初詣に行った。ようやく社会も元通りになり出したという感じだった。

 さらに二十六年間、私の心の支えになってくれたポケモンのアニメにも一つの区切りがつき、サトシの物語は終わることになった。

 寂しかったが、いかなる物語にも終わりが来る。最終回をYOU TUBEで見て、私はサトシとピカチュウに別れを告げた。

 四月に入ると、ようやくマスクの着用が個人の判断に委ねられ、ようやく自分の戦争が終わってくれた気分になった。

 数多くの人が犠牲になった。私も傷だらけになりながら走りぬいた。

 パンデミックが終わったと思えた日、私はネスカフェのゴールドブレンドの最後の一杯を飲んで、泣いた。多くの友が死んでいった。深い傷を抱える人もいる。だが終わった。平穏が何よりもありがたいと思えた。

 私もようやく元通りになれたところだ。自由に生きられることは素晴らしい。

 自分が生き延びたことには感謝している。そして、この時期が私をさらに強くしてくれた。全て必要な経験だった。これが私のパンデミックの三年間だ。

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