第8話 向居貴久見

 林サミコは,向居貴久見に連れられて,彼のアパートに来た。


 林サミコは,半年間,彼の性奴隷になる約束だ。でも,お腹の子のことや,母乳の影響などを考えると,現実的ではないと思った。


 彼としても,どうやって母乳の影響を回避したらいいか,あれこれ考えた。


 向居貴久見「サミコ,母乳の希釈液を徐々に濃くしていけば,そのうち,耐性ができるんじゃないか?」

 林サミコ「はい,できると思います,ご主人様」


 向居貴久見「よし,まずは,食事だ。サミコ,夕食を作れ」

 林サミコ「はい,カップ麺はどこにありますか?」

 向居貴久見「はぁ? お前,バカか? なんで夕飯がカップ麺なんだ?」

 林サミコ「はい,ご主人様,では,ポンカレーはどこになりますか?」

 向居貴久見「お前,夕食は,すべてカップ麺かポンカレーなのか?」

 林サミコ「はい,ご主人様」 

 向居貴久見「・・・」


 結局,彼が野菜豊富なカレーを作って,ご飯も炊いた。


 向居貴久見「カレーはうまいか?」

 林サミコ「このカレー,超うまいです。ご主人様は,料理の天才ですね。医療方面よりも料理方面の専門学校行ったらいいんじゃないですか?」

 向居貴久見「仕事で料理するのは好きじゃない。それに供与方面も良くないし,ブラック企業が多いと聞く」

 林サミコ「へえ,ご主人様は物知りなんですね」

 向居貴久見「ふん」


 向居貴久見は,食後のデザートも佐美子のために準備した。


 林サミコ「このヨーグルトとジャムの組み合わせ,凄くいいです。ご主人様は,毎日,こんな贅沢しているんですか?」

 向居貴久見「はぁ? 贅沢? お前は,毎日,何を食べていたんだ?」

 林サミコ「え? あの,,,カップ麺かポンカレー」

 向居貴久見「これから,子供産むんだろ? 食事バランスは大事だ」

 林サミコ「はい,ご主人様!」

 

 向居貴久見「食器を洗うことや,後片付けくらいできるだろう?」

 林サミコ「えーーと,したことないですけど,でも,たぶん,できると思います」


 ガチャーン!ーー (食器が割れる音)


 向居貴久見「もういい! のろまのサミコ! もう何もするな。かえって仕事が増える!」


 彼は,林サミコをアパートに連れてきても,何もいいことがなかった。余計な扶養者が一人増えただけだ。しかも,母乳の影響で,枕を並べて寝ることもできない。


 でも,彼は,なんとか正常に抱ける日を夢見て,母乳の50倍希釈液を,あの部分に1滴垂らすことから始めた。


 初日は,1滴垂らすのを数回繰りかえした。2日目は数滴垂らして,数回繰りかえした。3日目には25倍希釈液,4日目には10倍希釈液,5日目には,5倍希釈液,,,

 

 1週間後,彼のあの部分は,反応しない状態でも2倍ほど大きくなった。造精器官も数倍の大きくなった。

 

 向居貴久見は,禁欲の1週間が過ぎたと思った。やっと,林サミコを抱ける時が来た。彼女を性奴隷にできる時がきた。


 彼が林サミコを抱こうという時,彼女の『針』が彼の首筋に刺さった。


 彼は,夢の中で林サミコを半年も前から性奴隷にしてきた。そして,今日が最終日という認識を植え付けられた。


 針が1本なので,彼の寿命は1年程度しか奪われなかった。


 彼は,夢から覚めた。


 向居貴久見「サミコ,今日でお別れなんだな。なんか,とても寂しい気がする」

 林サミコ「ご主人様,サミコもとっても寂しいです。ご主人様の料理,とてもおいしかったです。この半年間,とてもよくしていただきました。ありがとうございました」

 

 彼は,財布から数万円出して,サミコに渡した。

 

 向居貴久見「これは,少ないけど選別だ。もっていけ」

 林サミコ「ご主人様,すいません,ありがとうございます。なんか,情が移ってしまいました。あの,,,なんかあったら,またここに来てもいいですか?」

 向居貴久見「いつでもいいから来てくれ。仮にほかの女子がいても,サミコを優先する」

 林サミコ「はい!ご主人様!」


 でも,向居貴久見にとって,それはリップサービスだった。やっと,林サミコを追いやることができる。せいせいした気分だ。


 彼が植え付けられた半年間の性奴隷の記憶,,,,


 それは,希釈し母乳をだんだん濃くしていっても,2倍希釈のところで,あの部分に激痛が走ってしまい,それ以上,どうしようもない状況になった。


 せめて,彼女の口で性的要求を満足しようとしたものの,口にも母乳の影響があって,彼のあの部分を破壊の一歩手前に追いやった。彼は,彼女の他の部位に触ることも諦めた。万一のことがあっては目も当てられない。


 だから,面倒みきれないので,出て行けと命じたものの,林サミコは,出て行く場所がない。


 彼の足にしがみついて,『ご主人様ーー! 捨てないでください!半年面倒みるって約束じゃないですか!ご主人さまーー!』と玄関の前で泣き叫ぶ始末だ。近所の人も顔を出してくるし,已むなく,彼女を部屋の中に入れた。


 そんなことを何度か繰りかえして,厚顔無恥にも彼女は,彼のアパートで,何もすることなく,彼が作る美味しい料理を満喫する半年間だった。


 林サミコが精神支配する内容にしては,あまりにリアルだ。それもそのはず。もともと精神支配するのは,せいぜい1週間が限界だ。それを半年もするなど不可能だ。


 でも,彼女は,相手の思いをできるだけ夢に反映させることで,半年間の精神支配を可能にした。それは,すでに精神支配と呼べるものではなく,もし,半年一緒に生活したら,こうなっていただろうという,現実にかぎりなく近い内容だった。



 ===

 上級暗殺者に襲われて,S級火炎攻撃を受けた銀次は,その隙を狙って,標的魔法陣を使って,ルリカのもとに転移した。二影から高濃度の魔力を含む血を吸ったお陰で,充分な魔力があった。


 林サミコの部屋には,ルリカとクララがいた。林サミコはいなかった。ルリカは,ズーッと寝ている。本能的に乳首を与えると母乳はいくらでも吸う。


 銀次が転移で戻った時も,クララが5kgにもなる乳房を搾ってルリカに母乳を与えているところだった。


 銀次「クララさん,その,,,もう片方の乳首,吸ってもいいかな?」

 

 この要求に,クララは同意した。ちょうど張っていたし,リルカはもう母乳の飲み過ぎ状態になっていた。


 銀次は,邪魔なリルカを脇において,クララの乳首を吸った。後は,もう行くところまでいくしかない。


 それから,盛りのついた動物のように,1週間,飲まず食わずで延々と一時も肌を離さない状況となった。


 クララ「でも,どうして食事も水も飲まないのに,こんなに平気なんでしょう?毎日,大量に銀次さんに自分の血を与えているのに,体がぜんぜん平気なんです。返って健康な体にさえなっている気がします。胎児も健康になっているって感じます。これって,銀次さんとずーっと肌を合わせているからなんですね?」


 銀次も,どうしてなのかすぐには分からない。でも,クララを抱いているとき,時々,青龍に支配されていた時に行った双修の感覚を思い出した。


 双修による気の修行だ。クララも双修の経験がある。というよりも,双修の熟練者と言ってもいい。


 銀次「クララさん,もしかして,クララさん,気を練ることができるようになったのではないですか?こんなふうに」


 銀次は,自分の体の周囲に気を展開させた。銀次の周囲に薄らと青白い光りが放った。


 その光りをクララは見ることが出来た。


 クララ「銀次さんの周囲に青白い光りを見ることができます。これって気なのですね?」

 銀次「クララさんは,すごいな。もう気を扱えるようになったのか。では,気を手の平に集約させる,腕に集約させる,さらに,気に硬度をもたせることを試してください。うまくいかなくても,気をしっかりと感じるようになれば,自然とうまくいくと思いますよ」

 クララ「はい,ご主人様!」


 クララは,自然と銀次のことをご主人様と言ってしまった。


 銀次も,クララと双修を繰りかえす過程で,クララの膨大な魔力を感じることがで,自分の魔力の底上げをするきっかけにもなった。

 


 銀次は,クララに,他の魔装部隊に接触する方法について聞いた。


 銀次「クララさん,他の魔装部隊の人たちに接触する方法はないですか?」

 クララ「ちょっと,難しいと思う。それに,わたしも女子寮に戻れって,部長から連絡があったわ。産休は,女子寮で取りなさいって。助産婦さんも採用してくれるって言っていたわ」

 銀次「助産婦?それって,男の助産婦でもいいのか?」

 クララ「無理ね。男性はなれないわ」

 銀次「なるほど,,,ということは,俺が女性になればいいのか。クララさん,その助産婦さんの情報,すぐに入手してくれますか?」

 クララ「それはいいけど,ほんとうに助産婦さんとして侵入するの?」

 銀次「へへへ,一念岩をも通すっていうでしょう」


 クララは,助産婦さんの詳しい情報を入手して銀次に渡した。その後,クララは,滝ヶ原基地の女子寮に戻っていった。


 銀次も,ルリカを背負って,林サミコのマンションを出ていった。


 彼らと行き違いで,林サミコが自分のマンションに戻った。そこには,誰もいなかった。クララが女子寮に戻ったことはline連絡で知った。しかも,林サミコを一緒に連れることは,上司から拒否されたことも伝えた。


 この部屋には,銀次もいないし,ルリカもいない。彼らはいったいどこに行ったのか?


 林サミコは,ふと,ひとりになると,無性に寂しさを感じた。もうひとりではいたくない。向居貴久見のアパートでは,エッチなことは何もしなかったものの,一緒にいるだけで,寂しさは感じなかった。でも,この部屋には誰もいない。


 林サミコは,なぜか涙が流れた。寂しい,,,


 誰か,,,わたしに命令して,,,


 林サミコは,すぐに銀次に電話した。


 プー! プー! (着信拒否設定されています)


 林サミコ「えーー? なんで,着信拒否されているの? どうして?」

 

 林サミコは,銀次のLineを見た。


 林サミコ「あっ,銀次から連絡が来ている。何々? えーと,,,,」


 銀次からのlineには,こう書かれていた。


 『サミコ,てめえ,俺を誰かに売ったな? 暗殺者の出所を調べろって言ったのに,暗殺者に俺を狙わせるとは何事だ! 俺に恨みでもあるのか! 罰として,1ヶ月,着信拒否と,line連絡を拒否する。以上!』


 ガーーン!


 そうだった。確かに銀次を向居貴久見に売ったことを思い出した。それを見て,林サミコはその場に崩れた。


 泣きながらそのまま寝入ってしまった。


 数時間後,林サミコは,目覚めた。お腹が減ったので,冷蔵庫を開けた。そこには,何もなかった。


 何かを買いに行くにも,お腹がますます重くなっているし,胸も張ってくるし,,,


 この部屋は,1,2週間後には解約されてしまう,,,頼れる銀次もいない,,,お金も無くなる,,,


 わたし,,,いらいない子なんだ,,,暗殺業だって,ろくにできないし,そもそも仕事がない,,,体を売ることさえもでない,,,


 林サミコ「そうだ,,,死のう,,,うん,死ねばいいんだ。こんな憂いなんて,無くなるんだ。そうだ,死のう。でも,どうやって? 

 あっ,そうか,自分の首に『針』を打ち込んで,寿命や魔力を奪えばいんだ。それでミイラになって死ねる。うん,そうしよう」


 林サミコは,右手の5本の指を針に変えて,自分の首に刺した。寿命エネルギーを奪うイメージを強く念じた。


 ヒュィーーーン(林サミコの耳には,そんな風に聞こえた)


 5分,,,10分,,,20分,,,,1時間後,,,


 林サミコは,そのまま意識を失った。


 ・・・

 林サミコ「うっ,痛い,,,お腹が痛い,,,」


 林サミコは,腹痛を訴えて目覚めた。


 林サミコ「え? もしかして,出産? ええーー?」


 彼女は,出産するときは,ひとりで出産しなさいと,魔獣族のザビルに言われたことを思い出した。


 林サミコ「そっか,今なら,いいタイミングかも。でも,妊娠して2ヵ月も経っていないのに,,,どうして?」


 そんなことを思っていても,出産は順調だった。無事にカメレオン魔獣族の子供を産んだ。


 林サミコ「あれ? 産んだはずなのに,何も見えないわ? どうして?」


 林サミコは,目を凝らした。すると,薄らと,カメレオンのような外殻部分が,薄らと光りが放っているのが見えた。それで,その場所に,子供がいるのを認知できた。


 その時,林サミコの頭の中に念話の声が聞こえた。


 ザビル『サミコ,俺だ。ザビルだ。久しぶりだな』

 林サミコ『ええーー? ご主人様? 久しぶりですーー! でも,姿が見えません』


 林サミコにとって,命令を与える人物,すべて,『ご主人様』だ。


 ザビル『カメレオン魔獣族の子供は,非常に弱い。だから,生まれたらすぐに保護色になって,発見されないようにする。幸い,佐美子が,時間加速魔法を強力に展開してくれたから,普通なら,生後1ヶ月くらいの体で生まれることができた。念話もできるし,生前の記憶をすべて思い出すこともできた。時間加速魔法を展開してくれたことに感謝する』

 

 林サミコ『え? 時間加速魔法? それって,針を刺して寿命エネルギーを集めたときのこと?』

 ザビル『なに? お前に,生前,時間加速魔法を教えただろう?それを展開しなかったのか?』

 林サミコ『いえ,それはしていません。実は,もう,すべてがイヤになって,死のうと思ったんです。指を針に変えて,自分の首に刺して,寿命エネルギーを吸収するイメージを強くして,,,そしたら,そのまま意識を失ってしまって,,,』

 

 ザビル『なるほど,,,寿命エネルギーを吸収するのは,超加速技の変形と言ってもいい。たまたまわたしの胎児に時間加速を展開したのと同じ効果になったのだろう。結果オーライと言ったところか』

 

 林サミコ『ご主人様,でも,超嬉しいです! これで寂しくありません。でも,,,今,住んでいるこの部屋,もうすぐ解約されます。お金もあまりあまりません。わたしの愛するご主人,,,あの,銀次様のことですけど,彼を怒らしてしまって,1ヶ月連絡が取れなくなりました。どうしましょう。えーーん!』

 

 ザビル『泣くな。状況がよく分からん。直輝のところに行ったところから,詳しく説明しなさい』

 林サミコ『はい,クスン,クスン,,,では,話は長くなりますけど,,,説明します,,,』


 林サミコは,延々とと3時間かけて,どうして,こんな状況になったのかを説明していった。


 ザビル『なるほど,,,佐美子,お前のアホな行動にも悪い点はあるが,その暗殺者の出現は予想外だったな。では,もう暗殺業はできないわけか,,,

 まあ,10分後に消える暗殺者は,そのうち,警察が原因を突き止めて,犯人をあぶり出すだろう。話を聞くかぎり,僅かな魔力で動かしているだけだ。ぎりぎり採算がとれるかどうかと言ったところか。

 

 佐美子,これから,お前はどうする? 何をしたい?』

 

 林サミコ『え? イヤ,何も,,,ご主人様,命令を与えてください。わたし,とても寂しいです。性的にも満足を与えてください』


 ザビル『アホ,俺は,生後1ヶ月ほどの保護色になれるカメレオンの外見だ。なんの攻撃力もない。お前とエッチする能力もない。すくなくとも半年間は非力なままだ。佐美子がしっかりと俺を守ってくれ』

 

 林サミコ『守れと言われても,何をどうするのですか? 虫かごにご主人様を入れるのですか?』

 ザビル『アホ! もっと,頭を働かせろ!』

 林サミコ『えーーーん! みんなして,アホ!アホ!って,言って,,,えーーん!』


 今の彼女は,泣いているけど,超嬉しかった。こうやって,甘える存在がいることだけで充分だった。


 ザビル『そうだったな。佐美子,お前の望みは,寂しさの解消と,性的な満足でいいのか?』


 林サミコ『はい! もうひとりで寝るのは,寂しくでイヤです。誰かに抱かれて寝たいです。銀次様が一番いいです』

 ザビル『銀次か,,,では,銀次は何を望んでいるんだ?』

 林サミコ『たぶん,お金の心配がなくて,平穏で,女性の奴隷が何人もいるような環境だと思います』

 ザビル『つまり,金持ちで,奴隷や女中がたくさんいればいいんだな? どこかのお嬢様になるってことか,,,そのお嬢様と知り合いになるには,,,お嬢様学校に通わないといけないな,,,佐美子の『針の精神支配』を駆使すれば可能かもしれん』

 

 林サミコ『え? わたし,お嬢様になるのですか?』

 ザビル『アホ! すぐに慣れるか! ものごとには,順番があるんだ,順番が! まずは,ネットでお嬢様学校を検索しなさい』


 林サミコ『はーーい! ご主人様!』


 林サミコは,携帯を起動した。だが,ネットが繋がらなかった。

 

 林サミコ『あれ? ネットが繋がらない。あれれ? もしかして,,,あっ! 電波の棒が消えている! これって,この携帯も解約させられたの?』

 

 林サミコの携帯は死んだ。


 ザビル『携帯はもういい。収納指輪の中に放り込んどけ』

 林サミコ『はい,ご主人様』

 ザビル『では,このマンションを放棄する。必要なものは,すべて収納指輪に入れなさい』

 林サミコ『はい,でも,何もないです』

 ザビル『・・・』


 ザビル『よし,わたしは,佐美子の胸の谷間に入る。胸が張ったら母乳を飲む。わたしの存在はあまり気にしなくていい』

 林サミコ『はい,ご主人様』


 ザビル『ここを出て,都心の方に迎え。大きなホテルを発見したら,そこに入りなさい』

 林サミコ『はい,ご主人様。ホテルでは,何をするのですか? 客を取るのですか?でも,客のあそこ破壊されますよ?』

 ザビル『フフフ,佐美子も質問できるようになったんだな』

 林サミコ『はい,皆から,アホアホって言われて,少しは自分で考えるようになりました。自殺しようと思ったのも,自分で考えた結果です』

 ザビル『・・・』


 ・・・

 林サミコの外見は,身長145cm,胸は片方で3kg両方で6kgにもなる巨乳だ。母乳は,今,どんどんと出る。幸い,体調25cm程度の保護色の赤ちゃんカメレオンがいるので,彼にいくらでも飲ませることができる。

 本来の赤ちゃんカメレオン魔獣族の大きさは50cm程度だ。でも,体の大きさを半分程度にすることが可能だ。ただし,幼児期だけの特異能力だ。


 

 林サミコは,マンションを出た。


 道行く人を見ると,彼らの周囲に変な光りが見えるようになった。


 林サミコ『ご主人様,人の周囲に変な光りが見えるんですけど,,,これって,何ですか?』

 ザビル『どんな光りだ?』

 林サミコ『青,赤,ピンク,,,黒,,,老人は,灰色から黒ですかね?』

 ザビル『もしかして,お前,見えないものが見えるようになったのか?』

 林サミコ『え?』

 ザビル『たぶん,それはオーラというものだろう。霊能力者でも,高位の者が持つことができる能力だ』

 林サミコ『それって,わたし,霊能力者になったのですか?』

 ザビル『たぶん,そうだろう。子供を産んだのがきっかけになったのかもしれん。獣魔族の子供を産んだ女性は,かなりの頻度でそのような能力が授かると聞いたことがある』

 林サミコ『じゃあ,この能力で,お金を稼ぐことは出来ませんか?』

 ザビル『すぐには無理だ。客商売だからな。どうやって客を集めるか,そこが問題だ。まずは,お前にうまいものを喰わせてやる。俺を産んだお礼だ』

 林サミコ『はーーい!ご主人様ーー!』


 林サミコは,某帝国ホテルに入った。そこで,有名レストランの前でメニューを見た。


 コーヒー一杯3千円! 夕食コース4万円!

 

 ガーーン!


 なんとも高い料理だ。


 窓ガラスは,半透明で,外からハッキリとは見れないが,人が立ったり,座ったりする動作くらいは識別できた。


 ひとりの女性が席を立って,店から出てきた。電話をするためだ。ひとしきり電話をした後,また,店に入ろうとするとき,林サミコの針が彼女を襲った。彼女をその場で気絶させた。


 林サミコは,彼女を肩車で抱きかかえるようにして,女子トイレまで運んで,便座に座らせた。彼女の携帯やカバンを奪って,便座のトイレを閉めて,指を針状に変えて,それを隙間から差し込んで,何度かカーブさせて,ドアの内側からカギを閉めた。


 ザビル『佐美子,お前の針,曲がることもできるのか?』

 林サミコ『はい,できるみたいです。しかも,1メートル以上も長くできます』

 ザビル『はあ? それって,カメレオン魔獣族の針の能力を,遙かに超えているぞ』

 林サミコ『え?そうなんですか?』


 林サミコの興味は,そんなことにはない。もうすぐ,気絶させた彼女の席に座って,美味しい料理が食べれるのだ!

 

 ザビル『佐美子,後は,細かい指示はもうしない。上手い料理を食べれたら,それで今日のところは充分だ』

 林サミコ『はい,ご主人様,美味しい料理,いっぱい食べまーす』

 

 林サミコは,先ほどの店に入って,彼女が座っていた座席に,恐る恐るついた。


 向かいの席には,超ハンサムの男性がいた。


 ハンサム「あの,お嬢ちゃん? その席,違うよ?」

 林サミコ「いえ,違いません。この荷物,預かってて言われて,ここで待つようにと。食事も食べていいって言われました」

 ハンサム「え? そうなの? 幸千子さん,そんなこと一言も言わなかったなあ,,,まあいいでしょう。ところで,あなたは,幸千子さんとどのようか関係ですか?」

 

 林サミコは,手前にあるキャビアがたっぷり盛ってある生サーモンを頬張りながら,返事した。


 林サミコ「幸千子のいもうとーー! ハンサムさんは,お姉ちゃんとどんな関係?」

 ハンサム「え? 幸千子さんの妹って,もっと小さいって聞いていたんだけど,,,まあいいか。わたし,宗形波平っていいます。今,実は,お見合いの最中でして,お互い,自己紹介が終わったところなんですよ。共に,友人の紹介なんでがね。ハハハ」

 

 林サミコは,そんなこと,どうでもよく,パクパクと食べていった。


 ザビルが林サミコに念話した。


 ザビル『こいつ,魔獣族だ。時間遅延魔法を展開している。でも,組織に属しているのか,抜け人かは不明だ』

 林サミコ『やっぱり,そうだったの?』

 ザビル『やはり,お前もわかったか?』

 林サミコ『だって,このひと,ご主人様と似たような光りをしているんだもん。もしかして,本人になりすましている?』

 ザビル『まだわからん。とにかく,話は合わせなさい』

 林サミコ『はーい,ご主人様』


 そんなことよりも,料理が超おいしくて,ついさっきまで,自殺しようとしていたのがウソみたいだ。


 林サミコ「ハンサムさんは,お金持ちですか? 奴隷は,,,いや,女中はたくさんいますか?」

 宗形波平「女中は,2人ほどいますけど,でも,あなたの屋敷のほうが,大勢いるってさきほど聞きましたよ。なんでも10人くくらいはいるって。だから,家柄が釣り合わないなぁ,なんて思ってしまって」

 

 林サミコ『ふーん,幸千子の家って,豪邸なんだ。なんとか,潜り込めないかな,,,』


 そんなことを考えながら,ひとしきり,お腹に食べ物を詰め込んだので,超,幸せな気分になった。

 

 おいしい飲み物,デザートも超豪華だ。


 林サミコ「ハンサムさんは,どんな能力を持っているんですか?」

 宗形波平「え?能力?どう言う意味ですか?」

 林サミコ「例えば,空を飛べるとか,変身できるとか,他人になりすますことができるとか?」


 この話を聞いてギクっとした。宗形波平は,一瞬,『宗形波平』に扮しているのがバレたかと思った。


 林サミコは,彼のオーラがチカチカと不安定な動きをしているのを見た。


 林サミコ『もしかして,これって,動揺している動きなの?』

 

 宗形波平「いやだなー,冗談はいけませんよ,お嬢ちゃん?」

 林サミコ「まあ,そういうことにしておきましょう。ハンサムさん,あの,,,わたし,巨乳です。いいことしませんか?」

 

 林サミコがちょっと鎌をかけてみたとき,背後から声がした。


 「なるほど,そうやって,たぶかすのですか?勉強になりました」


 その声の方を向くと,さきほど気絶させた女性,幸千子だった。あまり傷つけたくなかったので,軽く針を刺したのが原因だったのか,すぐに意識を取り戻したようだ。


 林サミコ「あっ,お姉ちゃん,おかえりー! 荷物,ちゃんと預かってましたよ。ここに置いておきますね。じゃあ,ハンサムさん,あとは,お姉ちゃんとよろしくーー」


 そう言って,林サミコは,さっさとその場から去った。このままいけば,食い逃げ成功だ。


 だが,屈強な男たち数人が,出口を塞いだ。後ろから,幸千子と宗形波平がやって来た。


 万事休す! 


 林サミコは,屈強な男たちに最大級の念話攻撃を仕掛けようとしたとき,ザビルが彼女に念話した。


 ザビル『楽々殺しテクニックNo.7!』

 林サミコ『なるほど,ご主人様! 了解です』

 

 彼女は,倒れるようにして幸千子の足元を掴んだ。


 林サミコ「お姉ちゃん! 許して! 出来心何ですー! わーん! もう何日も食事してなくて,,,わーん。 お姉ちゃん! お姉ちゃん! わーーん! わーーん!」

 

 パチーン!


 この彼女の泣き落としに対して,幸千子は,思いっきり,彼女に平手打ちした。


 幸千子「ギャーギャー喚くんじゃないわよ!」


 平手打ちされたくらいで林サミコはまったく動じなかった。


 林サミコ「わーん! わーん! お姉ちゃん! ぶった! いたーい! わーん,わーん!」

 

 パチーン! パチーン!(幸千子が林サミコに往復ビンタを放った音)


 林サミコ「わーん! わーん! お姉ちゃん! ぶった! いたーい! わーん,わーん!」

  

 林サミコは,さらにキツく幸千子の足にしがみついた。周囲で食事している人たちも何事かと遠巻きに人だかりが出来てきた。


 宗形波平は,幸千子の豹変した姿にビックリした。おしとやかな女性だと思ったのに,人間の女性って,こんなにも豹変するものかと思った。彼は林サミコが可哀想になった。


 宗形波平「幸千子さん,人だかりも出て来ましたし,この妹さんを,わたしのほうで預かりましょうか?」

 幸千子「ふん,この泥棒ネコ! 警察に突き出してやるわ!」

 林サミコ「わーん!警察はイヤー! わーん! お姉ちゃん! なんでもします,奴隷になります! お姉ちゃんが娼婦になれって言ったら,娼婦にもなります!お姉ちゃんの命令,何でも聞きます! だから,警察はイヤーー! わーーん! 警察はイヤーー!」

 宗形波平「幸千子さん,このままでは,お店にも悪影響が出てしまいますよ。ここはひとまず,お店から出ましょう」

 幸千子「そうね,お前たち,この泥棒ネコをつまみ出せ!」

 黒服A「へい,わかりやした」

 黒服B「OK,ボス」


 林サミコは,黒服によって肩を掴まれて,強制的に,ホテルの外にひきづり出されしまった。


 それでも,林サミコは,お姉ちゃん!何でもしますー!奴隷になりますー!警察はイヤー!と叫び続けた。


 幸千子「宗形さん,今日のお見合い,おかしなことになりましたね。又,今度,日を改めてお会いさせてください」

 宗形波平「はい,連絡をお待ちします」


 幸千子は,黒服に命じた。 


 幸千子「野郎ども,泥棒ネコを車に押し込んどけ。一旦,屋敷に持ち帰る」

 黒服A「へい,了解しやした」


 何だかんだと言って,林サミコは,幸千子の屋敷に連れて行かれた。


 残された宗形波平のそばに,彼の部下が来た。


 部下「キサラギ財閥への侵入計画は,うまくいきませんでしたね」

 宗形波平「あの巨乳チビ,俺の正体を見破っていたぞ。何者なんだ?」

 部下「さあ,わかりません。でも,度胸ありますね。堂々と食い逃げしようとしていましたよ」

 宗形波平「度胸があるのか,単にバカなにか,それとも,何か絶対的なパワーがあるのか,,,」

 部下「わたしは,単純にバカだと思いますけどね,フフフ」

 宗形波平「まあいい。予定通りプランBに移行しなさい」


 部下は,電話で仲間に連絡した。


 部下『プランB発動せよ!』

 電話の相手『了解です! では,S級暗殺者,起動させます』



 ーーー

 


 

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