第4話 その4
「またか。嫌な事件だな。この辺も随分と物騒になったものだ」
弘宣を散歩に連れだすべくわたしが杖などのチェックをしていると、ふいに不快そうなしわがれ声が耳に飛び込んできた。
「どうかしたんですか」
わたしがリビングに戻ると弘宣が「あれを見たまえ」とニュース映像を映しているテレビを目で示した。
「えっ? ……まさか、あの子」
テレビの画面上に映し出されたテロップを見て、わたしは愕然とした。〈小学生 またしても通り魔被害に〉という見出しのニュースに被害者として報道されていたのは
「どうしてあの子が……」
わたしの脳裏に一瞬、浮かんだのは『もうきんの目』をしたあの人物だった。
――でも……なにかすっきりしない。
私はテレビの中からこちらに迫ってくるような不吉な気配を振り払うと、「お散歩の準備ができましたよ。テレビ、消しましょう」と言った。
※
「ふう、足がだるい。そこのベンチで休んでいっていいかな」
近所の商店街で買い物を終えた後、雨上がりの道を歩いていた弘宣はしんどそうな息を漏らすと児童公園のベンチを指さした。
「お家まであと少しなんですけど……じゃあ、ちょっと休みましょうか」
わたしは弘宣と共にベンチに腰を据えると、遊具や樹木を眺めながら足を休めた。
「あ、蝶」
わたしが膝に止まった一匹の蝶に目を遣ると、ふいに弘宣が「不用心な蝶だ」と言った。
「不用心?」
「あそこを見たまえ。大きな蜘蛛の巣があるだろう。蝶にあれが見えたらこのあたりは飛ばないはずだ」
弘宣の視線を辿ったわたしは、近くの枝に張られた大きな蜘蛛の巣に気づいて(たしかに不用心かもしれない)と思った。
「……あんた、蜘蛛みたいだな」
「えっ?」
突然、思いもよらないことを口走った弘宣に私は思わず「どういう意味です?」と尋ねた。
「いや、何となくそんな気がしただけだ。意味はない」
「そうですか……」
わたしはもやもやした気分を抱きつつ、蝶が飛び立ったのを機にベンチから腰を上げた。
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