第12話 森タミコ,まな美の哀愁

 多留真の子を妊娠しているまな美は,パトカーに乗って,千雪組のいる千雪御殿に向かっていた。千雪御殿は,御殿場の外れに位置している。もちろん,周辺に住んでいた住民は,政府の援助もあって,どこかに引っ越した。


 まな美は,今回の千雪組のアポでは,カロックの愛人であるアカリに連絡をとってアポを取り付けた。アカリへのアポは,友達ルートを何度か経由して紹介してもらった。


 アカリは,カロックとの赤ちゃんを抱いて,まな美を居間に招き入れた。


 アカリ「今,赤ちゃんを世話する人がいなくて,ごめんなさい。それで,誰に会いたいのですか?」

 まな美「実は,魔体で動く暗殺者の映像があります。それを見てほしくて,魔法に詳しい方を紹介いただけますか?」

 アカリ「それは,いいのですが,依頼料が膨大になりますよ。1000万円はかかってしまいます」

 まな美「実は,無料で見ていただきたいのです。その代わり,面白い情報を提供します」

 アカリ「面白い情報って?」

 まな美「ちょっとここでは,,,でも,1000万円に引き合う情報だと思いますよ」

 アカリ「そうですか。カロックは,最近,全然怠慢でそんなことしたくないと思うし,,,サルベラさんかな? でも,最近,機嫌悪いし,,,」


 そんな時に,ハルトが,千雪御殿にやって来た。


 ハルト「あれ? お客さん? 」

 アカリ「そうよ。ハルトさんは,何の用?」

 ハルト「俺が来るのは,母乳をもらうことに決まっているだろ。ホーカに会わせなさい」

 アカリ「今,ホーカさんは,ミサキ探偵事務所でお仕事中よ。ちょっと無理ね」


 この話から,まな美は,この男性がハルトだと知った。


 まな美「あの,ハルトさんですね? わたし,まな美と言います。実は,ハルトさんとふたりっきりでお話したいことがありまして」

 ハルト「わたしには無い」

 まな美「ハルトさんにとって,死活問題かもしれませんよ?」

 ハルト「・・・,アカリ,ちょっと席を外してくれ」

 アカリ「わかったわ」


 アカリは,席を外した。


 まな美「実は,わたし,以前,α隊に居ました。そこで,以前,2号さんの報告書を詳しく見ました。ハルトさん,以前,千雪さんの母乳をα隊に横流ししていましたね。もちろん,わたしも警察の人間ですから,守秘義務は生じますが,でも,それは,第3者への開示を禁止するものです。当事者である千雪組に開示するのはOKなんです」

 ハルト「ほう?でも,口止めでわたしがあなたを殺してしまえばいいことだと思うが?」

 まな美「それもひとつの解決です。でも,もっと簡単な解決方法があります」

 ハルト「それは?」

 まな美「わたしの持ってきたビデオを見ていただいて,ハルトさんがコメントするだけです」

 ハルト「なるほど。情報提供せよということか。でも,タダでするのは,ちょっと抵抗があるな」


 ハルトは,まな美の豊満な胸を見た。まな美は,片方で25kg,両方で50kgもの,あまりにグロテスクな体をしていた。もう,自分ではまともに歩けないほどだ。これも,多留真と結婚する条件で,こんな体に改造した。


 まな美は,ハルトの希望を理解した。


 まな美「こんな醜い体でいいなら,いくらでも見せます」


 まな美は,その場で裸になった。


 ハルト「なるほど,,,これはこれは,一見の価値がある。もし,わたしにあの部分があれば,間違いなく襲っていた」

 まな美「え? それって,ハルトさんは,,,宦官?」

 ハルト「まあ,そんな感じだ」

 まな美「なんで,そんなことに?」

 ハルト「千雪に奪われた」

 まな美「・・・」


 その後,彼女は,例の10分暗殺者のビデオをハルトに見せた。


 ハルトは,ビデオとまな美の裸をどちらもチラチラしながら見た。


 ハルト「ほほう,この裸の女性,なかなかスタイルがいいね。この男性,まだ子供のようだが,なかなかやるね。霊力の操作にかなり習熟している。でも,加速技は訓練していないみたいだ。防御に特化した訓練でもしたんだろう」

 まな美「その男性は,銀次といいます。女性の名前は,二影です。それよりも,この暗殺者を見てください。何かわかることはありませんか?」

 ハルト「別に? お粗末なゴーレム魔法陣を使って生成しただけだろう。2体目の方は,少しは洗練されたゴーレム魔法陣を使っているようだ。それでも,茜の霊体を収納した『千幸』のゴーレムと比べたら,月とすっぽん,美女とブス,見る価値もない」

 まな美「・・・」


 まな美は,溜息をついてから,さらに詳しく聞いてみた。


 まな美「どうして,そうわかるのですか?」

 ハルト「だいたい,マントをしているだろう? 肌を隠すためにしている。つまり,見えない部分は,まともに人化してない証拠だ。それは,メリットにもなる。魔力を少なくできる。最小の魔力で動かせるからな。必要最小限の魔力で動かすという意味では,別の意味で,洗練されたゴーレムといえる。このゴーレム程度なら,ゴーレム基本魔法陣に,サブ魔法陣が4,5体もあれば,構築できてしまうだろう」

 

 ここまでくると。まな美も理解が追いつかない。


 まな美「では,『千幸』は,どれくらいの魔法陣で構築されたのですか?」

 ハルト「俺が関わったわけではないが,少なくとも20体の魔法陣を使い,その後,さらに付加機能を後付でどんどんと加えていったみたいだ。たぶん,魔法陣の数は,100体近くになったんではないか?」

 まな美「ハルトさんは,ゴーレムを生成できるのですか?」

 ハルト「魔法陣の設計図があれば,霊力を流すだけでできる。でも,霊体を扱えないから,結局は動かない。フフフ」

 

 その後,まな美は,ハルトから,基本的なゴーレムに必要な魔法陣の知識を教えてもらった。ハルトも,常識として,それくらいの知識は持っていた。

 

 まな美「ハルトさん,いろいろと教えていただいてありがとうございます。例の横流しの件は忘れるようにします」

 ハルト「世の中,持ちつ持たれつだ。また,何かあったら遠慮無く聞きなさい。今度は,ここではなく,わたしの事務所に来てくれればいいから。これは,わたしの携帯番号だ」


 まな美は,ハルトの電話番号をゲットした。彼女は,知りたいことを教えてもらったので,満足して帰っていった。


 ハルトは,実は冷や汗ものだった。もし,横流しがバレたら,情緒不安定なホーカに,殺されてしまう可能性があった。


 ハルト『あぶねえ,あぶねえ,まな美とは,これからも友好的に付き合おう』


 ハルトは,この時から,まな美のアドバイザーになった。


 ーーー

 まな美は,入手した情報を多留真に提供した。それと同時に,多留真との結婚を迫った。


 まな美「多留真さん,約束通り千雪組から情報を取りました。婚約を発表してください。1ヶ月以内に,仲間内で婚約のお披露目会を開催してください」

 多留真「はぁ? 婚約の公表は約束したが,お披露目会など約束してないぞ」

 まな美「婚約の公表,それは,すなわち,お披露目会を開催するということです。約束はちゃんと守ってください」

 多留真「ふん,婚約の公表を,1ヶ月以内にお披露目会を開催することだと,定義しないのが悪い!」

 まな美「じゃあ,約束を反古にするのですか?」

 多留真「じゃあ,もうひとつ情報を取れ。銀次が,ほんとうに和輝なら,どうやって,今の銀次になったのか,さらに,メリルは,どこで何をしているのかもだ」

 まな美「銀次さんから,和輝に関する情報は取れるかもしれません。でも,メリル様の情報はまず無理でしょう。それに,メリル様が本気で怒ったら,今の千雪組でも対処できないと思います。なんせ,千雪様は不在のようでし」

 多留真「その可能性もあるな。では,和輝の情報だけでいい」

 まな美「では,クララか二影に連絡して,情報提供をお願いします」

 多留真「アホ! まな美が,直に行って,銀次と面談して情報を取れ! それが条件だ」

 まな美「どうして,そんな無駄なこと,わたしにさせるのですか?」

 多留真「うるさい! 理由なんかない! 俺が決めたんだ。ちゃんと情報を取ってこい!」

 まな美「手土産とか,持参金は?」

 多留真「そんなもんない。なんなら,お前の体で支払え」

 まな美「わたしが,銀次さんに犯されてもいいのですか?」

 多留真「ああ,構わん」

 まな美「・・・」


 まな美は,涙が出てきた。ほんとうは,すぐにでも多留真と別れたい。でも,生まれて来る子供のため,父親の存在を確保したい。


 まな美「わかりました。では,しかる場所で,銀次さんと会う手配をします」


 まな美は,すぐにパトカーを手配して,滝ヶ原基地にある寮に向かった。


 ーー

 クララたちのいる寮に到着して,寮の会議室を借りて,銀次と面談した。


 まな美「銀次さん,あなたは,和輝さんで間違いないですね?」

 銀次「はい,もうみんな知っていることです。隠すことではありません。」

 まな美「そうですか。わたし,こんな爆乳の醜い姿になってしまいました。それは,お腹の子,多留真と結婚するためです。その条件として,銀次さんが,どのようにして今の姿になったのか,教えてもらうのが条件です。和輝,教えてもらえませんか?」

銀次「教えてもいいが,ただではダメだ」

 

 まな美は,溜息をついた。男の要求は単純だ。


 まな美「では,エッチさせてあげます。どこかの部屋を借りてください」

 銀次「わかった。すぐに部屋を借りる。待っててくれ」


 銀次は,部屋を借りに廻った。だが,誰も同意してくれなかった。


 銀次は失意のまま会議室に戻った。


 銀次「まな美,すまん,ダメだった。ここでさせてくれ」

 まな美「・・・」


 まな美は,已むなく同意した。全裸になって机の上で横たわり,銀次の好きにさせた。まな美は,銀次の巨大なあれを難なく受け入れることができた。かつて,霊力を扱ったことがあるからかもしれない。


 ・・・

 1時間後,,,


 その会議室の周囲には,母乳が何リットルも散乱した状態になった。


 事が終わって,まな美は本題を切り出した。


 まな美「銀次さん,では,説明してもらいます」

 銀次「どうやら,ボクは,青龍に,バンパイアにされたようです。肉体が殺されて,焼かれた後,自動的にある人気のない場所に転移されました。そこでは,メリルがいました。肉体の損傷はメリルによって回復させられたけど,でも,蘇生はできなかった。

 その後,大量の血によって,この体は疑似的に生気を持たせるようになったようです。それ以降,毎日,血を最低100ml 飲むことで,この体を維持できる状態になりました。

 今は,日替わりで魔装隊員たちの血を吸わせてもらっています。ボクは,この肉体になってから,犯罪は犯していない。血を吸うのも,同意の上で吸っています」


 まな美「二影さんは,あなたの子を妊娠しています。どうして,死体なのに,妊娠能力があるのですか?」

 銀次「生殖能力を付加してもらいました。精子は放出できないけど,より,強力な魔法因子を放出できると聞いています。魔法因子は,卵子の中に入ると,DNAを生成させてしまう。実質,精子と同じ働きをするようです」

 まな美「そうなんですか。魔法因子の優位点は何ですか?」


 まな美にとって,この質問はすべきではなかった。世の中,知らない方が幸せなこともある。


 銀次「優位点? そうだな,,,あっ,そう言えば,以前,青龍が言っていた。魔法因子で子をなせば,後から侵入する魔法因子を排除できるって。でも,精子で子を成せば,後から侵入する魔法因子を排除できないって」

 

 この言葉を聞いて,まな美は,真っ青になった。


 まな美「銀次さん,あなた,わたしのお腹に魔法因子を注入したの?」

 銀次「もちろんです。それをするためのエッチです」

 まな美「それって,つまり,わたしのお腹の子は,どうなるの?」

 銀次「もし,青龍の言葉が本当なら,おなかの子のDNA情報は,すべてわたしの魔法因子によって書き換えられます。つまり,まな美とわたしの子どもになってしまうってことだと思います」

 

 ガーーン!


 まな美は,その場で崩れてしまった。


 まな美は,数回深呼吸をした。


 まな美『いや,黙っていればいい。うん,そうしよう。多留真の子として産もう。それがいい。それしかない!』


 まな美は,気を取り直した。片方で25kg,両方で50kgにもある変態的な乳房を,巨大なマタニティドレスで覆い隠した。


 まな美「銀次さん,今の話,内緒でお願いします。わたし,あなたの子は産みたくありませんから」

 銀次「あくまで,青龍が言ったことです。どこまで本当かはわからない。気にしないほうがいいですよ。

 でも,やっとまな美を抱けた。最初は,Cカップのおっぱいかを触るのが精一杯だった,,,」


 銀次は,当時のことを懐かしく思いだした。


 まな美は,失意に暮れて,また,パトカーに乗って,銀次のマンションに戻っていった。



 ===


 森タミコ,外見年齢15歳,身長145cm,Dカップ。その体は,魔力で出来ている。


 彼女の霊体部分は,林タミコの霊体の抜け殻で動いている。そのため,理性的な発想に欠ける。直情的で,性的な要求が非常に強い。でも,あの行為の相手は銀次と決めている。

 

 森タミコは,学園から出て,行く当てもなく歩いていた。お金がない。御殿場近くにある滝ヶ原基地に行くにも,どうやって行ったらいいかも分からない。そこで,彼女が行動に出たのが,交番に泣いてお願いする行動だ。たまたま交番の前を歩いたので,そういう行動に出ただけなのだが。


 森タミコ「わたし,林サミコっていいます。実は,わたし,迷子になってしまって,,,親戚が,滝ヶ原基地近にある寮にいます。クララっていう女性です。でも,連絡方法がなくて,,,」

 

 交番のおまわりさんは親切だった。いや,それよりも超暇だった。すぐに,いろいろと調べてくれて,電話連絡までしてくれた。その情報は,すぐに,警視庁本部の多留真にまで届いた。


 多留真は,一影に林サミコを捕らえる協力を約束してしまったので,協力することにした。パトカー先導で,クララのいる寮まで向かわせるアレンジをした。


 急遽,パトカー10台,機動隊100名を収容した機動隊バス4台,装甲車4台を交番の前に派遣させた。


 まがりなりにも,林サミコは魔法が使えるようなので,それくらいの対応は必要との判断だ。


 森タミコが交番に泣きついて,1時間半後,これらの車両が勢揃いした。これには,森タミコも驚いたが,それ以上に,交番のおまわりさんが腰を抜かすほど驚いた,


 おまわりさん「林サミコさん? あなた,いったい,誰なんですか? なんで,こんな状況になるんですか?」

 

 森タミコに分かるはずもない。彼女は,クララのそばに行けば,銀次に逢えるということしか頭にない。


 森タミコ「さあ? さっぱりです?」

 

 パトカーから,魔装服を着たα隊の月影が出てきて,交番にやってきた。


 月影「すいませんが,あなたが林サミコさんですか?」

 森タミコ「はい,そうです。滝ヶ原基地の寮にいるクララさんに逢いたいって言っただけなのですが,,,」

 月影「クララから連絡を受けました。林サミコさんを,クララさんのことろに案内します。すいませんが,林サミコさんは,無人装甲車に乗っていただきます。車内は,ソファも,飲み物も,テレビもありますので,優雅に過ごすことができると思います。トイレに行きたくなったら,モニター画面で訴えてください。最寄りのパーキングか,コンビニで止まるようにします」

 

 森タミコ「はい,ありがとうございます。でも,このものものしい対応は,いったい,,,?」

 月影「クララから,あなたは,魔法が使えると聞いています。魔法士の方は,VIP対応すると決まってします。遠慮する必要はありません」

 森タミコ「え? VIP対応になるんですか?」

 月影「はい,そうです。林サミコさんは,VIPなんです。どうぞこちらです」


 森タミコはVIP対応で,装甲車に乗せられて,パトカー先導のもと,滝ヶ原基地の寮に向かった。


 ーーー

 その寮に着くと,行き違いで一台のパトカーが,寮から出ていった。そのパトカーには,まな美が乗っていた。


 そんなことは,つゆ知らず,森タミコは,月影の誘導で,寮の会議室に来た。


 月影「なに? ミルクがこぼれたの? まったく,掃除もしないなんて!」


 誰も掃除をしないものだから,やむなく,月影は,隅にある掃除道具をもって,部屋を片付けた。


 月影「では,林サミコさん,こちらにどうぞお掛けください。今,クララさんを連れてきますから」

 森タミコ「はい,では,お願いします」


 森タミコは,偽物の林サミコとして,やっとここまで来た。後は,クララから銀次の居場所を聞き出して,救いだせばいい。夢の逃避行をするだけだ。それが彼女の願いだ。


 しばらくして,身重のクララが会議室にきた。


 クララ「あら,サミコさん,胸が小さくなりましたね。絶食でもしていたのですか?」

 森タミコ「へへへ,まあそんな感じです。銀次さんは,どこにいますか?」

 クララ「この寮で,軟禁状態になっています。会いたいですか?」

 森タミコ「もちろん。早く会わせてください」

 クララ「わたし,ちょっと,サミコさんと双修をしてしまって,無意識に,サミコさんの記憶を読んでしまいました。いくつか,完全犯罪をしたようですが,でも,一番,まずかったのは,警察官を2人も殺したことです。なぜか発見が遅れてしまい,死因も判明しなかったので,うやむやになってしまったようです。わたしが,警察官でなかったら,こんなことはしません。でも,,,サミコさんの犯罪を知ってしまった以上,黙っているわけにもいかなくて,,,

 自首してください。今のわたしには,それしか言えません」

 

 森タミコにとって,そんな話はどうでもいい。早く銀次に会わせろと叫びたい気持ちだ。


 森タミコ「そんなことはどうでもいいです。銀次さんに会わせてください」


 クララは,なんで,『林サミコ』がそんな表現をするのか,ちょっと不思議だった。そんなことを言うような彼女ではないはずだ。


 クララ「自首する気がないなら,それでいいです。残念です。わたしは,もう何も言いません」


 クララは,そう言って会議室から出ていった。今のクララには,これ以上,何もすることはできなかった。


 会議室では,森タミコがひとり残された。彼女は,だんだんイライラしてきた。


 森タミコ「いったい,銀次さんはどこにいるのよ!」


 森タミコは,思い切って,この寮を壊してやろうかと思った。でも,もっと,いい方法を思いついた。


 森タミコ「へへへ,わたしって,以外と頭がいいかもね」


 彼女は,会議室を出て,いったん寮から出た。そして,近くのパトカーのところに来て,やさしく声をかけた。


 森タミコ「おまわりさん,ちょっと,尋ねたいことがあるのですが,車から出てきてくれますか?」


 森タミコは,やさしい声で言った。


 何の疑問も持たない警察官Aは,車から降りた。


 警察官A「何でしょうか?わたしにできることなら,対応させていただきますが?」


 森タミコ「あの,,,もうひとりのおまわりさんにもお願いしたいのですか,,,」


 もうひとりの警察官Bも車から降りた。


 バシュー,バシュー!


 警察官AとBの首に森タミコの針が突き刺さった。


 3分後,,,


 彼らは,森タミコの指示待ち状態となった。


 森タミコは,警察官Aに命じた。


 森タミコ「寮に行って,銀次さんを呼んで来てください。もし,銀次さんが来なければ,こちらの警察官が死ぬことになるとも伝えてください」

 警察官A「了解しました」


 警察官Aは,のそのそと歩いていった。寮に着いて,玄関でノンビリしていた月影に,森タミコに言われたことを伝えた。


 それを聞いた月影は,ニコニコしながら,すぐにクララに連絡した。この展開は,月影やクララが待ち望んでいたことだ。現行犯で森タミコを逮捕できる!


 クララは,すぐに一影たちに声をかけて,寮の表に出てきた。彼女たちは,すでに完全武装していた。魔法服の着用は当然として,機関銃も持っていた。


 また,同時に,森タミコと同行してきた,機動隊も森タミコに機関銃を向けた。


 だが,森タミコは,警察官1名を人質に取っている。おいそれとは,攻撃できない状況だ。


 警察側の代表として,一影が一歩前に出て,森タミコに声をかけた。


 一影「林サミコさん,あなたは,警察官を人質に取りました。れっきとした犯罪です。すぐに自首してください。今なら,罪は軽くてすみます」

 森タミコ「そんなのどうでもいい。早く,銀次さんを呼んでちょうだい。今すぐ連れて来てちょうだい。

 銀次さんが,1分遅れるごとに,人質から10年ずつ寿命を奪います。今からスタートです!」

 

 森タミコは,針を彼の首に注入した。


 15秒,,,30秒,,,1分が経過した。


 銀次は,まだ来なかった。警察官Bは,寿命を10年奪われた。


 一影は,已むなく,銀次をここに連れてくるように命じた。


 銀次が姿を現わした。


 その時,警察官Bは,寿命を20年分奪われてしまった。


 銀次は,森タミコを見た。すぐに彼女が,林サミコではないことがわかった。森タミコは,人間の体をしていなかった。でも,彼女の能力は,林サミコそのものだった。


 銀次は,小声で一影に命じた。


 銀次「人質はなんとかできると思う。後は,好きにしなさい。殺すもよし,殺さないもよし」

 一影「・・・,機動隊隊長の判断に任します」 

 銀次「お好きに」

 

 一影は,彼女の隣にいる機動隊隊長に判断を任せた。というのも,人質になっているのは,彼の部下だからだ。


 機動隊隊長「一影様,人質が開放されたら,射殺します。寿命を奪うような怪物,生かしておくことはできません。死人の銀次さんに誤射してしまいますが,やむを得ないでしょう」

 一影「銀次さんは,もう死んでいます。それに,霊力で機関銃から自分の身を守れます。誤射など気にしなくていいと思います」

 機動隊隊長「それなら,遠慮なく」


 彼は,人質解放後,森タミコへの射撃を部下に命じた。


 銀次は,彼女を『林サミコ』として対応することにした。


 銀次「サミコ,もう寿命を奪うのは止めなさい。今から,わたしがそこに行く」

 

 その言葉に,森タミコは,ニヤっと微笑んだ。


 森タミコ「ご主人様,どうぞ,ここに来てください」

 

 銀次は,ゆっくりと森タミコのそばに寄った。


 銀次は,森タミコの隣に来た。人質は,そのままそばにいた。


 銀次「サミコ,お前は魔体だな? いったいどうしたんだ?」

 森タミコ「わたし,サミコから,森タミコという名をもらいました。霊体の機能は,サミコの霊体の抜け殻を使っています。フフフ,わたしの望みは,ご主人様と逃避行をすることです。ここから,一緒に逃げましょう」


 銀次「お前の今の能力を簡単に説明しなさい」

 森タミコ「針は100メートルまで伸びます。瞬間移動,魔力吸収,半径3メートルの範囲内での時間遅延,回復魔法くらいです。防御結界は使えなくなりました」

 銀次「それだけできたら大したものだ。本物の林サミコはどうしている?」

 森タミコ「魔獣族のザビルが新しい主人になっています。しかも,イナモルという講師を師匠にしています。ご主人様の出る幕はまったくありません」

 

 この話を聞いて,銀次は,本物の林サミコを諦めることにした。この森タミコを支配下におくことにした。


 銀次「タミコ,お前は,わたしの命令に従うのだな?」

 森タミコ「はい! ご主人様! そのためにここに来ました!」

 銀次「タミコは,機関銃の一斉射撃を回避できるか?」

 森タミコ「まだしたことありませんが,時間の超遅延,つまり,1万倍の時間遅延を周囲に展開すれば回避可能です。わたしとご主人様は,正常な時間軸で動けます。どんな攻撃も意味はありません」

 銀次「超遅延魔法? なんともすごいな。その持続時間は?」

 森タミコ「5分程度でしたら大丈夫です」


 銀次「なるほど,,,さて,どうするか,,,タミコ,お前の望みはなんだ?」

 森タミコ「ご主人様と一緒にいることです!」

 銀次「なんでもできるか? 殺人でも,娼婦でも,強盗でも,なんでもできるか?」

 森タミコ「はい! ご主人様の命令なら,なんでもします!」

 

 銀次は,溜息をついた。また,茨の道を行くしかないのか。


 森タミコが警察官を人質にとって,寿命を奪った以上,警察に捕まって処刑されるか,もしくは,徹底的に強者をアピールして,逃げ切るか,,,


 もちろん,後者の選択しかない。


 銀次「タミコ,人質を開放しろ。同時に,超遅延魔法を展開しろ」

 森タミコ「はい!ご主人様!」

 

 森タミコは,警察官Bを開放した。


 それと同時に,機関銃の一斉射撃が森タミコを襲った。


 ダダダダダーー!ーー


 だが,その機関銃の弾は,森タミコを中心にして半径3メートルの手前で,急激に速度を遅くした。1秒間に10cm程度しか進まない。銀次は,森タミコの手を引っ張って,一影の方に向かった。


 それでも,機関銃は,森タミコを襲った。しかし,弾は彼女にヒットしなかった。


 銀次と森タミコが,一影の近くにくると,機関銃の攻撃はストップした。一影たちに誤射してしまうのを恐れた。


 一影たちは,超遅延の範囲内に入った。


 銀次「タミコ,一影たちの魔装服を脱がせて魔力ベストを奪え」

 森タミコ「了解しました」

 

 森タミコの半径3メートルに入ってしまうと,ほとんど行動が停止状態となる。なんせ,行動が1万倍遅くなってしまうからだ。


 森タミコは,効率よく一影たちやクララの魔力ベスト10着と,月影の魔力ベスト1着の合計11着を奪った。


 森タミコ「魔力ベスト11着奪いました。もう,超遅延魔法が限界です」

 銀次「よし,解除しなさい」


 超遅延魔法が解除された。それと同時に,銀次が,自分と森タミコの周囲に透明な霊力の防御層を構築した。


 一影たち「キャー!」


 自分たちが,いつの間にか上半身裸にされていて,慌てて,両手で胸を隠した。魔力ベストは,肌に接触させて着るため,ブラジャーはしていなかった。

 

 銀次は一影に言った。


 銀次「一影さん,彼女は,林サミコではない。そのコピー体だ。その体は魔力で構築されている。名前を森タミコという。


 これまでの林サミコが行った殺人は,すべて,彼女のコピー体,森タミコが行ったものだ。林サミコに罪はない。


 わたしは,これから,森タミコの主人として行動する。彼女は,わたしの命令で動くことになる。殺人は行わない。でも,正当防衛の場合はやむを得ない。


 今から行う殺人は,すべて正当防衛だ。今後も,われわれに少しでも害をなすものには死を与える。


 タミコ! ここにいるすべての男性の警察官の心臓をその針で貫け」

 

 森タミコ「はい!ご主人様!」


 その命令と同時に,銀次は霊力の防御層を解除した。


 パシューー!パシューー!ーーー


 10本の針が伸びて,10名の警察官の心臓を貫き,そのまま,引き続いて,次の10名,さらに次の10名とその針は,延々と伸びていった。


 目標を失った針は,パトカーの窓ガラスを割って,車内に待機している警察官を襲った。


 それは,一方的な殺戮だった。


 わずか1分!


 この場にいるすべての男性警察官は殺されてしまった。総勢125名が一瞬で命を落とした。


 銀次「正当防衛を執行しました。これは警告です。今後,いっさい,われわれに近づかないでください。ここに魔力ベスト11着分があります。これを使えば,いくらでも東都を火の海にできます。でも,もう,以前のように,国会議事堂を爆破するようなバカな真似はしません。殺人だって,正当防衛以外はしません。ひっそりと,人混みに隠れて生活していきます。

 では,これで失礼します」


 銀次は,森タミコを連れて,標的魔法陣による転移を行って,その場から消えた。


 銀次と森タミコは,助産婦が面倒見ているルリカの名前で呼んでいるメリルのもとに転移した。


 上半身裸にされた一影たち9名,クララ,さらに,月影は,呆然とした。森タミコの圧倒的な強さに驚愕を覚えた。それに,銀次の冷徹さ,,,なんで,急に豹変したように殺戮を犯したのか? 警告と言っていたようだが,それを見せつけたかったのか?


 クララが,ポツンと,以前の方針会議で,林サミコに自首させたいという仏心が,最悪の形となって現れてしまった。


 

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