第45話 林サミコのお仕事

 林サミコは,病院で入院している。すでに1週間が経過した。精密検査の結果特に異常はない。また,死亡した魔獣族の仲間から,つけ狙われるようなこともないようだ。


 かくして,警察は,林サミコの退院に同意した。


 林サミコは退院した。でも,彼女には行くところがない。彼女の両親は高校を中退した彼女のことなど,勘当同然にした。「家に帰ってくるな! どこかで娼婦でもしてろ!」と言われる始末だ。シレイは,どこに行ったのか行方不明。夏江先生は入院中まったくお見舞いにも来てくれない。見捨てられたと思った。


 途方に暮れている頃,まったく音沙汰のなかったザビルから念話連絡があた。ザビルの霊体は林サミコの子宮の中にある。すでにザビルの精子は死滅したので霊体の状態だ。でも,幸か不幸か,ザビルの霊体は転生サイクルに入らなかった。


 ザビル『サミコ,久しぶりだな?』

 林サミコ『え?ザビル様?』

 ザビル『そうだ。長い間寝ていたようだ。でも,その甲斐あって,そこそこパワーを回復した。もっとも,この霊体の身で得られるパワーは『魂力』と言うらしい。そんなことは今はどうでもいい。さて,わたしが寝ていた間,変わったことはなかったか?』

 林サミコ『はい,ザビル様。変わったことと言えば,病院では毎日,食事のメニューが変わっていて,朝食では,月曜日は焼き魚,卵焼き,,,,』

 ザビル『待て待て!食事の事ではない。言い直す。サミコはまだ入院しているのか,それとも退院したのか?』

 林サミコ『1時間ほど前に退院しました』

 ザビル『ほう,そうか? それで?これからどうするんだ?』

 林サミコ『はい,ザビル様。行く所ないので,途方に暮れていました』

 ザビル『お前,家なし子か?』

 林サミコ『はい,両親から勘当され,娼婦にでもなれって言われました』

 ザビル『・・・』


 ザビルは,ドッと疲れが出た。

 

 ザビル『サミコ,じゃあ,近くのラブホテル街に行きなさい』

 林サミコ『あの,,,ラブホテル街って,どこにあるか分からないです』

 林サミコ『お前,,,ほんとうに自分で考えないんだな。しょうがない。タクシーを捕まえて,ラブホテル街に行ってもらえ』

 林サミコ『わかりました,ザビル様』

 

 林サミコは,病院からタクシーでラブホテル街に行った。


 1時間後,,,


 運転手「お客さん,ラブホテル街に着きましたよ。1万3千円になります」

 林サミコ「え? あの,,,ちょっと待ってください」


 林サミコは,すぐにザビルに念話した。


 林サミコ『ザビル様,ラブホテル街に着きました。運賃が1万3千円です』

 ザビル『払えばいいだろう』

 林サミコ『わたし,無一文です』

 ザビル『・・・』


 ザビルの指輪の中には,多少のお金はある。でも,指輪の亜空間からお金を取り出すには,一度,林サミコの体を憑依する必要がある。無駄に魂力を使ってしまう。こんなしょうもないことで魂力を使いたくない。


 ザビル『しょうがない。では,恥じらいながら『あの,体で払います』とでも言え』

 林サミコ『ザビル様,はい,そうします』


 林サミコは運転手に恥じらいながら言った。


 林サミコ「あの,体で払います」

 運転手「何? 体で?」

 

 運転手は,林サミコの体を見た。彼女は片方で1kg,両方で2kgにもなるGカップの巨乳だ。ワンピースの服の上からでも,胸元の深々とした谷間ラインがはっきりと見える。


 運転手は,駐車ができるラブホテルに入っていった。彼は林サミコを引っ張るように連れ出して空いている部屋に入った。


 林サミコは,ザビルから運転手の言いなりになるように指示されていた。彼女は,今は運転手の性奴隷の身分だ。

 

 運転手「おい,まずは体で払ってもらう。裸になってベッドで横になりなさい」

 林サミコ「はい」


 林サミコは服を脱いで裸になり,ベッドで横になった。そして,,,運転手に犯された。運転手がまさに果てようとするとき,ザビルの霊体は,子宮からあの部分を経由して,運転手の頭の中に入り,運転手の霊体を眠らせた。


 ザビルの霊体は運転手の体を憑依した。運転手の体を憑依し続けるのに,ザビルの霊体は自分の魂力を使う必要はない。運転手の体にある精力や血から魔力を精製し,さらに魂力に変換すればいい。


 連続憑依可能時間は1時間ほどだ。1時間後には,運転手の体からすべての精力が尽き,1週間以上昏睡状態に陥る。病院で点滴を受けないと,そのまま死亡してしまうこと間違いなしだ。


 ヒトの体から魔力を絞り出すには,肝臓や血から無理やり魔力を生成する。月本国の成人男性の場合,ぎりぎり中級レベルの攻撃魔法1発分の魔力を得ることができる。その魔力を得たとしても,そこから魂力に変換するにには,初級レベルに満たない基礎レベルの魂力にしか変換できない。そのため,できるだけ憑依などという効率の悪い方法は避ける必要がある。


 運転手の体を憑依したザビルは林サミコに命じた。


 ザビル「サミコ,服を着なさい。我はザビルだ。運転手の体を憑依した」

 林サミコ「さすがはザビル様です。はい,服を着ました。次は何をすればいいのですか?」

 ザビル「・・・」

 

 ザビルはまだ次の命令を考えていなかった。


 ザビル「サミコの願いは,確か『普通の人生』を送りたいとか言ったな。そのためには,膨大な魔力量が必要だ」


 林サミコは,なんで「普通の人生」に膨大な魔力量が必要なのかよく分からなかった。でも,考えるという思考を停止した今の林サミコにとって,ザビルの言葉は,神の言葉だ。絶対服従だ。


 林サミコ「膨大な魔力量が必要なのですね?はい,わかりました」


 林サミコは,ザビルの言葉を繰りかえした。


 ザビル「そのためには,魔法石を奪うことから始めなければならない」


 林サミコは首を縦に振って,ザビルの命令を期待して待った。


 ザビル「サミコ,寿商事をネットで検索して,Z鉱石の取り引き担当者と面談を約束しなさい。理由はなんでもいい。確実に会うためには,お前の肉体を差し出しなさい。ぜひ会って,抱いてほしいとでも言って面談の約束をしなさい」


 林サミコにとって,このような少しでも曖昧なところのある命令は実行不可能だ。


 林サミコ「あの,曖昧な指示ではどうやって動いたらいいのかわかりません。具体的に,どんな台詞でちゃべったらいいのか指示してください」

 ザビル「お前は,自分で考えないのか?!バカかお前!」


 ザビルは少し怒ってしまった。


 林サミコは「バカ」と言われて涙が出てきた。「バカ」と言われることにまだ免疫がなかった。林サミコは,「バカ」でないことを示すために,自分の記憶力のいい点をザビルに訴えた。


 林サミコ「わたし,学校では成績一番でした。本を1回読めばそのまま暗記できます。一度聞いた内容はそのまま記憶できます。一度,見たものは忘れません。それでバカなら,バカでいいです」

 ザビル「・・・」


 ザビルは頭が痛かった。彼にとって,いくら記憶力が良くても,応用力のまったくない林サミコは「バカ」に他ならない。


 林サミコに,第三者と面談を持たせるには,細かなシナリオが必要だと理解した。劇作家になったつもりで,いちいち細かな台詞を起こして,完璧なシナリオを準備しなければならないのか?


 それを回避する方法として,ザビルが他人に憑依して,林サミコの隣で,第三者に対して会話をリードすればいいと思った。しかし,他人に憑依をするには,憑依された人物の精力の消費が激しく,下手すれば死亡事故に繋がる。警察のやっかいは避けたい。できれば,林サミコの子宮の中にいて,そこから第三者と会話がでれば,それにこしたことはない。


 運転手の体を憑依しているザビルは,しばらく考えてから,ちょっと試したい魔法があった。


 ザビル「では,お前の携帯を貸しなさい。俺の念話を携帯から声を出せるようにする」

 

 林サミコは,言われた通り,自分の携帯をザビルに渡した。携帯には電源が入っていない。病院に入院してから,携帯に電源を入れていない。だって,持っていたって,誰も電話してこないし,彼女も電話する相手がいない。

 

 ザビル「お前,なんで携帯に電源入っていないんだ?」

 林サミコ「だって,,,電話使わないし,,,」

 ザビル「・・・」


 ザビルは溜息をついた。果たして,こんなんで「暗殺業」を林サミコに仕込むことができるのか? 


 ザビル「おい,バカのサミコ,携帯に電源をいれろ」


 バカのサミコと言われても,林サミコはもう気にするのは止めにした。それ以上に,自分に命令してくれる人がいるのが嬉しかった。彼女は携帯に電源を入れた。


 携帯に電源が入らなかった。バッテリーが空っぽだった。その後,充電器でしばらく充電するやらでかなり時間を潰した。そんなかんだで,なんとか電源を入れることができて,ザビルに渡した。


 ザビルは,携帯に念話発音魔法陣を植え付けた。その携帯を林サミコに渡した。


 ザビル「サミコ,その電話の裏側に指輪を接触させなさい」

 林サミコ「はい,ザビル様」

 

 林サミコは,その通り行った。


 ザビル「よし,では,電話を耳に当てなさい」

 林サミコ「はい,ザビル様」

 

 林サミコは,携帯を耳に当てた。すると,携帯から声が聞こえた。


 携帯の声「サミコ,お前,もっと巨乳になれ」

 林サミコ「・・・」


 林サミコは,どうやっておっぱいを大きくすればいいのか分からなかった。


 ともかく,ザビルは念話で携帯から声を出させることができた。次にすることは,寿商事のZ鉱石の取り引き担当者とのアポを取ることだ。林サミコがぜんぜん使えない以上,ザビル自らアポを取るしかない。


 ザビルは面倒くさいと思った。いっそ,林サミコに『暗殺業』を教え込むのを止めようかとも考えた。でも,彼女は命の恩人だ。はやり彼女の望む『普通の生活』を送ってもらおう。それが恩返しになるとザビルは自分に言い聞かせた。


 ザビルは彼女の携帯から寿商事に電話した。電話の相手の声はスピーカーから聞こえるようにした。林サミコにも聞かせるためだ。


 受付『はい,寿商事ですが?』

 ザビル『わたくし,黄化商事の林というものですが,Z鉱石の担当者をお願いします』

 受付『Z鉱石の担当者ですね? 少々お待ちください』


 数分後,


 担当者『もしもし,わたし,Z鉱石を担当する金子ですが?』

 ザビル『わたくし,黄化商事の林というものです。実は,Z鉱石を10kgほど購入したいという顧客がおりまして,それで商談をさせていただけないかと思いまして電話させていただいた次第です』

 担当者『すいません。このZ鉱石は販路拡大するような商品ではありません。申し訳ありませんが販売できません』

 ザビル『では,最初は100gの少量でいいので,現金払いということでいかがでしょうか?』

 担当者『・・・,そうですか,,,でも,販売ルートは厳密に管理している商品ですので,メーカーの担当者に問い合わせる必要があります。メーカーからの解答を得るにも数日はかかると思います』

 ザビル『あの,われわれの顧客情報など提供させていただきたいと思いますので,一度,お会いして説明させていただきたいのですが』

 担当者『わかりました。では,2日後の午後4時なら時間が取れます』

 ザビル『ありがとうごいざいます。では,その時間に御社に伺わせていただきます。よろしくお願いします』

 担当者『ではその時間にお待ちします』


 電話は切れた。


 ザビル「サミコ,わかったかな? アポを取るということは,こうやってするものだ」

 林サミコ「あの,,,まったくわかりません」

 ザビル「・・・」


 林サミコには,右も左も分からなかった。ザビルは,商流など,細かい説明するのを諦めた。面倒くさいが,ザビルが計画を立案して,細かな指示をその都度林サミコにしていくしかない。


 その後,運転手の体の下半身を反応させて,林サミコの体の中にいれて,そこからザビルの霊体を子宮内に移動させた。


 精気を半分以上も奪われた運転手は,林サミコの体から離れてベッドに倒れた。意識はなかった。死ぬことはないが,たぶん,数日は目覚めないだろう。


 その後,ザビルの指示で,林サミコは,運転手の携帯を運転手の指紋でロック解除して,ネットに入り,オンラインショップのページに入った。すでに自動ログイン状態だった。そこで,キャラクターデザインの金小判を10枚購入した。150万円にもなった。クレジットが自動で登録されていたので,わざわざクレジットを新しく登録する必要はない。送付先は,最寄りのコンビニとした。


 そのほか,林サミコが着る黒のビジネススーツ,ブラウス,ビジネス靴,運動靴,さらに,化粧道具,黒縁の伊達眼鏡,つけまつげ,長髪のカツラ3セット,サングラス3セット,着替え5セット,靴下,タイツ,ビジネスバック,筆箱,ペン,手帳,新しい携帯,タブレット,軽量ノートパソコン,大型のキャスター付き旅行鞄など,ビジネスに必要なものをネット購入した。


 翌日,最寄りのコンビニでの商品受けとりは,備え付けの受け取り専用ボックスから行う。メールにパスワードが送られてくる。運転手の携帯はメールを開けるのも,自動ログイン設定になっている。メールを見るのも簡単だ。


 それに,携帯のロックを指紋からパスワード入力に変更したので,運転手がいなくても林サミコが自由に携帯のロック解除ができる。おまけに,エバノートのソフトにはパスワードを管理していたので,銀行口座やクレジットのパスワードもわかった。


 化粧とカツラ,さらにサングラス,マスクをして,さらに目立たない服装を着て,一応の変装が完了した。


 林サミコ『ザビル様,この変装でいいですか?』

 ザビル『OK,この変装なら,素顔がバレることはない。すぐに警察に捕まるようなこともないはずだ。今は,あまり心配するな。魔鉱石さえ入手できれば,完全犯罪が可能だ』

 林サミコ『はい,ザビル様』

 

 林サミコは,ネットショップで購入した商品をキャスター付き旅行鞄になんとかうまく収納した。


 林サミコ『なんとか旅行鞄にすべて収納することが出来ました』

 ザビル『よし,では指輪の亜空間収納にそれをしまう。今から魔法陣のイメージを送るので,それを映像記憶しなさい』

 林サミコ『はい』

 ザビル『鞄を収納する時は,その魔法陣を思い浮かべて,鞄を収納してくださいとお願いしなさい。その指輪は,単に道具ではあるが,管理者がいると思って,丁寧な言葉で依頼しなさい』 

 林サミコ『はい,試してします』


 林サミコは,収納魔法陣を思い浮かべて,指輪に向かって念話してみた。


 林サミコ『指輪さん,お願いです。この鞄を収納してください』


 ヒュィン!


 その旅行鞄は,指輪の中に収納された。林サミコは,指輪の便利さにビックリした。


 林サミコ『鞄が消えました!』

 ザビル『フフフ,サミコは物覚えだけはいいな』

 林サミコ『はい,記録力だけは誰にも負けないと思います』

 ザビル『よし,では運転手の携帯,銀行カード,クレジットカードを持って,この部屋からずらかるぞ』

 林サミコ『了解でーす』


 林サミコはラブホテルを後にして,最寄りの銀行から現金50万円を引き落とした。さらに,貴金属買い取りショップに行って,金小判を現金に換えた。70万円ゲットした。その後,銀行カード,クレジットカードと携帯は,自分の指紋を消してゴミ箱に廃棄した。

 

 それから,電車に乗って,寿商事のある都市に移動して,適当にホテルに泊まった。


 翌日,適当な印刷屋に寄って,「黄化商事(株),営業部 林サミコ,TEL xxx 」の名刺を50枚ほど作成した。その後,本屋に寄って,ビジネスマナーの本を数冊購入させた。林サミコに,即席のビジネス営業ウーマンに仕立てるためだ。



 ー 寿商事,会議室 ー

 午後4時,林サミコは化粧をして伊達眼鏡をして,カツラを被って,かつビジネススーツに身を包んで,寿商事を訪問した。そこで,会議室に通された。受付嬢からお茶が出された。ザビルから,勝手に椅子に座るものではないと言われていたので,担当者が来るまで,会議室で立っていた。


 しばらくして,担当者の金子がやって来た。年齢は35歳前後,中腹中背,いかにもやり手営業マンといった感じだ。寿商事は,中堅どころの商社ではあるが,その社員は皆優秀な人材が集っている。有名大学卒は当然ながらスポーツも嗜む。彼の場合,サッカークラブに所属していた。高校1年生だった林サミコにとっては,まったく異なる世界の住人と言ってもいい。


 林サミコ「初めまして。わたくし,黄化商事(株),営業部 林サミコと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 

 林サミコは名刺を金子に渡した。金子も自分の名刺を林サミコに渡した。


 金子「わたしは,Z鉱石担当の金子です。どうぞお座りください」

 林サミコ「はい,ありがとうございます」

 

 林サミコは,少し巨乳を揺らしながら着席した。


 金子「電話で話した男性の林さんはいないようだが,どうしたのかな?」

 林サミコ「はい,部長の林ですが,実は,急に家族に不幸があったとかで,わたしが部長の代わりに対応させていただくことになりました。大変,申し訳ありません」


 林サミコは,席から立ってお辞儀した。


 金子「そうでしたか,,,」

 林サミコ「ですが,このZ鉱石の業務内容に関しては,部長しか把握しておりません。それで,大変失礼ですが,この携帯に部長が出ておりますので,部長とビジネスのお話を勧めていただきたい思っております」


 林サミコは,携帯を取りだした。


 林サミコ「部長の声をスピーカーから出せていただきます」


 携帯を机の上に置いた。


 ザビル「金子さんですね? わたし,営業部長の林裕也と申します。林サミコの上司です。実は,家族に不幸があって,どうしても会議に参加できなくなりました。それで,こんな形を取らせていただきました。なにとぞ,ご了解ください」

 金子「そうですか。いたしかたありません。では,お話を伺いましょう」

 ザビル「ありがとうございます。さて,実は,われわれの顧客は,『東興組』です。お聞き覚えはありますか?」

 金子「はい。その顧客でしたら,すでに東興組の御用達である菊森商事に商品を卸していますが」

 ザビル「はい,そのことは重々承知しております。しかし,東興組も,購入窓口がいくつかありまして,私どもの商社を経由して購入することで話を進めております。いきなり10kgというのは高額になりすぎますので,まず100gからでいかがでしょうか?」

 金子「わたしでは判断がつきませんので,メーカーに問い合わせます。数日,待っていただけますか?」

 ザビル「了解しました。あの,大変失礼ですか,今日の夕方は時間がおありですか?もしよろしければ,部下の林サミコと夕食をご一緒させていただきたいと思っております。高給お寿司のお店でもどこでも結構です。金子さんのお好きなお店で構いません」


 金子は,少しはにかみながら,少し顔を下向きにしている林サミコを見た。眼鏡はしているものの,かなりの美人だ。それに,化粧で誤魔化しているが,なんといっても圧倒的に若い。もしかして,中卒でそのまま就職したと思うほどだ。それ以上に,なんとも豊満な胸,,,


 金子は,今日は友人との飲み会があった。でも,それを断ってでも,林サミコと一緒に食事して,その後,あわよくばホテルへ,,,というスケベ根性が浮かんだ。


 金子「はい,わかりました。都合を付けたいと思います」

 ザビル「お忙しいところ,時間を割いていただいてありがとうございます。では,あとのことは,林サミコにお願いします」


 ザビルは電話を切った。


 林サミコ「金子さん,夕食をお付き合いしていただいてありがとうございます。あの,その際は,私服でよろしいでしょうか?」

 金子「ああ,まったく構いません。あなたは,自宅からここに来ているのですか?」

 林サミコ「いいえ,近くのβホテルに泊まっています。部屋番号は,305号です」


 林サミコは,わざわざ部屋番号まで教えた。金子はその意味を理解した。最近,ホテルでは,宿泊者の名前を言っても,部屋番号を教えないところが多くなっているから,わざわざ教えたのだろうと思った。


 金子「では,食事の場所を予約して,だいたい午後7時頃にホテルに出迎えます。それでよろしいですか?」

 林サミコ「ありがとうごいざいます。大変助かります。この辺は不案内でして,右も左もわかりませんので」

 金子「ハハハ。そうですか。では,後ほど」

 林サミコ「今日は,ほんとうにありがとうございました」


 林サミコは,寿商事を後にしてホテルに戻った。


 ー βホテル,305号室 ー

  林サミコは,今回の振る舞いについて,ザビルの評定を聞いた。

 

 林サミコ『ザビル様,わたしの対応はどうでしたか?』

 ザビル『ここまでは,合格点だ。なんとか食事するところまでこぎつければ,もう成功したに等しい。ただ,いちいち,俺がサミコの話す言葉を念話で伝えるのが面倒くさい。少しは,自分で考えるようにしなさい』

 林サミコ『でも,,,なんて言ったらいいのかわかりません』

 ザビル『当面の間は,この形式で進めるが,経験を積んだら,自分で考えて行動するのだぞ? 俺は,次回のサミコの卵子排卵時期に強制転生する。それ以降は,もう念話もできなくなる。サミコひとりになる。今から,自分だったら,どのように話を進めるかなど,考えて行動しなさい』

 林サミコ『・・・』 


 この言葉に,林サミコは『はい』とは返事しなかった。彼女は,その時になったら,夏江先生かシレイをなんとか見つけて,指示待ち人生を送ればいいと思った。


 ザビルは,林サミコに,雷電魔法陣の図案を覚えさせた。指輪にある残り少ない魔法石を使って,相手をそれで気絶させるためのものだ。


 林サミコは,ちょっとだけ『魔女』らしくになった。


 午後7時,


 金子がホテルのロビーに来て,私服姿で,カツラと伊達めがねをしている林サミコを迎えた。その足で近くのイタリア料理店に入った。食事をしながら,金子はいくつかの疑問について尋ねた。


 林サミコが話す言葉は,ザビルからの念話のオウム返しだ。そこに,林サミコが自分で考えて話すようなことはしない。でも,このように演じるのは,林サミコは嫌ではなかった。それどころか,とても嬉しかった。


 化粧して,ビジネススーツを着て,それに,ビジネスマナーの本まで読んで,社会人の一端を垣間見る機会まで得た。これから,いったい,どんな演技をしていくのだろう? 林サミコにとって,ちょっと刺激的な展開だ。そして,今は,顧客と一緒に夕食を取る接待の演技だ。


 金子「あなたの会社,黄化商事は,ネットを調べても出てこないし,名刺には住所の記載もなかった。もしかして,幽霊会社かな?」

 林サミコ「そう思っていただいて結構です。実は,社員は兄の部長とわたしの2人しかいません。Z鉱石を急遽取り扱うことで,東興組と話が進んでいると伺ってします」

 金子「そうですか,,,もっとも,現金の前払いであれば,商売としてはリスクはないのですが,商品が商品だけに,メーカーとしては,新規商流を創ることにとても慎重になっているんですよ」

 林サミコ「そうなのですね? わたし,まだ,16歳です。お酒も飲めない年齢です。この仕事をして数日しか経っていません。ビジネスのイロハも分かっていませんし,顧客と接待する方法もよくわかりません。あの,よろしければ,いろいろと手取り足取り教えていただけませんか?」

 

 林サミコは,テーブルの下の足を,わざと金子の足と接触させた。もちろん,ザビルの指示だ。理想は,林サミコの左手が金子の膝部分に触れればいいのだが,それは物理的にできなかった。


 金子「教えると言ってもね,こればっかりは経験がものを言う世界ですから,,,」

 林サミコ「もし,金子さんがまだ夕食後,時間があるようでしたら,わたしの部屋に来ていただけませんか?おいしいコーヒーもありますし,お酒やビールもあります。接待営業の仕方とか,いろいろと手取り足取り教えていただけませんか?」

 金子「そうですか? では,少しだけですよ」

 林サミコ「はい,ありがとうございます。ありがとうございます!」


 林サミコは,両足で金子の足をしっかりと挟んだ。その行為が何を意味するのか,金子はよくわかった。彼女とのエッチOKという意味だ。月本国でも,男女の合意があれば,女性の年齢に関係なくエッチしても,罪には問われない。


 食事が終了した。その費用は当然,林サミコが支払った。そして,林サミコは金子の腕をしっかりと掴んで,金子に寄りかかるようにして,彼女の借りているホテルの部屋に入った。

 

 ここまで来ると,林サミコは,ザビルの指示なしで行動できる。林サミコは,すぐに服を脱いで全裸となった。彼女の豊満なGカップのおっぱいが露わになった。彼女は,ベッドで横になった。


 もうこうなっては,金子も,最後まで行くしかない。彼も全裸になって,林サミコの豊満なおっぱいを掴んで乳首を吸った。その時,林サミコは,雷電魔法陣を頭の中に思い浮かべて,その魔法陣を指輪に投影させるようにイメージした。そして,指輪を金子のコメカミ部分に当てた。


 林サミコは,指輪に向かって念話した。


 林サミコ『指輪様,彼を気絶させる程度の弱い雷電攻撃をお願いします。決して,殺さないでください』


 バチィーー!!


 金子は,頭部に電撃をくらった。目の前が真っ暗になって気絶した。金子は,林サミコの乳首をちょっと吸っただけで気絶してしまった。


 林サミコは,携帯のカメラを起動して,セルフタイマー機能を利用して,2人の全裸によるツーショットを何枚も撮影した。特に金子の顔ははっきりと映るようにした。そのいくつかの映像は,ザビルの管理しているメールに送付した。


 ここまで来たら,ザビルは,林サミコに自分の言葉で金子と対処するように指示した。


 30分後,金子は頭がクラクラしながら目覚めた。


 金子「え?俺はいったいどうしたんだ?」

 

 ベッドで横になっているはずの林サミコは,服を着て椅子に座っていた。

 

 林サミコ「金子さん。もうお芝居は終了です。服を着てください」

 金子「何? 俺はスタンガンにやられたのか?」

 林サミコ「そんな感じです」


 ともかくも,金子は頭を抑えながら服を着た。林サミコは,携帯を机において,全裸で映っている2人のツーショットの映像を金子に見せた。


 金子「何? お前,写真を撮ったのか?」

 林サミコ「はい,撮りました」

 金子「消しなさい。さもないと警察に訴えるぞ」

 林サミコ「どうぞ,訴えてください。警察には,無理やり写真を撮らされて無理やり犯されたというだけです」

 

 この場合,男が不利なのはよく分かっている。こうなっては,相手の要求を聞くしかない。


 金子「何が望みなんだ?」

 林サミコ「Z鉱石50gでいいので,入手してください。即金で支払います」

 金子「50gだと,200万円になる」

 林サミコ「はい,その金額で結構です。別途,金子さんと先方には,手数料として,それぞれ10万円ずつ支払います。領収書が不要の金です」

 金子「つまり,10万円で,相手を懐柔すればいいのかな?」

 林サミコ「はい,お願いできますか?それも,1週間以内で」

 

 金子にとって,この話自体,別に法に違反するようなことはしていない。会社にも損は与えない。メーカーの了解さえ得れば実現可能な話だ。でも,なんか癪に障る。


 金子「わかった。約束はできないが,なんとか動いてみる。でも,お前を最後まで抱かせろ。それが条件だ」

 林サミコ「残念ですが,芝居は終わりました。お引き取り願いします。わたし,これから,まだすることがありますので」

 金子「・・・」


 金子は,渋々ホテルを後にした。


 ーーー

 林サミコの対応は,ザビルからまた合格点をもらった。幸い,組みしやすい相手だったのが幸いした。


 その後,飲み屋街で立ちんぼをして,客を引っかけて,人目につかない場所で客の携帯でツーショットを撮らせた。その後,すぐに客を気絶させた。こうすることで,客の携帯からロックを外すことなく,その携帯からネットショッピングをすることで,150万円相当の金小判を注文して,コンビニのボックス受け取りというアレンジが可能だ。林サミコは携帯,クレジットカード,銀行カード,財布を奪った。もしクレジットカードのパスワードが分かればもっと大々的に金を稼ぐことが可能だ。

 

 この彼女の一連の行動では,ザビルの指示なしでうまくできた。


 ザビルは,もしこの調子で金を稼ぐことができるなら,Z鉱石,つまり魔鉱石のことだが,法に触れて奪い取るような行動をしなくても,きちんとお金を支払って定期的に魔鉱石を入手できるのではないかと思ったほどだ。


 ーーー

 それから3日後,寿商事の会議室で,林サミコは,きちんと金額を支払ってZ鉱石50gを入手した。それを鞄にしまう際,こっそりと指輪の亜空間を開いて,そこにZ鉱石を収納した。


 魔鉱石50gは,上級レベルの攻撃魔法3発分に相当する。指輪でコメカミに当てて気絶させるだけなら,初級レベルの魔力でいいので,300回もできる回数だ。


 かくして,「暗殺業」をするためには,少なくともZ鉱石10kgは必要だ。


 林サミコの暗殺業への道程は,まだまだはるか遠い。



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