第9話 キサラギ財閥

 如月幸千子,キサラギ財閥の長女,17歳。見合いは早いものの,友人のたっての依頼で,已むなく引き受けた次第だ。もちろん,結婚などまだしたくもない。林サミコが乱入して,見合いをぶち壊したのは,彼女にとって決して悪いことではない。


 リムジンタイプの車内で,林サミコは,黒服に挟まれていた。助手席に如月幸千子がいた。


 林サミコは,車内では寡黙だった。もう騒ぐ必要もない。警察にさえ連れていかなければOKだ。


 如月幸千子は,林サミコに素性を聞いた。


 幸千子「あなた,どうしてそんなことしたの?」


 林サミコ「すいません,,,実は,,,自殺しようとして,失敗してしまい,,,自暴自棄になって,,,こんなことを,,,」

 幸千子「名前は? 学校は?」

 林サミコ「林サミコっていいます。東都の鍼灸マッサージ専門学校の生徒です。でも,,,親から仕送り止められて,マンションにも住めなくなって,専門学校の授業料も払えなくなって, 恋人にも捨てられて,,,クスン,,,」

 幸千子「身分証はある?」

 

 林サミコは,背負っている小さいリュックから専門学校の身分証を彼女に示した。

 

 幸千子「身分だけはほんとうのようね」

 林サミコ「あの,わたし,もう住むところがありません。お嬢様のところで雇っていただけませんか? 何でもします!娼婦でも,,,いや,娼婦は無理ですが,裸踊りでも何でもします」

 幸千子「じゃあ,今,あなた,今,ここでこいつらに犯されない」

 林サミコ「でも,,,わたし,異常体質で,わたしの母乳に触る人は,あそこがおかしくなって破裂してしまうんです。だから,娼婦はしたくてもできないんです。女性は触っても影響ありません」

 幸千子「ふん,うそばっかし」

 林サミコ「ほんとうです。母乳の100倍希釈液をあの部分につければわかります」

 

 果たして,実際に試してみると,黒服のあの部分が膨れてしまい,激痛が走った。幸い,その症状は5分程度で収った。もし,原液だったら,大変な状況になるのは目に見えていた。


 幸千子「なるほど,,,ほんとうに異常体質ね。だったら,あなたには,もう用はないわ。ここで降りてちょうだい。さっさ消えてちょうだい」

 

 林サミコは,ここで引き下がることはできない。


 林サミコ「わたし,,,お嬢様のためなら,人殺しでもできます。完全犯罪をすることだってできます! だから,お嬢様!ぜひ雇ってください!お嬢様のところで雇ってください」


 幸千子「はぁ? 人殺し? 完全犯罪? ほんとうにできるの?」

 林サミコ「はい,できます! 自信があります! まだしたことありませんけど,,,」


 林サミコは,実績があると言いたかったが,殺人がバレるとまずいと思ってウソをついた。


 幸千子「どうやって完全犯罪するの?」

 林サミコ「わたし,ターゲットを眠らせることができます。お嬢様を眠らせたように。あとは,そのまま人の来ない場所に放置すればいいだけです。例えば,,,そうですね,,,大型冷蔵庫の中とかですかね?」

 幸千子「眠らせるって,どうするの?」

 林サミコ「それは秘密です」

 幸千子「言わないと採用しないわよ」

 

 林サミコは,リュックから専門学校で使う針セットのケースを取りだして,針を見せた。


 林サミコ「人間には,いくつかツボがあります。気絶させるツボ,性欲を高めるツボ,行動を停止させるツボ,言葉を喋れなくするツボ,などなどです。そこを刺激させるだけです。お嬢様の場合,首にある気絶させるツボを刺激しました」

 幸千子「じゃあ,黒服を使って実演しなさい」


 林サミコは,黒服に上半身裸になってもらった。だが,変なベストは脱がないと言い張った。


 林サミコは,そのベストに触ってみると,魔力が自分の体内に吸収されるのを感じた。


 林サミコ『ご主人様! これって,例の魔力ベストです! 魔装部隊が着ていたやつです』

 ザビル『これが魔力ベストか。サミコ,魔力をすべて体内に吸収しろ!俺を産んだ今のサミコなら,いくらでも吸収できるはずだ』

 林サミコ『ご主人様,了解です!』


 林サミコは,魔力ベスト触って魔力を吸収しつつ,鍼灸針で硬直ツボを刺激していった。さらに,言葉を喋れなくするツボも刺激した。その際,その効果を高めるため,そのイメージを極小の微粒子に閉じこめたイメージで,それを鍼灸針を通して注入させた。


 林サミコは,左右2名の黒服から施術を終了し,かつ,2着の魔力ベストから膨大な魔力をすべて吸収した。


 幸千子は,黒服に命じた。


 幸千子「さっさと体を動かしなさい! 何かしゃべりなさい!」

 黒服A「・・・,うーーいーー」

 黒服B「・・・,あぁーーー,,うぅーー」


 幸千子は,黒服の様子を見て,林サミコの施術が,かなり強力なものだとわかった。


 幸千子「わかったわ。もう解除してちょうだい」


 林サミコは,解除方法が分からなかったが,注入したイメージの微粒子を消滅させればいいと思った。


 そのとき!


 ダーーン! ダーーン!


 林サミコたちの乗っている車のタイヤに穴が空いて,ハンドル操作ができず,道路脇の電柱に激突した。


 ボーン!


 燃料タンクに着火するのを恐れた幸千子は叫んだ。


 幸千子「早く車から降りなさい!」


 そう言われて行動できたのは,林サミコだけだった。運転手はエアバックの衝撃が強くて気絶した。黒服2名は硬直状態で身動きできない。


 車から出てきたのは,幸千子と林サミコのふたりだけだけだった。


 フードを被った男は,ゆっくりと彼女らに近づいた。その接近に,幸千子も林サミコも気がついた。


 その男は,手を掲げて初級氷結弾を彼女らに向けて発射した。しかも連射攻撃だ。


 シュー!シュー!ーー


 その氷結弾は,まさに幸千子と林サミコにヒットしようとする時,幸千子は林サミコを抱いて,自分の周囲に防御結界を構築した。


 ダン!ダン!ーー


 S級暗殺者「なるほど,どうしてS級のわたしが呼ばれたのか,やっとわかった。ターゲットは魔法使いだったのか。でも,これで遠慮無く最大の魔法攻撃ができる」


 S級暗殺者「S級氷結弾,氷の舞い!!」


 美しい氷結魔法陣が出現して,ギンギンに先端が光った氷結弾が精製された。


 ピッキュー-ン!


 それを見た幸千子は,自分の着ている魔力ベストの魔力をすべて投入して5重もの防御結界を構築した。


 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!


 その5重の防御結界は,すべて破壊されて,幸千子の背中に突き刺さった。


 幸千子は,自分が抱いている林サミコに,意識を失う前に小声で言った。


 幸千子「サミコ,ごめん,道連れにして」


 幸千子は,その場で意識を失って地に倒れた。林サミコの姿がS級暗殺者の前に出現した。


 S級暗殺者「ふん,たわいもない。もうひとり,無傷の巨乳チビがいるな。そいつも氷結弾の餌食だ!」


 S級暗殺者「S級氷結弾,氷の舞い! 二ノ太刀!三ノ太刀!」


 ピッキュー-ン!ピッキュー-ン!

 

 2連発のS級氷結弾が林サミコを襲った。


 ザビル『サミコ! 楽々殺しのテクニックNo.10を発動せよ!』

 林サミコ『はい!ご主人様! 了解でーす!』


 楽々殺しのテクニックNo.10,それは,防御結界を発動して,周囲に散らばった魔力を吸収する技だ。


 しかし,,,


 バフゥーー!


 林サミコを中心にして半径3メートルの範囲内で,林サミコ以外のすべてのものが,10倍の時間遅延を引き起こした。2発のS級氷結弾もゆっくりとした速度で林サミコに向かっていた。彼女は,その氷結弾に手を触れることで,そこから魔力を吸収した。氷結弾は粒子状となって消滅した。


 林サミコ『ご主人様,また魔力が貯まってきました』

 ザビル『サミコ,お前,時間遅延魔法を周囲に展開したのか?』

 林サミコ『実は,防御結界を構築しようとしたら,遅延魔法になってしまいました』

 ザビル『体内の時間を遅延させることはできても,自分の周囲にまで拡大させるなど,聞いたこともない。それって,とんでもない能力だぞ』

 林サミコ『え? それって,すごいことなんですか?』


 林サミコにとって,すでに防御結界の魔法は,どうしてか,すべて時間遅延魔法に変化してしまった


 一方,S級暗殺者は,自慢のS級氷結弾の2連射が,まったく効果なく,かつ,防御結界も構築しないで消滅したことに驚いた。これでは,どうやって,彼女を殺せばいいのかまったくわからん。


 いや,魔法がダメなら,この強靱な魔体がある。常人の10倍に強化された,超強力な魔体だ。

 

 彼は,自己最高の10倍速で移動して,林サミコに強烈なキックを食らわした。

 

 ドーン!

 

 林サミコは,数メートルほど吹き飛ばされた。


 でも,彼は,自分の攻撃があまり効果ないことを知った。ヒットする直前で威力を殺された感じがした。彼は,林サミコの体に跨がって,彼女の憎たらしい巨乳を拳でパンチを殴る行動に出た。


 S級暗殺者「この!あばずれ! 巨乳しやがって! どれだけ男どもに犯されてきたんだ! 俺なんか,1度も経験ないっていうのに!! くそっ!くそっ! くそっ!」


 パン!パン!パン!ーーー(巨乳が殴られる音)


 胸の谷間に隠れていたザビルは,いち早く,林サミコの頭頂に非難した。


 S級暗殺者の稼働時間は30分。魔力を使い過ぎると,それだけ早く消滅する。でも,彼は,今,肉体だけで行動しているので,20分以上もの稼働時間があるはずだった。


 だが,,,30秒後,,,


 S級暗殺者「あれ? 魔力切れか? なぜ? えーー?」


 S級暗殺者は,林サミコに跨がったまま,粒子状になって消滅した。


 彼の最大の失敗,それは,彼女に接触して攻撃したことだ。ザビルはまた谷間に戻って林サミコに念話した。


 ザビル『サミコ,お前,どうやって彼から魔力を吸収したんだ? 手では触っていなかったぞ?』

 林サミコ『指を針に変えて,暗殺者に見えないように,背後から彼の体に注入しました。フフフ,彼の魔力をすべて吸収しました。S級攻撃魔法30発分程度の魔力です』

 ザビル『・・・,サミコ,もうひとつ聞く。あれだけ強烈なキックを受けてもぜんぜん効果なかったのはどうしてだ?』

 林サミコ『はい,遅延魔法の応用です。自分の周囲3cmだけに10倍の遅延魔法を展開しただけです。暗殺者が10倍速で移動したって,通常の攻撃になります。それなら,わたしの下手くそな『気の防御』でも充分に対応できました』

 ザビル『・・・,サミコ,お前,,,時間魔法でそんな細かな制御までできるのか?! そのまま能力を開発していったら,,,』

 林サミコ『え?何かまずいのですか?』

 ザビル『いや,,,もしかしたら,とんでもないことになってしまうかも,,,でも,今はいい。それより幸千子のケガを治してやれ。下手な回復魔法でも,しないよりはましだ』

 林サミコ『はい,ご主人様』

 

 彼女は,幸千子のそばに来て,背中に回復魔法を展開した。背中の傷がだいたい治ったところで,幸千子は意識を取り戻した。


 幸千子「え? わたし,,,気絶していたの? あの暗殺者は?」

 林サミコ「彼,どうしたわけか,その後,消滅してしまいました」

 

 幸千子は,明らかにウソだと思った。でも,この場を収拾させるため,電話で屋敷に控えている黒服たちを呼び寄せた。


 10分ほどして,車3台ほどが来て,現場の収拾を行った。


 幸千子は,林佐美子を連れて,他の車で屋敷に向かった。



 ・・・

 ー キサラギ財閥,如月邸 ー

 

 キサラギ財閥は,月本国では,さほど有名ではない。それでも,財閥のトップ30番の中には入るほどの影響力を持つ。


 現在,当主は隠居していて,全権を彼の右腕である孔坂羽左衛門が仕切っている。次期当主である如月幸千子が25歳になると,その座を譲り渡すことになっている。今から8年先のことだ。


 幸千子が林サミコを連れて,当主の書斎に来た。今回の事件の報告のためだ。


 孔坂羽左衛門の左右には,黒服がひとりずつ立っている。みるからに,やり手の護衛者だ。


 幸千子「当主,今回は,危うく命を落としそうになりました。後ろに控えている林サミコが言うには,相手はなぜか自然消滅したらしく,わたしが気絶した後,攻撃をしなかったそうです」


 当主「ほう,ほんとうにそうかな? 車体後部に設置したドライブレコーダーでは,そのようには見えなかったが?」


 当主は,手元にある映像データを,部屋の壁一面に映した。その映像では,暗殺者が,2発のS級氷結弾を林サミコに放ったものの,彼女によって微粒子に変えられてしまった。暗殺者は,魔法攻撃では倒せないと判断,10倍速で彼女を襲った。彼は,彼女に跨がって巨乳をボンボンと何度も叩いた。しかし,30秒もしないで彼は微粒子となって消滅しった。その後,彼女は幸千子に回復魔法を発動させた。


 幸千子「ええーー,こんなことがあったの? サミコ! あなた,いったい,誰なの?」

 林サミコ「え? あの,,,わたし,,林サミコです,,,」

 

 当主は,葉巻に火をつけて,パフッと一服吸った。


 当主「幸千子,あの暗殺者の心当たりはあるのかな?」

 幸千子「はい,最近,ちまたで評判になっている俗称『10分暗殺者』だと思います。その中でも,最強レベルの暗殺者ではないでしょうか?」

 当主「わたしもそう思う。わたしのスパイからの情報でも,先日,魔装軍隊の二影と銀次が,その暗殺者に2回も襲われたそうだ。最初は,初級暗殺者,2回目は上級暗殺者レベルだそうだ。


 フフフ,もっとも,つい最近,入った情報では,その銀次って男,魔装軍隊の女子寮に女装して忍び込んだらしい。でも,クララという女性がその情報をリークして捕まったそうだ。


 銀次って男も,あまりに女性を信用しすぎるようだ。


 幸千子,お前も,女性には気をつけることだ。特に,その女性,林サミコにはな」


 幸千子「ええー?」


 幸千子は,改めて林サミコを凝視した。


 黒服の男たちは,臨戦態勢を敷いた。


 林サミコ『ご主人様! どうしましょう?』

 ザビル『動くな。当主には殺す気はない!』

 林サミコ『はい,わかりました,ご主人様』


 当主は,さらに一服した後,言葉を発した。


 当主「林サミコ君,まずは,幸千子を守ってくれたことに感謝申し上げる。この通りだ」


 当主は,林サミコに頭を下げた。


 林サミコ「当主様,そんなそんな,恐れ多い。自分の命を守るためにしただけですから,お礼を言われるほどのことはしていません」

 当主「この借りは,いずれ返させてもらう。ところで,サミコ君,あなた,人間だね? 魔獣族ではないね。でも,不思議だ。どうして,そんなに魔法がうまいのかな? それって,いくら魔力ベストを使って訓練しても身につくようなものではない。うーーん,よくわからん」


 この時,当主の頭の中に念話が聞こえた。それは,ザビルが当主に念話したものだ。


 ザビル『デリブラ長老,お久しぶりです。わたくし,あなたの15番目の息子,ザビルです。わけあって,暗殺執行に失敗してしまいました。幸い,近くに林サミコがいましたので,彼女の体を借りて転生しました。今,姿を見せます』


 ガタッ!


 当主は,思わず,椅子から立ち上がった。


 林サミコの胸の胸の谷間から,保護色のザビルが姿を現わした。だが,その姿を目視できるのは,オーラが見える林サミコ以外には,当主だけだった。


 当主,彼は,その実,魔獣族10大長老のひとり,カメレオン魔獣族のデリブラ長老だった。


 当主「なんと,,,転生の術を使ったのか?!」


 当主は,幸千子と2名の黒服に命じた。


 当主「幸千子,それと,お前たちも,しばらくこの場を離れてくれ。サミコ君は,わたしに危害を加えない。わたしの義理の妻になる女性だ」


 幸千子「ええーー!! 義理の妻? それって,どういう意味ですか?」

 当主「後で説明する。さっさと去れ! お前たちもだ」


 幸千子と2名の黒服は,書斎から去った。


 ーーー

 当主とザビルを肩に乗せた林サミコは,ソファに移動した。


 当主「ザビル,よくぞ転生してくれた。サミコ君もわたしの息子を助けてくれてほんとうに感謝する。

 正直言うと,われわれ魔獣族にとって,親子の情はほとんどない。でも,わたしは人間社会に長年馴染んでしまった。

 ついつい,自分の息子,娘たちのことを思い出してしまう。厳しい事業展開をしていると,ときどきは,気持ちの安らぎを求める。そんな時,自分の本当の息子や娘がそばに居ればよかったのにと思うこともある。

 でも,まさか,こんな形で,自分の息子と再会するとは思わなかった。嬉しいハプニングだ。ここに来てくれて,ほんとうにありがとう」


 当主の眼から,少し,涙がこぼれた。


 当主「それはそうと,サミコ君の能力を説明してくれないか?どうして,そんな異能を身につけたんだ?」

 

 ザビル「はい,わたしも,ちょっと,びっくりしたのですが,,,」


 ザビルは,これまでの経緯を詳細に説明していった。


 当主「なんと,サミコ君は,あの10分暗殺者によって,自分の暗殺の仕事を奪われてしまったのか?! そのため,住むところも,お金もなくなり,専門学校まで辞めるはめになり,追い打ちをかけるように,恋人の銀次にも逃げられた,,,

 

 それにしても,こう言っては申し訳ないが,サミコ君の自殺の仕方がなんともアホっぽいな。


 自分の首に針を打ち込んで,,,しかも,寿命エネルギーを奪おうと,,,でも,それが,カメレオン魔獣族の未発現の魔法因子を活性化して,サミコ君の体に影響を与えたのかもしれん。フフフ,これは面白くなってきた」


 ザビル「? 面白くなってきたって,何がですか?」

 当主「サミコ君が,このまま覚醒していけば,時間を思いのままに制御できる化け物になるかもしれん。

 サミコ君は,ザビルの命令には絶対服従なのかな?」


 林サミコ「はい,ご主人様は絶対です」

 ザビル「わたしは,サミコの夢を実現させるために動きます。

 彼女は銀次との甘い生活を夢見ています。銀次に彼女のそばにいてもらうため,血を提供するための奴隷,さらに豪華な住居の用意が必要です。

 わたしは,それを実現する手助けをします。それに,これは,わたし個人の思いですが,彼女を自殺に追いやったあの10分暗殺者の経営者を突き止めて,ギャフンと言わせてやりたいと思っています」


 当主「なるほど,,,」


 当主は,林サミコに聞いた。


 当主「サミコ君,今,銀次は,軍隊の牢獄に捕らえられている。助けたいとは思わないか?」

 林サミコ「はい,,,もちろん助けたいです。でも,いい気味だとも思っています。わたしというものがありながら,二影さんと浮気して,しかも,他の女性にまで手籠めにしようなんて,なんて浮気症なやつ!」

 

 当主「ハハハ。実は,内緒だが,魔装軍隊の中に,わたしのスパイがいる。彼女を通して,銀次君に言づけをすることもできる」

 林サミコ「え? どう言う意味ですか?」

 当主「例えば,サミコ君が銀次を牢獄から救ってあげる。その代わり,銀次君は,今後,林サミコ君以外の女性とはエッチしないと約束させる。どうかね? いいと思わないかね?」


 この話に,林サミコの眼が輝いた。


 林サミコ「それって,すごくいいです! 最高です!」

 当主「フフフ,でも,そう簡単ではないよ。でも,わたしが協力してあげれば,サミコ君でも銀次を脱獄してあげれる。どうかな?」


 林サミコは,ちょっとイヤな顔をした。


 林サミコ「それって,代わりにわたしに他の仕事をさせるって事ですよね」

 当主「察しがいいね。その通り。でも,きっと,面白い世界が見れると思うよ」


 林サミコは,ザビルに伺いをたてた。


 林サミコ「ご主人様,その依頼受けてもいいですか?」

 ザビル「もちろんだ。それがサミコの願いなんだろう?わたしの願いは,サミコが幸せになってもらうことだ」

 林サミコ「ありがとうございます!ご主人様!」


 林サミコは当主に返事した。 


 林サミコ「当主様,その条件でよろしくお願いします」

 当主「そのためには,サミコ君の能力をさらに開発する必要がある」

 林サミコ「あの,,,わたし,訓練とか嫌いなんですけど,,,走るのとか,腕立て伏せとか,,,超苦手なんですけど」


 当主「ハハハ,なるほど。でも,双修は好きなんだろ?」

 林サミコ「・・・,今は,ご主人様の指示で動いています」

 当主「では,ザビルがあなたと双修するのは,当然いいのだろう?」

 林サミコ「はい,当然です!」

 当主「なら,問題ない」

 ザビル「でも,わたし,まだ生後1ヶ月の体です。とても双修ができるような体ではありません」

 当主「ならば,わたしの体を使いなさい。お互い,親子なんだから,霊体交換しても,2時間くらいは持続するはずだ。どうかな?」

 ザビル「え?その体,貸していただけるのですか?」

 当主「無論だ。双修の効果もかなり期待できると思う」

 ザビル「それは,願ってもないことです。サミコの能力は飛躍的に上がると思います」


 当主「ならば,契約成立だな。双修の期間は1週間。その後,サミコ君の能力の状況をみて,銀次の救出作戦を行う。下準備は任せておきなさい」

 林サミコ「当主様,よろしくお願いします」

 ザビル「わたしからも,お礼申し上げます」


 ーーー

 打ち合わせが済んで,幸千子や黒服が部屋に入ってきた。


 幸千子「当主,もうそろそろ,林サミコの素性を教えてもらってもいいですか?」

 当主「先ほどは,義理の妻と言ったが,訂正する。しばらくの間,わたしの愛人になってもらう」

 幸千子「ええーー?!」


 幸千子は,「ええーー?!」ばっかりだ。


 当主「当面は,わたしの寝室で寝泊まりしてもらう。幸千子,お前には,2件の重要な任務を与える」

 幸千子「なんでしょうか?」

 当主「一点目は,銀次に関する情報を,なんでもいいから集めること。特に現在の状況だ。どこに収監されているのかも知りたい。

 2点目は,10分暗殺者の経営者を突き止めること。警察もやっきになって探しているはずだ。警察よりも早くコンタクトしたい。期限は1週間以内だ。できるかな?」


 幸千子「私立探偵を雇うくらいしか,アイデアがありませんが」

 当主「・・・,まあ,お前なら,その程度しか思いつかないか,,,幸千子は,いずれ,この財閥の当主となる。でも,すべて他人任せにしては,すぐに失脚してしまうぞ。幸千子の親戚だって,当主の座を狙っている。権謀術数に長けないと,生きていけないぞ」

 幸千子「でも,どうすればいいのですか?」

 当主「そうだな,,,サミコ君に相談するといい」

 幸千子「え? サミコに?」


 当主「そうだ。サミコ君は2重人格者だ。サミコという人格のほかに,ザビルという人格が存在する。そのザビルに伺いを立ててみなさい。いいアドバイスが聞けるかもしれん」

 幸千子「・・・,ザビルですね? わかりました。では,サミコを日中,わたしと行動を共にしていいですか?学園にも一緒に通ってもらってもいいですか?」

 当主「わたしは構わない。サミコ君次第だ。サミコ君,幸千子と一緒に学園に通ってもいいかな?」

 

 サミコは,ザビルに伺いを立てた。


 林サミコ『ご主人様,どうしましょう?』

 ザビル『では,一緒に学園に行きなさい。気分転換になかもしれん。それに,気にくわない男がいたら,寿命を奪ってしまいなさい』

 林サミコ『フフフ,了解しました,ご主人様』


 林サミコ「当主様,では,幸千子様のお供をさせていただきます」

 当主「そうか,よかった。もし,幸千子から,何か質問があったら,ザビルに問い合わせしてほしい」

 林サミコ「当主様,了解しました。そのように取り計らいます」

 幸千子「よかったわ。では,明日,7時半に,正面玄関に集合よ。メイド服を着用してくださいね? サミコは,わたしのメイドとして学園に通ってもらいます」

 林サミコ「幸千子様,了解しました」


 幸千子は,ザビルという相談役を手に入れた。


 

 ーーー

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