第15話 ワーーン!ワーーン!

 ーーー

 

 数日後,林サミコを警視庁本部に招待して,警視庁長官直属の最高顧問としての就任式が開催されることになった。


 幸千子は,林サミコの秘書的な立場になって,あれこれと,彼女の世話を焼いた。なんせ,林サミコは,金の卵だ。彼女の秘書の仕事だけでも,林サミコにお願いすれば,月50万円はもらえる。自分が,次期,キサラギ財閥の当主という身分をすっかり忘れているようだった。


 幸千子「サミコ,髪型が変よ。それに,コブラちゃんにも,ちゃんとリボンを付けないと。この警察官の服装,寸法は,ぴったしだけど,今後,さらに巨乳になったらどうするんだろう?」


 林サミコ「ご主人様が,もっと巨乳にならないと,抱いてやらないっていうのよ。まな美さんのあの両方で50kgもの乳房を見て,あれに勝てって言うの。もう,大変よ。急遽,胸元を大きくしもらうように,修正してもらったわ。ここ数日で,回復魔法をどんどんかけて,片方で6kg,両方で12kgにもなったから,これでも,キツキツね」


 幸千子「これ以上,大きくなったら,もう,歩けなくなるんじゃない? まな美さんだって,もう,事実上,ほとんど歩けないっていうし。あっ,そうそう,まな美さんて,婚約者の多留真さんから,毎日,暴力受けているんだって,聞いた?それも,顔やおっぱい,お尻だけでなく,お腹の子にも与えているんだって。もう,鬼畜よね。

 しかも,まな美さん,回復魔法だけは使えるから,魔法かけていったら,片方で30kg,両方で60kgにもなったんですって。フフフ。ほんと,化け物ね」

 林サミコ「それって,お腹の子,多留真さんの子じゃないって,バレたんでしょうね」

 幸千子「え? ええーー?!」


 林サミコは,魔法因子の特性を幸千子に説明した。


 幸千子「うっそーー! そんな特性があったの? すっごーー!」


 林サミコでも,こんな単純な性格の幸千子が,果たしてキサラギ財閥の次期当主になれるのかと,不安になった。


 林サミコの移動は,すべてパトカーが先導する。もう,林サミコにプライベートは存在しない。超VIP対応だ。


 それに,ここ,数日,ネットでも,新聞でも,ちょっと意味不明な広告が出された。


 『森タミコ様,および,そのご主人様へ

 XX月YY日の午前10時から,森タミコ様のご親戚の方が表彰されます。ついては,その表彰式に,お二人を招待いたします。当日,警視庁本部に来ていただきますようお願いします。尚,お二人様の身の安全及び自由は保障します』



 ーーー

 ー 某旅館の1室 ー

 銀次は,森タミコと肌を合わせていた。ルリカは,平和そうに寝ていた。銀次は,もう,このまま,延々に寝ておけと思った。ルリカの存在理由は,標的魔法陣の転移先くらいだ。

 最近は,まったく目覚めない。もともと1歳くらいの年齢なので,これまで駆使してきた霊体の疲れが,どっと押し寄せてきたのだろうと思った。


 森タミコの体は魔体であり,その魔力は,11着の魔力ベストを奪っているので,いくら魔力を使っても数年分の蓄えがある。


 銀次が,森タミコに,もっと巨乳になれ,お尻を大きくしろと言えば,その通り,体を変化できるように,ゴーレム基本魔法陣の設計を変形させることもできた。その程度の変更なら,林サミコの霊体の抜け殻でも対処可能だ。でも,本体ができるような3次元複合ゴーレムの魔法陣まで,頭の中で構築することはできない。所詮,抜け殻だ。


 今の,森タミコの体は,片方の乳房が40kg,両方で80kgもの超変態体にして,その肉布団の中で携帯ネットを見ながら,この意味不明な招待を受けるかどうか考えていた。


 銀次「タミコ,この招待,どうする? 受けるか?」

 森タミコ「ご主人様が決めてください。でも,ルリカ様を安全な場所に隠しておけば,いつでも逃げれますから,参加してもいいと思います」

 銀次「確かにそうだな。では,ルリカをこの部屋に置いておこう。タミコは,もとのDカップに体型を戻しなさい」

 森タミコ「はい,了解です」


 その後,銀次と森タミコは,変装して,本人とわからないようにした。森タミコは,魔力ベストを2着重ね着して来た。これで十分な魔力が扱えるようになる。


 ピンポーン!


 部屋のチャイムが鳴った。ドアを開けると,ひとりの若い女性がいた。


 昨日,近くの喫茶店で知り合った女性だ。銀次は,彼女に流し目攻撃を行った。それによって,彼女は,恋心が芽生え,翌日のこの時間に,この部屋に来ることに同意した。


 銀次「よく来たね。部屋に入りなさい。妹のことは気にしないでください」

 女性「はい」

 

 銀次は,さらに流し目攻撃をしてから彼女にお願いした。


 銀次「あの,,,ちょっと,首を噛んでいいかな?」

 女性「え? 」


 そう言ったものの,彼女は同意した。血を吸われる間,銀次によって,快楽ツボ,催淫ツボ,刺激強化ツボ,痙攣ツボを次々と刺激されて,あの行為をするまでもなく,銀次の愛撫によって,絶頂を繰りかえしていった。


 30分後,,,


 彼女は,性的満足を覚えた。


 銀次「あの,,,ちょっとお金がなくて,,,お小遣いほしいんだけど,,,」

 女性「フフフ,大丈夫よ。はい,少ないけど,これで我慢してちょうだい」

 銀次「ありがとう。明日もまた来てくれる?」

 女性「明日は,用事があるけど,明後日ならいいわ」

 銀次「じゃあ,明後日,お願いね」

 女性「はーい」


 女性は,銀次に2万円ほど渡して,超満足して部屋から出ていった。


 森タミコ「ご主人様って,超女ったらしですね」

 銀次「別に,彼女を抱いているわけではない。愛撫だけだ。抱くのはお前だけだよ」

 森タミコ「まあ,そうですけど,,,でも,なんかいやです。血が必要なのはわかるのですが,,,」

 銀次「ちょっと,招待時間に遅れそうだ。今から行くよ」

 森タミコ「はーーい,女ったらしのご主人さま」

 

 銀次は,奪った魔力ベスト1着を森タミコに着せて,残りを積み重ねてその上に,寝ているルリカを横に寝かせた。


 その後,変装をしてから,旅館を出て,タクシーで警視庁本部に移動した。


 ー 警視庁本部 ー

 警視庁本部では,数人が参加受付の順番待ちをしていた。受付の女性職員が,名前リストをチェックして,参加証を渡した。


 受付「参加証を持参ください。座る場所は自由です。適当に座りください」

 参加者A「はい,ありがとうございます」


 私服姿の女性は,参加証を持って,中庭に設置された会場に移動した。


 数人ほどが受付を通過した後,銀次と森タミコの番が来た。


 銀次は,携帯のネットを示しながら言った。


 銀次「このネットの広告を見て来ました。ボクは,銀次,隣にいるのは,森タミコです」

 受付の女性は,一瞬,ビックリしたが,落ち着いて行動した。


 受付「お,お待ちしておりました。これは,警視庁長官から預かった証書です。お読みください」


 銀次は,証書を見た。


 『 銀次様,森佐美子様


 林サミコ様の表彰式に参加いただき,誠にありがとうございます。

 林サミコ様は,先の滝ヶ原基地で,『事故』によって死亡した職員125名全員に,魔体を供与することに成功しました。その功績によって,今回,表彰式を開催することにしました。また,その『事故』に関与されました銀次様,及び森タミコ様には,その『事故』に関して,一切の法的な責任は発生しないことを,ここに明言します。

 また,今回の表彰式において,ご両名への加害・その他身体的苦痛等を一切与えないこともここに誓います。

 警視庁長官(サイン) 』


 銀次は,この証書になんの有効性もないことを知っている。でも,それを読むと,かなり気分的に気が楽になった。


 林サミコは,森タミコが殺した125名の職員に,魔体を提供してあげたのだ。ある意味,死亡事件に該当しなくなったとみていい。


 銀次「状況を理解しました。表彰式に参加させていただきます」

 受付「わかりました。参加証を持参ください」

 銀次「了解した」


 銀次たちは,参加証を持たされて,案内人に先導されて,中庭の表彰式会場に移動した。


 表彰式会場では,10名ほどの女性警察官が,並べられた椅子に座っていた。

 

 良く見れば,一影たちだとわかっただろう。でも,魔力ベストや魔装服は着用していなかった。


 林サミコは,すでに会場の来ていて,表彰式参加者と向かい合うように,ひとりで座っていた。


 銀次は,久しぶりに林サミコを見た。彼女の胸は,サラシによってキツく巻かれていたかのように,かなり鳩胸チックになっていて,胸の谷間はほとんど見えなかった。彼女の首には,コブラが巻いていて,そのコブラの首部分には,青色のリボンが巻かれていた。

 

 さらに,林サミコの頭頂には,保護色のカメレオンが乗っかっていた。でも,それを認識できる者は誰もいない。


 銀次「サミコ,コブラをペットにしたの?」

 林サミコ「はい,この方は,わたしの師匠です。立ち話も何ですから,お座りください」

 銀次「まあ,そうだね。今回は,サミコのお陰で,ボクたちの罪が帳消しになったんだ。感謝しないといけないね」

 林サミコ「銀次さん,そうですよ。125名の魔体を生成するのって,大変だったんですよ。でも,そのお陰で,表彰されるのですけどね」

 銀次「じゃあ,ボクに感謝しないといけないね。フフフ」


 林サミコ「それはともかく,銀次さん,あなたとタミコは,大変脅威になる存在です。また,あんな大量殺戮を一瞬の間にされては,尻拭いするわたしも大変です。大変申し訳ないのですが,銀次さん,それに,タミコ,あなた方の能力を封印させていただきます」


 この発言に,森タミコが文句を言った。


 森タミコ「はあ? サミコ,何を言っているの? 冗談じゃないわ。封印するの,サミコの方よ!」


 森タミコは,10本の指を針に変えて,林サミコを襲った。


 だが,林サミコの3メートル前で,その攻撃速度が大幅に低下した。彼女は,自分の手の平をその針に接触させた。すると,それらの針は,微粒子になって消滅した。


 銀次「サミコに攻撃しても効果ない。後ろの女どもの足を狙え。殺すなよ」

 森タミコ「ご主人様,了解です」


 森タミコは,再度,指を針に変えて,後方に控えている10名の女性の足を攻撃した。


 だが,一人1本の針の攻撃だ。一影たちは,直径30cmほどの防御結界を手の平に構築して,その攻撃を防御した。魔力をさほど消費しない防御方法だ。


 森タミコ「ご主人様,攻撃が効きません!」

 銀次「では,時間遅延の範囲内に入れて,足を攻撃しろ」

 森タミコ「はい,ご主人様!」

 

 森タミコが,半径3メートルの範囲で時間遅延魔法を展開して,一影たちに近づいた。


 一影たち10名は,一箇所に固まって,自分たちの周囲に,5倍の重量魔法を展開した。それと同時に,自分たちの周囲全体に円形状の防御結界も展開した。


 一人1分ずつ展開すれば,10人で10分展開できる。魔力ベストがなくても,原石の魔鉱石から,ある程度,体内に取れ込んだ一影たちにとって,その程度の魔力展開は容易なことだ。


 森タミコは,自分の展開する時間遅延魔法の範囲に一影たちが入る前に,重力魔法に捕まってしまった。苦し紛れに,針を彼女たちに飛ばしても,重量の影響で,地に落ちてしまった。重力魔法の魔力を吸うには,魔法陣の中心部に行かないといけない。


 森タミコ「ご主人様! 重力魔法に捕まってしまいました!」

 銀次「くそっ!」


 銀次は,霊力の触手をくり出して,上空から真下に向けて一影たちの防御結界を攻撃しようとした。


 銀次「あれ? 霊力が繰り出せない? しかも,霊力の存在を感じない。え? どこでなくした? それとも,誰かに盗まれた? くそっ! 考えている余裕はない! しかたがない,なけなしの魔力攻撃をするしかないか」


 銀次は,威力の弱い初級レベルの爆裂弾を上に向けて円弧を描くように断続的に放った。その爆裂弾は重力魔法の影響を受けずに,一影たちの頭上にも展開する防御結界にヒットした。


 この攻撃により,一影たちは常に防御結界を構築し続けねばならなかった。一影たちの魔力切れを狙った作戦だ。


 数分後,

 

 森タミコの周囲に展開した,時間遅延魔法の効果が切れた。彼女は,相変わらず,重力魔法によって捕らえられていた。


 林サミコは,それを見て,左指の2本を針に変えて,かつ,それを保護色に変化させた。数日前から,当主の肉体を借りたザビルとの双修によって目覚めた能力だ。


 透明の針は,地を這って,森タミコのいるところまで移動して,1本は森タミコの魔体に,もう一本は魔力ベストに刺さった。

 

 シューー!


 それらの針は,森タミコや魔力ベストから魔力を吸収していった。

 

 林サミコは,銀次に攻撃するのは躊躇っていたが,一影たちに初級レベルでも爆裂魔法を発射されてしまうと,放置するわけにもいなかない。


 そこで,念話攻撃が有効かどうか試すことにした。銀次の頭部に向けて,自己最大出力で念話を発した!


 『銀次のバカーー!』


 その念話は,あまりに高出力過ぎた。そのため,銀次の霊体が,肉体からはじき飛ばされてしまった。しかも,死体に構築されていた霊体格納魔法陣までもが,強大な念話攻撃によって,破壊されてしまった。


 ダーン!


 銀次の体が地面に倒れた。それによって,銀次の攻撃は中止した。


 銀次の霊体は,銀次の死体から飛ばされてしまい,意識を失ったまま,その死体のそばで地に横たわった。


 霊体を見ることができるコブラ姿の師匠は,林サミコに状況を説明してあげた。


 師匠『どうやら,銀次の霊体ははじき飛ばされたようだ。サミコ君の念話攻撃は,あまりに強力だ』

 林サミコ『ええー? そんなに強力だったんですか?』

 師匠『日々,当主の体を借りて双修しているから,基礎能力が数倍に跳ね上がったためだと思う。その技は,万一の時以外,使わないほうがいい。

 銀次の霊体は,数日は目覚めないだろう。いや,それよりも,このままでは,銀次は完全に死ぬ。地獄にいくか天国に行くかしらないが,銀次の霊体は,まもなく浄化されて,この世から消滅する』

 

 林サミコは,銀次が死ぬと聞いて,やはり辛かった。


 林サミコ『師匠,銀次を助けてください。お願いします』

 師匠『サミコ君のお願いなら,聞かないわけにも行くまい。時間超加速で,わたしを3歳児にしてくれ』

 林サミコ『はい,時間超加速を展開します』


 ボァーーン!


 外見が15歳くらいのハンサムな男性が出現した。師匠だ。裸体のままだ。でも,今は,そんなことどうでもいい。


 師匠は,銀次の死体の状況をみた。この死体には,死霊術がしかけられていた。霊体を格納する霊体収納魔法陣が,変形してしまって,もう機能しない状況だ。一度,この魔法陣を消滅させて,再度,新しく死霊術を構築し直す必要がある。


 でも,それをするには,時間超加速魔法が有効な5分間の時間帯で施術するのは無理だ。


 師匠『サミコ君,この死体に銀着の霊体を戻すには,5分間では無理だ。新しい魔体なら,すぐに移植できのるだが』

 林サミコ『師匠,霊体のない銀次の魔体があります。そこに霊体を入れてください』


 林サミコは,収納指輪からもともとの銀次の姿をした魔体を取りだした。


 師匠『了解した。では,この魔体に銀次の霊体を移植する』


 師匠は,霊体を認識できるだけでなく,捕獲して移動さえもできる。


 師匠は,弱った状態で意識を失った銀次の霊体を特殊な方法で捕獲して,銀次の魔体に構築してある霊体格納魔法陣に移植した。もともと銀次の魔法因子をもとに構築した魔体なので,銀次の霊体は,その魔体によく適合した。


 時間超加速の限界が来て,師匠は赤ちゃんコブラの姿に戻った。


 林サミコ「師匠,ありがとうございます」


 林サミコは,そう言いながら,赤ちゃんコブラを抱き上げて,自分の首に巻き付けた。ちなみに,赤ちゃんカメレオンは,保護色をして彼女の頭頂で髪をがっちり掴んだまま熟眠している。双修の疲れのためだ。


 ーー

 

 銀次の件は,一区切りついたので,林サミコは,森タミコのところに来た。

 森タミコの体から,どんどんと魔力が抜けていった。もう,魔法がまったく使えない状況になった。


 林サミコ「タミコ,あなたに2つの選択肢を与えます。このまま魔力を吸われて,魔体を消滅して,霊体の抜け殻も消滅してしまうか,もしくは,今から言う若者のところに言って,彼の言うことを聞くか,どちらかを選びなさい」

 森タミコ「はあ?バカじゃないの?そんなの,その若者のところに行くに決まっているでしょ。でも,彼は,魔力を供給できるの?」

 林サミコ「できます。彼の言うことを聞いてやってください。これが彼の住所です。タクシー代は10万円もあればいいでしょう」


 林サミコは,幽鬼の住所の情報と10万円を森タミコに渡した。森タミコは,これからも犯罪をする可能性がある。それでも,彼女は自分の分身だ。一度くらい,更生のチャンスを与えたい。


 森タミコ「サミコ,ふん,あなた,甘ちゃんね。わたしが約束守ると思っているの?」

 林サミコ「あなたはわたしなのよ。最初くらいは,約束守ると信じているわ」

 森タミコ「ふん!」


 森タミコは,幽鬼の情報と10万円を手にして,この警視庁本部を出た。最初だけは約束を守ってあげようと思って,彼女は,タクシーを捕まえてその住所に向かった。


 森タミコに,更生の機会を与えるのは,警視庁本部も了解のことだ。その条件で,林サミコは,今回の表彰式に参加するという餌役になることに同意した。でも,森タミコが,もう一度,犯罪をすれば,容赦ないことも約束させられた。


 それに今回の魔法対決において,一影たちで充分に森タミコに対抗できることも判明した。


 『森タミコ,恐るるに足らず!』


 これは,一影たちの共通の認識になった。

 

 ーー

 

 この時,異様な臭いが周囲に漂った。その臭いの発生源をたどってみると,銀次がこれまで使って来た死体だった。


 その死体は,さらに腐敗が進み,とうとう骸骨になっていき,最後には灰燼に化してしまった。


 林サミコ「ええーー? これって,どういうこと?」

 師匠「時間超加速の影響だろう。これまで腐敗しなかったほうがおかしい」

 林サミコ「ええーーー!? うそーー!銀次の肉体がなくなってしまったーー!」


 林サミコは,その場に崩れてしまった。銀次の肉体による愛の行為,それは,最高に素晴らしいものだ。それが,,,もう,味わえいない,,,


 林サミコの眼から涙がポロポロ出てきた。


 ボォワーーー!


 銀次が灰燼と化した場所に一人の少女が現れた。彼女の周囲には,すでに霊力の結界が構築されていて,彼女が出現したと同時に,この場所にいる全員に,彼女から発せられる『霊力の場』によって覆われた。


 ちょっとでもおかしな行動をすると,その場で体がねじ伏せられるのは間違いないだろう。それに,周囲の温度が数度も下がってしまった。


 霊力を肉眼で見えるクララや林サミコは驚愕した。この場全体が一瞬にして霊力によって覆われてしまった! こんなバカな?!有り得ない?!


 少女「銀次の肉体を破壊したのは誰?」

 

 その少女は,周囲を見渡した。


 すると,銀次の霊体が近くに横たわっていた。少女は,銀次を霊力によって,自分の場所に引き寄せた。その銀次の体は,魔力で構築されて,霊体も銀次自信の霊体だった。何らかの理由で銀次の肉体が損傷したため,霊体を魔体に移植したのだろうと思った。


 少女「この魔体,かなり精巧にできているわね。うんうん,この魔体なら合格だわ。この魔体に免じて,銀次の肉体を破壊したことは許してあげましょう。


 あっ,ちょっと言い忘れるところでした。わたしは,メリルではありません。ルリカと言います。わたしがきここに来たことは内緒でお願いします。では,縁があればまた会いましょう」


 自分のことをルリカと言ったメリルは,銀次を抱いて,転移してその場から消えた。それと同時に,この場全体に展開していた霊力の場が消滅した。


 ふーっと,また温度が数度上昇して,通常の状態に戻った。


 クララや林サミコは,恐怖の存在が去って,どっと疲れが出てしまった。


 一影たちも,あの少女がメリルだと,すぐにわかった。彼女の本気モード,,,とても,今の一影たちが,どう逆立ちしても太刀打ちできるようなレベルでないことを,マジマジと理解した。


 以前,多留真が言っていたように,メリルが本気を出せば,どうしたって,メリルに勝てないと言っていたが,はたして,それは真実だと理解した。


 林サミコは,メリルが去って恐怖心も去って,ふと,現実に戻った。


 林サミコ「え? 銀次さんの肉体がなくなって,さらに,魔体もあの少女に奪われたの? え? ええーー??」


 恐怖心で,涙が止まっていたのが,再び,眼から涙がポロポロ出てしまった。


 ワーーン!ワーーン!ーー


 林サミコは,とうとう,大声でその場に泣き崩れた。


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