第55話 生きたメリルの指輪
ー 夏江のアパート ー
夏江のアパートには,『メリルの指輪』の記憶をほぼ完璧に持って,金城ミルカの体を支配した霊子がいる。その記憶部分は,おヘソにある金属のような形状になった霊力のリングに集約されている。このリングは,『メリルの指輪2世』と呼ぶにふさわしい。
この部屋には,霊子以外に魔獣族のランザとシャーラもいる。
夏江は,作り置きの料理と飲み物を彼女らに出して,食事しながら,情報交換することにした。まず,ランザとシャーラから魔獣族のことを聞き出そうとした。
夏江「では,情報交換といきましょう。まず,自己紹介をして,魔獣族のことを教えてちょうだい」
ランザ「わたしはランザ,彼女はシャーラといいます。見かけは15歳くらいですが,共に3歳です。あの,魔獣族の組織については,秘密で話すことはできません。宣誓契約していて話すと死んでしまいます」
夏江「・・・,じゃあ,何なら口外できるの?」
ランザ「自分のことくらいです。3歳まで,暗殺の訓練を受けていたことくらいです」
夏江「え?それだけ?」
ランザ「はい,それだけです。シャーラも同じです」
夏江「・・・」
夏江はがっかりした。これでは,何の情報も得られない。
夏江「残念だけど,それではわたしからは何も教えられないわ」
ランザ「えーー? それは困ります。どうすれば教えてくれますか?」
夏江「そうね,,,世の中,金よ,金!お金はあるの?」
ランザ「1ヶ月の調査費用としてひとり50万円もらいました。でも,ホテル代,食事代,交通費などで,すでに30万円使ってしまいました。これから倹約生活をするところでした」
夏江は,ガックリ来た。お金もないとは。
夏江「あなたのしている指輪,収納指輪でしょう?魔法石は当然あるでしょう?それでいいわ」
ランザ「すいません。それは渡すことはできません。組織に帰るとき,返却する必要があります」
夏江「じゃあ,あなたがたの体で金を稼ぎなさい!娼婦にでもなって,100万円稼ぎなさい。100万円で情報を提供するわ」
ランザとシャーラは,2人で小声で相談してから,ランザが答えた。
ランザ「わたしたち,これでも魔法に関しては優等生でした。そのため,性の奉仕を免れてきました。こんなことで,性の奉仕をすることはできません。自分たちの処女は愛する人のために残しておきます。金を稼ぐだけなら,スリでもなんでもして稼ぎます」
夏江「・・・」
元警察官の夏江は,この状況を見過ごすべきか,止めさせるべきか悩んだ。でも,やっぱり,見過ごすわけにはいかない。万一,警察に捕まってしまって,夏江が絡んでいると判明すれば,非常にまずいことになる。
夏江「性の奉仕と言っても,あそこを使う必要ないのよ。手だけでもいいし,おっぱいを触らせるだけでもいいのよ。それで100万円,ひとり50万円稼ぎなさい」
夏江は,ワルの元締めのような存在になったようだ。
ランザ「わたしたち,魔法訓練以外,したことがないです。性の奉仕で手とか,おっぱいを触らせるって,どうすればいいのですか?」
夏江はがっくり来た。一から教えるのもしんどい。夏江は霊子を見た。
夏江「霊子,適当に表に出ていって,スケベそうな男を連れて来て」
霊子「はい」
霊子は何も考えずに返事して,部屋から出ていった。霊子は『使える』と夏江は思った。
10分もしないうちに,霊子だけが戻った。
夏江「あら?スケベな男はどうしたの?」
霊子「はい,今から転送します」
霊子は,標的魔法陣を発動して,ある男性を部屋に転送した。
ランザ「キャーー!」
シャーラ「ウソ---!!」
夏江「・・・・・・・??」
転送された男性には首がなかった。まだ,少し,首から血が流れていた。
夏江「彼は,スケベそうな男なの?」
霊子「はい」
夏江「なんで首がないの?」
霊子「だって,『スケベそうな男ですか?』って聞いたら,いきなり殴られそいうになりました。そこで,自己防衛で首を刈りました』
夏江「・・・」
ランザ「・・・」
シャーラ「・・・」
ランザとシャーラは,もしかしたら,霊子は霊力使いかもしれないと思って,霊力を観る眼に変えた。すると,霊子の服から出ている顔や手の部分に,薄く霊力の層で覆われているのがわかった。防御層のようだ。霊子は『霊力使い』だった。
夏江は,間接的に殺人を指示した恰好になった。
夏江な心の中で叫んだ。『もう,いやーーー!』
夏江は,その遺体を収納指輪に格納した。折りを見て,見つからない場所に廃棄するためだ。
夏江「あなたたち,今日は,もういいから,この居間で適当に寝てちょうだい」
ふて腐れた夏江は,寝室の部屋に入って,ひとりで寝た。
霊子は,正当防衛をしただけなのに,夏江が機嫌を損ねたのがよく分からなかった。
居間に,霊子,ランザとシャーラの3人が残された。ランザは霊子に聞いてみた。
ランザ「霊子さん,あなたはどんな生活をしてきたの?」
この言葉に,霊子は眼を輝かして返事した。
霊子「え?聞きたい?ちょうど,記憶がどんどんと蘇ってきているのよ。聞いて,聞いて」
それから,霊子は,蘇ったイジーラとメリルの記憶を断片的に取り出して,面白おかしく語っていった。それは,延々と夜が更けて,翌日の朝まで続いた。
ランザとシャーラは,霊子が,魔獣族が探し求めていた『メリルの指輪』の記憶を持っていることを理解した。つまり,霊子は『生きたメリルの指輪』だった。
この事実は,ランザとシャーレにとっては驚愕だった。この事実を報告すれば,ソープランド殺人事件なんか,どうでもいいレベルだ。
ここで,ランザとシャーラに問題が生じた。果たして,うまくこの場から去ることができるのか? 霊子は『生きたメリルの指輪』の情報をランザとシャーラに語った。それは,仲間として認識されたことを意味する。もし,仲間を裏切るような行動に出れば,どうなるだろう?いくら,彼女らを加害してはいけないという契約をしてはいるが,抜け道はいくらでもある。下手すれば殺されるかもしれない。それに,首なし遺体を転送した魔法,あれは,魔法を得意とするランザとシャーラにとっても未知の魔法だ。
ランザとシャーラ,ともかく金をかせぎながら,隙を見て逃げる方法を探ることにした。
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