第18話 じゃんけん魔法陣

 ある保育園で,おかしな事件が発生した。園児が,保育士の見ている前に,忽然と消えるという事件だ。しかも同じ組で,それが翌日も起こってしまった。


 消失した園児の両親は保育園に文句は言うは,保育園は,臨時休園になるは,他の保護者は園児を預けれないので仕事に影響はでるわで,てんやわんやになった。マスコミは,これ幸いにどんどんと報道するし,警察は何をしている,とばっちりをくらう始末だ。


 この事件の担当者は,地元警察だが,お手上げ状態で,やむなく,警視庁本庁に協力をお願いした。


 その日は,まな美に精力・寿命エネルギーを奪われて,自宅勤務をしている多留真に代わり,まな美が,警視庁本部に出勤していた。


 今では,多留真でなくても,まな美が仕事をしてくれれば,警視庁は,正常に機能するんじゃない?という空気にまでなりつつある。それに,セクハラ,パワハラはないから,余計に都合がいい。でも,まな美が動くと,その片方で10kg,両方で20kgにもなる胸の揺れが,ほかの男性職員をして,仕事のやる気を大幅に失わせてしまうので,善し悪しといった感じだ。


 特捜課部長が,まな美のとことに来た。


 部長「まな美,仕事の依頼だ。多留真に代わって,お前が代行しなさい」

 まな美「えー? でも,,,わたしだと,組織動かせないし,,,」

 部長「多留真の名前を出せ。事後承認でいい。多留真も了解済みだ」

 まな美「楽な仕事でしたら,いくらでもしますけど,ややこやしいのはイヤですよ」

 部長「簡単な仕事だ。例の保育園児消失事件の陣頭指揮を取ればいいだけだ」

 まな美「・・・」


 超,迷宮入りの案件だ。誰もしたがらない仕事だ。たらい回しにされて,まな美に来たという感じだ。


 まな美「この案件,林サミコ最高顧問を動かしていいですか?」

 部長「動かせるものなら,とっくにしている。α隊隊長が動かせないから,ここにお鉢が回った。まな美なら動かせるだろう」

 まな美「・・・」


 まな美は,部長を睨んだ。


 まな美「どうして,そんな仕事,引き受けたんですか?」

 部長「俺が引き受けたんじゃない。多留真がまな美にやらせろと言ってきた」


 まな美「多留真課長は,α隊隊長に何か弱みでも握られているんじゃないですか?」

 部長「そんなつまらん詮索はいい。じゃあ,お願いしたからな」


 部長は,さっさと,お茶しに,事務室から出ていった。今日の部長の仕事はこれで終了だ。


 まな美は,部長が去っていく姿を横目で追いながら,溜息をついた。


 まな美も,コーヒーを一杯飲んでから,林サミコ最高顧問のいるスィートルームに来た。林サミコは,上半身裸になって,コブラと保護色のカメレオンに母乳を与えていた。


 まな美は,保護色のカメレオンを識別できるようになっていた。


 まな美「カメレオンもいたのね。いったい,何匹ペットを飼っているの?」

 林サミコ「何匹って言ったら,気分悪いわよ。二人とも魔獣族の赤ちゃんよ。もっとも,コブラちゃんは,魔体だけどね。フフフ」

 

 まな美は,そんなことはどうでもいい。すぐに本題を切り出した。


 まな美「例の保育園児消失事件,どうして捜査に協力してあげないの?」

 林サミコ「わたし,デザートを食べにここに来ているのよ。そんな警察の仕事,するためじゃないわ」

 

 まな美は,警視庁長官直属の最高顧問とも思えない林サミコの言葉に閉口した。でも,これでは,どうしようもない。


 まな美「じゃあ,どうすれば,動いてくれる?」

 林サミコ「わたしの動く範囲は,ここから,半径10メートルまで。以上」

 まな美「・・・」


 林サミコは,このまま,わがままになって,最高顧問を首になってもいいと思っている。どうせ,銀次に会えないし,どこにいるのかもわからない。自分に命令を与えるザビルは,母乳は吸うものの,ほぼ寝ている状況だ。


 ええい,わがまましほだいで,デザート食べつくしてやるーー!! というのが,林サミコの発想だ。


 林サミコの体重は日々,どんどん増えていった。胸にも脂肪がついてしまい,彼女の胸は,まな美にもひけをとらないほどになっていた。


 まな美「サミコ,あなたなら,こんな事件,どうすればわかるでしょう? 捜査の手順を教えてちょうだい。わたしが,その通り動くから」

 林サミコ「そんなの師匠に聞いてよ。まな美も念話ができるんでしょう?」

 まな美「師匠って誰?」

 林サミコ「コブラちゃんに決まっているじゃない」

 まな美「・・・」

 

 まな美は,コブラに向かって,念話した。


 まな美『コブラちゃん,あの,,,師匠さんですか? 保育園児の消失事件で,捜査協力をお願いしたいのですが』

 師匠『我は,サミコに助けられた。サミコの命令以外,聞かない』

 まな美『・・・』


 まな美は,やむなく林サミコにお願いした。


 まな美「サミコ,師匠にわたしの指示で動くように命令してくれる?」

 林サミコ「イヤー」

 まな美「・・・」

 

 まな美は,なるほど,これでは,誰も林サミコを動かせないと思った。


 まな美は,奥の手を出すことにした。


 まな美「わたし,銀次さんの居所,知っているのよ。フフフ,どう? それでも,師匠に命じないの?」


 林サミコは,まな美を見た。林サミコは,オーラを見ることができる。どうやらウソをついていないようだ。


 林サミコ「ウソじゃないようね。でも,居所,どうして知ってるの?」

 まな美「そんなの,実は,とっくに分かっているのよ。でも,誰もそれを口にしないだけ。口にすれば,その責任が自分にかかってくるから」

 林サミコ「それ,ほんと?」


 まな美「ほんとうよ。でも,そう簡単には教えれないわ。サミコでさえも,そこに近づくことは,メリルに近づくってことよ。一瞬で殺されるかもしれないのよ」

 林サミコ「・・・,でも,,,それでも,,,教えてちょうだい」

 まな美「わかったわ。じゃあ,サミコ,今から現場に行くわよ。動く準備をしなさい」

 林サミコ「ラジャー! 了解ー!

 まな美「ゲンキンだわね。じゃあ,α隊も巻き込むわね」


 まな美は,林サミコが本件について捜査協力をしてくれることになったと伝えて,α隊隊長も現場に来るようにお願いした。



 ー 消失事件のあった保育園 ー


 α隊隊長の指揮で,消失事件のあった園児と保護者全員が急遽集められた。


 林サミコ「では,園児の両腕をよく見えるようにしてください」


 林サミコは,その腕を詳しく見た。


 林サミコ『師匠,どいうやら,掩蔽魔法陣の破片が埋め込まれています』

 師匠『やっぱりそうか。魔獣族の子供たちの間で流行っている遊びの一種だ。じゃんけんで勝ったら,相手の魔法陣の破片を奪うことができる。いくつかの魔法陣の破片を集めて,完全な魔法陣を完成させれば,その子が勝利というゲームだ。どの魔法陣を使うかは,特に決まっていない。今回は,転移魔法陣を使ったのだろう

 魔法陣の破片の奪い方は,魔法陣の破片のある部位を合わせるだけでいい。上側の位置の腕が下側の破片を奪う。子供たちは,そのルールを教えられたのだろう。かつ,親や大人には,内緒にするという約束をさせられてな』


 林サミコ『では,ガキの魔法陣の破片を,わたしの腕に集約させて,魔法陣を完成させればいいってことですね?』

 師匠『まあ,そういうことだ。たぶん,組み合わせに合致した4人から集めれば,完成すると思う』

 林サミコ『了解ー』


 林サミコは,パズルを解くかのように,子供たちで,組み合わせが合致する者達を一緒にさせていった。ちょうど4人で1体の完全な魔法陣が構築できるようになっていた。


 師匠『4人の魔法人を自分に映すと同時に,転移するはずだ。その場合,すぐに周囲に時間遅延魔法を展開しなさい。時間を稼ぐことができる』

 

 林サミコ『了解です』


 林サミコは,まな美を自分のお腹の部分に触らせた状態で,4人の子供から,魔法陣の破片を自分の腕に映していった。


 ボァーー!


 林サミコとまな美は,その場から消えた。

 

 林サミコとまな美は,あるアパートの1室に転移した。そこには,消失した2名の児童がひとりの女性によってかいがいしく介護されていた。


 林サミコは,その女性が,魔体であることがすぐにわかった。


 ガターン!(ドアが開いた音)


 ドアが開いて,そこから,ひとりの女性入って来た。


 妹「あら?お姉ちゃん,お客さんなの?」

 魔体の姉「・・・,そうよ。児童と同じ方法で,ここに来たのよ」

 妹「えーー?! それて,バレたって,ことーー?!」

 魔体の姉「そうみたい。あと,数週間は,絶対バレないと思ったのに」


 妹と魔体の姉は,いずれこんな日が来ると思っていたが,あまりに早いことに驚いた。


 師匠『サミコ君,どうやら危険はないようだ。遅延魔法の場を解除してもいいようだ』

 林サミコ『了解でーす,師匠』

 

 林サミコは,遅延魔法を解除した。


 林サミコは,まな美に,背の低い方が魔体であること,児童たちは,魔獣族の子供の間で流行っている『じゃんけん魔法陣』というゲームの材料にされたことを伝えた。


 だいたいの情報を把握したまな美は,さっそく彼女たちに事情を聞いた。


 彼女たちは,バレたら,それまでと思っていたので,正直にすべてを話した。


 魔体の姉「まず,最初に言っておきますが,すべての罪は,わたしが負います。すべて,わたしの責任です」

 まな美「それは,話をすべて聞いてから判断します」


 魔体の姉「それもそうですね。わたしが,魔体であることは,もう気づいていますね?」

 まな美「はい,同僚から教えてもらいました。それに,魔獣族の子供の間で流行っている『じゃんけん魔法陣』のことも聞きました」 

 魔体の姉「なるほど,,,同僚の方は,霊能力者であり,かつ,魔獣族のことも詳しいのですね。道理で,すぐにバレるわけだ」


 魔体の姉は,観念したのように,数回溜息をついた。


 魔体の姉「こんなことをしたのは,生前,交通事故で,5歳児と共に,この世を去りました。わたしは,どうしても,この世に未練がありました。もう少し,子供と一緒に生活したかった。


 わたしは,双子の妹に,纏わり付きました。妹は,霊感が強かったのか,わたしの存在に気がついてくれました。彼女は,霊媒師を呼んで,わたしと会話する機会を与えてくれました。


 彼女は,わたしの希望をなんとか実現してあげたかったので, たまたま,招いた霊媒師に相談しました。


 その霊媒師は,実は,魔獣族の方でした。魔獣族では,霊体を魔体の肉体に導入する技術を持っていました。つまり,幽霊になっても,再び肉体を得ることができるというものです。


 でも,タダほど怖いものはありません。当然,見返りを求めれます。その見返りとは,妹が,魔獣族の子どもを産むということです。なんでも,安全に出産する可能性は1割にしかならないそうです。そんなリスクを妹は,背負ってくれました」


 ここまで話すと,妹は,魔体の姉に抱きついた。


 妹「お姉ちゃん,そんなこと,気にしなくていいのよ」


 妹は眼から涙が流れた。魔体の姉も涙を流したかったが,魔体には,そこまでの機能はなかった。魔体としての出来は,粗悪なものだった。


 魔体の姉「児童たちに,魔法陣の破片を植え付けたのは,魔獣族の人たち2名です。彼らは,ゲーム感覚でそれを楽しんでいました。どの子が一番にこの部屋に来るかを,2人で争っていました。まあ,ゲーム感覚でしたんだと思います。


 魔獣族の方は,少なくとも1ヶ月以上は,バレないだろうと言っていました。それで,安心して子育てを楽しもうと思ったのですが,,,まさか,こんなに早くバレてしまうとは,思ってもみませんでした」


 まな美「あなたは,ただ単に子育てをしたかっただけなのですか?」

 魔体の姉「はい,そうです。この魔体は,あと3週間くらいは持続します。せめて,それくらいは子育てを続けていたかった,,,」

 まな美「こんなことをしてしまった以上は,罪には問わないといけないのですが,,,」


 まな美は,ある考えが浮かんだ。


 まな美は,林サミコに小声で相談した。


 まな美「サミコ,あなたに銀次さんの場所を教える約束でしたけど,あまりにリスクが大きすぎます。まずは,現在,銀次さん,メリルさん,水香さんが,どんな状況なのかを,魔体の彼女を使って,事前に調査させることでいいですか? その方が,安全ですし,メリルとの衝突をうまく避けることができると思いますよ。2,3週間の辛抱でいいんですから」

 林サミコ「わかったわ。それで了解したわ」

 まな美「ありがとう」


 あとは,魔体の女性を説得させるだけだ。それは,まな美にとって,簡単なことだ。


 まな美「あなたをなんて呼んだらいいのですか?」

 魔体の姉「わたしツバメ,妹はスズメです」

 まな美「では,ツバメさん。まず,この場所は,どこですか?保育園からさほど遠くないとは思うのですが」

 魔体の姉「保育園から200メートルも離れていません。この部屋は,生前のわたしの身分証で借りました」

 まな美「なるほど,,,では,こうしましょう。わたしの依頼をあなたが引き受けてくれたら,この場所の存在も,妹さんの罪もなかったことにしてあげます。そこにいる2名の児童は,道端で偶然,見つけたことにします。いかがですか?」


 魔体の姉「それは,ありがたいのですが,警察の方がそんなことしていいのですか?」

 まな美「いいんです。というのも,その依頼は,超危険な仕事です。その仕事を全うすれば,どんな罪も帳消しできるほどの重大な任務です。とても,生身の人間ができるような任務ではありません。幸か不幸か,あなたは,魔体です。あなたにぴったりの任務です」


 魔体の姉「その任務の内容を聞きましょう」

 まな美「ここから,タクシーで30分ほどほどのアパートに,3名の人物が住んでいます。そこに行って,家事手伝いを無償でしますと言って,無理にでも,あなたの魔体が続く限り,彼らと一緒に生活してください。その生活の内容を,メールでも電話でもいいので,1日1回,もしくは2日に1回,わたしに連絡するというものです。どうです? 簡単でしょう?」

 

 魔体の姉「確かに,依頼自体は簡単ですね。でも,危険って,どこが危険なのですか?」


 まな美「子供の名前は,以前の名称でメリル,今は,ルリカと名乗っています。生前は,男の子で3歳児でした。その後,女の子で1歳児の姿が目撃されています。最近は,12歳くらいの少女の姿で出現しました。いったい,本当の姿がなんなのか不明です。彼女を怒らしたら,この月本国は,この世界は終わるかもしれません。人は,ゴキブリレベルにしか見ていません。


 その人物のそばには,以前は,和輝,今は銀次という魔体の男性がいます。外見年齢12歳。彼の能力はちょっと不明です。


 さらに,水香という女性もいるはずです。彼女は,普通の人間ですが,特殊能力が使えます。変身は当然として,1km先の人を殺せます。


 その場所に訪問してもらい,家事手伝い,ベビーシッター,なんでもいいですから,彼らと一緒に生活してください」

 

 魔体の女性「・・・,あの,,,先方には,あなたの依頼で来たと言ってもいいですか?」

 まな美「問題ありません。わたしの名前を出してください。わたしは,まな美と言います。以前は,メリルの同僚でした。水香の母親でもあります。銀次は水香の父親です」

 魔体の女性「・・・」


 まな美は,実質,メリルの仲間ではないか!と思ったが,口には出すのを止めた。


 まな美「サミコ,あなた,園児にここでの記憶,消せますか?」

 林サミコ「ちょっと待ってて。師匠に聞いてみる」

 林サミコ『師匠,記憶の消去って,できるの?』

 師匠『サミコ君の念話攻撃を応用できれば可能だ。念話で,ここでの生活を思い出せないようにする。思い出そうとすると,頭が痛くなるというものだ。念話で,『この部屋で,2人のお姉ちゃんとの生活を忘れなさい。思い出そうとすれば,頭が痛くなのよ。誰にも言ってはだめよ。わかった?』と,児童の頭の中にインプットさせなさい。1,2週間くらいは有効だ。その後,思い出してでも,児童だからすぐに忘れてしまう』

 林サミコ『さすが師匠,頼りになるわ』

 師匠『もっと崇めなさい』

 林サミコ『・・・』


 その後,林サミコは,2人の児童に念話攻撃をおこなって,ここでの記憶を思い出させなくさせた。


 まな美は,銀次が居るであろう住所の情報をツバメに渡した。それと,まな美の電話番号やメールアドレス,ライン登録もおこなった。


 ツバメ「これが住所ですね。わかりました。この部屋の後片付けをしてから,出発することにします」

 まな美「じゃあ,お願いね」

 ツバメ「はい,なんとか頑張ってみます」

 まな美「あの,どうでもいいことなんだけど,その魔体の体は,誰の魔法因子を使っているの? 普通,月本国の住人は魔法因子を持っていないはずよ」

 ツバメ「この体は,魔獣族の霊媒師さんの魔法因子を使わせてもらいました。幸いなことに,この体は,2日くらいから,なんとか,子育てできる程度に動かせるようになりました。今でも,ときどき,うまく体を動かせないときがあります。それももう慣れました」

 まな美「・・・」


 林サミコとまな美は,2人の児童を連れて,このアパートを出で,保育園に戻った。


 すでに,保育園では,マスコミが来ていて,事件の成り行きを見守っていた。2名の美人巨乳警察官が,保育園から消失したので,α隊隊長も,気が気でなかった。もしかして,ネットで,『2名の美人巨乳警察官が神隠し』というようなことが報道されてしまうのかと心配した。


 でも,1時間ほどして,消失した2名の児童を連れて戻ったので事件は解決した。消失した原因については,たまたま自然現象であり,2名の児童も,神隠しにあったという報道になった。それよりもなによりも,『2名の超乳美人警察官,消失園児救う!』の見だして,林サミコとまな美の全身の写真が,アップで撮られてた。


 その後,林サミコは,『警視庁長官直属の最高顧問』という身分がバレて,その肩書きに恥じない事件解決に,マスコミが報道合戦を行った。その実,記事の内容などどうでもよく,彼女の超乳をアップするだけで,閲覧回数が何百倍にもなった。


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