第54話 金城ミルカと霊子

 夏江が華丸私立高校を止める前日,マキ人材派遣会社から臨時保健士が派遣された。男性で若い教師だ。夏江は簡単な引き継ぎ連絡をした。


 この高校でし残したたことは,あとひとつだけだ。そう。それは金城ミルカを魔獣族に売ることだ。売ると言っても,魔獣族の組織がどのようになっているのか分からないので,夏江の上司?ともいうべきマキに引き渡すつもりだ。


 金城ミルカは陰部強度が100を優に超える。魔獣族の子供を安全に産むことが出来る。そのためには,まず最初に,林サミコのように,自分の奴隷にすることだ。もっとも,今,林サミコは行方不明だ。病院から退院したと聞いているが,その後,どこに消えたのかわからない。もっとも,夏江としては,林サミコはシレイの性奴隷にしたので,もう夏江がどうのこうのすることはないと思っている。


 夏江は金城ミルカを保健室に呼んだ。


 金城ミルカ「夏江先生,何か用事ですか?」

 夏江「そうよ。金城さん,あなた,シレイを知っていますか?」

 

 この言葉に,金城ミルカはギクっとした。金城ミルカは,シレイが殺人事件を密かにしていることを薄々知っている。どうやら夏江先生はすべてを知っているようだ。ここでウソを言っても始まらないと思った。


 金城ミルカ「はい,知っています。しばらくわたしの部屋で居候していました」

 夏江「あら?正直に話してくれましたね。手間が省けました」

 金城ミルカ「夏江先生はもう,すべてを知っているのでしょう?」

 夏江「ええ,そうよ。シレイは,偽物の岡村部員になりすまして,柔道部の合宿に参加したのよ。そこで,わざと事故を起こしたの。さらに熱海温泉で,ソープランドで働く若い女性を殺害したわ。今,警察がやっきになって彼を捜しているわ。それに,彼は人間ではないの。金城さんもそれはわかっているでしょう?彼は魔獣族とよばれる種族なの。そして,その種族からも命を狙われているわ。それがどいうことかわかる?」

 金城ミルカ「いえ,わかりません」

 夏江「そのうち,魔獣族からの刺客は,間違いなくあなたを見つけるはずよ。そして,有無を言わさず殺される」

 金城ミルカ「・・・」


 夏江の言ったことは,決して,間違いではないと思った。シレイは,もう何人も殺害しているのは知っている。金城ミルカは,殺人犯の共犯者と見られてもおかしくない状況だ。


 金城ミルカ「シレイがその魔獣族の刺客から狙われているって,それ本当ですか?だから,今も逃げているのですか?」

 夏江「たぶん,そうだと思うわ。わたしもシレイに連絡がとれないのよ。だから,刺客は,金城さんを探し当てるはずよ。間違いなくね」

 金城ミルカ「わたし,,,殺されるかもしれないのですね,,,夏江先生,わたし,どうしたらいいでしょう?」

 夏江「その刺客から逃げる方法はあるけど,聞きたい?」

 金城ミルカ「はい!聞きたいです!」

 夏江「わたしの部下になりなさい。より聞こえのいい表現を使えば,弟子ね。聞こえの悪い表現なら,奴隷ね」

 金城ミルカ「・・・」


 金城ミルカは,最近,誰かにつけ狙われてる感じがしていた。夏江先生からの申し出は,正直言って嬉しかった。

 

 金城ミルカ「あの,夏江先生の弟子になると,刺客に会っても殺されないでしょうか?」

 夏江「それはわからないわ。でも,今のままでいるよりも,生き残れる可能性はアップするはずよ。でも,わたしの弟子になるには,少々条件があります。今の高校をすぐに辞めてもらうことになります。それに,わたしの指定する場所に住んでもらいます。両親に会えなくなります。どうしますか?」

 金城ミルカ「・・・,わたし,正直言って,まだ夏江先生のことがよくわかりません。どこまで信用していいのでしょう? それに,わたし,バトミントンで,全国高校対抗戦で個人優勝して,オリンピック選手候補になりたい夢があります。それを捨てるとなると,,,すぐに結論出せません」

 夏江「わたし,バトミントンなんてしたほとんどしたことないけど,あなたよりも強いと思いますよ。どう?バトミントンでわたしがあなたに勝ったら,わたしの言うことを何でも聞くというのはどうですか?」

 金城ミルカ「夏江先生がわたしに勝てるなんて,絶対にありませんが,わたしが勝ったら,何か褒美はありますか?」

 夏江「そうね,,,では,あなたにわたしの能力の一部を与えましょう。スーパーウーマンになれますよ」

 金城ミルカ「スーパーウーマン? 夏江先生って,スーパーウーマンだったのですか?」

 夏江「試合をすれば,すぐにわかりますよ。わたしがスーパーウーマンだって」

 金城ミルカ「では,体育館に移動して,すぐに試合をしましょう」

 

 夏江と金城ミルカは体育館に移動した。ネットを張って試合の準備ができた。彼女らが試合をするというので,たまたま体育館にいた生徒が彼女らの試合を観戦することにした。特に男子生徒は,夏江先生の揺れる超爆乳を鑑賞したかった。


 金城ミルカ「1セットでいいですか?」

 夏江「時間がもったいないので,先に10点先取したほうが勝ちでどう?サーブは10回とも金城さんがしてちょうだい」

 金城ミルカ「別に構わないわ」


 この時,夏江は,霊核にゲームの内容を覚えるように言った。霊核は,夏江に『貸し11回目よ』と言われた。

  

 金城ミルカ「では試合始めます」

 

 彼女はサーブした。打ち出されたシャトルは,ネットを越えて夏江のフィードに落ちた。


 金城ミルカ「1-0よ」

 夏江「勝負はこれからよ」


 夏江は念話で霊核に依頼した。


 夏江『あの羽がネットを越えたら,透明の霊力で羽を捕まえてください。その羽はわたしのラケットに当てて,それからネット越えて放してください。お願いしますね?』

 霊核『貸し12回目!』


 金城ミルカは2回目のサーブを行った。シャトルはネットを越えたら,一直線に夏江のラケットに当たって,また一直線にネットを越えた。そのポイントで,シャトルは制御を離れたように,自然落下した。落下した地点は,守備フィールドの外側だった。


 金城ミルカ「2-0!」

 

 夏江は霊核に文句を言った。


 夏江『霊核様! 返す羽はネットを越えて,ラインの内側で放してくださいよ!アウトになるじゃない!!』

 霊核『夏江?あなた,文句あるの? やーめた。あんたに命令される義理はないわ』


 夏江は,ヤバイと思った。機嫌良く,夏江の依頼を受けてもらわねばならない。夏江はしたでに出た。


 夏江『霊核様,すいません。言い過ぎました。謝ります。機嫌を直してください。また,寿命エネルギーを大量に与えますから』

 霊核『じゃあ,1週間以内に,100年分の寿命エネルギーを与えてちょうだい』

 夏江『わかりました。100年でも200年でも与えてあげますから,ここは,わたしの言うことを聞いてください。お願いします』

 霊核『しょうがないわね。じゃあ,夏江の言うことを聞いてあげましょう』

 夏江『ありがとうございます』


 夏江は,ちょっと冷や汗をかいた。夏江が霊核と念話しているとき,観客は,夏江のおかしなリターンに,意見を交わしていた。


 「ちょっと,あの直線の動きは何?」

 「絶対おかしいな。物理法則を外れている」

 「シャトルが何かに捕まって,放されたような動きのようだ」

 「夏江先生は,何か幽霊がサポートしているんじゃないの?」

 「おっ,そうか,どうだよ。幽霊が助けているに違いない」

 「うん,うん,絶対そうだ」


 彼らは,シャトルの奇妙な動きを幽霊のせいにした。


 金城ミルカは3回目のサーブを行った。ネットを越えたシャトルは夏江のラケットに当たった後,今度は,金城ミルカの守備範囲内で放された。


 金城ミルカも,夏江からのリターンの動きが物理法則に則っていないことは理解した。そのパワーが何なのかはわからない。でも,負けるわけはいかない。幸い,シャトルが自然落下する地点がネットよりもかなり高い位置だった。スマッシュを打つには恰好の地点だ。


 パシューー!


 金城ミルカの,超強烈なスマッシュが炸裂した。その速度,なんと時速360km! 100メートルを1秒で突っ切る速さだ。金城ミルカは100メートルを13秒で走ることができるので,13倍速で動くような速度だ。夏江は,100メートルを1分程度で走るので60倍速の動きだ。


 そのシャトルは,夏江の守備フィールド内の床面に激突した。


 金城ミルカ「3-0!」


 夏江は,もしかして,このまま負けるのかもしれないと,ちょっと焦ってしまった。


 夏江『霊核様,すいませんが,さっきの高速で飛んできた羽を捕まえることができますか?』

 霊核『あれは無理ね。早すぎるわ。わたしの眼は夏江の眼を通して見ているのよ。夏江が捕捉できないものは,わたしも捕捉できないわ』

 夏江『では,透明の霊力で大きなネットを構築して,高速で飛んでくる羽を霊力ネットで受けてから羽を捕まることはできますか?』

 霊核『そうね,,,だったら,夏江の守備範囲全体に霊力ネットを張ればいいのね?』

 夏江『そうだわ。それがいいわ。絶対負けない方法だわ。ぜひお願いします。霊核様!!愛しています!わたしの全てをあげます♥』

 霊核『フフフ。だったら寿命エネルギー300年分をゲットしてちょうだいね?』

 

 霊核の要望はますますずうずうしくなった。

 

 それからの試合は,夏江に負けはなかった。4回目の金城ミルカがサーブをしてから,夏江がリターンして,金城ミルカがスマッシュを打つものの,床面に落ちる前に何かに当たったような動きをしてシャトルは止まった。その後,それは夏江のラケットに当たって,リターンして,金城ミルカの守備フィールド内で自然落下した。それを金城ミルカがまたスマッシュを打つというラリーが延々と続いた。


 金城ミルカのスマッシュは100回以上にも及んだ。


 観客もこのまま続いては,金城ミルカが体力を失って,負けるのではないかと思った。


 金城ミルカのスマッシュが200回を越えたところで,彼女は限界を感じた。とうとう,金城ミルカはギブアップした。


 金城ミルカ「はぁ,はぁ,,,夏江先生,,,わ,わたしの負けでいいわ」


 金城ミルカは,観客の女性徒に体を支えられて,床に横にしてもらい,体力の回復に努めた。


 夏江は勝ち誇ったように言った。


 夏江「金城さんもたいしたことないわね。そんなんでオリンピック選手になろうなんて甘いわよ」

 

 この言葉に,観客の生徒は文句を言った。


 「夏江先生は幽霊にシャトルを捕まえさせているんだろう?それって,ルール違反だ」

 「そうだ,そうだ。この試合,金城さんの勝ちだ」

 「そんなの当然よ。あんな物理法則を無視したシャトルの動き,インチキに決まっているわ」

 「インチキ夏江!負けを認めなさーい!」

 「インチキ巨乳夏江!負けだ,負けだ!」

 

 パッチーーン!パッチーーン!パッチーーン!(ヤジを飛ばした生徒に,透明の霊力の手の平で,彼らのホッペをキツく叩く音)


 夏江は彼らに向かって言った。


 夏江「今,殴ったのは幽霊よ。幽霊だって,ヤジを飛ばされたら怒るのよ。呪い殺されないだけましだと思いなさい」

 

 殴られた生徒は,殴られ損だ。夏江先生は,明日付けで臨時教師を首になる。学校に来るのも今日までだ。誰にも文句を言うことができない。


 しばらく休息した金城ミルカは,夏江のいる保健室に戻った。


 夏江「金城さん?あなた,負けましたね。フフフ」

 金城ミルカ「でも,あの試合,絶対ズルです。幽霊さんが助けたのでしょう? 夏江さんの力ではありません」

 夏江「負けは負けですよ。あなたは,すぐに高校を辞めてもらいます。住むところも,わたしの部屋になります。今から,あなたの両親に挨拶にいきますよ」

 金城ミルカ「わたし,いずれはオリンピック選手になりたいです。その夢を諦めたくありません」

 夏江「フフフ。別に諦める必要はありません。オリンピック選手を輩出しているスポーツクラブがあります。わたしの奴隷になれば,そのクラブに推薦してもいいですよ」


 この言葉に,金城ミルカが心が動いた。高校生を辞めても,オリンピック選手を諦めなくていいのか? ならば,夏江先生の弟子になってもいいかもしれないと思った。


 金城ミルカ「わかりました。高校を退学して夏江先生の弟子になります」

 夏江「フフフ。弟子って,わたしのいうことは絶対服従です。処女を捨てなさいって言っても,娼婦になりなさいって言っても,拒否することは許されません」

 金城ミルカ「もし,拒否したら?」

 

 パチィーーン! パチィーーン! パチィーーン! 


 金城ミルカは,霊力の手によって何度も殴られた。


 夏江「金城さん,あなたには,わたしに従うしかありません。理解しましたか?」


 金城ミルカは,いずれ,夏江先生に復讐してやると誓った。だが,この場は,従う振りをすることにした。

 

 金城ミルカ「夏江先生,少しわかりました。できる範囲で従います」


 彼女は曖昧な返事をした。


 夏江「まあいいわ。おいおい,愛の鞭を与えてあげます」



 金城ミルカは夏江を連れて自宅に戻った。


 その道すがら,夏江の子宮に巣くう霊核は,生みの苦しみを味わっていた。霊核は卵を産んだ。直径1cmほどの小さな卵だ。だが,ここには,ほぼ完璧なメリルの指輪の記憶が記載されている。


 産んでも,産み落とす場所がない。已むなく,夏江の隣にいる金城ミルカに植え付けることにした。霊核は,自分の霊力を3割ほど分割して,その卵の周囲に覆わせて,夏江の子宮から陰部を経由して体外に排出した。その後,金城ミルカの足から這い上がって,陰部を経由して子宮に巣くった。


 金城ミルカの子宮に巣くった卵は,すぐに分け与えられた霊力を支配した。そして,その霊力は,頭部にまで心頭して,金城ミルカの霊体を覆っていった。さらに,その霊力の一部は,金城ミルカのおヘソの部分で指輪状となって食い込んだ。


 金城ミルカの瞳は,グルグルと回転した。彼女の全身が小刻みにブルブルと震えた。この変化は,夏江にはまったく気がつかなかった。普段,オーラを診る目にしていないせいだ。


 まもなくして,卵によって支配された金城ミルカから,霊核に念話連絡があった。


 卵『お母さん,お母さん,わたし,この体の支配を完了しました。お母さん,褒めてくだーい』

 霊核『・・・』


 これには,霊核もビックリだ。そんなこと,霊核にもできないことだ。


 霊核『お前,名前は?』

 卵『え?わたし,名前なんてありません』

 霊核『そうだったね。うーーん,わたしの子供だから,,,よし,お前は,『霊子』よ。うん,いい名前ね』

 卵『霊子,,,はい,いい名前だと思います。ところで,わたしの使命はなんでしょうか?何をすればいいのでしょうか?』

 霊核『・・・』


 霊核は,そんなこと,まったく考えていない。いや,考える必要もなかった。所詮,『霊力』なので,ご主人様の命令通り動くだけだ。だが,たまたま『自我』が生まれてしまった。そして,メリルの指輪の記憶を完全にコピーした卵まで産んでしまった。


 霊核『とりあえずは,夏江の言うことに従っていればいいわ。身の危険を感じれば,相手を殺しなさい。それと,機会があれば,男性から精力や寿命エネルギーを奪って,自分の霊力パワーを増強しなさい』

 霊子『お母さん,わかりましたーー』


 霊核は,このことをどう夏江に説明すればいいかちょっと迷った。でも,簡単に説明することにした。


 霊核『夏江,わたしの分身が,金城ミルカの精神を完全に支配したようだわ。今の彼女は『霊子』という名前よ』

 夏江『え?霊子?あなたの分身って,彼女,霊力が使えるの?』

 霊核『もちろん,使えるわ』

 夏江『それって,,,ある意味,犯罪行為だわね,,,でも,まぁいいか』


 夏江は,面倒くさいことが減って,返ってラッキーと思った。

 

 そんな時,彼女らの背後から,声がした。


 「あの,,,すいません。ちょっと,お話させていいでしょうか?」


 そう声をかけたのは,まだ若い女性だった。しかも,夏江たちから5メートルも離れた距離からだ。しかも,その背後に,3メートルほど離れて,もうひとりの女性もいた。


 彼女らは,夏江たちに声をかけるのに勇気がいった。決死の覚悟で声をかけた。というのも,彼女らは,魔獣族の暗殺部隊のメンバーだった。


 話は,2週間ほど前に遡る。


 ーーーー

 獣魔族の組織は,新月連合組合という名称を使っており,7つの部門からなっている。育成教育部門,第1開発部門,第2開発部門,第1営業部門,第2営業部門,総務部門,特殊任務部門の7部門だ。それらを束ねているのが統括本部となる。もっとも,この組織図はころころと変わるので,現在,どうなっているのか,統括本部の数人しか知らない。


 マキが所属するのは,第2開発部門で,マキは第2部長だ。部長といっても,部下は夏江とポールだけだ。しかし,ポールは死んで強制転生をして赤ちゃんになっている。実質,夏江くらいなものだ。


 暗殺部隊は,特殊任務部門にあり,その名の通り『暗殺部隊』という名称だ。そこの部長は,女性でゼリアという名だ。ゼリア部長は頭が痛かった。優秀な部下2名を,熱海のソープランド殺人事件の犯人討伐に派遣したものの,その後,音信不通だ。殺されたとみていい。


 ゼリア部長は独り言を言った。


 ゼリア「あんな優秀な連中を殺すなんて,敵は,よっぽどの手練れとみていいわね。ともなくも,華丸私立高校の柔道部に関係する人物が犯人に違いないわ。今度は,女性のアサシンを派遣しましょう」


 ゼリアは,2名の女性アサシンを選定した。ともに外見は15歳くらいだが,年齢は3歳の女性だ。ひとりは,狼魔獣族のランザ,もうひとりは,蛇魔獣族のシャーラだ。


 ゼリアは,彼女らを呼んで,任務内容を指示した。


 ゼリア「あなたたちに,任務を与えます。数週間ほど前に,熱海市のソープランドで起きたソープ嬢殺人犯を特定することです。犯人が魔獣族に間違いありません。

 今回の任務はかかなり危険だと思ってください。すでに2名の優秀な部下が死亡しました。ですから,決して無理な行動はしないでください。情報収集だけに努めてください。犯人は,華丸私立高校の柔道部員に関係する人物です。その辺を調査することで,人物像が浮かび上がる可能性が高いと思います。

 今回は,あなた方に,SS級魔法3発分の魔力を与えます。魔法陣探知羅針盤は貴重ですので1台だけ貸与します。これが最後の1台です。決して無くさないようにしてください。それと,任務期間は1ヶ月です。成果がなくても構いません。もっとも,その場合,新魔大陸にすぐに派遣してもらうことになります」

 ランザ「・・・」

 シャーラ「・・・」


 彼女らは,その意味を理解した。つまり,新魔大陸で獣魔族の兵士たちの性奴隷にされてしまうという意味だ。というのも,月本国の人間の女性から生まれた女性は,生殖機能が未発達で,子供を妊娠することはない。そのため,体力的に劣る魔獣族の女性が仕事で失敗すると,その末路は哀れなものだ。


 ランザとシャーラは,すぐに任務に就いた。彼女らが,夏江と金城ミルカに声をかける2週間ほど前のことだ。


 彼女らが相談して考えた任務の仕方は2通りある。ランザの優れた嗅覚を利用して,華丸私立高校の生徒から魔獣族の臭いを感知すること。それと,魔法陣を発動している生徒や教師を見つけることだ。


 ランザは,下校時間になると,校門の傍に立って,通り過ぎる生徒や教師の臭いを嗅いだ。その中で,微かではあるが,気になる臭いをした人物を2名見つけた。ひとりは女性徒だ。ランザは彼女の後を付けると,金城という表札のかかった家に入っていくのを確認した。もうひとりは爆乳の女性だ。彼女のアパートも突き止めたが,表札はかかっていなかった。それに,爆乳の女性には,魔法陣を3体も発動しているのがわかった。


 それからは,この2人をマークすることにした。でも,気づかれないように,遠巻きにして,跡を追うくらいしかできない。


 でも,この日,この2人が,なんと一緒に校門から出てきたではないか!! 


 ランザ「どうする?2人が並んで出てきたわよ」

 シャーラ「でも,後を追ったとしても,なんにも成果が得られないわ。このまま成果がないと,新魔大陸に行かされて性奴隷よ。もう,この世の終わりだわ」

 ランザ「じゃあ,声をかける?」

 シャーラ「リスクがあるわね。あの魔法陣,どんな種類の魔法陣かも不明よ。魔獣族だとバレて,すぐに攻撃魔法を発動されるかもしれない」

 ランザ「じゃあ,どうするの?」

 シャーラ「どうしよう。ともかく,跡を追いながら考えましょう」


 それから,ああでもない,こうでもないと議論した結果,素早い動きができるランザが声をかけることにした。シャーラは,さらに3メートルほど後方でランザの支援をする。

 ランザが声をかける際は,5メートルほど離れてから声をかけ,かつ,自分達の身分を正直に明かすことにした。そうすることで,相手に少しでも信用してもらえて,攻撃されなくなると思った。もし,攻撃された場合でも,5メートルの距離なら,なんとか回避できる可能性がある。決して,交戦はしないことにした。敵対行動はいっさい示さず,友好な態度で行くと決めた。


 ーーー


 ランザ「あの,,,すいません。ちょっと,お話させていいでしょうか?」

 

 夏江と霊子は,お互い顔を見合わせた。霊子から返答することはない。霊子は夏江の指示に従えと母親である霊核から指示が出されていた。


 夏江「わたしたちに声をかけているの?」

 ランザ「はい,そうです。わたしと後方にいる女性もそうですが,わたしたちは,魔獣族です。ソープランド殺人事件の犯人の調査に来ました。決して戦いに来たわけではりません。信じてください」

 

 夏江は,その犯人を知っている。でも,今は行方不明だ。それを教えるのは簡単だ。でも,このまま情報を提供するのも癪に障る。


 夏江「では,わたしたちに危害を加えないとその場で宣誓契約してください。それをすれば,お互いの情報を交換してもいいです」

 

 ランザとシャーラは,お互い相談して,その場で宣誓契約した。


 ランザ「あなたがたも,わたしたちに危害を加えないと宣誓契約してください」


 夏江は,霊核に宣誓契約ができるか聞いたが,できるとのことだった。霊子に聞いたが,霊子もその仕方を知っていた。夏江と霊子も宣誓契約した。


 その後,彼女ら4名は,夏江のアパートで打ち合わせをすることにした。

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