第5話 その5
午前六時三十分、わたしは朝露に濡れた公園の茂みに身を隠し、すぐ傍の遊歩道を息を殺して見つめた。
動きやすい黒のトレーニングウェアにスニーカー姿のわたしは、待ち伏せとしか言いようのないスタイルで「その時」を待った。
やがてひんやりした朝もやの中を小さな人影が足早にやって来るのが聞こえ、わたしは近くにいるであろう「もう一人」の気配に神経を集中させた。
――来たな。
遊歩道をどこか心細げな顔でやってきたのは、ジャージにパーカー姿の歩鷹だった。
歩鷹はわたしのいる茂みの近くで足を止めると、訝しむような顔であたりを見回した。
「へんだな」
歩鷹が首を傾げて再び歩きだそうとした、その時だった。
「――あっ」
私のいる場所とは別の草むらからひとつの影が現れ、歩鷹の行く手を塞いだ。
「おはよう、歩鷹君」
灰色のトレーニングウェアに身を包んだ華奢な人物は、両手に皮手袋をはめた美生だった。
「先生、内緒の用ってなに?」
「……さあ、なにかな。私にもよくわかんない」
美生は説明になっていない言葉を口にすると、屈みこんでいきなり歩鷹の首を締め始めた。
「く……苦しい」
「ごめんね歩鷹君」
「先生、どうして……」
「私も知りたいの。自分がなぜ、こうしてしまうのか」
今だ。わたしは茂みを抜け出すと、歩鷹の首を絞めることに集中して注意がおろそかになっている美生の背後に忍び寄った。
「苦しい、はなして……」
「それはできないの。『もうきんの目』じゃなくてごめんね」
歩鷹の呻き声がか細くなり両手が下がった瞬間、わたしはベルトのホルダーから抜いたナイフを、無防備な美生の首筋に突き立てた。
「――がっ」
――やった、うまくいった。
わたしは会心の笑みを浮かべると、膝から地面に崩れ落ちる美生を無感動に見つめた。
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