一、『出会ったのは、自称吸血鬼』その4

 まったく、近頃の若者と来たら。


 リビングの中央、小田沢おだざわ 英明ひであきは嘆息した。それから髪の代わりに入れ墨がびっしりと入れられた頭頂部を三回掻き、両手で包丁を握っている少年の肩を掴んで力を込める。


「そんなんじゃ、いつまで経っても終わんねぇだろ」

 退いてろ、小田沢は太い腕で少年を下がらせた。


 左手には薪割り用の斧。それを二度三度掌に馴染ませるように弄ぶと、初老の男の右足を目掛けて振り下ろす。

 ふくらはぎが切断され、飛び散る鮮血。少年の肩がびくりと震える。切断された男は声にならぬ叫び声を上げ、子供のように泣きじゃくった。


強盗に押しタタキる時は包丁ヤッパで脅すんじゃねぇ、斧で足を手切たぎれ。そうすりゃ逃げらんなくなるし、わざわざ拷問して金庫の番号を聞き出す手間が省ける」

「喋らなかったら・・・・・・どうするんで?」

「あん?」

 紫色に変色した唇で問う少年に対し、小田沢は眉をひそめた。


「その為に、足ってのは二本付いてるんじゃねぇのかい?」

「さ・・・・・・流石ッす、小田沢さんは」

「常識だろ、こんなん。まったく近頃の若者は、強盗のやり方すら満足に教えて貰ってねぇのか。学校で一体何を教えて貰っているんだ」

 ぼやき、小田沢は初老の男を睥睨する。


「という訳で、さっさと金出せよ。理不尽だとか思うなよ? 元はといえば、お前の作った馬鹿息子が調子に乗ったのが原因だ。恨むなら、お前の遺伝子を恨め」

「息子は・・・・・・晴人はるとはどうなってる!?」

「こうなってます」

 少年はバッグから四角い樹脂を取り出した。

 透明な樹脂ケースの中、角膜が切除された眼球が二つ封入されている。


「晴人!?」

「他にも指、歯、耳、色々用意しています。あ、脳は大き過ぎたので、ケースに合わせて一部をスライスしてあります。どれが見たいですか?」

「悪魔共が・・・・・・!」

「コイツは領収書代わりだ。葬式が出来なければ、区切る事も出来んだろう。感謝しろよ。喧嘩を売ってきた相手にここまでサービスするなんて、普通はやんねぇからよ」

 バッグの中身を雑に振り落とし、小田沢は眼を細めた。

 じゃらじゃらと、晴人少年の一部が封入された樹脂ケースが滑るように父親の血溜まりへ這入る。


「こんなもの・・・・・・何の証拠に――」

「心配するな。ケースを然るべき所へ持って行けば、DNAからお前の馬鹿息子だと判別出来る。それでも納得いかねぇというなら、小便と大便を垂れ流しながら解体されているビデオも付けておいた。満足だろう?」

「あ、安心して下さい。息子さんの残った臓器はきちんとパッケージング化されて、必要な人へ届ける手筈になってますから。うちのレジメントは大佐COLがしっかりしているので、他と違って遺体を野ざらしになんてしません」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 男は何も答えず、腹に力を込めた。そうして、脱力感と無力感が入り交じり、どうにかなりそうになる自分を何とか繋ぎ止める。


 どうして、このような事態になった。


 確かに、若干甘やかして育ててしまった自覚はある。甘やかして大切に育てたのに、何故だか息子はグレてしまった。

 高校に入ってからは、悪い連中と付き合い始めた。暴行に恐喝、大麻にシンナー、警察や議員の世話になった事も一度や二度ではない。


 だが、そんな事はよくある話だ。自分もそうだった。いつかは飽きて、真っ当な道に進んでいく。十年後に居酒屋で「昔はワルだった」と嘯くようなだ。


 しかし、と男は強盗犯二人を見上げた。

 眼前で繰り広げられている、この異常な光景は何だ。一体何処の世界に、喧嘩の報復で切り刻んだ屍体を持ってきて、その親から金品を要求する不良グループが居る。


 一線を越えた、などという表現では生温い。

 明らかに連中は〝ワル〟や〝不良〟といったカテゴリーから逸脱している。

 もっと異質の、何か、別の存在――


「・・・・・・じゃあ、そろそろ慰謝料を貰おうか。晴人が自慢していたぜ。金庫の中には、現金キャッシュだけじゃなく延べ棒インゴットもあるってな」

「っ――――――」


 男は痛みと出血で青ざめた顔をしかめ、二人の悪魔へ精一杯侮蔑の表情を穿つ。しかし少年の方はともかく、小田沢は眉一つ動かさなかった。


「仕方ねえな、面倒だがもう一本いくか」

 振り下ろした、斧。


「!?」


 それが、鉄塊によって阻まれる。


 奇妙な鉄塊である。

 見た目は、コンパス。しかしそのように巨大なコンパスは学校以外に存在せず、また太い針が左右に付いている事もない。


「誰だ・・・・・・テメェは?」

 鉄塊の主へ向け、小田沢は低い声で問う。


 少女であった。純白の長髪が、ふわりと舞う。

 可憐な少女であるが、小田沢 英明は警戒を解かない。舞った髪の香に、命が混じった血の臭いを感じたからである。


「そうか・・・・・・テメェが、永久騎関システムズ〉の白――」

「へぇ、嬉しいじゃん」


 少女の碧眼が、幽玄に燃える。


「オレの事を呼ぶって事は、アンタも〝こっち〟側の人間って事だろう?」

 というか、と斧を振り払う。斧は宙を舞い、コンベックス・グラインドの刃が深々と壁に突き刺さった。


「お前、魔法使いだろ。それも界間旅行者わたるものだ」

「ご明察だよ、小娘クソガキッ!!」


 男が手を翳すや、バッグから飛び出したのは週刊誌。安価で入手しやすく、読み終えたら電車の網棚へ放り込まれる代物である。しかし男の手中で独りでに次々と頁が開いて捲れるそれには、ただならぬ〝力〟を感じた。


「その漫画雑誌・・・・・・魔導書グリモワールか、かぶいてやがる」

旅人トラベラーの知恵でな、貴重品は偽装しているんだよ」


 頁に手を翳すや、魔法円が二つ虚空に光を帯びて浮かび上がる。魔法円の中から鋭い牙が生え揃った多頭の猟犬が二頭、吸血鬼の首元へ喰らい付こうと粘液に塗れた顎を開いた。


「吸血鬼に牙を立てるとは、随分とふてヤロウだ」

 嘯き、天華は鉄塊――〈弱肉強食エクスカニバル〉を振り回し猟犬の頭蓋を砕く。過程、蛍光灯が叩き落とされ天井に大穴が開いた。


「前線で召喚魔法とか、やっぱアンタかなりの数寄者すきものだな」

「戦うのが面倒くせぇだけだ」

 ほらよ、と魔法円が描かれる。翼を生やした蛇が顕現し、散らばった樹脂ケースと共にリビングの調度品を破壊しながら悠然と飛行した。


 魔法は、大きく分けて二つに体現される。

 一つは対象に働きかける魔法、もう一つは対象を呼び寄せる魔法。召喚魔法は呼び寄せる魔法である。生物から物体まで、時間や摂理、世界の次元を捻じ曲げ、指定した存在を呼び寄せ召喚者の配下として隷属させる魔法。小石や水、炎など意思を持たぬ存在を呼び寄せるのならばともかく、生物――――それも魔物の類を配下として呼び寄せ隷属させるには、綿密な準備と大がかりな儀式が必要となる。


 それをこの男、小田沢 英明はいとも容易く行った。手にした魔導書グリモワールにより儀式の幾つかの工程を省けたとはいえ、戦闘中に行使するのは決して容易な事ではない。


 白の〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟は、ほくそむ。

 ふざけた外見だが、強い。お子様グループレジメントには過ぎた用心棒だ。


「お前、さあ――――」

 二足歩行するムカデを踏み潰し、天華は小田沢へ問う。


「ひょっとして、で近付いたんじゃねぇか? ホーネットワムズに」

「テメェの目的なんか知るかよ」

「麦わら帽子の魔法使いをブッ殺す事だ」

「赤の〝二律背反フールプール〟を? お前ら同じ〈永久騎関システムズ〉だろう」


 いや――――と小田沢は頭を振った。


「・・・・・・そうだったな、〈永久騎関システムズ〉は変人の寄り合いだ。俺みたいに一介の雑魚には分からない〝何か〟があるんだろうな」


 自己完結し、小田沢はそれ以上何も聞き返さなかった。

 その深淵まで、自分はまだ、踏み入れたくはない。


「俺の目的は、〈三角定規〉の持つ魔法だ。奴の本棚から一つ、貰える手筈になっていてな。俺はそれを報酬にアイツに雇われている」

「良いのかよ、魔法使いが秘密をべらべらと」

「その程度で破られるベールではねぇよ」


 肩を竦め、雑誌を捲るような気怠けだるさで魔導書グリモワールを捲る。

 既に三分の一、頁は灰燼に帰した。流石は白の〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟、暴虐の白、噂に違わぬ出鱈目さだ。


 正直、分が悪い。

 一般家庭の数倍はある豪邸のリビングとはいえ、所詮は室内。目と鼻の先に敵が居て、遮蔽物など無いに等しい。そのような状況下、勝敗を左右するのは単純な暴力。小田沢 英明が得意とする魔物を召喚し布陣する戦法は、一切役に立たない。


 しかしそれは、と小田沢はほくそ笑む。

 一対一、タイマンで戦った場合である。魔法使いではあるが、小田沢に〈魔法決闘メンズーア〉の概念はない。あんななど、象牙の塔で学生同士勝手にやっていればよい。


「・・・・・・槻岡つきおか、兵隊と銃を集めろ。吸血鬼狩りだ」

 小田沢は少年――槻岡へ視線を向ける。


 が。


 槻岡は既に事切れ、胴体だけになった身体をテーブルの上に曝していた。


「この程度で。使えねえな、定命は」

 捨て置き、吐き捨てる。


 増援は望めない。魔導書グリモワールとスマートフォン、二つ同時に操作するには腕が二本足りない。やはり時代セカイに合わせ、FOMAにするべきだったか。〈入口出口スプーフィング〉ならば腕を増やす事が出来るだろうが、自分はそこまで人間を捨てる事が出来ない。


 無様だ。

 世界から外れ人の道を外れ、自分に残った最後の矜持が、こうも自分を窮地に立たせているのだから。


「どうした、もう終いか?」

 優位性を含んだ笑みを浮かべ、天華は小田沢に問う。


「さっさと〈三角定規〉の居場所を話せよ」

「悪いな、俺も居場所は知らない。そもそも、ホーネットワムズ内でアイツの居場所を知っている奴なんて極一部しか居ねぇんじゃねえの?」

「なら、その極一部にくかいになるまでブッ殺すまでだ」

「悪いな・・・・・・も」

 小田沢は嗤う。


「これでも居心地が良いレジメントでな、これ以上テメェに暴れられる訳にはいかねぇのよ」


 頁が力を迸らせる。

 現れた魔法円は最大級。幾重もの円が歯車のように噛み合い廻り、異界と繋がれた門を重々しく開く。


 現れたのは、巨大な獅子。蟻の胴体を持ったそれは、魔法円より這い出て威嚇の咆哮を上げた。


が俺の切り札だ」

「オレはフローベールよりゲーテが好きだな」

 天華は踏み込み、手折れる程に細い腕で〈弱肉強食エクスカニバル〉を振り下ろす。


 しかし。


「!?」


 昆虫の胴体は鋼のように硬く、あれほど暴力の限りを尽くした鉄塊を物ともせず弾き返した。


「言ったろ、だって」

 小田沢は得意げに語る。


「単に堅い訳じゃあねぇんだ。そいつの身体の半分は、シバルバの奥底に沈んでいる。どれだけ出鱈目な得物だろうとも、物理的な破壊は不可能だ」


 矛盾の獅子は、蟻じみた鉤爪を天華へ向けて穿った。

 須臾しゅゆ。天華は回避する事に成功するが、家の柱は鉤爪によって容易く引き裂かれ、衝撃と合わさり建物全体がぐらりと揺れる。


 代償は大きかったが、それに見合う戦果だ――――魔法使いは胸中で嗤う。彼の左目は抉られ血が涙のように滴り、彼の太い左腕はサメに襲われたように肩から喰い千切られていた。

 此所で仕留めねば、この少女は確実にホーネットワムズを壊滅させる。まるで赤子の手を捻るように容易く、赤子のような無辜むこを孕んで容赦なく。


「・・・・・・腕はくれてやった、眼も喰わせてやった。さあ暴れろ、自家撞着じかどうちゃくの獣。生まれを呪うその怨嗟えんさ慟哭どうこく、眼前の吸血鬼にぶつけてやれ――――」


 小田沢 英明の腕から赤い雫が滴る刹那、獣は牙を打ち鳴らして天華へ躍りかかった。

 絶体絶命。しかし天華は、あくまでも余裕の表情を崩さない。


「そうか・・・・・・不死、だったな。〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟は」

 思い出し、小田沢は奥歯を軋ませる。


 悪名高き〈永久騎関システムズ〉の一柱、白の〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟は不死である。陽光を浴びようとも、杭で心臓を貫かれようとも、銀の弾丸で穿たれようとも、決して死ぬ事はない。摂理さえも捻じ曲げる絶対的な不死こそ、この怪物のであり、彼女が振るう出鱈目な暴力など所詮はに過ぎない。


 だが。


 小田沢が攻撃の手を緩める事はない。

 多少面倒になったが、当初の予定から大きく逸脱する事はない。獣で〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟の四肢の自由を奪い、そのまま喰わせる。寓話では相反する草食と肉食の狭間で揺らぎ餓死する定であるが、この獣は飢えを満たすべく暴食の限りを尽くす。そもそも、蟻の食性は多くが肉食である。

 獣の臓腑は肉体と同じく、その大部分をシバルバの深淵に沈めている。どれだけ奴が不死であろうとも、虚数が堆積した未生無みしょうむの海から抜け出す事など不可能だ。


 要は、単純な話。

 死ぬ事がないなら、封じてしまえば良い。

 を行う為の獣であり、代償である。


「腹の中で永久に再生と消化を繰り返しやがれ、不死の吸血鬼ッ!!」

「――オレを喰う?」

 矛盾の獅子を前に、白の矛盾は嗤った。


「面白い事を言うな、お前」


 手にした〈弱肉強食エクスカニバル〉を中段に構える。

 ディバイダーが中央でガバリと扇状に展開し、その二つの先端が直角に折れ曲がる。二本の針が床に深々と穿たれ、本体が完全に固定された。


「・・・・・・この〈弱肉強食エクスカニバル〉はブン殴る為の得物モノではなく、本来こうして使う携行型巨弩バリスタでな。もっとも、このサイズで〝携行型〟ってのはどうかと思うが」


 〈弱肉強食エクスカニバル〉の中央、虚空から杭が顕現する。白亜の杭には所狭しとルーンが刻まれており、迸る力が雷光と化して爆ぜていた。


「喰えるモノなら喰ってみろよ、臓物どでっぱらに大穴開けて喰えるモノならなァ――――――――ッ!!」


 射出。

 小田沢は嘲笑した。

 幾ら貫通力の高い巨弩バリスタだろうとも、獣の胴体を貫く事はない。あの杭から魔法の気配を感じるが、どれだけ事象に作用しようとも摂理を捻じ曲げる程の力はない。


 筈、であった。


「!?」


 貫かれた。胴体を容易く射貫き、壁を破壊し何処いずこへ消えた。


 魔法使いは、不明瞭という表情を浮かべる。

 しかし、吸血鬼は当然という表情で嗤った。


「コイツは妖怪や怪物といった常識の外で暮らす連中を殲滅する為に作られた兵器でな、にこそブッ刺さるように作られているんだ」

 文字通りな、天華は獣を睥睨する。


 獅子は胴体を貫かれ横たわり、胴体から溢れ出した虚数に沈み始めていた。


「お前、〈三角定規〉から一体何の魔法を貰うつもりだったんだ?」

「言うと思うか?」

「だろうな」


 引き金トリガーを引く。

 消えた筈の杭が再び、〈弱肉強食エクスカニバル〉から放たれた。


 小田沢 英明は読み間違えていた。

 〈弱肉強食エクスカニバル〉から放たれた杭、それは魔法を付与した杭ではなく、杭の形を成した魔法である。


 確かに製作当初は、魔法を付与した杭であった。しかし一千を超える時間を吸血鬼と過ごし幾万の世界を渡った結果、杭は物質界の楔から解き放たれ魔法と化した。故に杭がどの世界に迷い込もうとも〈弱肉強食エクスカニバル〉の元へと戻り、一度ひとたび白の〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟が引き金トリガーを引けば、狙った獲物が世界の何処に居ようとも確実に穿つ。


「は――――――――――」


 丁度、こんな具合に。


 小田沢 英明の肉体が、弾け飛んだ。彼の身体を構成する肉も、内臓も、骨も、杭の前では豆腐程の強度もない。


 最期、頭部だけになった彼は何かを呟いた。

 白の〝純白の深紅パラドックス・カーマイン〟へ向けて。

 だが当の本人には、聞こえなかった。


「――あ、終わったのか」


 転がった頭部の行き着く先、少年が這入ってきた。


「何でパイルバンカーなんだよ、ディバイダーなんだからハモニカ砲にしろよ」

 癖の強い黒髪に、ひょろりとした痩躯。手にした鉄パイプで数度小田沢の頭部を突き、それから天華の方を見る。


「分かったのか、〈三角定規〉の居場所」

「んにゃ。振り出しだ」

「そうか、残念だったな」

 少年は鉄パイプを差し出す。


「何だよ?」

「いや、返す。僕にはもう必要ない」

「あるだろ、これからも。何せ、手掛かりはホーネットワムズというレジメントだけ。だったらもう、〈三角定規〉に辿り着くまでブチ殺すしかねぇだろう。配下が根絶やしになれば、奴だっていつまでも暢気に隠れては居られねぇって訳だ」

「僕関係ないよね?」

「これからも宜しく頼むぜ、

「は?」

 少年は顔を引き攣らせる。


 吸血鬼と少年。

 夜と昼。

 本来であれば、決して出会う事のなかった二人。


「というかコレ、どういう状況なの?」

「正義の味方ごっこ。この家に押し入った強盗を、この通り鏖殺してやった訳よ」

「なら早く逃げよう。君は正義の味方のつもりかもしれないが、この惨状を見たら、どんな聖人だって御礼を言うフリして110を押す」

「ああ、その心配はない」


 暴虐の白は、〈弱肉強食エクスカニバル〉を元の形状に戻し肩に担ぐ。


「あの辺の肉が、だから」

「ああ・・・・・・ご愁傷様」


 出会わなければ、少年は知らなかった。


 〝罪〟の痛みも。

 〝罰〟の甘さも。


 何一つ知る事なく、少年は大人になる事が出来たのだ。

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