第57話 スミ子,ラナ子の思い

 夏江の上司役である魔獣族のマキは,生活のため,呪詛をかけることで金を稼いでいる。もちろん,魔獣族の組織から一定のお金はもらえる。

 正当な理由があれば,いくらでもお金は支給される。だが,ほとんどの獣魔族の連中は,上層部から支給されるお金は当てにしていない。お金をもらった以上,一定の成果を出して報告する義務が生じる。それがいやで,ほとんどの連中は,自分で稼いでいる。確実に成果が出る場合に限り,上層部からお金を請求するという感じだ。

 マキもそうだった。彼女の場合,呪詛魔法に造形が深く,怨念を増強させる強化魔法に精通していた。


 マキは,数日前に,華丸総裁が警察に逮捕されたことをニュースで知った。そのきっかけを作ったのは夏江だ。


 そして,今日,マキに呪詛の依頼をした依頼主に報告する日だ。本来,仲裁人と一緒に行くべきだが,仲裁人はマキの仕事の成否にはまったく興味がなく,報告会には参加しない。1割のマージンさえマキからもらえればいいだけのことだ。


 マキに仕事の依頼をしたのは,華丸総裁の亡き妻,華丸明美の母方の祖母である南方静香だ。72歳なので,まだまだ元気だ。華丸明美の生母は海外に暮らしていて,娘の死の原因を追及するには不便だ。その生母が海外で生活することになったため,彼女の持っている不動産をすべて華丸明美の名義に換えた。その不動産価値は80億円にも達する。だが,これが華丸明美を短命に導いてしまった。


 マキの報告会には,依頼主だけでなく,総裁邸で運転手をしていた男性や,同じく女中をしていたスミ子やラナ子も参加した。


 実は,女中のスミ子やラナ子と運転手が同日に首にされたことで,彼ら3名は,屋敷を引き払った後,お互いの情報交換をすることにした。すると,なんと,彼らは,総裁を殺すという共通の目的があったことを初めて知った。彼らは,その後,彼らが持っている情報を,総裁の亡き妻,華丸明美の祖母である南方静香にすべて提供した。


 祖母は,すぐに海外にいる自分の娘であり,かつ華丸明美の母親にその情報を伝えた。そして,華丸明美の母親のたっての依頼で,祖母が華丸明美の夫である華丸総裁を呪い殺す依頼をすることにしたという経緯がある。


 祖母の南方静香は,裏社会に精通した人物と連絡をとり,信頼の置ける仲介屋とコンタクトを取った。仲介屋は信用が大事だ。着手料金はわずか200万円だが,なんと成功報酬が2億円と高額だった。南方明美は,その仲介屋を信じて,総裁を呪い殺す依頼をした。


 マキは,果たして成功報酬の満額を受け取ることができるのか,そこが最大の関心事だ。総裁を呪い殺すことに失敗した以上,満額は得ることができないだろう。だが,妻殺しの教唆の罪で逮捕されたことへの評価をどれだけしてもらえるか,そこが最大のポイントだ。


 ー 祖母の南方静香邸の居間 ー


 マキは,南方静香邸の居間に通された。そこには,祖母はもちろんのこと,解雇された運転手や女中のスミ子とラナ子もいた。マキは,夏江と同じくオーラを診ることができる。ラナ子のオーラを診ると,彼女も,なんらかの霊能力を持っていることがすぐにわかった。だが,今は,ラナ子のことなど,どうでもいい。


 祖母から,お互いの自己紹介を済ませた後,報告会を開催した。


 祖母「今日の報告会は,マキさんからの成果報告会になります。でも,その前に,総裁を殺すことに尽力した運転手さんや女中のスミ子さん,ラナ子さんにも,その辺の苦労話を孫である明美の遺影の前でしてください。よろしくお願いします」

 運転手「もちろんです。そのつもりで来ました」

 ラナ子「わたしもそのつもりです」

 スミ子「わたしは,娘のラナ子に辛い運命を背負わせてしまいました。それが不憫でなりません。でも,この場で,それを,亡くなられた奥様の遺影の前で懺悔しようと思います」

 

 スミ子は,すでに半泣き状態になっていた。


 マキ「今日は,丸1日時間をとっていますので,わたしのほうは構いません。どうぞ,思う存分,思いの丈を亡くなられた奥様の遺影の前で語ってください。わたしも,自分の成果を,詳細に報告させていただきます」


 最初に話すのはスミ子だ。まだ,涙を流していたが,ポツリポツリと話し始めた。


 スミ子「わたし,,,大学を卒業する日に,クラブの仲間に無理やり犯されたことがあります。クラブの打ち上げということで酒を飲まされてしまって,,,わたしは,彼らをどうしても許せませんでした。

 でも,晴海印刷会社という会社に就職して,1,2年も経つと,少しはその過去を忘れることができるようになり,前向きに生きてみようと思いました。そんな時です。その会社の社長の御曹司と職場が一緒になり,自然と付き合うようになりました。そして,結婚しました。とても幸せを感じました。その後,夫が会社の社長になって間もなくのことです。夫の経営拡大路線が裏目に出てしまい,大幅な赤字を出してしまいました。夫は,会社や自宅の資産を抵当にして,取引先である華丸金融から融資を受けました。しかし,赤字を解消することができず,しかも,追加融資を断られてしまいました。そんなある日,夫はわたしに1枚の紙を残して自殺しました。自分の生命保険のお金を少しでも赤字の補填に充ててほしいと,,,」


 ひとしきり泣いた後で,スミ子は話を続けた。


 スミ子「間もなく,会社は自己破産を申請しました。家も財産もすべて失いました。生命保険も赤字に充てられました。わたしは,住むところさえも失いました。そんな時,総裁の亡くなられた奥様から,『よかったら,わたしのもとで働きませんか?』とお誘いがありました。わたしは,藁をも掴む思いで,その誘いに乗りました。奥様は,華丸金融が夫に追加融資をしなかったことで,倒産に追い込まれて自殺する契機になったことを知っていました。その罪滅ぼしの気持ちがあったのかもしれません。


 奥様の元で,女中の仕事をし始めて半年ほど経った頃でしょうか? いつものように,お客さんにお茶を出しにいったのですが,たまたま,その日は,書斎ではなく,和室で商談をしていました。大事な話ではなかったのでしょう。わたしは,障子を開けるのを躊躇っていると,総裁と華丸金融の社長が雑談的な感じで笑い話が聞こえました。 


 ーーー

 華丸金融社長『あの,晴海印刷会社の乗っ取りはうまくいきましたね。あの会社資産の算定も通常の半額くらいでごまかせましたから』

 総裁『フフフ。あの会社の売却益の数%でも,賄賂で渡せば,いくらでもあの会社と取り引きの中断に同意するものだよ。世の中,常に義理と人情ではなく,利益至上主義だよ。わかったかな?』

 華丸金融社長『さすがは総裁です。もう企業乗っ取りの神様ですな。倒産した社長を自殺に追い込んだのはこれで何人目ですか? さすがは,ちまたでは『自殺追い込み人』と呼ばれているだけのことはありますな』

 総裁『フフフ,バカ言っちゃいかんよ。これでも救いの神様と言われているんだ。倒産した社長の奥さんたちには,仕事を斡旋しているし,子供たちには,きちんと学校に行かせてもいる。系列の中学や高校があるからな』

 華丸金融社長『騙し取った利益からすれば微々たる還元ですね。まあいいでしょう。そう言えば,晴海印刷会社の社長の奥様は,どこに就職を斡旋したのですか?』

 総裁『妻にお願いして,適当にアレンジをお願いした。確か,どこかの温泉の女中になったと聞いているが』

 華丸金融社長『一夜にして社長夫人から温泉の賄いさんですか。人生って無常だとよく言ったものです』

 ーーー


 こんな話を聞いて,わたし,ほんとうに激怒してしまいました。華丸総裁を殺そうと決心したのはこの時です。そして,総裁の奥様は,わたしの身分を隠してまで,総裁邸に女中として就職させたことに改めて感謝いたしました。

 

 それから,わたしは,復讐方法を考えました。どうせ復讐するなら,わたしを犯した連中も復讐したい。しかも警察に厄介にならない方法でです。奥様の手前,すぐに総裁を殺すのは止めにして,長期的な方法をとることにしました。それは,孤児の少女を養子に迎えて,呪詛による殺しのテクニックを身につけさせることでした。

 わたしは,美人でかわいらしいラナ子を見つけて養子にしました。ラナ子が8歳のときでした。わたしは,ラナ子に,自分の目的を伝えました。わたしの復讐の手伝いをしてくれるように依頼しました。ラナ子には悪いことをしましたが,依頼と言っても命令のようなものです。そのために,呪詛を習得してもらうように依頼しました。ラナ子は,何も反論せず,ただ,わたしの言うことを聞いてくれました。


 それから,わたしは,ラナ子を連れて,陰陽道では有名な聖華道の教祖様に,ラナ子を住み込みの弟子にしてくれるように依頼しました。期間は1年間です。月謝は無料でした。そのかわり,レイプ,虐待,その他,どんなことを娘におこなわれても文句は言わない約束でした。わたしは,その言葉に目をつむって,契約書にサインをしました。鬼畜の母親と言われてもしょうがありません」


 スミ子の涙は,どんどんと溢れていった。


 スミ子「1年ごとに,呪詛や呪いで有名なところに,ラナ子を連れていきました。教祖様はラナ子を一目見て,無料で引き取ってくれました。それはそうでしょう。1年間,性奴隷にできるのですから。でも,そのかわり,しっかりと呪詛や呪いのノウハウを仕込んでもらうことを約束しました。


 そんなことを繰りかえして,8年が経過しました。奥様は,急に病に倒れてしまい,どの医者に診てもらっても,原因不明だと言われました。ただ,ラナ子は,原因ははっきりとしないものの,呪詛の可能性が高いとわたしに言っていました。でも,呪詛や呪いの英才教育をしたラナ子でさえも,奥様の病気の原因が,呪詛だとして,どのような呪詛なのかまでは,まったく解明することはできませんでした。そうこうするうちに,とうとう,奥様は亡くなられてしまいました。


 その後,ラナ子は,亡くなられた奥様の霊魂と何度か交信しています。その辺の話も含めて,ラナ子に語ってもらいます。ラナ子,,,ごめんね」


 ラナ子「お母さん,ラナ子はお母さんの養子になったこと,今は,決して後悔していません。確かに一時期は,お母さんを殺してやりたいほど憎んだ時期もありました・・・」


 ラナ子も少し涙ぐんだ。でも,気持ちを落ち着けて,自分のことを語った。


 ラナ子「わたしの生母は,わたしが8歳の時,再婚しました。再婚相手は,もう最悪でした。性欲の塊のようなやつでした。生母も,病的に性欲が強く,お似合いのカップルだったのでしょう。ですが,あるとき,義父は,わたしに手を出しました。もっとも,最初は最後まで犯すことはしませんでした。でも,わたしに彼のあそこを舐めさせるなど,性的なサービスを強要しました。小さいわたしには,あがらうことができませんでした。このままだと,わたしは確実に犯されると思ったので,思い切って,学校の先生に訴えました。先生は,びっくりして,すぐに児童相談所に連絡してくれました。それから,いろいろとゴタゴタがあったのですが,結局,わたしは,児童相談所の人に引き取られて,しばらく施設で過ごすことになりました。


 そんな時です。今の母親がわたしを引き取ってくれました。わたしはとても嬉しかったのを覚えています。ですが,その後,間もなく,母の目的を知りました。わたしは母の復習のため,呪詛、呪いの専門家にさせるためだったのです。


 最初に母に連れていかれたのは,聖華道という陰陽道の流れを組む新興宗教団体でした。そこの教祖様に預けられました。今,思えば,教祖様はそれなりに霊能力はあったのだと思います。ですが,同時のわたしがしたことは,教祖や信者への性的奉仕と,詐欺の片棒を担ぐことでした。性的奉仕の詳細な内容は,ここでは割愛させていただきます。ですが,この時から,わたしは昼夜問わず犯され続け,養子にした母親を殺してやりたいほど憎んだことだけは言っておきます」


 この話を聞いて,母親がまた涙をどんどんと流しはじめた。


 ラナ子「聖華道でのわたしの仕事は,巫女に扮することでした。外見では,ちょっと幼くて,愛らしい子供のようなので,巫女の清廉な衣装を着れば,とても神々しく見えたことでしょう。護摩を炊いて,そこで,20分ほど,踊ったり,お祓い棒を剣技をするかのように振るったりして,演技するのがわたしの巫女としての仕事でした。そして,教祖様から事前に教えられた言葉を,信者に伝えるのです。


 例えば,『あなたの母親の病は,このままでは治りません。すぐに病院を替えてください。東北の方角に吉が出ています。その方角にある評判のいい病院を選げば,母親の病は全快するでしょう。エイ!ヤー!オーー! 以上で,陰陽道の尊い導師様の御霊からの言付けでした』という感じです。


 信者は,わたしの言葉を100%信じたようです。わたしの言葉で,ほんとうに救われたのかどうかまでは,わたしは知りません。でも,信者の数が一向に減らず,かつ,詐欺だと訴える信者も出なかったことから,教祖様には,それなりに的を得た回答だったと思います。たぶん,教祖様は,各病院の医者のレベルを事前に調べていて,それを,わたしから,『御霊からの言付け』という格付けをすることで,法外なお布施をいただいていたのだと思います」


 ラナ子は,コーヒーを一口飲んでから,言葉を続けた。


 ラナ子「こんな感じで聖華道での1年が過ぎました。わたしは,すでに,性的快感を感じる体になり,かつ,何の膨らみもない胸でしたが,常に胸を揉まれ続けられたせいか,1年後にはCカップにまで大きくなってしまいました。


 母親が私を迎えに来た日,それは,同時に聖華道を去る日でした。教祖様は,わたしに言いました。


 教祖『ラナ子や。この1年,性的奉仕で,辛かったこともあったろう。だが,その経験は,ラナ子の人生において,決して無駄なことではない。ラナ子が,霊的に成長したら,このお守りを開封しなさい。その時,このお守りは,あなたの助けになるだろう』


 そう言われて,このお守りをもらいました」


 ラナ子は,お守りをリュックから取り出した。この場は,お守りを語る場ではないので,ただ,見せるだけにした。そのお守りに反応したのはマキだった。


 マキ「そのお守り,わたしに見せてくれる?」

 ラナ子「はい,どうぞ。どうせ大したものではないものですから」


 ラナ子は,そのお守りをマキに渡した。マキは,そのお守りをまじまじと見た。明らかに,魔法陣による封印結界を施してある。時間とともに封印が解かれる仕組みだとわかった。あと,1ヶ月もしないうちに封印が解かれそうだ。

 しかし,こんな高度な魔法封印を施せる人間がいるとは思えない。マキでさえも,こんな魔法封印を施すなどできない。いったい,聖華道の教祖様って,いったい,どんな人物なのか? 時間のあるときに調べてみる必要があると思った。


 マキ「ラナ子さん,ありがとう。このお守り,返すわ。それ,大事にしていてくだいね。きっと,あなたにとっていいことがあると思いますよ」

 ラナ子「はい,ありがとうございます。つまらないものでも,そう言われると嬉しいです。では,話を続けます」


 ラナ子は,話を続けた。


 ラナ子「次に,母に連れていかれたのは,修験道の流れを組む新興宗教,聖山道でした。そこは恐山の麓にありました。そこでの生活は,聖華道と変わらず,巫女として,恐山の中腹で護摩祈祷をして信者を騙す仕事でした。


 やはり,教祖様から事前に話す内容を伝えられて,それを護摩祈祷した後,信者に神託するというものです。高額お布施をした信者には,わたしが性的奉仕をしました。ここでも,わたしは,昼夜問わず,教祖様や信者に犯されつづけました。このときには,わたしは,もう母を恨むような元気もありませんでした。すでに,性的快感は失っていて,犯されても,快感を感じることはなくなっていました。 性病にかかっても,病院に行くような時間もなく,ただ,抗生物質を飲まされて,うやむやのうちに処理されていました。


 ただ,Cカップの胸は,揉まれに揉まれてしまって,1年後には,つまり,10歳にもかからず,Dカップにまでなってしまいました。


 ここでの1年が過ぎた時,教祖様から,お守りを渡されました。聖華道と同じようなお守りでした」


 ラナ子は,聖山道の教祖からもらったお守りをリュックから出した。色違いですが,聖華道のお守りと同じデザインのお守りだった。このお守りを見て,マキがまた反応した。慌てて,ラナ子の了解を取るまでもなく,お守りを取り上げて,まじまじと診た。やはり魔法陣による封印結界がされてあった。同じく,1か月もしないうちに封印が解かれる状況だった。


 マキ「なるほど,,,このお守りと,前に見せてもらったお守り,同一人物によって,同時期に封印されたものだと思うわ。つまり,教祖様自らが封印した可能性は低いってことだと思う,,,」


 マキは,自分の解説に納得した。ともかくも,かなり以前から,新魔大陸か魔大陸の人間が,この世界に来て,いろいろと悪さをしたのだろうと予想した。


 ラナ子は話を続けた。だが,こんな感じで話を続けると,何時間もかかってしまうので,少し,話を短縮することにした。


 ラナ子「3回目に,母に連れていかれた場所は,毛色が変わって,キリスト教系の新興宗教,聖霊道でした。そこで,わたしは,即席の悪魔祓いの祈祷師,エクソシストに扮しました。病気を患った信者には,悪霊がついていると嘘を言って,高額の聖水や十字架などを買わせました。それで,病気が治ったかどうかは知りません。でも,教祖様自らが言うよりも,わたしから言うほうが,信者は『イエス様からの神託があった』と容易に信じてくれました。


 ここでも,性的奉仕は,同じく,時と場所を選ばす,教祖と信者から犯され続けました。でも,それがわたしにとって,ご飯を食べることと同じように,日常のことなんだと信じこむようにしました。そうでもしないと,発狂してしまいそうでした。


 1年後,わたしの胸は,11歳にして,Eカップにまで大きくなってしまいました。


 母が迎えに来た時,教祖様はわたしにお守りをくれました」


 ラナ子は,また別のお守りをリュックから取り出した。色違いの同じデザインのお守りだった。マキはもう驚かなかった。少し離れたところからでも,同じく魔法陣によって封印されていて,それが解かれるのが1ヶ月もないこともわかった。


 ラナ子「わたしは,この3年間でわかったことは,宗教って,信者を騙して高額のお布施をだまし取る,詐欺罪にもあたらない現金巻き上げシステムだってことです。


 でも,,,4回目に母に連れていかれた所は北海道にある虚道宗でした。そこで,わたしは,初めて,呪いなどの『念』を増強できる方法を知りました。衝撃でした。わたしは,虚道宗で,種々の念を強く念じる仕事をしました。念,つまり,感情をストレートに出すことでした。


 わたしは,これまで,厳しい性奴隷の生活を強いられてきて,感情を殺してきました。でも,虚道宗に来てから,逆に感情を出すように訓練されました。なんか,やっと人間らしい生活を送ることができるようになった気がしました。


 例えば,鞭で打たれて痛みの感情を出したり,男どもに輪姦されて情欲を解放したり,他の女性とハンサムな男がエッチするのを見せられて性欲を湧き起こしたり,他人の幸せを見せつけられて嫉妬の感情を出したり,自分の体をボコボコに殴られたり,おっぱいやお尻を串刺しされたりして,その行為者を呪い殺したいという感情を沸き起したりと,ありとあらゆる感情を引き出す訓練を受けました。


 その甲斐あって,やっと,感情というものが,どのようなものかわかった気になりました。


 それらの感情は,基呪符と呼ばれるものに投影させることで呪符を完成させます。


 わたしは,虚道宗での虐待,性奴隷,肉便器,あらゆる刺激を受け,感情を取り戻しました。母親への憎しみ,感謝,哀れみ,復讐,郷愁,生母への嫌悪など,逆に,精神分裂を起こしそうになりました。


 虚道宗での生活が1年ほど経過した時,わたしは,自分の意思で虚道宗での生活を止めることにしました。虚道宗でこれ以上学ぶものがないと思いました。自分の意思で行動したのはこれが初めてだったと思います。


 わたしは12歳になっていました。胸もFカップほどになっていました。それからは,母と関係なく,自分の意思で,ほんとうに霊的な能力のある女性霊能力者を探しました。


 わたしは,まず,虚道宗の師範の方から,女性霊能力者を紹介してもらいました。もちろん,タダで紹介などしてくれません。彼の性奴隷として1ヶ月過ごすことで,やっと紹介してくれました。


 霊能力者の方は,もともと女性が多いようですが,女性の方に弟子入りすれば,もう性の奉仕をしなくていいと思いました。でも,それは浅はかな考えでした。


 1ヶ月の性奴隷生活を経て,紹介されたのは,虚道宗でも修行したことのあるイタコの一種,オガミサマである弥生という30歳後半の女性でした。彼女は岩手県南部の地域で活動していました。


 弥生様は,確かに本物の口寄せできる巫女様でした。わたしが弥生様の弟子になる前までは,主に女性の客がほとんどでした。でも,わたしが弟子になったといううわさが広まると,客層が男性ばかりに変わってしまいました。


 弥生様の霊能力は,すごくて,自分の体に霊魂を憑依さえるだけでなく,他人の体にも憑依させる能力を持っていました。それで,男性客は,亡くなった妻を召喚して,わたしの体に憑依させたいと依頼しました。


 そして,憑依されたわたしは,男性客と性的な関係を持つという行為をさせられました。わたしの場合,憑依されていてもしっかりと状況を認識でき,かつ,犯されて快感さえも感じることができました。今思うと,憑依されたのはほんの数分ほどで,それで亡き妻に憑依されたと男性客を完全に信じこませ,わたしは,憑依された後遺症が残っていたのでしょう。その流れで,男性客と性的関係をもちました。


 弥生様は,わたしを弟子に取ることで,これまでの収入の10倍以上も稼いだと思います。わたしは,弥生様のもとでいるのは,1年間だけと何度も口をすっぱくして言い続けました。そうしないと,わたしを弟子という名目で,延々と性の奉仕活動をさせたと思います。

 

 1年後,13歳になり,胸もGカップほどになっていました。弥生様は,しぶしぶわたしを別のイタコ,ミコサマである千代子という40歳前半の女性のもとに紹介してくれました。彼女は福島県で活動していました。

 

 千代子は完全に詐欺師でした。男性客が来ると,事前に別の専門のスタッフが状況を本人に確認するのです。亡くなった妻の名前,性格,得意な料理,性癖などです。その情報は別の専門のスタッフに渡されます。そこで,無銭で千代子に耳にしているイヤホンで情報を伝えるのです。わたしは,霊感の強い女性の役割りで,亡くなった妻の感性を受け継いだ少女,という触れ込みです。そして,男性客に性の奉仕をします。男性のお布施は,少なくとも50万円です。割のいい詐欺商売でした。


 1年後,14歳になり,胸もIカップほどになっていました。千代子は,十分にお金を稼いだので,この商売から足を洗うことを考えていました。そして,わたしが去る日,わたしにこう言いました。


 千代子「ラナ子,この1年,よく頑張りました。あなたの性の奉仕,決して無駄にはしません。弥生は私の妹です。妹のところでも性の奉仕,頑張ったのでしょう?そのお礼もしないといけませんね。そこで,わたしの能力をあなたに授けます」

 ラナ子「え?千代子様は,詐欺師ではなかったのですか?」

 千代子「そうよ。詐欺師よ。でも,霊能力は持っているの。もっとも,1日1回しか使えないから,使わないようにしていたの。わたしの霊能力,それは,霊魂を感知して,他人の体に完全憑依させる能力よ」


 わたしは,完全憑依という言葉を理解がわかりませんでした。それを察してか,千代子様は言葉を続けました。


 千代子「妹の弥生が行っているのは,簡単に言うと,なんちゃって憑依的なものね。憑依しようとする霊魂を憑依霊魂,他人の体の霊魂を他者霊魂って言うことにするわね。わたしの能力は,憑依霊魂を他人の体に導いて,他者霊魂を完全に麻痺させて,憑依霊魂が他者の体の支配権を完全に奪わせるものなの。そのため,他者霊魂は,憑依されている間,まったく記憶がない状態になるわ。


 でも,弥生のはちょっと違うわ。憑依霊魂が他者霊魂にお願いする程度のことしかできないわ。まあ,不完全な憑依って感じね。でも,霊感の強い子の体の場合,完全憑依に近い状態になることもあるみたい」


 この説明で,わたしはやっとおおよその理解をすることができました。その後,千代子様は,自分の頭をわたしの額に接触させました。


 千代子「神様,仏様,どうか,わたしのこの霊能力を,ラナ子に移してください。わたしは,この世界から足を洗います。これからは,詐欺商法で家族離散になった方々の心のケアをするNPO法人を立ち上げて,世のため人のために尽くします。どうか,願いをお届けください」


 わたしには,『スゥーーー!』というような声が聞こえたように思いました。そして,千代子様の霊能力を受け継いだと直感で理解しました。


 わたしは,あと1年間,呪詛や呪いの修行する予定であることを伝えました。そこで,わたしを,ある大学教授のもとに紹介しました。大垣悟教授です。民俗学の教授で,古来から伝承される呪詛、呪いの研究を専門にしている方です。わたしも彼を知っています。半年程前に彼は客として千代子様を訪れました。


 その時,千代子様は,本物の霊能力のパワーを使って対処したようです。でも,その時,わたしは亡き妻に完全憑依されてしまったので,憑依されている間の記憶はありません。わたしが性的奉仕をしたかどうかもわかりません。でも,衣服の乱れから,なんらかの性の奉仕はあったのだと思います。


 わたしは,大垣悟教授の門を叩きました。そして,千代子様の紹介状を彼に渡しました。なんて書いてあるのかは知りません。でも,容易に想像はつきました。性奴隷になる代わりに,呪詛と呪いを教え込んでくれという内容だったと思います。


 教授は,ひとり暮らしでした。わたしは,教授の妻の代わりのような生活を送りました。食事の準備,掃除,洗濯,留守番,余った時間で,教授から与えられた書籍を読む日々でした。漢字がほとんど読めないわたしに,教授はペンタイプのスキャン辞書を買ってくれました。また,パソコンの使い方や携帯の使い方も教えてくれました。


 教授が帰ってくると,お風呂で教授の背中を流し,教授の下半身や校門まで舐めてきれいにします。褒美として教授に犯されます。


 夕食が終わってから,教授に日本で伝承される民間呪詛、呪いの歴史の講義を受けます。とてもわかりやすい内容で,目から鱗が出る思いでした。その後,教授はしばらく読書や執筆活動時間をして過ごす時間です。その間,お茶やコーヒーを出したり,時には,教授の下半身の世話をしたり,時には,裸踊りなどをして,教授の気分転換を図りました。機嫌の悪い時は,鞭打ちの刑を受けることもありました。


 夜,寝る時は,教授に犯されながら,おっぱいをむちゃくちゃにされます。幸い,まだ初潮が来ていなかったので,妊娠の可能性はありませんでした。でも,わたしにとって,それはこの上なく,平穏な日々でした。時々,教授は出張とかで,2,3日留守にします。そんな時は,わたしにとって天国でした。町に散策するという至上の喜びもあります。


 時には,教授と一緒に出張することもありました。民間伝承されている貴重な書籍を入手するためです。そのために,書物の持ち主にわたしの体を差し出す条件で,書物を入手していました。書物の持ち主は,一人だけではありません。家主,その息子兄弟です。彼らに一晩中犯され続けました。全身精子だらけになりました。


 1年間があっという間に過ぎました。わたしは,この国の民間呪詛体系を習得しました。それに,パソコンや携帯の使い方,漢字もだいたい覚えることができました。それは,わたしにとって,常識を覚えるいい機会だったと思います。

 

 また,この時期に初潮が来ました。それからは避妊薬を飲んで犯されました。

 

 15歳になり,胸もKカップほどの大きさになり,教授の元を去る日が来ました。教授は,ずっと自分の元にいてくれと涙を流して訴えました。結婚してもいいとまで言ってくれました。一瞬,心が揺れました。ですが,きっぱりと断りました。教授に対して情は多少あったのですが,でも,わたしは,自分のすることが出来たのです。まず最初にすることは,母親の復讐です。


 教授も諦めて,別れてくれました。去り際に,教授がまとめた『民間呪詛大典』という本をいただきました。出版する予定のない,教授自身のために書いた本です。それを見れば,簡単な民間呪詛から,複雑な民間呪詛のやり方など,細かく記載されているものです。


 わたしは,母の元に戻り,総裁邸の女中として,半年ほど前から仕事を始めました。わたしが初めて奥様に会った時,奥様はなんらかの呪詛にかかっていると思いました。でも,わたしの霊能力では,それがどんな呪詛なのかまではわかりませんでした。


 それからまもなくです。総裁の奥様が亡くなられました。葬儀,7回忌など一連の事が終了して,ある程度落ち着いた頃,母は,わたしに復讐をしてちょうだいといいました。そうです。そのために,わたしは母の養子になったのです。


 母は,まず,母を犯した3人の男どもに復讐してと言いました。わたしは,彼らの髪の毛を入手するように言いました。その入手をするために,母は私立探偵を雇って,1ヶ月後になって,やっと入手できました。後は,『民間呪詛大典』に従って,藁人形を3体作って,毎日,丑の刻に呪いながら,釘で藁人形の心臓を打ち続けました。


 そんなある日,わたしは,奥様の声を聞きたように思いました。『そんなことをしても効果はないですよ』と。


 わたしは,ふと,奥様の霊を頼ればいいのではないかと思いました。そこで,奥様の墓の前で,母の体に奥様の霊魂で憑依させることにしました。この力を使うと,ほんとうに疲れます。奥様の霊魂に,自分の精力すべてが持って行かれる感じがしました。確かに,これでは1日1回が限度だったのでしょう。


 わたしは,奥様に自分が母親の復讐のために養子になったこと,これまで呪詛や呪いの修行をしてきたこと,そのために,性奴隷、肉便器にされたことなどを話しました。


 奥様も,自分が誰かによって呪い殺されたのは薄々分かっていました。でも,それが誰かまではわかりません。多分,総裁の愛人があやしいと疑っていました。そこで,奥様から,総裁の愛人たちに,嫌がらせをしてくれるなら,母親の復讐を手伝ってあげましょうということになりました。わたしも奥様も,どのように具体的に実行に移したらいいのかわからなかったので,1週間後に,再度,打ち合わせることになりました。


 1週間後,再度,奥様の霊魂を呼び出して,母の身体に憑依してもらいました。そして,奥様と具体的な方法について打ち合わせました。


 この1周間で,奥様は相手を呪い殺せるほどのパワーを身に付けていました。でも,その時は,どうやって身につけたのかまでは教えてくれませんでした。でも,後で分かったことですが,力のある悪霊に,奥様の霊魂で性的奉仕をすることで,得たパワーだとわかりました。それも,1週間連続で犯され続けたそうです」


 ここまで来て,奥様の祖母である南方静香は,これまで,涙を堪えていたが,とうとう,涙を溢れ出して泣いた。


 ラナ子「奥様と打ち合わせした結界,来週から,実行することになりました。奥様の霊魂を一時的にわたしの身体の中に入ってもらい,わたしが復讐する相手の家を訪問します。そして,ドアを開けてもらって,復讐する相手を確認します。わたしは,その時,『わたし,娼婦です。わたしを買ってください』と言うだけです。いくら,わたしがプロポーションがよくても,新手の詐欺商法だと思われて買ってくれませんでした。でも,相手の手を触るくらいはできました。それができれば,そこから奥様の霊魂を相手に移し替えることができました。


 奥様の霊魂に攻撃されたその男は,まもなく意識を失って床に倒れました。その後,わたしは奥様の霊魂を再び自分の身体に戻しました。そして,次のターゲットの家を訪問しました。同じようにして,3人の復讐すべき相手の意識を失わせてもらいました。


 奥様の言葉を借りれば,彼らは,肉体から霊魂が切り離されてしまい,その霊魂は悪夢の闇の中で夢を見させられているとのことでした。有能な除霊師が対応しない限り,1,2週間後には死亡すると言っていました。案の定,その後,彼らは,病院で死亡したことを知りました。 


 わたしが奥様のためにしたことは,総裁邸に出入りするあらゆる女性に,下剤入りのお茶やコーヒーを出すことでした。特に,愛人だと明確にわかっている場合は,糖尿病患者に与える血糖値を下げる薬を飲ませて,体調を大幅に減退させることまでしました。その甲斐あってか,愛人たちは,まもなく総裁邸に近づかなくなりました。奥様の祟りがあると噂していたようです。


 さて,肝心の総裁の暗殺計画です。奥様は,総裁の殺人には関与したくないとのことでした。そこで,やむなく,わたしが,この8年間培ったすべての技量を使って,殺すことにしました。


 まず,民間呪詛方法である藁人形を使って,呪い殺す方法を取りました。ですが,この方法の有効性は乏しいものです。そこで,虚道宗で販売している9品の催淫呪符を購入しました。外観はリング上のものです。それを自分の陰部に嵌めました。そうすることで,総裁に対して催淫効果を高め,あわよくば,腹上死を導くというものです。そこまでいかなくても,半分気絶させることができるので,ビニール袋をかぶせて窒息死させて,見かけ的に腹上死に似せることができます。


 ですが,決行当日,ハプニングが起こりました。なんと,総裁は,虚道宗で扱っている威圧呪符のネックレスを持っていました。それで,催淫効果が解消されてしまったのです。


 わたしはがっくり来ました。ここまで気持ちを高ぶらせて,対応してきたのですが,土壇場でしくじってしまいました。


 その後,総裁が数日以内に死ぬと騒ぎ出し,高名な霊能力者を何人も呼び出す行動をしたので,わたしは,しばらく行動を控えました。すると,突然,母とわたしに解雇通知が出されました。理由などありません。突然です。


 ですが,夏江という高校教師が来てからですので,夏江さんがそのようなことをアドバイスしたのでしょう。その意味では,夏江さんは,優れた霊能力者だったのかもしれません。


 しかも,解雇通知は,運転手さんにまで及びました。その後,運転手さんと情報交換をする中で,彼も総裁殺害を企てていたことを知りました。この後のことは,運転手さんにお願いしたいと思います」


 ラナ子の話が終わった。あまりに悲惨な過去だ。ラナ子がこれから,自分でしたいことが何なのか,周囲の者は知りたかった。でも,そんなこと,この場で聞ける雰囲気でもなかった。


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