第10話 寮侵入,森タミコ誕生

銀次は,今の境遇になってよかったのか,悪かったのか,よく分からない。


 クララから,助産婦の情報をゲットして,助産婦のアパートを訪問した。彼女は,ひとり暮らしだった。なんだかんだと言って,その助産婦を手籠めにした。でも,銀次のあれを受け入れるのは困難なので,疑似的な行為に終始した。それでも,彼女は,イカされてしまった。そうなると,銀次は女性を洗脳することができる。


 銀次は,彼女にルリカの面倒を押しつけて,彼女の名前を借りて女装スタイルで,クララのいる女子寮に向かった。


 クララの部屋に入ると,そこには,クララの他に,武装した一影,二影と三影がいた。一影たちは手に機関銃を持っていた。


 一影「銀次さん,霊力を使用すると,あなたを蜂の巣にしてあげます。もっとも,すでに死んでいるのですから,殺すことはできないでしょう。でも,その肉体は,もう使えなくなりますよ」

 銀次「何? 俺のこと,知っているのか?」

 一影「はい,和輝さんですね?その肉体はもう死んでいますね?」

 銀次「なんと,,,もうバレてしまったのか,,,どうして,バレたんだ?」

 一影「そんなことはいいです。銀次さん,取り引きしませんか?」

 銀次「え?取り引き?」

 一影「はい,わたしたちの狙いは,銀次さんではありません。銀次さんは,もう死んでいますし,どうやら,悪いこともしていないようです。 悪いことをしていないのなら,死人を捕まえるようなアホなことはしません。でも,あなたの仲間の女性はどうでしょう?

 どうやら,殺人をこっそりとしているようです。証拠がありませんので,なんとも言えませんが。彼女は,かなりの魔法が使える術者のようです。わたしたちは,彼女,林サミコを説得して,自首させて,更生させたいのです。まっとうな人生を送ってもらいたいのです」


 銀次「いやだと言ったら?」

 一影「やむを得ません。ここから出ていってください。でも,イエスなら,ここまま,この部屋で住んで結構です。クララと楽しく過ごして構いません。二影の部屋でも構いません。場合によっては,他の部屋に行っても,,,でも,この女子寮からは出てはいけません。軟禁状態になっていただきます。

 対外的には,銀次さんは,ここで監禁されたと情報を流します。そのうち,林サミコさんが救出しにここに来るでしょう。前にもいいましたが,わたしたちの目的は,彼女に自首を勧めることです。彼女にとっても,人生を更生するいい機会だと思いませんか?」


 銀次「なるほど,,,でも,林サミコとはケンカしてしまったからな。果たして,助けに来てくれるかどうか,,,」

 一影「3週間も見ておけばいいでしょう。それで,救出にこなかったら,銀次さんを開放します。銀次さんは,これまで同様に,犯罪を起こさないでください。よろしくお願いします」

 

 銀次「なるほど,,,わかった。わたしは,この体を維持するのに,1日,100mlほどの血が必要です。あなたたちから吸ってもいいですか?」

 一影「それくらならどうぞ。10人日替わりで血を提供しましょう」

 銀次「では,ここでの軟禁,了解した。林サミコの逮捕に協力しよう」

 一影「そう言うと思っていました。では,銀次さんの対応は,クララさんか二影に任せます」


 クララと二影が顔を合わせた。クララは妊娠中でお腹はかなり大きい。二影は,妊娠初期だ。しかも,銀次の子供を妊娠している。クララは,二影に銀次を譲った。この状況では,自然の成り行きかもしれない。


 銀次が,軟禁状態になって,4日目,日替わりで血を吸いに,四影の部屋を訪問した。


 銀次「すまないが,血を吸いに来た。100mlでいい。協力してほしい」

 四影「その約束ですからね。軟禁状態は優雅ですか?」

 銀次「以外と窮屈なもんだ。二影が思いの外,嫉妬深くて,クララにでさえも合わせてくれない。おまけに,血を吸う時間も15分までと限定されている。これなら,ほんとうに,林サミコに救出されたほうが,よっぽどスッキリする」

 四影「そうですか? でも,本体,軟禁とはそういうものですよ。実は,巡り巡って,わたしのところに変なメールが来たんです。読みますか?」


 そう言って,四影は,そのメールを銀次に読ませた。


 『銀次さん,救出してほしいですか? もし,救出してほしいなら,以下のことを約束してください。『今後,銀次さんは,林サミコ以外の女性とあの行為をしてはいけません』 それを約束してくれたら,そこから脱走させてあげます。返事は,すぐにしてください。準備がいろいろとありますので。林サミコ』


 銀次「え?あの行為って,なんだ? 頭をなでる行為か? ほっぺにキスする行為か?」

 四影「さあ,たぶん,首にキスでもする行為かもしれません」

 銀次「それなら,約束してもいい。もともと林サミコの逮捕に協力する約束だったしな。それで返事してくれ」

 四影「わかりました。銀次さんが了解したと返事しておきます」


 銀次は,わずか15分という時間で,四影にも血を吸いながら愛の行為を忘れなかった。



 ===

 ー 三晃学園 ー


 勉学,スポーツ,情緒,この3項目すべてに優秀な生徒に育てるのが三晃学園の方針だ。


 年齢が17歳,身長152cm,Fカップの如月幸千子は,メイドとして,年齢16歳,身長145cm,両方の乳房で6kgもある林サミコを従えて,学園に登校した。


 この学園は,特殊で,普通の勉強を教えることはない。本人の好きなことをするだけの学園だ。


 その分野は,研究科と呼ばれている。研究科の種類は,千差万別だ。生徒ひとりでも,ある分野を勉強したいと思ったら,研究科ができてしまう。講師陣は,生徒が私費で雇えばいいだけだ。つまり,この学園は,学ぶための敷地や建物を提供しているだけと考えればいい。


 それでも,生徒同士の交流の場を設けることは忘れていない。くじ引きで,即席のクラスを形成して,クラス対抗スポーツ大会や,学園祭,生徒会まである。校長,学年担任,管理主任,設備担当,主任,などなど,それなりに講師陣を揃えている。

 

 大学進学は,いっさい考慮していない。もちろん高校卒業資格など与えられない。別に3年間と決まっていない。ある研究科は,下手な大学よりも高度な内容を研究していて,どんどんと学会誌に発表している。Ph.Dも,自分がそれにふさわいいと認めたら,勝手に名乗っていい。でも,暗黙のルールがあり,有名雑誌に,3報ほど掲載されたら名乗っていいという感じだ。 


 そのため,有名な研究科では,教授,助教授,講師,研究生まで揃っている。下手な大学よりも大学チックだ。


 幸千子が,属する研究科は魔法だ。魔法は,まだ月本国では,認知されていない。そのため,講師は,当然,自前で用意する必要がある。


 幸千子は,魔力ベストを着ている。これは,開発途上の試作品を卸してもらったものだ。一着,1億5千万円もする。魔力充填料金は5千万円だ。庶民が簡単に入手できるようなものではない。


 それに,充填する魔力には,魔法因子識別番号が付与される。もし,魔法で犯罪を行ったと判明すれば,すぐに魔法因子識別番号が調査され,民間に渡った魔力ベストの持ち主がすぐに判別できるようになっている。


 幸千子は,魔力ベストのマニュアルに沿って,魔法の勉強をしてきた。それでは,まったくダメで,当主から,基礎的な魔法陣を教えてもらって,魔法の勉強を開始した経緯がある。


 いつまでも講師がいないのは,問題あると思い,当主に,適当な魔法の先生を紹介してもらうことにした。


 2年ほど前から,抜け人の魔獣族の講師を採用することができた。名をイナモルという。23歳。人間の年齢換算にすれば106歳相当だ。その意味では,老人と言えよう。


 彼は,不幸なことに時間遅延魔法を教えてもらっえなかった。それでも魔法陣には造詣が深く,これまで,一般的な基本的な魔法を幸千子に教えた。


 この日,初めて林サミコが学園に通った日,幸千子は,イナモル講師のいる講師室に来て,林サミコを紹介した。


 幸千子「講師,わたしのメイドを紹介します。サミコです。メイドですが,主な仕事は,わたしの護衛になります。サミコ,講師に挨拶しなさい」

 林サミコ「林サミコです。よろしくお願いします」

 講師「サミコさんか,こちらこそ,よろしくお願いします。サミコさんも,魔法を勉強したいのかな?」

 林サミコ「いえ,わたしは,ここに気分転換に来ているだけです。勉強とか訓練はもうしたくはありません」

 講師「ハハハ,そうですか。でも,この学園には,やはり,それなりに,決まりというものがありますよ。少なくとも,それくらいは,頭においてください」


 講師は,学園の基本的なルールを記載した紙を彼女にわたした。その祭,その紙を通して,講師と彼女が接触した。


 シューー!(講師の持っている手の部分が,おかしな感覚に襲われた)


 講師は,慌てて紙を手っている手をどけた。これ以上,紙を持っていると,手が使い物にならなくなってしまいそうだ。


 講師は思った。『これって,もしかして時間遅延魔法? サミコ君の体全体に展開しているのか?』


 講師の顔が,驚きの顔から微笑んだ顔に変化した。


 講師「幸千子さん,少し,サミコさんに,学園のルールを説明しますので,幸千子さんは,しばらく隣の部屋でくつろいでいただけますか?」

 幸千子「わかりました。ちょうどケーキも持ってきましたので,美味しいコーヒーを挽いておきますね。その説明が終わったら,コーヒータイムにしませんか?」

 講師「それは楽しみです。では,はやく説明を終わらせたいと思います」


 幸千子は,隣の部屋に移動して,コーヒーを挽き始めた。


 林サミコとふたりきりになった講師は,彼女にあるお願いをした


 講師「サミコさんは,時間遅延魔法を自分の体に展開していますね。その魔法陣を眼に見えるようにしてくれませんか?その時間魔法は,実は,わたしが長年追い求めていたものなんです」


 時間に関する魔法は,もともと超秘密な魔法であり,隠蔽型とするのが基本だ。おいそれと他人に見せていいものではない。林サミコはすぐにザビルに聞いた。


 しかし,ザビルは寝ていて起きなかった。赤ちゃん形態のザビルはよく寝る。特に,昨晩は,父親である当主の体を借りて,霊体交換をして彼女と双修をしたこともあり,その疲れが貯まって,朝になってもまったく起きなかった。


 講師が是非見せてほしいと訴えるものだから,もともと断ることを知らない彼女は,それを見える形にして示した。


 講師「こっ,これが,時間遅延魔法陣か,,,」


 講師は,眼から涙が出てきた。あと,1年でも早く,この魔法陣を知ることができれば,もっともっと長生きできたものを,,,


 講師は,その魔法陣を10分間かけて,記憶していった。


 講師「サミコさん,ありがとう。ほんとうにありがとう。お礼に,わたしが,10年の歳月をかけて改良してきた改良型氷結弾の魔法陣を,サミコさんだけに伝授しよう。決して他人に教えてはダメだ。理解したかね?」


 林サミコ「はい,わかりました。わたし,一目見れば,暗記できますので,10秒間ほど,その魔法陣を示してください」

 講師「え? 10秒でいいのか? なんという記憶力!」

 林サミコ「えへへ,その代わり,応用力がなく,バカ,バカってよく言われます」

 講師「サミコさんは,決してバカではありませんよ。自分に自信を持ってください。なによりも,超高度な時間魔法をいとも簡単に展開するなど,普通の人では,決してできるものではありませんよ。

 それに,応用力は,膨大な記憶と経験によって,やっと少しずつ培われるものです。サミコさんはまだ若い。これからもっともっと記憶していって経験を積めばいいのです。応用力は,自ずと後からついてきますよ」

 

 林サミコ「えー? そうなんですか? そんなこと,初めて言われました。なんか,とっても嬉しいです」

 講師「サミコさんは,できる子なんですよ。焦らずに,着実に経験を積んでいけばいいんです」

 林サミコ「はい! そうします! 師匠!」


 彼女は,初めて師匠と呼べる存在に出会った気がした。


 その後,講師は,自分の奥義である攻撃技,三頭スクリュー氷結弾の魔法陣を彼女に10秒ほど示した。


 この三頭スクリュー氷結弾は,初級レベルでも,上級レベルの氷結弾に匹敵するほどの威力をもつ。そのため,省エネで攻撃力を飛躍的に増す。このような技は,むやみに他人に教えるものではなく,イナモル講師も,林サミコひとりにだけ伝授した。一子相伝の技と言えよう。


 講師「サミコさん,ついでと言ってはなんですが,わたしがこれまで改良してきた魔法陣をすべてサミコさんに示してあげます。1体につき10秒でいいなら,さほど時間はかかりませんからね」

 林サミコ「はい! ぜひお願いします」

 講師「でも,決して他人に教えてはいけませんよ。どれも,非常に貴重な魔法陣ですから」

 林サミコ「はい!しっかりと頭に叩き込みます」

 講師「では,示していきますね。まずは,転移魔法です。これは,普通の上級転移魔法陣です。でも,磁場嵐には弱く,転移失敗は死に繋がります。それを改良したのが,軍事転移魔法陣です。磁場嵐に強い転移魔法です。でも,起動に時間がかかります。それをさらに,改良したのが,この魔法陣,超高速転移魔法,別称,瞬間魔法ともいいます。この魔法陣は,もともと魔界の獣人族のある種族が開発してきたものです。縁あって,その魔法を教えていただきました。これが駆使できると,戦いには圧倒的に有利になります。

 次に,ゴーレム魔法陣です。これは単純な体の生成しかできません。この魔法陣に種々のサブ魔法陣を組み合わせて,複雑なゴーレムの体を生成していきます。霊体格納魔法陣,魔法因子抽出魔法陣,魔力貯蔵魔法陣,,,,」


 講師は,自分がこれまでの人生で改良・発明してきた魔法陣のすべてを林サミコに伝授していった。その意味では,イナモル講師は,文字通り,林サミコの師匠と云うに相応しかった。


 特に,ゴーレム関連の魔法陣では,サブ魔法陣が20体もあった。イナモル講師は,特にゴーレム分野において,造形が深いことがよくわかるものだ。


 隣の部屋では,幸千子が待ちくたびれて,ついつい仮眠してしまった。


 2時間後,,,


 やっと,講師と林サミコが幸千子のいる部屋に来た。


 講師「幸千子さん,すまん,すまん,ついつい学園の細かなルールまで説明していったら,思わず時間が大幅に過ぎてしまった」


 その声に,ウトウト状態から幸千子が目覚めた。


 幸千子「あっ,いえ,昨晩,たまたま睡眠不足でしたので,ちょうどいい仮眠タイムでした。ちょっと,冷えてしましましたが,コーヒーでも召し上がれ」

 講師「はい,わたしは,冷えたコーヒーのほうが好きなので,返ってありがたいです」


 そんな講師と幸千子の会話をしている時,林サミコの頭の中では,ゴーレムの魔法陣設計図が立体的に組み上がっていった。講師がゴーレムの基本魔法陣にサブ魔法陣を組み合わせるには,2次元ではなく,3次元で組み合わせるのが効率いいと説明を受けた。


 そこで,3次元で,林サミコ自身の魔法因子を抽出して,頭の中で20体もの魔法陣を構築していった。最後に残ったのが,霊体格納魔法陣に入れるべき霊体だ。それがない。


 已むなく,いまだしたことのない幽体離脱を無理やりすることにした。


 林サミコ「幸千子さん,すいませんが,わたしの額に,強力な掌打を放ってください」

 幸千子「え? 何? どうして?」

 林サミコ「ちょっと,死亡する疑似体験をしたいのです」

 幸千子「サミコ,あなた,バカだ,バカだ,と思っていたけど,ほんとうにバカね」


 パーン!


 幸千子が動こうとしないので,講師が,代わりの林サミコの額に掌打を放った。


 ダーン!


 林サミコは,完全に意識を失ってぶっ倒れた。しばらくして眼を覚ますと,案の定,掌打を受けた時に,霊体が少し,体とズレてしまい,霊体の抜け殻が現れた。彼女はすぐにそれを霊体格納魔法陣に収納した。


 林サミコは,ゴーレム基本魔法陣に,20体以上ものサブ魔法陣を頭の中で構築していった。


 実は,人間でそんなことは,ほとんどできるものはいない。せいぜい,4,5体の魔法陣を頭の中で構築するのが精一杯だ。そのため,機械仕掛けか,紙の図案を並べて,魔法石で魔力を流すなどの方法を用いるのが普通だ。


 林サミコは,それを頭の中で構築できた。


 魔力を流す段になって,今まで蓄えた魔力を使うと,すっからかんになってしまいそうだ。


 林サミコ『えーと,魔力,魔力,どこかで魔力が転がっていないかなぁ,,,あっ,幸千子の魔力があるーー』


 林サミコは,指の一本を針に変形して,自分の体を通して,地面に這わせて,幸千子の足から侵入していって,コッソリと魔力ベストに接触した。


 シューー!


 魔力ベストの魔力残量が,100%から,90%,80%,,,60%,,,50%になったところで,頭の中に浮かべた複合魔法陣が反応した。


 ボボボーボ!


 林サミコのとなりに,もうひとりの林サミコが出現した。全裸でDカップの胸だった。


 林サミコは,自分が背負っている小さいリュックから予備の服を取りだして複製体に着せた。常識で考えてもそんな服は小さいリュックには収らない。リュックから出す振りをして収納指輪から出したものだ。


 講師は,いとも簡単に林サミコが自分の複製ゴーレムを成形させてしまうとは思ってもみなかった。


 講師「サミコ君,もしかして,これって,サミコ君が構築生成したのか?」

 林サミコ「はい,師匠」

 講師「いくら魔法陣を覚えているといっても,同時に頭の中で正確にイメージできるのは,2,3体だけだぞ。それに,なによりも,その魔力,どこから持ってきたんだ?」

 林サミコ「へへへ,内緒です」

 講師「・・・」 


 講師は,林サミコは魔法の超天才だと思った。今度は,幸千子が質問した。


 幸千子「サミコ,このコピー体,どうしたの?」

 林サミコ「わたしの特殊能力が発動してしまいました。あまり気にしないでください。彼女の名前は,森タミコです。わたしの双子の妹です。ちょっと,姓を違うようにしました。混同しないように。フフフ」

 幸千子「・・・」


 林サミコは,念話で森タミコに命じた。


 林サミコ『タミコ,他の研究科にお邪魔して,生気と寿命エネルギーを吸収してきてちょうだい。お金もついでに稼いできてちょうだい』

 森タミコ『チェッ,どうしてそんなことしないといけないの?』

 林サミコ『タミコは,わたしの複製体なのよ! わたしの命令には従いなさい』

 森タミコ『イヤです! わたし,グータラして銀次と愛の生活をするために生まれました。あんたに命令されるために生まれたのではありません』


 森タミコの思いは,それ,すなわち,林サミコの思いだった。


 ここにきて,林サミコは,自分の霊体の抜け殻を使って複製体を作ったことに失敗したと思った。


 林サミコ『でも,タミコ,そうしないと,あなた,魔力切れで消滅してしまうわよ』

 森タミコ『・・・,それは困るわ』


 森タミコは,林サミコとほぼ同等の能力と記憶を持っている。その違いは,林タミコは,より感情的で,わがままで,誰の命令にも従わないというどうしようもない性格だ。


 森タミコ『でも,男どもの体内から魔力を吸収するのはいいかもね。じゃあね。サミコ,力を充分にを蓄えたら,銀次と逃避行するから,後はよろぴくー!』


 ガーーン!


 林サミコは,森タミコに銀次を奪われると思った。


 でも,すぐに,その考えを否定した。今の森タミコはDカップだ。銀次は森タミコを相手にしないだろうと思った。そう思うことで自分を慰めた。


 森タミコは,さっさとこの部屋から出ていった。


 講師は,林サミコに,もう一点,質問することがあった。


 講師「タミコ君の霊体は,どうやって確保したの?」

 林サミコ「頭を強打されたショックで,霊体の抜け殻がはみ出てしまいました。それを使いました」

 講師「なに? どうして,そんなことが出来る? そもそも霊体や抜け殻など,霊能力者の中でも,異能を発揮する特に優れた術者でもない限り,触ることさえ出来ないはずだ」

 林サミコ「ということは,わたし,異能を発揮する特に優れた霊能力者なんですか?」

 講師「・・・,そうは見えないが」

 

 林サミコは,銀次との愛の行為によって,『気』をある程度自由に扱うことができる。その気によって,無意識に霊体の抜け殻を捕獲移動することができたようだ。


 講師「ところで,タミコ君は,どこに行ったのかな?」

 林サミコ「さあ,,,でも,男たちから寿命を奪っていくと思います」

 講師「何?!」


 林サミコの予想は正解だった。森タミコは,他の研究科の教室に入り,10本の指を針に変えて,数メートルも伸ばして,10名の生徒の首に刺して,血から魔力を吸収するのと同時に,寿命エネルギーを20年分吸収していった。寿命エネルギーは,魔体のタミコにとって不要なものだが,一緒に吸収してしまう。


 講師は,林サミコと幸千子を連れて,林タミコを探しに行った。林タミコはすぐに見つかった。10人もの男たちの首にしっかりと針が突き刺さっていた。


 講師は,林サミコに聞いた。


 講師「あの針はなんだ?」

 林サミコ「あの針で魔力や寿命を吸収します。3分間で20年分の寿命を奪えます」

 講師「すぐに止めさせなさい」

 林サミコ「無理です。誰の命令も聞きません」

 講師「じゃあ,タミコ君を破壊していいか?」

 林サミコ「はい,構いません。タミコは失敗作です!」

 講師「了解した」


 講師は,中級レベルの三頭スクリュー氷結弾を連発した。その威力は,中級レベルを遙かに超えて,S級レベルに匹敵するものだ。


 バシュー,バシュー!ーー


 だが,その氷結弾は,森タミコの3メートル手前で速度を急激に落とした。森タミコは,なんなく手でその氷結弾に触って,魔力を吸収していった。何発もの氷結弾は微粒子になって消滅した。


 講師「何? 氷結弾が効果ない!」

 林サミコ「あの攻撃ではダメです。接触して爆発する爆裂弾が有効だと思います」

 講師「わかった!」


 講師は,S級爆裂弾の連弾を発射した。


 森タミコは,すぐに針を回収した。まさにS級爆裂弾が

彼女にヒットしようとするとき,彼女は,瞬間移動を発動した。


 ピューン!


 森タミコは,元いた場所から3メートルほど,真横に移動した。


 目標を失ったS級爆裂弾は,後方にある壁を破壊した。


 ドーン,ドーン,ドーン!ーー


 講師は,壁の破壊による粉塵を防御結界で防御するのと,同時に,森タミコの足元に広大な重力魔法を展開させた。数メートルの瞬間移動しても,重力場の範囲内だ。


 森タミコは自分の周囲に10倍時間遅延魔法を展開しつつ,重量魔法陣の核部分に両手を合わせた。そこから,重力魔法の魔力を吸収していった。


 それを見た林サミコは,講師にアドバイスした。


 林サミコ「講師!タミコは,重量魔法の魔力さえも吸収しようとしています! 今のうちに攻撃してください。多分,20秒もいない内に消滅してしまいます!」

 講師「よし! 今度こそ,爆裂弾攻撃だ!」


 講師は,5連発のS級爆裂弾を発射した! 実は,講師もこれが,自分の魔力量の限界だった。これで効果がないと,もう打つ手がない。


 5連発のS級爆裂弾は,森タミコが展開した時間遅延範囲内に入って,速度を急激に落とした。後は,その爆裂弾が先に彼女にヒットするか,もしくは,ヒットする前に,重力魔法を解除して瞬間移動で逃げるかの勝負だ。


 その勝負は,森タミコの勝ちだった。S級爆裂弾が彼女のヒットするよりも先に,重力魔法陣が消滅した。その直後,彼女はその場から消えて,講師の目の前に現れた。


 バシュー!バシュー!バシュー!ーー


 森タミコの右手の指5本すべてが鋭利な針状に変化して,講師の左胸を貫いた。心臓部分だ!


 ゴホーー!

 

 講師の口から,血しぶきが溢れた。森タミコは,その血しぶきを避けるかのように,また瞬間移動して,数メートル先に移動した。


 ドーン,ドーン,ドーン!ーー!


 講師の放ったS級爆裂弾が,目標を失って,元いた森タミコの背後の壁を破壊した。


 その破壊力で,天井が崩れてきた。

 

 ゴゴゴーーー!!


 林サミコも幸千子も,慌てて逃げ出した。この部屋にいた10名の研究生は,すでに意識を失っていたが,彼らは皆,倒壊した瓦礫の下敷きになってしまった。


 崩壊が止んだ。


 周囲から学園側のスタッフや他の研究生らが集まってきた。急ぎ,救急車や警察を呼んだものの,すぐに来るはずもない。


 林サミコは,倒壊した場所に戻った。自分で移動できる瓦礫を避けると,講師の左手と頭部分が少し見えた。でも,死亡していた。


 林サミコは,左手にしてある収納指輪をとりはずして,すぐに右手の人差し指にはめた。これは,癖だ。どうしても,そのような行動に出てしまう。


 林サミコは,このまま去ろうと思った。でも,講師の霊体は,まだ頭の中に存在していると思った。

 

 林サミコ『もしかしたら,講師の霊体を自分の体に取り込めるのではないか』


 彼女は,『気』を駆使すれば,その気の流れに沿って,霊体を自分の体内に収納できると思い,両手を講師の頭に接触させて,気を流した。その気は,講師の頭部を覆い,頭部の中のものを,腕を経由して,自分の頭の中に流れ込むイメージをした。


 彼女は,頭の中に,もう一体,別の霊体の存在を感じた。


 林サミコ『もしかして,成功したの? だったら,この講師の体から,魔力因子を抽出して,講師の魔体ゴーレムを構築できるかもしれない』


 林サミコは,感じている別の霊体を,霊体格納魔法陣に収納させて,抽出した講師の魔法因子を元に,ゴーレム基本魔法陣を構築して,さらに20体のサブ魔法陣を3次元的に構築した。


 そして,当然のように,指を針に変えて,地を這わして,地面に這いつくばっている幸千子の足元から,気づかれないように,魔力ベストに接触した。


 魔力ベストの魔力残量数値は,50%から40%,30%,,,10%,5%と減っていった。


 その時,林サミコの頭の中で構築した魔体ゴーレムの複合魔法陣が発動した。


 ボシューー!


 林サミコの手の平に,かわいいコブラの赤ちゃんが出現した。講師は,コブラ魔獣族だった。そのコブラは,林サミコに念話した。


 コブラ『サミコ君,わたしだ。講師だ。幸い,サミコ君が魔体ゴーレムを発動してくれて助かった。これほど嬉しいことはない。このお礼は,きっとする。しばらく,サミコ君のそばにいさせてほしい。胸の谷間には,カメレオンちゃんがいるようなので,彼の邪魔にならないように,乳房の周囲に纏わり付くようにする』

 林サミコ『はい,師匠,どうぞ,胸の谷間から入って,乳房に纏わり付いてください。母乳も出ますので,吸ってください』

 コブラ『フフフ,わたしは魔体だ。母乳は必要ない。でも,サミコ君の母乳に魔力が含まれているかもしれん。一度,母乳を飲んでみよう』


 そんなことをしているとは思わない周囲の人は,また天井が崩れて倒壊するかもしれないと思って,林サミコを,建物から引き離した。


 近くにいた幸千子は,魔力ベストがほとんど反応しないので, 側面についている魔力残量の数字を見た。そこには,5%と表示してあった。


 幸千子「ええーー? このベスト,今日,新しく着てきたものよ。100%のフルだったのよー! いつの間に5%になってしまったの?? 5千万円が,,,5千万円が,,,また消えてしまった。わーーん!わーーん!当主に怒られるー!」

 

 幸千子は,その場に泣き崩れてしまった。

 

 林サミコは,森タミコを探した。案の定,付近にはいなかった。森タミコは,とっくの昔にこの学園から去ったのだろう。


 その後,消防車やレスキュー隊,警察などが来た。瓦礫の下敷きになっている生徒が生きている可能性もあるので,必死の救助活動が行われた。


 不幸中の幸いだったのは,森タミコに針で気絶させられた生徒は皆,机に座っていた状態で気絶させられた。そのため,倒れた時に床面に倒れたので,天井から崩れ落ちた瓦礫は,机などに遮られて生徒への直撃を免れた。


 10名の生徒全員が無事に救出された。


 だけど,魔法の講師1名の死亡が確認された。遺体の損傷が激しく,直接の死因までは特定されなかった。


 救出された10名は,林サミコが教室に入って来たのは記憶にあるが,その後のことは,まったく記憶になかった。


 林サミコに事情を聞くも,講師と一緒に研究科に入ったが,急に壁や天井が崩れて,講師が下敷きになったと説明した。


 幸千子は,まったく状況がわからないというだけだった。


 残念なことに,施設内には,監視カメラはないので,当時の状況を知る方法はなかった。


 結局,原因不明の不慮の事故ということで処理された。それに,生徒に死傷者が出なかったことで,父兄からの追求がなかったことも大きい。ただし,生徒が20歳も年齢を加えたという事実は,知られることはなかった。                                                                      

 

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