第5話 月隠温泉と暗殺業の危機

 クララと一影たちは,相変わらず,一緒に行動していた。単独行動もしたかったが,どうしてもメリルや和輝が死んだとは思えず,心のどこかで臨戦態勢をしていた。


 クララの魔力ベストは,新調されて,SS級レベルの魔力600発分の魔力を込められた。


 彼女らは,旅行中は,常に魔装服を着ている。いつ,敵が襲ってきてもいいようにだ。その魔法服の上に,薄手のマントを被っているので,外観的には,ちょっと異様に見える。


 ー 月隠温泉の宿泊の広間 ー


 この広間は,彼女ら10名が一緒に寝泊まりする部屋だ。いつもは,宴会会場として使われる。ただし,彼女らが泊まる部屋に限っては,別途,地元警察官20名ほどが警護に当たる。今の彼女らは,ちょっとした英雄だ。彼女らが泊まるということで,地元のマスコミが押しかける始末だ。でも,事前に予定表が公表されないので,マスコミが押しかけるのは,2泊目の日中に限られる。

 

 マスコミ対応は,許可されている。SART隊という組織のアピールになる。だから,彼女らの温泉旅行を楽しむと言っても,ある意味,日本中を廻っての宣伝活動と言ってもいい。いみじくも,上司が『1ヶ月の休暇を与える』と言ったものの,その実,広報活動に他ならない。次の移動先へも,パトカーによる先導で移動する。とても旅行気分を味わえるものではない。


 そんな彼女らも,旅館に入ってからは,比較的自由行動になる。旅館街の散策などは単独行動する。下手に一般の警察官が傍らに居ては,返って邪魔な存在になる。


 この広間で,今,ジャンケンが行われていた。誰が罰として,買い出しに行くかだ。買い出しに行くのも,わざわざ魔装服を着て行かなければならない。面倒くさいこと限りない。


 ジャンケンポン,あいこでしょ!


 それを何回やって,クララがジャンケンに負けた。


 クララ「もう,負けちゃった。魔装服着るの面倒くさいなぁー」

 一影「じゃあ,魔力ベストだけでも着ていったら?でも,そのお腹の出っ張り,また大きくなったみたいね」


 クララは,以前は,妊娠5ヶ月ほどのお腹をしていた。そこには,シレイの粘液が大量に貯蔵されていた。その後,徐々に小さくなっていった。しかし,また,徐々に大きくなってきて,今では,妊娠4ヶ月ほどの大きなになった。クララは,シレイの子供を妊娠していた。


 クララ「そうなのよ。お腹がじゃまで,うまく着れないの。いいわ。それなくても,多少は体内に魔力蓄えているから。どうせすぐに戻るから」

 一影「そうね。クララなら何も着なくても,TU級魔法士だもんね」

 クララ「フフフ」


 クララは,以前は,魔力ベスト,または魔力を吸収した水晶玉の補助があれば,TU級の魔法を発動できた。でも,今は,そんなものは必要がない。体内に,TU級レベルの魔法10発分を放てるほどの魔力を蓄えることができるようになった。


 魔法に愛された人材といえよう。


 クララは,相変わらず胸が異様に大きい。それでも,食事制限をして,胸を半分ほどに小さくしてきた。その結果,片方で5kg,両方で10kg程度の胸にできた。お尻周りも1.0メートルにまで小さくした。乳首も直径と長さが5cm程度だ。

 

 クララのこの裸体を,浴衣1枚だけで覆っている。もともと,この巨乳を覆えるブラジャーなど存在しない。


 クララは,ひも付きの巾着袋に財布と携帯を入れて,巾着袋を胸の谷間に挟んだ。


 クララ「じゃあ,買い出し行ってくるね」


 クララは,部屋を警護している物欲しそうな警察官を尻目に,悠々と,温泉街を歩いていった。

 

 温泉街には,ところどころ長椅子が配置されてあり,恋人や夫婦,家族連れが座っていた。その一角に,忙し,携帯をチェックしている男女がいた。林サミコと銀次だ。


 林サミコ「ご主人様,間違いありません。彼女,おっぱいサイズは,かなり小さくなっていますが,お腹の膨らみといい,クララに間違いありません。わたしが入手した顔写真やプロファイルとほぼ一致します」

 銀次「俺もそう思う。それに,彼女,魔装服を着ていないのに,強者の貫禄さえ感じるぞ」

 林サミコ「こんなに離れているのに,わたしもそう感じます。それに,なんというか,彼女,わたしと同じく,魔獣族の子供を妊娠していると思います。なんとなくそう感じます」

 銀次「フフフ,ほんとうに,類哀れむだな」

 林サミコ「・・・」


 銀次「では,彼女の帰り道で,行動を起こす。俺は,硬直ツボで彼女の行動を制限する。サミコは精神支配を頼む」

 林サミコ「了解です。失敗した場合はどうしますか?」

 銀次「最悪,わたしが教えた標的魔法陣で,ルリカ様の元に転移する。それまでは,できるだけ交戦して,彼女の注意を引きつける。会話できる状態に持っていきたい」

 林サミコ「そうですね,,,妊娠の話で注意を引きつけましょう。たぶん,乗ってくると思います」

 銀次「OK,その辺は任した」


 ・・・

 クララは,重たい胸を左右に振りながら,歩いていた。平日なせいか,人通りは少ない。クララの前方から,背の低い男女が歩いてきた。顔にお面を被っている。子供のようだ。でも,女の子は,妊娠していて,胸もクララほどではないが巨乳だった。


 クララを挟むように通りすぎようとしたときだった。


 その少年,銀次は,クララから30cmほど離れて,気功弾をクララのツボに向けて放った。それとほほ同時に,林サミコが,5本の指を針に変えて,クララの首筋を襲った。


 しかし,彼らの攻撃は,クララに事前に察知されていた。彼女の周囲に,防御結界が構築されて防御された。


 銀次と林サミコは,慌てて数歩引き下がった。クララも数歩距離を置いて,彼らに初級針状氷結弾を発射した。


 だが,その攻撃は,銀次と林サミコの周囲に,展開した霊力の防御層によって阻止された。


 クララ「え? 霊力?」


 クララは裸眼でも霊力を認識できる。彼女は,すぐにSS級氷結弾の連弾攻撃に移った。


 バシュー! バシュー! バシュー!ーー


 その攻撃パターンは,あたかも札幌決戦の再来かとも思えるような状況だった。


 銀次も,すぐに,3重の防御結界を構築しつつ,霊力の触手で,クララを攻撃した。だが,クララも防御と攻撃を同時に行うことができた。


 この攻撃と防御が拮抗している時,クララの頭の中に,強烈な念話が聞こえた。


 『妊娠しているクララ様! 攻撃を中止してください! わたしたちは,敵ではなりません!攻撃を中止してください!』


 その念話は,ややもすれば,激痛を催させるものだ。念話攻撃に近いものだった。幸い,クララは,念話攻撃に耐性があったので,魔法操作を中断するようなことはなかった。


 この念話が発せられた後,まず,銀次が攻撃を中止した。クララも,銀次が攻撃を中止をしたのをみて,彼女も攻撃を中止した。


 周囲にいた人影は,とばっちりを喰うと思って,さっさと遠くに逃げていった。


 クララは,さらに数歩距離を置いた。銀次たちもさらに数歩,引き下がって,お互いの距離が10メートル以上離れた。


 林サミコは,念話の出力を通常レベルに戻してクララに発した。


 林サミコ『クララ様は魔獣族の子供を妊娠していますね? わたしもそうです。出産食後の赤子は,育てるのが非常に難しいと聞いています。その情報を差し上げます。わたしの携帯はXXXです。クララ様にとって,決して損にならないと思います』


 クララ『それを信じろっていうの?』

 林サミコ『信じてください。詳しくは,電話で話しましょう』


 林サミコは,銀次の手を取って標的魔法陣を展開して,その場から消えた。


 クララは,何度か大きく呼吸して,地面に散らばった買い出しした商品を回収した。その後,近くの長椅子に腰掛けて,林サミコが言っていた携帯電話番号に電話した。林サミコもすぐに出て,ラインでビデオ通話することで同意した。


 ライン登録した後,ビデオ通話を開始した。


 クララ「あなたたちは,誰なの?素性を明かしなさい」


 林サミコと銀次は,仮面を取った。


 銀次「わたしは,亡くなった和輝様の意思を継ぐものです。和輝様から霊力を分けてもらいました。ここでは,『太郎』と呼んでください。隣にいるのは『花子』です。魔法が少し使えます。魔獣族から魔法の指南を少し受けました」

 クララ「わかりました。太郎さん,花子さん。どうして,わたしを襲ったのですか?」

 銀次「ひとつは,わたしの師匠である和輝様を殺したあなたがたに復讐したかったというのが正直なところです。でも,わたしの技量では,とてもクララ様に勝つことはできませんでした。ハハハ」


 クララ「あら?そうかしら?わたしのSS級氷結弾は,札幌決戦で放ったよりも,数段レベルが上がったのよ。US級ではないにしても,局所破壊力は,US級に匹敵するわ。それをまったく意を介さないほどに,強力な結界で防御されたわ。それに花子さの念話攻撃も凄かったわ。わたしは耐性があるからよかったけど,他の隊員だったら,それだけで気絶していたかもしれない」


 銀次「花子,お前,念話攻撃できたのか?」

 花子「いいえ,今,初めて聞きました。あの時は,ただ,おもいっきり,最大出力の念話でクララ様に話しかけただけです」

 銀次「なるほど。それが,たまたま,念話攻撃レベルの出力になったのか」


 花子「クララ様,妊娠についての情報を提供します。魔獣族の新生児は育てるのが非常に難しいそうです。それで,わたしは,魔獣族の専門の方に電話して,引き取ってもらうことにしました。事情を話せば,新生児を引き取ってもらえるそうです。電話番号はXXXです。クララ様もそうすることをお薦めします」

 クララ「それはありがたい情報です。ありがとうございます。一度,そこに電話して聞いてみます」

 

 銀次「クララ様,花子も魔獣族の子供を妊娠していますし,どうやら出産時期もさほど違わないようだ。クララ様は,そろそろ産休を取られたらどうですか?クララ様の安全は保障します。宣誓契約もしていいですよ。もちろん,その時は,本名で契約します」

 

 クララは,産休のことは,まったく頭になかった。でも,産休を取るのは,いい方法かもしれないと思った。


 クララ「そうね,,,花子さんと一緒に,出産を迎えるのも悪くないわね。では,ここで宣誓契約してください」

 銀次「わかりました。わたしの本名は銀次,彼女は,林サミコといいます。では,この名前で宣誓契約を行います」


 宣誓契約の仕方は,林サミコが知っている。それでお互い危害行動をしないという単純な宣誓契約を行った。もっとも,林サミコはべつにして,銀次は実名でないので有効ではない。クララも有効性に乏しいのは知っている。でも,戦いを通して殺意を感じなかったことから,相手の口車に乗ってもいいと思った。クララには,両親がいないから,寂しさを紛らせれるかもしれない。


 その後,林サミコは,自分のマンションの住所を教えた。マンションは2LDKなので,一部屋をクララに提供することも伝えた。


 ・・・

 2週間後,クララたちの全国に跨がる広報活動,つまり,長期休暇が終了した。それと同時に,クララは産休を申請して産休を取り,林サミコのマンションに来た。


 これを機に,銀次は,午前中の専門学校への海斗の代役を辞めた。それに伴い,本人の海斗が専門学校に復帰した。海斗が,林サミコを抱く夢をみたのは3回だけだった。


 さすがに3回目ともなると,何かおかしいと気づいた。でも,それを無理やり現実だと思い込むようにした。だって,夢だと知ったら,あまりに悲しいから,,,



 ===

 クララが,林サミコのマンションに来てから,生活パターンが少々変化した。


 銀次が,日中,林サミコの部屋に入り浸りになった。銀次の目的は,クララを手籠めにすることだ。だが,そんなことは,林サミコも百も承知だ。彼女は,クララを銀次の毒牙から守りたい。


 銀次が抱くのは林サミコだけだ。銀次とクララを二人きりにしてはいけない。銀次が専門学校に行かなくなったので,林サミコも同様に行くのを止めた。


 結局,銀次はクララと二人きりになることができない。そこで,林サミコにルリカを任せて,一影たちにちょっかいを出すことにした。


 銀次「クララ,一影たちは,休日はどうしているんだ?」

 クララ「そうね,,,訓練所の近くの町に出るくらいかな? 一影は,映画が好きだから,映画館に出入りする可能性が大きいかな?二影は,ちょっと変わった趣味があって,メイド喫茶でバイトしているって言っていたわ。他の人はわからない」


 銀次「ということは,確実に会えるとすれば,メイド喫茶に行けばいいのか,,,」

 林サミコ「ご主人様,勝手な乙女狩りはいけません。わたしの許可を取ってください!」

 銀次「はぁ? なんでサミコの了解がいるんだ? 俺,一応,サミコの主人なんだけど」

 林サミコ「ご主人様,お仕事と,あっちの方面では,わたしのご主人様です。でも,ご主人様が従える乙女たちは,わたしの配下になります。ですから,わたしの了解が必要なんです!」


 銀次は,つまらないことで言い争いはしたくない。


 銀次「・・・,わかった。じゃあ,二影を攻略しに行く。サミコ,了解してくれるか?」

 林サミコ「了解します。でも,あれは厳禁ですよ」

 銀次「あれ? うん,もともとサイズが違うから無理だ」

 林サミコ「フフフ,そうでした。出来るとすれば,,,クララさん,,,」


 林サミコはクララを睨んだ。 


 林サミコ「クララさん,ご主人様と二人きりになるのは禁止します!」

 クララ「・・・」


 クララは,実際の銀次に会って,すぐに銀次に一目惚れしてしまった。銀次には,女性を惚れさせる『流し目攻撃』がある。 今では,いつでも受け入れOKだ。シオンのことなどどうでもよくなった。


 ・・・

 次の土曜日,銀次は御殿場に来ていた。この町で,メイド喫茶店は一箇所しかない。午後3時からのオープンで,午後8時で閉店となる。


 銀次は,伊達めがねで素顔を隠して,午後3時のオープンから店に入った。伊達めがねをすると,『流し目攻撃』をすることができない。でも,素の自分で勝負できる。


 メイド「いらしゃーいませ,ご主人様!」

 銀次「うん。他のメイドさんはいないの?」

 メイド「まだ,わたしひとりでーす。あと1時間くらいで来ると思いまーす」

 銀次「そうなんだ。じゃあ,コーヒーお願いします」

 メイド「はーい,こちらの座席にお座りくだしませ,ご主人様」

 

 メイドはコーヒーを持って来た。そのコーヒーにおまじないをした。


 メイド「美味しくなーれ,美味しくなーれ,キャイーン!」


 メイドは,コーヒーに,手のハートマークを投影させた。


 銀次「美味しいコーヒー,ありがとうございます。あの,,,メイドさんとおしゃべりは出来るのですか?」

 メイド「今は,他にお客さんがいないから大丈夫ですよ,ご主人様」


 メイドは,銀次の向かいに座った。

 

 銀次「おれ,銀次っていうんだ。あなたは?」

 メイド「わたし,二美でーす。銀次さんの趣味はなんですか?」

 銀次「趣味ですか? そうですね,,,わたし,見ての通り,体が弱いです。ケンカしてもすぐに負けます。だから,ちょっと武道の訓練をしています。少しでも強くなって,わたしの愛する女性を守りたいと思っています」


 メイド「まあ,すてき!ご主人様! 武道って,空手のことですか? わたしも子供の頃,少し習っていたんですよ。今でも突きとか蹴りくらいなら,できますよ」

 銀次「空手もそうだけど,今は,気功術の訓練かな? あっ,そうそう,最近できるようになったんだけど,気功の技を見せてもいいですよ。どう? 見たいですか?」

 メイド「え? ほんとですか? 超うれぴい! ご主人様,愛してまーす」


 銀次は,ちょっと鼻の下を伸ばした。


 銀次は,ティッシュペーパーを幅1cm長さ5cmの大きさにして,左手の親指と人差し指で持った。


 銀次「このティッシュをよく見てね?」

 メイド「はい,ご主人様♥」

 

 銀次は,そのティッシュにごく微量の気を流そうとした。でも,流す前にティッシュがユラユラと揺れだした。


 メイド「きゃー! ステキー,ご主人様! わたしもしていいですか?」

 銀次「もちろん,いいですよ」


 メイドは,銀次と同じようにしてみた。すると,ティッシュを持っているだけでユラユラと揺れた。


 メイド「・・・,あの,,,わたしもできちゃったんですけど,,,」

 銀次「うん,ここ,微量の空気が流れているようだね。もうちょっと重たいティッシュを使いましょう」

 

 銀次は,ハサミを持ってきてもらって,厚手の手拭きを幅1cm長さ5cmの大きさにして,左手の親指と人差し指で持った。銀次は,その手拭きにごく微量の気を流した。今度は,ほんとうに手拭きがユラユラと揺れだした。


 メイド「・・・,ご主人様,それって,隠している手で,風を送っていんじゃなない?」


 メイドは疑り深くなった。


 そんなことをして時間を潰していると,別の客が入って来た。頭からフードを被っていた。

 

 その男は,メイドを見た。自分の手に持っている女性の写真と見比べた。その女性の写真は二美だった。


 男「お前,二美か?」

 メイド「そうだけど?」

 

 男は,今度は男性の写真を二美に見せた。

 

 男「この男を知っているな?」


 二美は,その写真を見た。この喫茶店の客のひとりだ。この喫茶店の営業時間外でも,しつこく迫ってくるので,思わず蹴り倒してやった客だ。たぶん,仕返しに来たんだと思った。


 メイド「彼,あまりしつこいから,蹴り倒してやったわ」

 男「ちょっと表に出ろ」


 銀次は,ここで侠気を示すべきだと思った。彼は,その男の前に立った


 銀次「か弱い女性に暴力はいけませんよ」

 

 ダーン!(男が銀次に回し蹴りを放って,銀次が床にたたきつけられた音)


 それを見たメイドはすぐに銀次の側に駆け寄って,銀次の状況をみた。銀次は,「いてて」と小さい声で打たれた部位をさわった。


 メイドは,男に振り向いて叫んだ。


 メイド「こんなことろで暴力は止めなさい!」

 男「ふん! これでもくらえ!」


 その男は,なんと魔法陣を出現させた。そこから初級の氷結弾がメイドを襲った。


 シュー!シュー! (氷結弾がは発射する音)


 それと,同時に銀次がメイドを庇って,彼女の前に被さった。

 

 ドス!ドス!(氷結弾が銀次の背中に刺さった)


 銀次の背中なら血が流れ出した。


 メイド「え? 銀次さん? 大丈夫? 」


 銀次は気絶をしているようだった。これを見てメイドは怒った。


 彼女も魔法陣をくり出して,その男に,初級針状爆裂弾の連弾攻撃を行った。


 バシュー! バシュー!ーーー


 10発もの初級針状爆裂弾のすべてが彼にヒットした。


 ボン!ボン!ーーー


 男「え? これって,ほんとうに初級レベルなのか?」


 男の体に10箇所もの孔がぽっかりと空いた。そして,,,体全体が粒子状になって消滅した。


 メイドは,男が粒子状になったのにビックリしたが,今は,それよりも銀次の体が心配だ。


 メイド「銀次さん!銀次さん!しっかりしてください!」


 メイドは,叫ぶだけで,応急措置をしなかった。突き刺さった状態では,下手に氷結弾を抜かないほうがいいという知識は知っていた。その氷結弾も微粒子になって消滅した。


 銀次は,目を開けた。


 銀次「わたしは大丈夫です。かすり傷程度です。救急車も呼ばなくていいです」

 メイド「ほんとうですか?」

 銀次「はい,ほんとうです」


 銀次は,背中の傷を見せてあげた。2箇所,氷結弾が刺さった場所には,赤く孔が空いているようだったが,血豆で塞がっているようだ。それも霊力による演出だ。


 氷結弾はそこに刺さったように見えたのは,背中に展開したブヨブヨ状の結界のためだ。流れた血も,霊力を赤くして流れるように見せた。もし,メイドが『霊力ミエール』のめがねをしていたら,すぐにバレただろう。でも,今はそのめがねをしていない。


 銀次は,これで,目の前のメイド,二美が,二影であることを知った。


 銀次は,すぐに服を着て,背中の傷を詳しく見せないようにした。銀次は話題を変えた。


 銀次「メイドさんって,魔法使えたのですね。びっくりです」

 メイド「え? 銀次さんは,魔法のこと知っているの?」

 銀次「はい,わたしの師匠が,以前,魔法を使える人から,少し習ったそうです。でも,わたしは使えません」

 

 その後,二影のはからいで,銀次を奥の部屋で横にさせてもらった。間もなくして,客がポツポツと入ってきて,かつ,他のメイドも来たりして,お店が忙しくなってきた。それでも,二影は,時間を見つけては,銀次のところに来て,ケーキや飲み物を持ってきたり,汗を拭いてあげたりした。


 午後8時,喫茶店が閉店した。


 二影「銀次さん,どう,歩けるようになりましたか?」

 銀次「はい,歩けますけど,そんなに長くは歩けそうもありません。わたし,,,東都からここに日帰り旅行に来たのですが,,,東都までは,ちょっと帰るのは無理なようです」

 二影「そうですか,,,どうしようかな,,,ちょっと待っててね。近くのホテル空いているか確認するね」


 二影は,ホテルにいろいろと電話したが,すべて満室だった。空いているのはラボホテルくらいしかない。でも,ラブホテルなら,すぐそばにいくらであった。


 二影「銀次さん,ラブホテルくらいしか空いていないわ。そこでもいい?」

 銀次「はい,体を休めれるならどこでもいいです。いろいろとありがとうございます」

 二影「いいのよ。銀次さんは,わたしの英雄なんだから」


 二影は,年下の銀次に好意を持った。


 二影は,銀次を連れて,徒歩10分のラブホテルに入った。二影は,すぐに自分の居場所を一影に報告した。かつ,魔法を放つ得体の知れない男のことも報告した。一影はすぐにボスの虎影に報告した。その情報は,すぐにα隊や多留真のところにも届いた。


 ー 警視庁本部 ー

 

 このところ,α隊隊長と多留真は頻繁に打ち合わせしている。二影から報告を受けた件と関係している。二影の場合,警察を呼ばなかったので,事件とまでは発展しなかった。でも,魔法を用いた傷害事件がポツポツと発生していた。しかも,加害者は,粒子状になって消滅してしまう点も酷使していた。


 どうやら,加害者は,せいぜい10分程度しか体を維持できないことも分かってきた。


 α隊隊長「二影からの報告も合わせると,これで5件目だぞ。二影の報告が一番詳しいが,相手は初級氷結弾を2発発射した。二影の場合は別として,4件とも被害者は重傷は負った。不幸中の幸いなのは,まだ死亡事件が発生していないことだ」


 多留真「ピアロビ顧問がいないのが辛いな。でも,考えられるとすれば,魔法で生み出されたものと考えるのがわかりやすい」

 α隊隊長「でも,言葉を理解して,しかもしゃべているんだそ。そこまで,できるものなのか?」

 多留真「わからん。また,千雪組に高い金を払って,教えを乞うしなかないだろう。クララ,いや,今は11号だったな。11号を行かせたらどうだ?」

 α隊隊長「11号は,滝ヶ原基地で訓練している。まな美に行かせてくれ」

 多留真「そうか,,,まな美か,,,ふふふ,意地悪するにはちょうどいいか」

 α隊隊長「意地悪? まな美は,お前の子供を妊娠しているんだろう?そんなこと言っていいのか?」

 多留真「いいんだ,それで。意地悪しないと気が収らん。今度の方針会議でまな美に振ってやる。ふん,千雪組からコケにさせるがいい」

 α隊隊長「・・・」



  ーーー

 林サミコの部屋には,クララ,銀次,さらにルリカまでいる。4人もいると,生活費もそれなりにかかってしまう。


 林サミコは,ちょっと気になっていることがあった。このマンションに来てから,まったく暗殺の仕事が来ないのだ。


 でも,仕事がなくて,月50万円もくれるなら有り難い話だ。昨日,お金が振り込んでもらう日だ。林サミコは,携帯で銀行口座の残高を見た。


 人金金額・・・10万円,,,


 林サミコ「え? 10万円? どうして?」


 林サミコは,直輝に電話した。直輝に電話するのも,今回が始めてだ。


 林サミコ「すいません。昨日,銀行振り込まれた金額を見て,,,その,,,10万円しか振り込まれてなくて,,,」

 直輝「あ,それ? ごめんごめん,実は,暗殺依頼の仕事が,他社に流れしまったんだ。魔法を使う男で,10分後には消えるという,完全犯罪を謳っているらしい。しかも暗殺料金がかなり安い。重傷を負わせるだけなら,15万円でいいそうだ。

 今回,10万円送金したのも,紹介者のザビルの顔を立てて,無理して送金したものだ。でも,このまま仕事がないと,来月からは振込なしだ。そのマンションも解約する。専門学校の授業料も払えない。今のうちに心の準備をしておきなさい」


 ブチッ!


 電話が切れた。林サミコは愕然とした。


 クララ「サミコさん,どうしたの?」

 林サミコ「実は,,,」


 林サミコは,正直に,自分が暗殺業をしていること,その暗殺業が他社に流れてしまっていることを伝えた。


 クララは,そんなことを聞いても,全然心配しなかった。


 クララ「なんだ,そんなこと? いいわよ。わたしの寮に来ても。ここよりも狭いけど,2人住むには充分だわ。でも,銀次さんとルリカさんは,ちょっと無理かもね」


 林サミコは,クララではなく,銀次と一緒に住むのが目的だ。このままでは,その夢がほんとうに夢のままで終わってしまう。


 林サミコはすぐに銀次に電話した。


 林サミコ「ご主人様,,,実は,暗殺の仕事が,魔法を使う男で,10分後には消えるという暗殺者に奪われてしました。しかも依頼料が15万円という破格の値段らしいんですぅ。このままでは,送金もストップして,マンションも追い出されてしまいますー。えーーん!」

 銀次「10分後に消える? もしかして,,,サミコ,わかった。この件,もしかしたら,俺の方でわかるかもしれん。他に情報があったら,すぐに連絡してほしい」

 林サミコ「えーーん,えーーん,,,はい,わかりました,ご主人様,,,えーーん」


 林サミコは,泣き真似をしながら銀次に訴えた。切迫感を強調するためだ。だって,ほんとうに死活問題だ。これほどの死活問題はそうそうない。

 

 今の林サミコは,暗殺業しかできない。立ちんぼすれば,警察官に捕まって,彼らを殺す羽目になったし,,,母乳が相手の体につけば,あの部分がおかしくなるし,,,暗殺以外,食べていけない。その仕事がないと,ほんとうに飢え死にしてしまう!


ーーー

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