第7話 こねこね

 これ……使っていいの? あたしが。


 おとうさんやおかあさんには……ケガしちゃうから、いつもダメだって言われるけど。


 美濃みのさんがパン作りを教えてくれるって言ってくれたから……いいんだ!!


 すっごく、うれしい!!



『さて……まずは材料じゃな』



 美濃さんがあたしの背中を軽くぽんぽんすると……こっちにおいでと言われた。


 はしっこに……お店のちゅーぼーで見たことがある、茶色の大きな袋があった! たしか……粉が入っているんだっけ?



「……これ使うの?」


『うむ。基本的なフランス産の小麦粉じゃ。これに……今風じゃったら、全粒粉ぜんりゅうこも入れて香ばしくしようぞ? 段蔵だんぞう、ボウルを頼む』


「ミキサー使わんと、手ごねで桜乃さくのにやらせる気か?」


『最初だけじゃ』



 二人の言っていることがよくわかんないけど……がんばらなきゃいけないのはわかったわ!!


 でも、重いから力仕事はおじいちゃんの方がいいみたい。おじいちゃん、ちょっと腰が痛いみたいだけど……今は大丈夫だった。



「桜乃、こっちに来な」



 おじいちゃんがおいでおいで言ってくれたのは……あたしが立っても大丈夫なくらい、低いちょーりだい。


 おじいちゃんにはやりにくいくらい……低い。


 そこに置いてあるのは……ピンクの可愛いボウルに、粉とかがいっぱい入ってる。


 これを……おとうさんはどうしてたっけ?



「……どうするの?」


「手でこねるんだ。だろ? 美濃」


『そうじゃ。桜乃、自分が思ったように……こねてみるが良い』


「……いいの?」


『良い良い』



 うーん、ぐちゃぐちゃにしていいのかな?


 おかあさんは、宙太そらたが生まれる前も……サンドイッチとかは作ってたけど。おとうさんは……手でやってなかったような? なんか道具使っていたような?


 だけど。



「やってみる!!」



 おいしいパンが作れるかもだから!!


 やってみようと決めてから……おじいちゃんが『じゃあ』と計量カップ(これもとーめーピンクの)の中にある、牛乳を少し入れてくれた。



「急がず、ゆっくりと手で混ぜてみな?」


「うん!」



 粘土遊びとか砂遊びとかで……手がばっちくなるように。粉に手を入れたらネチョネチョしたけど……楽しい!!


 すっごく楽しい!!


 あたし……パン作っているんだって、思うんだ!!



『桜乃。次第にまとまってくるぞ? ゆっくり……ひとつのかたまりにしてみりゃれ?』


「……一個にするの?」


『そうじゃ。桜乃は飲み込みが早い。いい具合じゃ』


「うん!」



 作り方が合っていたんだ!


 ネチョネチョがなくなってきて……美濃さんがちょっとずつ小麦粉を足して、大きなものになったら。


 ボウルにもネチョネチョがなくなった! まんまるになったし……これでいいのかな?


 つぶつぶがあるけど……きれーなまんまる!!



『これで良い。さすがは、段蔵の孫じゃな?』


「……まあ、涼太りょうたの作っているとこは見てるからな?」


「……これ、次どーするの?」



 このままじゃ……焼いてもおいしくできないような?


 おとうさんは、えーっと……えーっと!!


 なんか冷蔵庫みたいなのに入れてた!!



「あー。今ならドウコン使うが」


『そこは、付喪神であるあちきの出番。そちともやった……あれをしようぞ』


「…………あれをかよ」



 おじいちゃんはいやそうな顔しちゃったけど……あたしは美濃さんにおいでと言われたから、美濃さんの前に立った。

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