第二章 自由

 2021年の八月三日は忘れることはないだろう。初めてポケモンセンターに買い物に行った日だからだ。

 選んだ場所は横浜。そのセンターで、私は買い物カゴを両手に持ち、たっぷり買い漁った。

 多くの人から、よほどの変人に思われただろう。買い物カゴがいっぱいになるまで買う人はほとんどいない。レジで対応してくれたスタッフさんまで唖然としていた。

 合計三万円近くを買い、その時買った特大のメガニウムのぬいぐるみは長く持ち続けた。今はぬいぐるみのほとんどを処分している。というのも、ぬいぐるみに付くハウスダストが取れず、ひどいせき喘息を引き起こしたためだ。

 意外にもセンターには大勢の人たちが来ていた。みんなグッズが欲しくてたまらなかったのだ。近くにあるディズニーストアも人でいっぱいだった。

 書店にも行った。『指輪物語』や『ONE PIECE』、角川つばさ文庫に岩波少年文庫など、あらゆる本を手に入れ、むさぼり読んだ。

 気が付けば、グループホームからの卒業も近づき、私は引っ越しの準備をしなければならなくなった。

 その中で、二百万円の定期預金があることが偶然分かり、これで私は、夢だった北海道旅行に行くことにした。

 航空券とホテルの予約もして、旅の準備をして、いざ出発である。

 久しぶりの空の旅は楽しく、すぐに札幌に着いた。五泊六日の旅となり、海鮮丼を食べたり、北海道神宮にも行った。東京スカイツリーに昇ったことのない私には札幌テレビ塔が新鮮で、その時見た大通公園の光景はよく覚えている。

 小樽で見た雪景色はすごかった。あんなに雪が降り積もった土地に入ったことがない。ビストロで食べたペペロンチーノやワインもおいしく、ガラス工芸の店できれいな工芸品を見た。

 ポケモンセンターサッポロにも行き、グレイシアとトゲキッスのぬいぐるみも手に入れた。作業所のスタッフさん達にはセンター限定のピンバッチを、グループホームにはブルーマウンテンコーヒーを買った。どれも東京では手に入らないものばかりだ。

 ホテルでの生活も楽しかった。清潔なベッド、ミネラルウォーター、そしてレストランでの夕食。ホテルという非日常の空間が楽しくて仕方なかった。

 最終日になり、私は寿司を食べに行った。回転寿司ではない、コースで出てくる本物の寿司屋さんだ。今でもそこで食べた寿司が一番だと思っている。細かいメニューは覚えていないが、とにかくおいしかった。

 だが、一番うまかったものを挙げろと言われれば、ウニ丼だろう。その頃はウニが不漁だったが、何とかありつくことができた。あれほど素晴らしい食事は、もう二度と食べられないのではないかと思う。

 帰りの空港のポケモンストアでパイロットピカチュウのマスコットも手に入れ、私は今までの疲れを全て抜き終わり、満ち足りた状態で帰ってきた。

 帰った後のグループホームでの喜びようは凄まじいものだった。コーヒーにスイーツ、写真の数々が多くの人には刺激的だったようだ

 そうして、年も過ぎ、2022年となった。この時期にはだいぶ世界も落ち着いてきていた。日本だけが、相変わらずマスク着用を集団意識でやり続けた。しかし、その頃の私は引っ越しの物件探しと準備で大忙しだったため、国の状況などに構っていられる気分ではなかった。

 そして2022年三月二十五日、ついに私はグループホームを卒業した。引っ越しの業者さんが来るまでに聴いたのは、レイトン教授と最後の時間旅行のエンディングテーマ。別れの時間にふさわしい曲だった。

 二十代の時期は終わり、私は三十代をスタートさせることになった。

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