第9話 上手のコツ

 ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。


 手にひっつく!! こねこねと同じくらいに!!



「あー、まあ最初はな?」


『ほっほ。良い良い』



 あたしが泣きそうになると……美濃みのさんはいい子いい子って言ってなでてくれた。



「……失敗?」


『何も知らぬ者はそうなる。良いか? 打粉うちこを薄ーく手につけるのじゃ。そして、ゆっくり生地を転がしてみぃ?』


「……うん」



 手に……おじいちゃんが別のボウルに入れてくれた、粉をつけて。


 ぐしゃぐしゃになった生地をコロンと、転がしていけば。


 さっきよりは、手にくっつかなくなってきたけど……これでいいのかな?


 ツヤツヤにはなってきたけど?



「あー、桜乃さくの? そのままじゃいかん」



 ずーっと転がしていたら、おじいちゃんからストップと言われたわ。



「ダメなの?」


「しっかり、丸いパンにしたきゃ……生地を『シメる』ようにしなきゃいかん。思い出してみ? とーさんやじいちゃんが丸めた生地と自分のを」



 そう言われたから、いっしょーけんめーに思い出してみたわ。


 転がしのやり方。


 お団子のようだけど……スーパーボールのように、まんまるでキレイ。


 だけど……あたしのは。



「……ぺしゃんこ」



 全然お団子でもスーパーボールでもないや。



『シメる工程は慣れじゃな? まずは、あちきや段蔵だんぞうのやり方を見ておれ』


「おう」



 切った生地を両手に一個ずつ持って。


 コロコロしてたけど……あれ? あれ?


 同じやり方だと思っていたのに……キレイなボールになってく?


 手をはなしたら……あたしのとは全然違って、まんまるだったわ!?



「すごーい!!」


『ほっほ。慣れじゃ慣れ。これは基本じゃからのお?』


「何百回もやれば、桜乃でも出来るさ」


「……たくさん?」


『そうじゃ、たくさんじゃ』


「がんばる!!」


「桜乃、コツはな? 両手で団子を丸めるようにやってみりゃわかる」


「うん?」



 一個の生地を、お団子のようにやってみると……ちょっとつぶれるけど、だんだんとまんまるになるわ!! そこから……両手でもちょっとずつ作れるようになって。


 おじいちゃんや美濃さんにもなおしてもらいながら、てっぱんにたくさん並べて。


 また美濃さんとハイタッチして……ぷくーっと丸めた生地が大きくなったら。


 お茶を入れるときに使う、茶こしで粉を振って。


 おじいちゃんに、ピンクのオーブンに入れてもらったわ!!



「昔みてぇに、手前と奥入れ替えなくていいか?」


『うむ。問題ない』 


「なーに?」


「普通のオーブンじゃ、そのまま入れてもうまく色がつかない。だが、美濃の『ままごとキッチン』ならそれがいらん」


『あちきじゃからのお?』


「美濃さんすごい!」


『ほっほ』 



 焼けるまで、おじいちゃんがオーブンを見ててくれるから……あたしは美濃さんに教えてもらいながらお片付けをすることになったわ。


 台をキレイにしていると……いい匂いがしてきた!!

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