15.更新される活動報告


 コンビニに入ってカゴを引っ掴み、適当な菓子とジュースを放り込む。


(そういえば……今日、彩姉はどうするつもりだ?)


 秋山が帰ってしまったので、彩姉が急いで帰宅する必要は無くなった。まさか今日も俺の家に泊まるとか? 今日の分の着替えは、昨日、彩姉が着ていた衣服を洗濯してあるので問題は無い。明日分は再度調達するか、今日着ているものを洗濯して袖を通すかだが──。


(彩姉の下着を俺のものと一緒に洗濯機で回す。ふむ)


 連日となると、少々精神的に毒が強い。彩姉も嫌に決まっている。

 もし家に帰るのなら、遅くならない時間が望ましい。


(だがな……家にいつ帰るのかなんてどう切り出せばいい)


 正直言いづらい。邪魔だから帰れと受け取られてしまいそうだ。いや、今の彩姉ならそうなる。

 菓子などで一杯になったカゴを手に提げてレジに並ぶ。混んでいるようで、ちょっとした列ができていた。さすが駅前と思いつつ、スマホを引っ張り出してアプリを立ち上げる。


「…………」


 いつものweb投稿サイトにアクセス。マイページを開き、登録しているweb小説作家達の活動報告の一覧を確認する。


(……更新されている)


 無論、YANEAさんの活動報告だ。件名は、『都合のいいワガママだと承知しています』。

 自然と唾が口の中に広がった。俺と秋山の話を受けて書かれた活動報告であるのは容易に想像がついたからだ。


(そういえば、昨日の夜の活動報告……)


 活動報告には読者からのコメント機能がついている。YANEAさんは滅多に活動報告を書く作者ではなかったので、その内容も相俟って、どんな反応が来ているか心配に駆られた。

 新規の活動報告を読む前に、昨晩の報告の反応を確認する。


(……これは……)


 思った以上に沢山のコメントがついていた。内容はほとんどがYANEAさんの身を案ずる暖かいものである。


(心配しすぎたか?)


 安堵を味わいながら、更新されている新たな活動報告『都合のいいワガママだと承知しています』をタップする。

 微かな緊張で背中が硬くなってゆくのを感じながら、スマホのディスプレイに眼を走らせた。


『昨晩の活動報告に対して沢山のコメントをいただきまして、ありがとうございました。妄想が爆発しているだけの小説を、こんなに沢山の人達が今も待っていてくれていた事に嬉しさと戸惑いを覚えています。書き続けられる自信が無いと、みなさんの期待を裏切るような事を言っているのに……』


 もちろん、コメントをくれた人の中には、少々辛辣な内容のものもある。

 でも、読者の大半が、YANEAさんの──彩姉の身と心を憂慮してくれていた。

 これは、それだけ『年下スウェット』が愛されている証左に他ならない。

 何故か、自分の事のように嬉しかった。


『『年下スウェット』を削除するのはやめます。でも、続きを書けるかどうかは、やはりまだ分かりません。このまま何も更新せずに終わるかもしれませんし、リハビリの為に何か短編を書くかもしれませんし、何食わぬ顔で連載を再開するかもしれません。それでもよろしければ、『年下スウェット』をお気に入りに登録したままでいてください。長文乱文、失礼しました』


 読み終わった後、スマホが震えた。ライン通知だ。

 メッセージを送ってきたのは、もちろん──。


『彩音さん! あーYANEAさんか! 活動報告更新してるよ!』


 秋山だった。すかさず返信を書く。


『俺も今見ていた。どうやらそのようだ』

『ちょっとだけど、上向きになってくれたって事かな?』

『そう願いたい。昨日の活動報告のコメントも暖かなものばかりだった。『年下スウェット』が幅広く愛される名作だと証明されて、俺は胸が熱い』

『えーなにそれ高浪オジサン臭い。とにかく期待した方向に動いてよかったぁ~』

『ありがとう。だが油断はできない。また何かあったら連絡する』


 ただの傲慢なお節介かと思ったが、どうやら何とか的を射た対応ができたようだ。

 よし。何としても自信を取り戻してもらって、またあの明るかった彩姉に──!


「お客さま~。次、どうぞ~」


 店員さんに呼ばれていた事に気付いて、そそくさとレジに駆け寄った。


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