第3話 その3


 美生が再び足を止めたのは、ジョギングコースの終点を兼ねたミニ公園の手前だった。


「歩鷹君!」


 美生がそう呼びかけたのは、公園でゴムボールを投げ合っている少年の片割れだった。


「あ、先生」


 「駄目じゃない、こんなところで道草しちゃ。四時からお勉強でしょ。わたしが一昨日出した宿題はやったの?」


「……ごめんなさい」


 穂鷹はしおらしく頭を下げると「芳樹よしき、カテイキョーシの先生が来ちゃったから、今日はここまで。また明日な」と一緒に遊んでいたおとなしそうな男の子に向かって叫んだ。


「可愛い子ね。お友達?」


 美生が尋ねると、穂鷹は「うん。あんまり友達がいない子でキャッチボールもしたことがないっていうから、遊んであげてたんだ」と答えた。


「遊んであげるのはいいけど、お休みの日かお勉強のない日にしてね」


「はい、わかりました」


 歩鷹は素直にうなずくと、ボールを手にしたままわたしたちと一緒に歩き始めた。


 歩鷹も交え川べりの道を歩き始めてほどなく、美生が「あ」と言って足を止めた。


「どうしたの?」


「川のあっち側に、誰かいる」


「えっ、どういうこと?」


 美生の視線を追って対岸の土手を見た私は、黒っぽい人影を見た瞬間どきりとした。


「あれ、いま噂になってる『もうきんの目』じゃないかな」


 歩鷹が押し殺した声で言うと、美生が「あんまり見ないで。行こう」とたしなめた。


 わたしは男の目が背中に貼り付いてくるような気味の悪さを感じながら、いつもはすぐ別れるところをしばらく二人に付き添って歩き続けた。

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