第7話 プライベートは持ち込むな

 銀次が上級暗殺者に襲われた翌日,二影は,一影に引率されて,警視庁本部に出頭した。二影は,暗殺者に2回も襲われた希有な証人だ。しかも二影は,魔法に精通している。そのため,暗殺者の状況もかなり判明できるものと期待している。


 ー 警視庁本部,中会議室 ー

 ここには,SART隊隊長,虎影,一影,二影,α隊隊長,2号,特捜課部長,多留真,超現象捜査室室長,その他,オンラインの参加で,超現象捜査室顧問の夏江,特捜課のまな美,さらに妊娠中のクララの3名も参加した。


 司会は,オンラインで参加しているまな美が仕切ることにした。


 まな美「では,最近,各地で勃発している,俗称『10分暗殺者』による傷害事件について,新展開が見られました。SART隊員の二影さんが,2回もその10分暗殺者によって,攻撃を受けました。かつ,その2回とも監視カメラで録画されていました。この場で,その監視カメラの映像を流しながら,当事者の二影さんの解説を聞きたいと思います。

 多留真課長,その進行でよろしいですね?」

 

 多留真「いちいち俺の了解はいらん。ただし,会議の目的くらいは言いなさい」

 まな美「そうですね。この会議は,内輪の会議ですが,二影さんの解説を聞いて,今後の10分暗殺者による事件の捜査方針を大まかに決めることです。

 では,2日前の土曜日に起きた,メイド喫茶での襲撃事件現場での監視カメラ映像を流します。ご覧ください。二影さん,すいませんが,説明をする際は,映像を止めてから解説をお願いします」

 二影「わかりました」

 

 メイド喫茶での映像が流れた。それは,銀次と二影が向かい合って,楽しい会話をしているシーンだった。音声も雑音のノイズをカットして,銀次と二影の会話の内容も鮮明に聞こえた。まったく,プライバシーなどないも同然だ。


 二影は,映像を止めた。


 二影「このシーンは,もうすぐ暗殺者が来る直前ですので,彼,銀次の素性は,述べられていませんが,彼は,自分では,気功術ができると言っていました。また,札幌決戦で死亡した和輝は,銀次の先輩にあたり,かつ,銀次の師匠だと言っていました」


 多留真「ということは,彼,銀次がこの場に来たのは,偶然ではないということかな?」

 銀次「後で,銀次はわたしに言ったのですが,偶然ではなく,わざわざ東都から,わたし,二影に会いに来たと言っていました」

 多留真「あるほど,,,二影がメイド喫茶にいるという情報は,どこから入手したんだろうな?」

 二影「さあ,ちょっとわかりません。それに,もう銀次は死んでしまいましたので,,,」

 多留真「・・・」


 二影は,映像を流した。


 暗殺者が,初級氷結弾を二影に放ち,銀次が二影を庇って氷結弾を背に受けて血を流すシーンが流れた。


 まな美「すいません。血の流れているシーンをもう一度見せてください」

 

 二影が再度,そのシーンを再生した。


 まな美「やはりそうですか,,,」

 多留真「何かわかったのか?」

 まな美「はい。彼,銀次は,霊力使いです。それも血を霊力で演出できるほどの腕前です。相当のレベルの霊力使いでしょう」


 二影「ええーー?この血,霊力なんですか?」

 まな美「そうです。間違いありません。わたし,裸眼で霊力が認識できますから」

 多留真「なんと,,,死んだ和輝から霊力を受け継いだのか?」

 二影「銀次は,和輝から気功術を修得していると言っていましたが,霊力のことは,一切言っていませんでした」

 多留真「なるほど,,,暗殺者のことよりも,この銀次の素性が気になるな」

 

 その後,監視カメラの映像を最後まで流したが,暗殺者の魔法レベルは,初級レベルで,かつ,その腕前もド素人レベルだと結論づけた。


 次に,ラブホテルでの監視カメラだ。室内には監視カメラはないが,窓から出たところからのシーンは,中庭に設置してある監視カメラが捕らえていた。


 二影と銀次が窓を破って中庭に出て,その後,すぐに暗殺者が出てきた。


 ここで映像を止めて,二影が説明した。


 二影「この暗殺者は,前回と違っていました。暗殺者が,ドアを破って入ってきました。わたしは,すぐに,前回と同様の暗殺者だと思って,初級針状爆裂弾の10連発を放ちました。そのすべてがヒットして,彼の胴体に孔が空きました。しかし,この暗殺者は,すぐに自動回復しました。


 その後,暗殺者は,5連発の上級氷結弾をわれわれに放ちました。わたしは慌てて,最後の魔力を振り絞って,防御結界を構築しました。ぎりぎり防御できました。でも,それでわたしは,魔力切れを起こしました。


 それで,隙を見て,銀次の手を引っ張って,窓から逃げました。


 それが,このシーンです。


 多留真「だから,二人とも裸なのか。いったい何をしていたんだか」


 SART隊隊長「多留真課長,二影のプライベートは詮索しないでほしい。二影は,きちんとラブホテルに行くと事前に一影に報告している。メイド喫茶でも,お金を受けとっていないのでバイトには該当しない。趣味で行っているだけだ。職務違反は一切していない。言動には気をつけてほしい」


 多留真「・・・,すいません,言い過ぎました。謝ります」


 多留真にとって,SART隊を怒らすのは,非常にまずい。後々の指揮にかかわる。ここは素直に謝るのが得策だ。


 オンラインのまな美や夏江がクスクスと聞こえるほどの声で笑った。


 ここからの映像で圧巻なのは,5発の上級氷結弾が,カーブを描くようにして,銀次と二影から逸れていったシーンだ。


 まな美「やはり,霊力を展開しています。銀次と二影さんの前に三角錐の防御層を展開して,氷結弾をカーブさせています。みごとな制御力です。かなり熟練していますね」

 

 その霊力は,夏江も裸眼で見ることができる。しかも,オーラさえも見ることができる。銀次は,死人だと夏江にはすぐにわかった。果たして,それを言うべきかどうか悩んだ。でも,今の,夏江にとって,銀次は,どうでもいい存在だ。ビデオのチェックが終わった時点で簡単に言うことにした。


 監視カメラ映像が終わった。最後のシーンは,S級火炎弾攻撃だ。それで,銀次が死んだと二影は判断した。


 それに反対したのがまな美だ。


 まな美「あんなS級火炎弾攻撃では,銀次は殺せません。絶対に無理です。あの暗殺者の魔法レベルは,総じて上級かもしれませんが,まったくのド素人レベルです。それは,二影さんもわかるでしょう。霊力を駆使すれば,あんな火炎など容易に防げます。火炎に紛れて転移することなど造作もないでしょう」

 

 二影「もしそうでしたら,,,いいのですが,,,」


 二影は,ちょっと嬉しくなった。


 α隊隊長「二影さんにこんなことを言うのは酷かもしれないが,銀次の素性は,われわれの方で,徹底して調査する予定だ。すでに,ラブホテルでのベッドのシーツなどから,彼の髪の毛を採取済みです。DNA鑑定をして,過去の犯罪歴のある人物と照合することになっている。了解してほしい」


 二影は,コクっと頷いた。


 夏江「あの,,,ちょっといいですか? もし,可能なら,銀次さんの映像を,だれか,有能な霊能力者に診てもらったほうがいいと思います。もしかしたら,とんでもない事実が浮かび上がるかも知れません」

 多留真「それはどういう意味だ?」

 夏江「文字通りの意味です。他に意味はありません」

 多留真「憶測でいいから,夏江の思っていることをこの場でいいなさい」

 夏江「憶測でいいのなら,いいましょう。銀次は,死人です」


 二影「ええーー?!」

 一影「うそーー!!」

 

 夏江「たぶん,和輝本人だと思います。死んだ肉体を,無理して動かしているといったところでしょうか。魔力を使えば可能なレベルだと聞いたことがあります。まあ,憶測ですけどね」


 まな美「あの和輝が銀次さんですか,,,なるほど,,,言われてみれば,体格はまったくの同一です。顔の形はかなり違ってしますが,整形などいくらでもできますからね。そうですか,,,わたしも夏江さんの意見を支持します。あの霊力の扱いのうまさ,和輝だとすれば,すべてが説明がつきます。そうなると,たぶん,メリルが和輝の死んだ肉体を動かせるようにしたんだと思います。メリルは,生きています! 決して死んでいません。果たして,どこに居るんでしょう?」


 多留真「ええーーい! 今の話は,絶対に他言無用だ! 和輝は死んだ! メリルも死んだ! 今は,それ以上,詮索はするな! ただし,α隊隊長,銀次の素性の調査は粛々と進めてほしい」

 α隊隊長「多留真,もちろん,粛々とすすめる。安心してくれ」


 二影「あの,,,個人的な話なんですが,,,」

 多留真「個人的な話ならここでするな!」


 二影「・・・,はい,すいません」


 二影は,銀次の子供を妊娠したと言いたかったが,拒否された。


 多留真「まな美,お前,このビデオデータを持って,千雪組に行ってこい。彼らの意見を聞いてきなさい」

 まな美「え? でも,1000万円以上かかりますよ」

 多留真「アホ! 無料で聞いてこい。成功したら,すぐに婚約を正式に公表してやる」

 まな美「ふん,自分こそ,プライベートをこんなところで暴露して!」

 

 夏江「え? 多留真,あなた,まな美さんと婚約したの? わたしというものがありながら!」

 多留真「夏江,結婚を嫌がったのはお前だろ!」

 夏江「え? あれ? そうでしたっけ?」

 まな美「夏江さん,すいません。多留真課長に,手籠めにされて犯されてしまって,妊娠してしまいました」

 夏江「えーー! 妊娠させられたの?! 多留真って,ほんと鬼畜ね!」

 まな美「それだけではありません。巨乳になれば婚約してやるって,言ったのに,ぜんぜん約束守ってくれないんです」

 一影「それ,わたしも聞いたわ。だから,私たち,回復魔法でまな美さんの肉体改造に協力したのよ」

 夏江「多留真,あなた,最低と思ったけど,ほんとうに超ウルトラ最低ね!」

 多留真「だったら,なんで,ちんたらと俺につきまとっているんだ?!」 


 α隊隊長「多留真! もうプライベートは持ち込むな!」

 

 このタイミングで二影が勇気を出して言った。


 二影「あの,わたし! 銀次さんの子供を妊娠しました! 間違いありません!」

 

 全員が二影を見た。


 多留真「夏江,銀次は,死人なんだよな。なんで,妊娠できる力があるんだ?」

 夏江「そんなの,わかるわけないでしょ! 神様じゃあるまいし!」


 夏江は,キッパリと言った。

 

 まな美「わたし,俄然,千雪組に行きたくなってきました。なんか,無料ですべての疑問を氷塊する自信が出て来ました!」


 ここで,特捜課の部長が言葉を発した。


 部長「多留真,プライベートはどうでもいいが,この会議での結論は何だ?」

 多留真「話が多岐に割ってしまって,まとめるのは困難ですが,,,3点に要約できると思います。

 1点目,銀次の素性を明確にすること。これは,α隊のほうで担当してもらいます。

 2点目,10分暗殺者の素性を明確にすること。これは,まな美が担当してもらいます。

 3点目,これは,この会議では議論しませんでしたが,10分暗殺者に依頼するルートを,ネット検索で調査すること。これは,従来から行っていますが,継続してわれわれのチームで行います」


 部長「まぁ,当座は,それでいいかもしれんが,銀次がほんとうに和樹だったら,復讐の一環として,他の魔装部隊やクララにも接触するのではないか? その予防策も考慮すべきだと思うが?」

 多留真「そうですね。では,SART隊長,α隊隊長,その予防策については,そちらで対応していただけますか?」

 

 SART隊長とα隊隊長は,特に異論もないので同意した。

 

 会議は,ここで終了した。でも,夏江がさらに多留真攻撃しようとしたが,多留真によってネットを切断されてしまった。


 多留真は,オンライン中のクララが,まったく発言しなかったので,発言する機会を与えた。


 多留真「クララ,何かいいたいことはないか?」

 クララ「そうですね,,,別にたいしたことではないのですが,銀次さんには,林サミコという恋人がいます。彼女は,多少は魔法が使えて,精神支配が得意なようです。それに,,,はっきりとは言えませんが,暗殺業に関係しているようなこと言っていました」

 多留真「林サミコ? 銀次の恋人? 余計な情報流しやがって」

 クララ「すいません。余計でした」

 α隊隊長「いや,余計でないかもしれん。クララはハッキリと言っていないが,彼女は犯罪を犯してきたのだろう。でも,証拠がないのだろう? クララ? そうだろう?」


 クララは,下を向いた。でも,,,警察官になった以上,,,犯罪を知ってしまった以上,放置できない。


 クララ「はい,,,証拠はありません。でも,,,彼女は何人かの人を完全犯罪で殺してします」


 クララは,とうとう林サミコの犯罪を暴露した。


 α隊隊長「クララ,それって,なんでわかるんだ?」

 クララ「すいません。直感としか言えません」

 多留真「直感で警察が動くのか? 警察も甘くなったもんだ」

 

 クララと双修を行った一影や二影は,クララの特異能力を知っている。クララは双修をしてしまうと,相手の記憶を読んでしまう特異能力を身につけていた。双修の能力を発展させてしまうと,このような能力を身に付けるのは当然といえよう。

 

 一影「クララの直感は100%当たります。われわれに,林サミコを捕らえる機会を与えてください。林サミコに自主させる機会を与えてあげたいと思います」

 多留真「そんなの,警察の仕事ではない。お前たちが勝手にすればいい」

 一影「いいえ,多留真課長の了解をください。警視庁本部の組織を動かす必要があるかもしれません」

 α隊隊長「多留真,それいくらい,いいのではないか?」

 

 多留真は,憎きクララを睨んだ。


 多留真「わかった。林サミコを捕らえなさい。証拠がない以上,何か法的な根拠を持って行動すること。以上だ」

 一影「ご了解,ありがとうございます」

 クララ「わたしからもお礼申し上げます」

 多留真「ふん!」

 

 多留真は,クララのオンラインを切った。


 

 ーーー


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る