小春日和の心地よさ

地獄少年

小春日和の心地よさ

「なあ、小春こはる


「何?」


「小春日和って意味、分かるか?」


「な、なななな……何言ってんの!?」


 五月、GW明け。朝晩の寒さも和らぎ、一年で一番過ごしやすい季節。


 国語の授業が終わった直後の休み時間。日和ひよりは隣の席に座る小春に何気なく質問を投げかけた。国語が苦手な小春のこと。小春日和の意味を間違えると想定しての意地悪い質問だった。二月か三月の穏やかに晴れた早春の日。そう答えるだろうと日和は予測する。




ーーえ? これって告白?


 質問を受けた小春は周囲の目も気にせず狼狽し赤面した。小春と日和。二人の名前を繋ぎ合わせた言葉の意味を深読みし、あらぬ方向へ妄想を飛躍させる。


 小春は子供の頃から日和の事が好きだった。中学三年生で同じクラスになれたことを大いに喜んだし、今は席も隣同士。これ以上の幸せは無いと、日々の学校生活を満喫している。


 それと同時に少し不安も募らせていた。今年は受験の年。日和と同じ高校に進学したいけれど、二人の学力には差がある。別々の高校に進学したら今までのように身近な存在では無くなるだろう。お互いの距離が一気に離れてしまい、日和との楽しい時間が終わりを迎てしまう。高校で日和に彼女が出来るかもしれない。そんな未来は悲し過ぎる。でも、自分から『好き』を伝える勇気もない。


 そんな思いを募らせる中、日和から告白とも受け取れる質問。小春日和。二人の距離が離れるどころか、完全に密着しているではないか。幼馴染から恋人の関係へ。今まで押さえ込んでいた日和への想いが蠢き始める。小春の胸中には春一番が吹き荒れ、春の訪れを予感させた。


「そ、それってどういう意味?」


「ん? いつ頃かってこと」


ーーいつ頃!? 返事を急かされてる?


 小春の心は容赦ない春の嵐に掻き乱される。日和から告白して欲しいとは常に妄想していた事だが、前触れ無しの告白はまさに青天の霹靂。


ーーでも、これっておかしくない?


 小春は疑問に思う。なぜ今なのかと。教室で、しかも休み時間中に告白だなんてロマンの欠片も無い。


 少しだけ冷静さを取り戻した小春は、告白されるならどんなシチュエーションが良いかと妄想を膨らませる。八月の花火大会、浴衣姿で花火に照らされながらお互いの気持ちを確かめ合うシチュに憧れる。十月の文化祭、準備作業を通して恋心が一気に花咲くこともある。でも、出来る事ならクリスマスが良い。煌めくイルミネーションに包まれながらの愛の告白は誰もが夢見るシチュエーションだ。しかし、返事を急かされている状況なのに十二月は遅すぎるかもしれない。


 もしくは……。いっその事、三月の卒業式はどうだろうか。クリスマスは最高のシチュエーションだが受験前の大切な時期でもある。進学も決まって新たな門出を祝う卒業式こそ告白に相応しい。卒業式なら小春も胸を張って返事が出来ると思えた。日和には申し訳ないがもう少しだけ返事を待って貰おうと思う。


ーー今はまだ片想いのまま、静かに日和を眺めていたい


「三月……かな」


「あぁ、やっぱりな……」


 予想通りの答えに日和は天井を仰いだ。


ーー出来る事なら小春と同じ高校に通いたい


 三年生になって日和はそう考えるようになっていた。子供の頃からずっと側にいた小春。気心知れた彼女と別々の高校へ進学することには少なからず寂しさが付き纏う。ただ、同じ高校に進学する為には小春に勉強を頑張って貰わないといけないのだが、小煩く勉強を急かしても彼女はヘソを曲げてしまうだろう。昔は素直だった小春も最近は少し反抗的だから。


 隣に座る小春からの意味深な視線に気付かぬまま、日和は天井を見上げつつ彼女の成績を上げる方法を模索した。




ーー三月まで待ってくれるの?


 日和の返事に小春は胸を弾ませた。日和への気持ちが一気に開花する。先ほど春一番が吹き荒れたばかりなのに、小春の胸中はあっという間に春爛漫。梅も桜も花水木も同時に咲き乱れ、麗らかな心地で日和の横顔を見つめるのだった。



 



✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎


「ねえ、日和」


「何?」


「日和って浮気性なの?」


「はぁ!?」


 七月、夏休み前。梅雨明け直後の蒸し風呂のような教室にて。


 小春からの唐突な質問に、日和の全身から冷たい汗が吹き出す。


ーー最近の小春は少しおかしい


 日和はモヤモヤとした日々を過ごしていた。最近の小春はどこかよそよそしいのだ。以前はもっと気楽に話が出来ていたはずなのに。日和のことを無視する日もあれば、じっとりと睨んでくる日もある。どことなく小春から拒絶されているような心地。誰か好きな男でも出来たのかと疑ってみたが、そのような素振りは見当たらないし、変な噂話も耳には届かない。小春からの質問は、日和を狼狽えさせるには十分な攻撃力だった。




 日和から告白されたと勘違いして以来、小春はやる気がみなぎっていた。日和と恋人同士になれると妄想するだけで天にも昇る心地よさ。今なら何だって出来るという自信がとめどなく溢れてくる。小春の胸中には若葉が芽吹き、木々が勢いよく葉を茂らせていくような瑞々しさに包まれていた。


ーー何を頑張ろうか


 ジッとしていられない小春はとにかく何か行動に移すことを決意する。日和が心変わりをしないように、彼の気持ちを自分に引き続ける為に、何でも良いから日和に対してをしたかったのだ。


 勉強を頑張ることを真っ先に思い付いたが、受験生が勉強を頑張るのは当たり前のこと。それでは日和に対するアピールにはならないし、例えどんなに頑張ったとしても日和の勉強量には敵わないだろう。お洒落で日和の気を引こうと考えたが、いつも顔を合わせるのは学校の教室。制服でお洒落は難しい。スカートの丈を短くしようかとも考えたが恥ずかし過ぎて出来なかった。髪型を変えてみたかったがショートカットでのヘアアレンジは難しいし、校則が厳しいのでヘアピンを着ける事すら出来ない。


 散々悩んだ末の結論がダイエットだった。痩せなければならないほど小春に余分な脂肪はないが、他に頑張る手段が思いつかなかった。そして、ダイエットについて色々と調べる中で、一つ気になる言葉が眼に飛び込んでくる。


ーー日和見菌


 便秘はダイエットの大敵だそうだ。腸内環境を整えるために大切なのが大腸菌で、大腸菌は三種類あるらしい。善玉菌と悪玉菌、そして日和見菌だ。日和見菌は腸内環境によって善玉菌にも悪玉菌にもなる日和見な菌のこと。関係無いと分かってはいるものの、小春はどうしても日和と日和見菌を重ねてしまう。その場の雰囲気に流されて態度をコロコロ変えてしまう日和見菌は人間に例えると浮気性と言える。日和は浮気性なのだろうか……。晴れ渡っていた小春の胸中にどす黒い雲が垂れ込め始める。


 彼の行動を毎日観察した。男同士で楽しそうに馬鹿騒ぎをしている姿は子供の頃から何も変わらない。でも、クラスの女の子と楽しそうに会話をしている姿はまさに浮気者のそれ。日和に群がる女子たちは小蝿の如き鬱陶しさ。日和はもちろん小春にも普通に話し掛けてくれるのだが、今まで通りに接する事が出来ない。日和のことが日和見菌にしか見えないから。



 

「小春は何も分かってないな。こう見えて俺は一途なんだ」


 日和は天井を見上げながら答える。本心を悟られない為に。


ーー小春の事が好きかもしれない


 最近の日和は、小春のことが気になって仕方がない。彼女がよそよそしい態度を取るようになってから、急激に彼女へ気持ちが傾いてしまった。小春とは物心ついた頃からの関係。子供の頃からよく遊びもしたし、何でも気軽に語り合える関係だった。しかし、ここ最近の彼女とは少しだけ心の距離を感じる。すぐ隣に座っているのに離れ離れになったような感覚。日和は不安を募らせていた。好きな男が出来たのだろうか。好きな男が浮気性なのだろうか。俺についての質問をしながら、実は好きな男のことの悩みを聞いているのだろうか。どうしてこれほどまでに小春のことが気になってしまうのか、日和は自分でもよく分からなかった。


ーー小春のことを一途に思っている


 胸を張ってそう伝える事ができれば良いのに、少しだけはぐらかす答えをしてしまう。それに、本当に小春の事が好きなのかどうか自分でも分からない。日和は天井へと視線を逸らすしかなかった。自分の気持ちを隠す為に。小春の顔を見つめながら答えたら、赤面してしまって気持ちを見透かされてしまうかもしれない。それだけはどうしても避けたかった。




ーー誰のこと?


 小春の胸は激しく痺れ、雷鳴が轟く。日和が一途に想う相手は誰なのか。誰のことが好きなのか。日和を凝視するも、彼は天井を見上げたまま目も合わせてくれない。視線のその先に誰の姿を思い描いているのか。もしも自分のことを一途に思っているのなら、ちゃんと目を見て答えてくれるはず。それが出来ないということは……。小春の胸中には梅雨前線が姿を現し、大粒の雨がぽつりぽつりと溢れ始める。咲き乱れていた花々は地面に落ち、泥にまみれた。


「もういい! 知らない!」


 日和の事が好き。その想いは本人にも伝わっていると思っていた。でも、全ては小春の勘違いだったと気付かされた。人の気も知らずに他の女の子の事を妄想している日和に腹が立つし、告白されたと舞い上がっていた自分自身にも腹が立つ。


ーーもう二度と口を聞いてやるもんか!


 もうすぐ夏休み。一学期が終われば日和と顔を合わすこともなくなる。二学期になれば席替えをするから隣の席で辛い思いをしなくて済む。頑張って日和と同じ高校を受験する必要も無くなったし、ダイエットも今日で終わりだ。これでもう、日和のことを思い詰めて苦しまなくて済む。


ーーもう知らない


 この日から小春の胸中は土砂降りが続き、鬱陶しい梅雨心地のまま夏を越すこととなった。






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「なあ、小春」


「…………」


 十一月下旬。日に日に気温が下がり、寒さが身に染み始める晩秋。


 日和は自らに掲げたミッションをクリアする為、放課後の廊下で小春を呼び止めた。小春は無言のまま日和を冷徹に睨みつける。


ーー今更、なに?


 小春の胸中は梅雨明けしないまま二学期を迎えていた。消沈した気分での修学旅行、運動会、文化祭は大型台風が立て続けに直撃した心地だった。日和と接触しないよう避難生活のようにコソコソ逃げ回る時間を過ごし、中学最後のイベントを全く楽しめないまま受験シーズンを迎える。今の小春の胸中には秋雨前線が停滞中。一雨一度ひとあめいちどの如く、日に日に日和への想いは冷め切ってゆく。今更、日和と話すことなんて何も無いのだ。




ーー何とか仲直りをしないと……


 日和が掲げたミッションは三つ。一つ目は小春と今まで通りの関係に戻ること。夏休み以降、小春は日和のことを無視し続けている。話しかけてもまともに返事すらしてくれない。


ーー女心と秋の空


 移ろいやすい秋空の如く、ある日突然小春の態度が元に戻るかもと期待したが、そう上手く事は運ばなかった。運動会でも文化祭でも仲直りをする機会が訪れる事なく受験シーズンを迎えてしまった。


 そもそも、なぜ小春が怒っているのか理由が分からない。いくら記憶を辿っても彼女を怒らせるようなことは何もしていないし、失言も無かったと言い切れる。自分のことを徹底的に無視し続ける小春を腹立たしく感じたこともあったが、今は無理をしてでも仲直りをしなければと思う。


ーー小春のことが好きだ!


 今はそう断言できる。数ヶ月間小春に拒絶され続けて初めて分かった。日和は昔から小春の事が好きだった。子供の頃からずっと側にいる存在だったから気付けなかっただけ。残念だが、二人の関係がこれだけ冷え切ってしまった以上、今更好きだと言っても手遅れかもしれない。でも、せめて仲直りだけはしたい。


 それに、今のままでは受験勉強に身が入らない。夜、机に向かうと嫌なことばかり考えてしまうのだ。小春に好きな人が出来たのだろうか、みんなには内緒で彼氏が出来たのだろうかと。勉強どころでは無い。事実がどうであれ、二学期の期末試験直前の今が仲直りをする最後のチャンス。


「週末、映画行かないか?」


「……何で?」


「だって小春の誕生日だろう」


「…………」


 日和を拒絶してしまうのは、これ以上傷つきたく無いという小春の防衛本能の現れ。心の奥底では仲直りをしたいという想いが燻っているものの、映画の誘いに対して素直に返事をする事が出来ない。


「…………」


「OKだな? 時間と待ち合わせ場所は後でメールするから」


 小春の返事を待たずに日和はそそくさと立ち去る。最近の小春は何を考えているのか分からないが、怒った時にヘソを曲げてしまう性格は昔から何も変わっていない。日和の事を嫌いになった訳じゃない事は、映画の誘いに対して即拒絶しない態度が全てを物語っていた。ゆっくり話し合いが出来ない以上、ミッションをクリアする為には小春を強引に連れ出すしかない。昔から喧嘩をした時はその方法でしか仲直り出来なかった。






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ーーこんな映画を観させて、いったい何のつもり?


 映画館のシートに深く座る小春はため息まじりに憤る。


 日和が選んだ映画は、亡くなった妻の遺骨を散骨するため、初老の男が妻の故郷である長崎へ旅立ち、道中で出会った人々との交流を描いた物語だった。


 小春はハラハラドキドキするアクション映画か、胸がキュンキュンする恋愛映画を期待していた。だが、蓋を開けてみれば救いようのないほどに暗い映画。しかも邦画である。中学生の女の子を誘って観る映画じゃない。


ーー日和の中で、私は死んだことになってるの?


 映画の冒頭で亡くなる初老のヒロインと自分とを重ね合わせる。日和は私に死ねと言っているのかと勘繰ってしまうし、逆に日和を殺してやろうかと策謀しそうにもなる。


ーー私とはサヨナラってことなのかな……


 小春の胸中に寒冷前線が姿を現し、心を凍てつかせてゆく。日和がこの映画を選んだのは、自分との決別を伝えたかったのだろうか……。時雨心地の小春は席を立って帰宅したい気持ちを何とか抑え、暗闇の中でスクリーンを凝視した。






 映画を観終えた二人は、無言のまま帰宅の途につく。


 二人だけで並んで歩くのは久し振りだ。小学生のころは同じくらいの身長だったのに、今は頭ひとつくらい日和が大きい。手袋を忘れてしまった小春の両手が寒さでかじかむ。


ーー私は……、やっぱり日和のことが好き


 小春は俯いたまま、隣を歩く日和に想いを馳せる。


 不思議な映画だった。派手なクライマックスも無いまま、始めから終わりまでしっとり静かな物語だった。還暦を過ぎた老夫婦の気持ちなんて中学生の小春には分からない。でも、好きな人を思い続ける大切さだけはひしひしと伝わった。映画を観終わって真っ先に思い浮かべたのは日和のこと。将来のことは分からないが、今は日和の側にいたい。そう思えた。凍て付いていた小春の心がゆっくりと雪解けを迎える。


「小春、高校はどこを受験するの?」


「…………」


 静寂を掻き消す日和の言葉が小春の胸に刺さる。何処と言われても答えられない。目標を失っていた小春は勉強も真面目に取り組んでいなかったし、志望校もまだ決まっていない。それに、志望校を答えたところで、日和と同じ高校には進学出来ないだろう。答えたくても答えられない。


 小春が俯いたまま黙っていると、日和は立ち止まり小春を覗き込む。


「小春と同じ高校に行きたい。高校だけじゃなくて、大学も小春と同じ大学に進学したい。今はそう思ってる」


 小春は弾かれたように日和を見上げた。思えば日和と目を合わせるのも久し振りだ。日和の真剣な眼差しはとても頼もしく、小春の胸を熱くさせる。彼の言葉を信じていいのか……。


「それって……、どういう意味?」


「皆まで言わすな」


 日和は思わず『好き』と言ってしまいそうだったが、その言葉をグッと飲み込む。今日の目的は小春と仲直りをすること。今はそれ以上の事を求めてはいけない。


「俺が受験する高校のランクは下げないからな。小春がランクを上げるんだぞ。……出来るか?」


「うん!」


 小気味よい返事と共に小春の胸中は一気に晴れ渡り、久し振りに太陽が姿を現した。何ヶ月も滞っていた暗雲は姿を消し去り、清々しい心地に満たされていく。


 日和はポケットに入れている小春の手を摘み出して手を繋ごうとする。昔から喧嘩をした時は、手を繋ぐことが仲直りの合図となっていた。


「い、嫌っ!」


 小春は咄嗟に腕を引いた。小春の思わぬ行動に日和は慌ててしまう。


「て……、手袋取って! 手袋したままじゃ嫌!」


 言い終わらぬうちに日和の手袋を外して大きな手を握りしめる。恥ずかしくて彼の顔を見ることは出来ないが、心地よい温もりが絡め合わせた指から伝わり小春の心に沁みいる。


 やる気になれなかった受験勉強もこれで頑張れる。日和と同じ高校に進学して三年間を共に過ごせると思えば、嫌いな勉強も全然苦にならない。小春の脳裏に桜舞い散る穏やかな春の風景が浮かぶ。合格発表に卒業式、来年の三月が今から待ち遠しい。


 ずっと冷え切っていた小春の心は陽の光に照らされて、身心共にぽかぽかとした陽気に包まれていく。寒さ対策で着込んでいた極暖のヒートテックが小春の体温を更に上昇させ、熱った体を冷ますためにコートもマフラーも脱ぎ捨てたくなる。


「ねえ、日和」


「なんだよ」


「今日は小春日和だね!」


「はぁ!? 何言ってんだよお前は……」


 小春は熱を帯びた小さな手で、日和の手を強く握り締める。柔らかな感触が何とも心地よい。


 小春の胸中には早くも桜前線が現れ、ゆっくりと北上を開始した。




ーーはぁ……


 日和は真っ白な息と共に夜空を見上げる。昔から小春はどこかズレている。今日はこの冬一番の冷え込み。十一月下旬だというのに真冬並みの気温。小春は小春日和の意味をいまだに理解していなかった。ググればすぐに分かることなのに。受験まであと少しだが、今のままでは同じ高校への進学は難しいと言わざるを得ない。


 とにかく小春と仲直りは出来た。一つ目のミッションはクリアした。二つ目のミッションは二人揃って同じ高校に合格する事。返事だけは一人前の小春だが、これから現実を目の当たりにすることになるだろう。クリスマスも正月も返上して冬休みは付きっきりで勉強を見てやらないといけない。毎日会えることを嬉しいと思いつつ、また喧嘩もしてしまうだろうなと予想する。二人の未来が掛かっているのだ。今さら喧嘩の一つや二つは恐るるに足りない。




 来年の三月。合格発表の日、お互いの合格を確認し合ったその場で小春に告白をし、恋人同士で卒業式を迎えることが三つ目のミッション。


 言うは易し。残り二つのミッションは大きな壁を乗り越えなければクリア出来ない。それでも、今はどんな壁でも乗り越えられると思える。


 高校受験まで後わずか。気合を入れた日和は、呑気に微笑んでいる小春の小さな手をギュッと握りしめた。









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