第13話 125名の再生

 まな美が多留真のマンションに到着すると,すでに,日が沈んでいた。多留真は,今日は,在宅勤務のはずなのに,マンションにはいなかった。


 まな美は,その夜,ひとりで過ごした。


 その翌日の夜,パトカー数台で護衛された多留真がマンションに帰ってきた。


 その顔は,疲弊しきっていた。 


 まな美「いったい,どうしたの?」

 

 その声に多留真は,ジロっとまな美を睨んだ。


 多留真「まな美,歯を食いしばれ!」

 まな美「え?どうして」


 多留真は,まな美を拳でぶったたいて,かつ,超豊満な乳房も正拳突きをするように叩いていった。


 多留真「クソ!クソ!クソ!ーー」


 まな美に暴力を振りながら,多留真の眼から涙が溢れてきた。


 まな美は,わけがわからないものの,多留真の好きにさせた。


 多留真は,殴り疲れて,そのまま,まな美の体の上に倒れて寝入ってしまった。


 まな美は,いったい何があったのかを知るために,こっそりと多留真のパソコンを起動して,パスワードを入手した。まな美は,多留真の設定したパスワードを知っている。


 まな美は,多留真の秘書として,多留真のパソコンの機能を100%使用する権限を持っている。


 そこで,見たものは,3本の監視カメラのデータだ。1本目は,寮の会議室のデータだ。


 そこには,まな美が銀次に抱かれるデータが鮮明に映し出された。


 ガーーン!


 まな美は,会議室に隠し監視カメラがあることを失念していた。でも,意外とショックは少なかった。いずれ,多留真にバレると思ったからだ。それに,こうなることは,多留真も同意したことだ。


 2本目の監視カメラデータを見た。それは,寮の手前に拡がる広場の映像だった。


 ひとりの女性が警察官を人質にしている映像だ。だが,その後,驚愕が映像が目に映った。機関銃攻撃されているのに,その弾が,彼女の前に止まったのだ!


 その後,彼女は,魔装隊員たちの服を脱がせて,魔力ベストを奪った。そして,なんと,延々と伸びる針で,機動隊員や警察官を皆殺しにしてしまった。


 まな美は,なんで多留真が自分を殴り,かつ眼に涙を浮かべたのか,やっと理解した。


 3本目の監視カメラの映像を見た。林サミコが,レストランで,ある女性の足を掴んで,何か叫んでいる映像だ。


 関連ファイルを見ると,足を捕まれた女子は,如月幸千子,17歳だ。魔力ベストを購入した人物のひとりだということも判明した。


 尚且つ,明日,如月邸を訪問して,林サミコに,多留真,α隊隊長,特捜課部長,警視庁長官の4名が面談を持つことも判明した。


 まな美は,いったい,何のために会いにいくのか,それを探った。多留真は,盛んに,魔力ベストを製造する工場や魔鉱石の精製工場などに連絡をとっていることが判明した。

 

 そこから導かれる結論,,,まな美は,自分の存在が非常に重要であることを理解した。


 ・・・

 翌朝,多留真は,目覚めて,風呂を浴びて,まな美が用意した朝食を食べた。昨晩,まな美に暴力を振るったことなど,まったく記憶にないかのようだった。


 まな美「多留真,昨日,多留真のパソコン,見せてもらったわ。今日,林サミコに会いにいくのでしょう? わたしも連れて行ってちょうだい。わたしが絶対に必要になるわ」


 多留真は,そのままパンを食べ続けた。多留真は,まな美からゴーレムを生成する基本的なメカニズムを聞いているので,何が必要かを知っている。


 多留真は,返事をしなかった。その意味は黙認だ。というよりも,もともと,必須条件のまな美を連れていく予定だった。


 ーーー

 ー 如月邸,応接室 ー


 如月邸の応接室では,林サミコは当然ながら,カメレオン形態のザビルは彼女の胸の谷間に隠れていて,コブラ形態のイナモル師匠は乳房の周囲にドクロを巻いていた。師匠は,どうしても,顔を表に出したいし,保護色にできないため,ペットという説明で,相手側に説明することにした。


 立会人として,如月幸千子と当主も同席した。


 如月邸の前に,パトカー10数台,機動隊バス10台,さらに,機動隊200名が如月邸を覆った。さらに,周囲の道路は,すべて,通行止めにした。


 マスコミが,何事かと嗅ぎつけたが,一切の情報を聞き出すことは出来なかった。


 警視庁長官,特捜課部長,多留真,α隊隊長,さらに重たい超乳をしたまな美もその後について来た。α隊隊長は,重たいジュラルミンケースを持っていた。


 彼らは,応接室に通された。その後,お互い,名刺交換をして,簡単な自己紹介をした。林サミコは,名刺を持っていないので,名刺がないこと,また,自分の体にコブラが纏わり付いているが,ペット化されたものであり,決して人に害を与えないことを伝えた。


 その後,多留真が早速,要件を切り出した。


 多留真「今回は,林サミコ様に,もしくは,その近くにいらっしゃる方に,ある無謀なお願いをするために,ここに来ました。その依頼をさせていただく前に,見てもらいたい映像があります。ご覧下さい」


 多留真は,機動隊と警察官が,銀次の指示で,森タミコに殺される映像を見せた。


 それを見た,林サミコは,ビックリ仰天してしまった。幸千子も,思わず,大声を出しそうになった。当主は,意外と落ち着いていた。


 その後,多留真は,もう一本の監視カメラの映像を見せた。まな美が銀次に抱かれる映像だ。


 これには,幸千子が,とうとう,声を出してしまった。


 幸千子「キャーー! エッチ!!」


 抱かれる映像については,20秒程度で終了させた。


 多留真「聡明な林サミコ様なら,わたしどもが,どのような依頼をするか,ご理解できるかと思います」

 林サミコ「まさか,,,銀次様の魔法因子で?」


 その言葉を聞いて,多留真は少し微笑んだ。


 多留真「はい,その通りでございます。ここで命を落とした125名の尊い命を復活させたいのです。

 彼らの霊体を使っていただき,林サミコ様,もしくは,その近くにいる御方の素晴らしい能力で,森タミコと同じように,肉体を与えていただきたいのです。どうか,どうか,よろしくお願い申し上げます」


 多留真が率先して頭を床面につけた。その後,警視庁長官,特捜課部長,α隊隊長,まな美でさえも頭を床につけた。


 その後,α隊隊長が,アタッシュケースを差し出して,その蓋を開けた。


 そこには,現ナマ1億円があった。


 幸千子「キャーー! 大金!!」


 幸千子は,また悲鳴を挙げた。


 そこには,貯金通帳と,印鑑,さらに警察手帳まであった。


 多留真「林サミコ様,1億円を手付金として,現金で用意させていただきました。すでに死亡した職員の遺体は,ドライアイス付けで,機動隊バスの中で安置させていただいております。今後,霊体1体に肉体を与えることに成功いただければ,成功報酬として1億円即座に振り込ませていただきます。もし,125名,全員の霊体に,肉体を与えることに成功すれば,特別報酬として,そこにある警察手帳を差し上げます。身分は,警視庁長官直属の特別最高顧問という立場になります。顧問料は,年俸3千万円を予定しております」


 幸千子「えーー!うそーー!!」


 幸千子は,自分のことではないのに,悲鳴をあげた。


 多留真「また,林サミコ様の行う,過去,および未来のあらゆる犯罪は,免除されます。ただし,証拠がないという条件つきですが。さらに,今回,銀次が指示して森タミコが殺害した罪も,いっさいお咎め無しという処分にさせていただきます。


 125名の命,何卒,回復させていただきたく,重ねてお願い申し上げます」


 多留真以下,4名,ふたたび,土下座してお願いした。


 幸千子「サミコ,さっさと,はい!と返事して,蘇生させてあげなさいよ」

 林サミコ「・・・」


 林サミコは,ひとりやふたりなら,なんとかできるかもしれないが,125名ともなると,まったく自信がない。


 林サミコ『ご主人様,どうしましょうか?』

 ザビル『この状況では,引き受けざるを得ないだろう。でも,成功する自信はあるのか?』

 林サミコ『まったくありません。師匠,自分の霊体なら,気の流れで,その存在を感じ取れますが,死体から,果たして気の流れで,他人の霊体を感じることはできるでしょうか?』

 師匠『5部5部といった感じかな? 100%成功するのは困難かもしれん』

 林サミコ『他に何かいい方法はありませんか?』

 師匠『サミコ君は,時間遅延ができるなら,時間加速もできるのか?』

 林サミコ『はい,半径3メートルの範囲内であれば,時間加速を展開して,5分程度なら,その時間軸を維持できます』

 師匠『ということは,わたしの肉体を一時的に3年ほど成長させて,その状態を5分間維持できるという意味か?』

 林サミコ『はい,できると思います』

 師匠『1日,最大,何回くらいできる?』

 林サミコ『魔力の補充があればという条件ですが,1時間ほど休息すればいいので,睡眠をとらないなら24回できると思います』

 師匠『わたしの特異能力は,3歳頃から発現する。霊体を捕捉,移動させることも可能だ。だから,ゴーレム研究に精を出した。

 よし,サミコ君,引き受けなさい。1分もあれば,1体の霊体を霊体捕獲魔法陣で連結できる。霊体の浄化・転生を回避可能だ。5分間なら5人処理が可能だ。24時間休みなしで,125名,なんとかいけそうだ!

 あとは,ゆっくりと時間をかけて,魔法因子を使って3次元複合ゴーレム体を生成していけばよい。ただし,報酬は,わたしとの折半だ。いいかな?』

 林サミコ『はい!師匠!』


 林サミコは,多留真に向かって返事した。


 林サミコ「今,仲間たちと相談がまとまりました。この依頼,引き受けます。今から,休みなしで24時間,霊体への特別な処理を行いします。

 その後,睡眠を取った後,ゴーレム体を生成していきます。もちろん,大量の魔鉱石は準備しているのですね?」

 多留真「引き受けてくださり,誠にありがとうございます! はい,加工前の魔鉱石なら,いくらでも準備できます。今,手元に高純度魔力結晶が少量あります。当座は,これを使っていただきます。その後,現在,原石の魔鉱石を運ばせております。あと,1,2時間ほどで到着します」


 林サミコ「それと,前もって言っておきますが,霊体格納魔法陣は,銀次さん固有の形状になっています。他人の霊体を無理やりそこに入れますので,すぐには魔体を稼働させることはできません。早くて数時間,遅くて1週間くらいかかります。それでも,なんとか魔体を動かせる程度です。ご理解ください」

 多留真「そういうものか。いすれは,普通に動かせるようになるのだろう?」

 林サミコ「はい,そのように伺っています」

 多留真「それなら,まったく問題ない。進めていただきたい」


 林サミコ「では,最初にまな美さんから,銀次様の魔法因子を採取します。まな美さん,別室に来ていただけますか?」

 まな美「はい,よろしくお願いします」


 別室で,林サミコは,まな美のあの部分から魔法因子を採取した。大量に魔法因子があったので,125人分のゴーレム体を生成するには,充分過ぎるほどの量だ。

 

 その作業をしている間,まな美は,林サミコに声をかけた。


 まな美「サミコさん,わたし,多留真の子供を妊娠していました。その後,銀次さんに抱かれました。その場合,わたしの胎児の子の遺伝子は,銀次さんのDNAになるって聞きました。ほんとうでしょうか?」

 

 林サミコは,師匠の言葉をそのまま口に出した。


 林サミコ「残念ですが,その通りです。細胞分裂後に,銀次さんのDNAに取って変わります。ですから,完全に銀次さんだけの遺伝子になることはありません。でも,これからだと,99%以上は,銀次さんの遺伝子に取って変わっていくでしょう。もちろん,卵子,または精子は,銀次さんとまな美さんの混合遺伝子で形成されます」

 まな美「そうなのですか,,,とても詳しいですね。誰かに,今,教えられて話している感じがします」

 林サミコ「へへへ。バレましたか。このコブラ,魔獣族の赤ちゃんなんです。今回のゴーレム体の生成には,このコブラ,師匠って呼んでいますが,師匠の異能を十分に発揮してもらいます」

 まな美「林サミコさんは,森タミコさんに,銀次さんを奪われて悲しくないのですか?」

 林サミコ「そりゃ,悲しいです。わたしの望みは,銀次さんと愛の行為をして,安穏と生活することですから。フフフ,でも,その夢,実現しそうです」

 まな美「え? どういうこと?」

 林サミコ「銀次さんの肉体をゴーレム体で自分用に準備すればいいんです。その肉体をご主人様に支配してもらえれば,わたし,もう,超ハッピーです。この世の春を謳歌できます」

 まな美「・・・,ご主人様って,師匠とは違うの?」

 林サミコ「違います。ご主人様はご主人様です。わたしの支配者です」

 まな美「・・・」

 

 林サミコ『ご主人様,銀次さんの魔体に憑依することはできますか?』

 ザビル『もちろん可能だ。でも,3歳くらいにならないとできない』

 林サミコ『では,今,超加速魔法を使って,ご主人様を3歳にします。それで,銀次さんの魔体に憑依してください。今日なら,排卵日なので,その行為で妊娠できるはずです。でも,5分以内でお願いします』

 ザビル『なんで,そこまでして,銀次の子がほしいんだ? 俺の子でいいだろう?』

 林サミコ『わたしにできて,森タミコにできないこと,それは,銀次さんの子供を妊娠することです。ご主人様,お願いです。銀次さんの子を宿してください』

 ザビル『・・・』


 ザビルは,同意した。ザビルは,自分が成人するまでは,林サミコのために動くと決めている。


 林サミコは,まな美を部屋の隅に移動させて,半径3メートルの範囲内で,超加速を使った。


 ボオー-!全裸の男性が現れた。なかなかのハンサムだ。その後,林サミコは,銀次の魔法因子を使って,3次元複合ゴーレム魔法陣を展開して,外見が銀次とそっくりのゴーレム体を生成した。3歳児のザビル,外見的には15歳くらいだが,彼は,自分の頭をゴーレム体に接触させて,霊体を移動させて,ゴーレム体を支配した。特に,あの部分さえまともに動かせればいいだけだ。


 5分後,,,林サミコの超加速魔法の効果が切れるとほぼ同時に,銀次の魔法因子が,あの部分を経由して,彼女の体内に注がれた。


 ザビルは,霊体を元の体に戻って,赤ちゃん形態となり,保護色になって,また,林サミコの胸の谷間に戻った。

 

 ゴーレムの体は,ザビルが彼女に貸し与えた指輪の中に収納された。


 その一部始終を見ていたまな美は,何か夢を見ているような錯覚を覚えた。


 まな美『え? 何? なんで男の人が出現するの? え? なんでエッチしているの? え?なんでまた消えるの? え? え?ーー』


 林サミコ「まな美さん,ここで見たことは,内緒でお願います」

 まな美「そうね。正直に話しても,誰も信じないわ」

 

 林サミコは,この日,銀次の子供を妊娠した。ただし,林サミコは,自分の体には,無意識に時間遅延魔法を展開しているという事実さえも,よく把握していなかった。そのままでは,2,3年経っても,相変わらず妊娠したままだ。


 ・・・

 その後,丸1日掛けて,イナモル師匠が3歳児の体(外見は15歳くらい)で,125名の霊体を,霊体格納魔法陣に収めていった。その後,睡眠を十分にとって,3日目から,銀次の魔法因子を使って,3日間かけて125体のゴーレム魔体を生成していった。あとは,霊体格納魔法陣をゴーレム体の核部分に収納して完了させた。


 この一連の作業を開始して1週間後にすべての作業が完了した。


 林サミコは,成功報酬として125億円を入手した。そのうち,25億円を当主に提供して,50億円を師匠に提供した。師匠は,ちゃっかりと,生前の銀行口座を持っていて,それは有効に機能していた。


 キャーキャーとわめいていた幸千子は,また,新しく魔力ベストを新調した。


 ===

 125名の命が,別の形で救われたため,遺族たちは,不満ながら,しぶしぶ,この秘密を守ることに同意した。姿は違っても,愛の行為はできるし,しかも,性的に強靱な体だ。夜の生活で,妻が不満をあげることはまったくなかった。


 このことで,警視庁長官の首が繋がり,大統領としても責任追及されるようなことはなかった。


 ほんとうに,『林サミコ様様』だった。


 

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