第52話 夏江のアドバイス(車内の出来事)

 スミ子とラナ子が墓地の前で泣き崩れた翌日,5人目の除霊師が総裁邸に来た。彼女は,自称『竜姫』と名乗った。彼女は,顔の半分を半透明のベールで覆っている。左手の指には,ケバケバしい宝石をいただいた指輪が2個はめてあった。胸元が半分開いていて,胸の谷間ラインがはっきりと見て取れた。なんともなまめかしい姿だ。スケベな男どもを惑わす妖艶さがすっかりと身についている感じだ。


 総裁秘書の部下が竜姫のホームページを閲覧して,『これは信用できる霊能力者だ!』と判断して,超忙しい竜姫をなんとか説得して,今日,やっと総裁邸に呼ぶことができた次第だ。彼だけでなく総裁秘書も,youtubeで竜姫の霊能力の動画を見て,すっかり彼女のファンになってしまった。


 竜姫を出迎えたのは総裁秘書だ。

 

 総裁秘書「竜姫様ですね?高名な霊能力者であり,実績もすばらしいと第3秘書から伺っております。どうぞ,こちらへ」

 竜姫「それはそれは,身に余る光栄です。では,失礼します」


 竜姫は総裁秘書に連れられて,総裁のいる書斎に案内された。書斎は,防音措置が施されている。秘密性の高い面談や会議はこの書斎で行う。


 総裁秘書「総裁,こちらが霊能力者の竜姫様です。彼女の霊能力は,過去にテレビでも紹介されたほど有名です。実績もすばらしいものです。もし,総裁に何らかの呪いや呪詛が掛けられていたとしても,確実に竜姫様が見破ることができると信じております」


 総裁「竜姫さんと言ったかな? 数日前に,ある人から,わたしの寿命はあと数日だと言われてショックを受けてしまった。これまで4名の除霊師の方々に来てもらったが,いずれもそのような呪いや呪詛は掛けられていないとの判断だった。でも,どうも,今ひとつ納得することができない。ぜひ高名な竜姫さんにわたしを診てもらいたい」

 竜姫「そうでしたか。では,早速,診ることにしましょう」

 総裁秘書「竜姫様,では,こちらのソファにお座りください」

 竜姫「はい,ありがとうございます」


 竜姫はソファに座った。総裁もソファに移動して,竜妃と対峙して座り直した。


 竜姫「初めにお断りしておきますが,わたしの能力は,常に安定して発揮されるというものではありません。一度,能力を発揮してしまうと,しばらく休息する必要があります。場合によっては,間を置いて2回,3回診ることになるかもしれません。ご了解していただきたいと思います」

 総裁「それは構わん。今日は,終日,時間を空けているから大丈夫だ」

 竜姫「それはありがたいです」


 竜姫は,呪い解除をするための7つ道具を取り出して,ソファの前に置いてある机に並べた。それは持ち運びに便利な小さい水晶球だった。ちょうど7個あり,北斗七星にみたてて配置した。それに意味があるのかないのか,当の本人にもわからない。


 竜姫は,熟練した手順で手刀で九字を切ったり,合掌して祈ったり,さまざまな手印を使って精神統一をはかった。


 この一連の手順は,短いヴァージョンで5分,長いヴァージョンで30分のもある。今回は15分ヴァージョンにした。


 その作業の間,竜姫はこの総裁邸に来ることになった経緯を思い出していた。

 

 ーー 竜姫の回想 ーー

 竜姫への最初の連絡はメールで行う。電話番号を公開していないからだ。彼女は,『超大至急』,『報酬高額』というキーワードに眼が移り,そのメールを優先的に見た。メールの内容は以下のようなものだった。


 『華丸財閥の総裁が,あと数日で呪い殺されると予言した人物が現れました。その方は,華丸私立高校の臨時教師をしている夏江という女性です。果たして,彼女の予言が正しいかどうか,大至急で華丸総裁を診ていただきたいのです。もし,彼女の予言が正しいのであれば,その予言の回避方法をご教授いただきたいと考えております』

 

 このメールに対して,竜姫は時間稼ぎのメールで返事した。


 『依頼の件,すぐに対応したいのですが,先約が詰まっています。できるだけ早急にそちらに行けるようにアレンジさせていただきますので,1日ほど猶予をいただきたいたいと思います』


 竜姫は1日の猶予を得て,すぐに華丸総裁と臨時教師の夏江について,専門の調査員を導入して調べさせた。


 華丸総裁邸の住人は,総裁,総裁秘書,女中2名,運転手1名の5人で,不定期ながら女性のボディーガード1名もときどき居ることも判明した。そのボディーガードは,特別な用事がない限り,他の愛人たちの護衛をしている。総裁の奥さんは数ヶ月前に病死してしる。


 それぞれの構成員のバックグランドについては,さらに調査に時間を要する。


 臨時教師の夏江については,以前は警視庁の警察官であることがすぐに判明した。


 この簡単な調査報告ではあったが,竜姫は,ニヤッと微笑んだ。夏江については,以前,面識があった。夏江が刑事をしている時,彼女をコロッと騙したことがある。そこで,彼女に電話して接触を試みることにした。


 昨日,竜姫は華丸私立高校に電話して,夏江を電話に出てもらった。

  

 夏江「もしもし,あなた誰ですか?」

 竜姫「ふふふ,わたしの声を聞いて,思い出さないの? 元,刑事さん?」

 

 夏江は,その声を聞いて,それがすぐに誰かがすぐにわかった。


 夏江「え?もしかして,霊能力者の竜姫さん?」

 竜姫「フフフ,記憶力だけは一流ね。よく覚えていたわね」

 夏江「竜姫さん,あなた,偽物竜姫さんだったのね。あの時は,まんまんと騙されてしまったわ」

 竜姫「そうよ。詐欺師が人を騙して何が悪いの? 騙されるほうが悪いと思わない?」

 夏江「竜姫さん,済んだことはどうでもいいわ。ところで何の用なの?」

 竜姫「あなた,華丸総裁に,寿命があと数日だって予言したわね。その辺の事情を詳しく説明してほしいのだけど?」

 夏江「どうして,そんなこと,あたなに教えないといけないの?」

 竜姫「わたし,明日,総裁邸に呼ばれているのよ。どうやら,わたしのこと,高く評価しているみたいよ。偽物とも知らずにね。フフフ,どう,協力しない?あなたはわたしに有益な情報を提供する。わたしはあなたの有利なことを総裁に進言する。つまり,あなたもわたしも損しないってこと。どう? いいと思わない?」

 夏江「・・・」


 夏江は,竜姫の口車に乗るかどうか一瞬迷った。でも,すぐに答えは出た。


 夏江「わかったわ。あなたの口車に乗ってあげるわ。30分後にわたしの携帯に電話して頂戴。電話番号は,XXXよ」

 竜姫「了解よ。じゃあね」


 夏江は,保健室に移動して,竜姫からの電話を待った。その間,達姫から総裁に進言してもらう内容をちょっと考えた。

 

 30分後,竜姫から夏江の携帯に電話が鳴った。そこで,夏江は,竜姫に必要な情報と進言内容を伝えた。


 夏江「では,必要な情報を提供するわね。わたし,総裁に愛人になるように迫られたの。でも,返事は保留にしたわ。その代わり,1枚の紙を渡したのよ。そこには,総裁が数日後に死ぬってね」

 竜姫「どうしてそんな出鱈目を言ったの?」

 夏江「信じてもらえないかもしれないけど,わたし,最近,直感がよく当たるようになったの。その直感の冴えで,『爆乳除霊師・夏江』って名乗ることもあるのよ」

 竜姫「フフフ。爆乳?あんた,そんなにボインだったの?」

 夏江「以前,会ったときは,普通のおっぱいだったけど,今では,両方のおっぱいの重さだけで,30kg以上もあるわよ。爆乳というより,超爆乳になってしまったわ」

 竜姫「・・・」

 

 夏江は,話を続けた。


 夏江「ほかに背景知識としては,そうね,高校の臨時理事長ランからブレスレットを総裁に渡すように預かったわ。でも,総裁に渡すの忘れて,運転手に言付けたことかな?」

 竜姫「ほかに変わったことはなかったの?」

 夏江「そうね,,,懐石料理を出されたんだけど,後で,家に帰ってからなんだけど,下痢が続いてしまったことかな?何か,食事に変なものが混ざってたのかもしれないわ」

 竜姫「下痢はどうでもいい情報ね」

 夏江「さて,竜姫さんにお願いなんだけど,総裁が数日後に死ぬっていう予言については,その可能性が非常に高いと言ってほしいの。かつ,それを回避する方法は,わたし,『爆乳除霊師・夏江』しかいないってこともね。どう? 協力してくれる?」

 竜姫「フフフ,世の中,魚心あれば水心ありよ。あなたも総裁を騙すのでしょう?あんたの受けとる報酬の5割をわたしにバックしてちょうだい」

 夏江「5割?,,,3割ならいいわ」

 竜姫「あなた,ほんとうに元警察官なの?」

 夏江「そうよ。事情があって,お金が必要なのよ」

 竜姫「じゃあ,おまけで4割で我慢してあげるわ。これ以上は無理よ」

 夏江「了解。それで手を打ちましょう」

 竜姫「じゃあ,あとで携帯のショートメールに私の銀行振込口座を連絡するわね。じゃーね,相棒!」

 夏江「・・・」

 

 夏江は,相棒って呼ばれてしまったことに少なからずショックを受けた。


 ーーーー

 竜姫の回想は終わった。


 竜姫の手印をこねくり廻して,なんとか精神統一とか祈祷をしている振りをして15分が過ぎた。

 

 竜姫「では,今から総裁様の寿命を霊視します。エイ!ヤー! ヤー-!! ううう,見えました,,,見えました,,,総裁様の寿命は,,,なっ,なんと,あと数日しかありません!!」

 

 この言葉に総裁は驚いた。総裁秘書も驚いたが,彼は夏江の言ったことが正しかったことに驚いた。それ以上に,これまでの4名の除霊師がウソをついていたことになる。いったい,真実は何なのか??


 総裁「自分があと数日の命だとは,とても信じられん。竜姫さん,それを回避する方法はないのか?」

 竜姫「さきほどの霊視で,疲れがどっとでました。少々休ませてください。1時間ほどで結構です。その後,その回避方法を霊視させていただきます」

 総裁「そうか,では,秘書に案内させましょう」

 総裁秘書「竜姫様,では,ご案内させていただきます」


 総裁秘書は,竜姫を客間まで案内した。彼が書斎に戻って,総裁に声をかけた。


 総裁秘書「夏江先生の予言は正しかったようですね」

 総裁「いったい,誰を信じればいいのか,わからなくなってしまった」

 総裁秘書「では,回避方法を教えていただいた後,竜姫様をテストしてはどうですか?」

 総裁「例えば?」

 総裁秘書「そうですね,,,総裁にしかわからないことなどを竜姫様に聞くとかですかね?」

 総裁「・・・,まあ,そうだな,,,」


 総裁と総裁秘書は,事の信憑性をあれこれと議論した。


 1時間後,総裁秘書は竜姫を呼んだ。竜姫はソファに座って,小型の水晶を南十字星の配置に変えて,余った3個の水晶は4点の中心部に集めて配置した。手印を何通りも変えて精神統一を計った。今回は5分ヴァージョンとした。


 人を騙すにも,まず,自分が本物の霊能力者であると信じることから始める。その没入感を得るために,この所作が必要だ。


 竜姫「うううーー,見える,見えました! カッーー!!」


 竜姫は,気合いを込めて叫んだ。そして,気を静めてから総裁に言った。


 竜姫「総裁,正直に言います。すでに,総裁は,死へのルートに乗ってしまわれました。つまり,そのルートから離れることは,わたしのパワーをもってしても非常に困難です」

 総裁「竜姫さん,そこをなんとかからないのでしょうか?」

 竜姫「その死へのルートを構築した人物がどうやら何人も絡んでいるようです。その1人でも,見つけることができれば,なんとかなるかもしれません」

 総裁「ぜっ,せひ,その人物を発見していただけますか?」

 竜姫「わかりました。すいませんが,パワーを回復したいので,午後からにしていただけますか?」

 総裁「はい,どうぞ休息してくだい。お食事の準備も整えておりますので」

 竜姫「それは大変助かります」


 竜姫は,総裁秘書に連れられて客間に案内された。


 総裁は,悩んでもしょうがないので,いくつか仕事の案件を片付け始めた。


 昼食後,


 竜姫は,再び書斎に来て,今度はオリオン座の形に小型水晶を並べて手印を切った。今回も5分ヴァージョンだ。


 竜姫「うううーーー,何人かの女性が見えます。でも,顔までははっきりとわかりません。えっ? なんという巨乳!! そのうちのひとりは,ウルトラ巨乳と言ってもいいほどの巨乳の持ち主です!ほかの女性は,はっきりとした特徴がありません」

 

 この言葉に,総裁と総裁秘書は顔を見合わせた。そして,お互いが声を出して言った。


 「夏江先生?」

 「夏江先生?」


 竜姫「あっ,その巨乳の女性は,何か名刺のようなものを持っています。え?何々? 爆乳除霊師・夏江? 何? ブレスレットをドライバーに預けた? 」

 

 竜姫は,声の調子を下げて,落ち着いてから総裁に言った。


 竜姫「どうやら,死へのレールを変える可能性のある女性の1人は,その夏江という女性のようです。わたしができるのはここまです。すいません,お役に立てなくて」


 竜姫に,『自分ではできないけど,夏江ならできますよ』と言われたようなものだ。こう言われてしまっては,竜姫の言ったことがほんとうかどうか,確かめることなどできない。


 竜姫のビジネススタイルである『失敗ビジネス』の本領発揮といったところだ。


 総裁「いえいえ,そこまで診ていただいてありがとうございます。では,こちらで,夏江先生に再度コンタクトを取ってします」

 総裁秘書「これは,交通費と謝礼です。お納め下さい」


 竜姫は遠慮しつつもそれを受けとった。その封筒には100万円ほど入っている。1日で100万円稼ぐのだからよい商売だ。


 竜姫「すいません,ほんとうに役立たずでした。総裁がぜひ死へのルートから免れることをここから祈っております」


 そう言って,竜姫は去っていった。


 ーーー

 その日の夕方,夏江のアパートにリムジンカーが止まった。夏江を迎えるためだ。夏江は,事前に連絡を受けていたので,時間通りにアパートを出て,そのリムジンカーに乗った。車の中は,運転手と夏江だけだ。


 夏江は,ちょうどカッパエビセンを食べながら,テレビを見ていたところなので,そのままお菓子を持ち込んで車に乗った。ひとりで食べるのもちょっと気まずいので,運転手にお裾分けした。


 夏江「運転手さん,口が寂しかったから,カッパエビセンでも食べませんか?」

 運転手「そうですね。じゃあ,少しだけいただきます」

 夏江「じゃあ,肘掛けのところに,ティッシュを敷いてそこに小分けしますね♥」

 

 夏江は,ティッシュを肘掛けのところに敷いてから,そこにカッパエビセンを小分けした。その時,夏江の右手が運転手の左腕に触れてしまった。


 シュィーーン!(夏江の頭の中に,多数の映像が浮かんで来る音)


 夏江は,その映像にびっくりして,そのまま右手を運転手の左腕に触れたままにしてしまった。


 ーー 夏江の頭に浮かんで来る映像 ーーー

【シーン1】

 運転手と総裁の亡き妻が,共に中学生の頃,同じ卓球部で,一緒に汗を流したシーンが映った。彼らは,幼なじみだった。たぶん,相思相愛だったのかもしれない。


 【シーン2】

 運転手は総裁の亡き妻の遺影の前で泣いていた。そこで,彼は彼女に誓った。『奥様,あなたは,間違いなくご主人の手によって殺されたはずです。必ず,この仇,とって見せます!』

 その運転手の手には,運転手は私立探偵を使って,総裁の妻の死因調査を調べさせた調査報告書と華丸財閥の収支決算があった。

 その調査報告書に書かれていた内容は,次のようなものだった。奥様の死因に疑わしい点はありませんでした。警察も病死だと断定しました。しかし,総裁は,妻に生命保険金額5億円をかけていたこと,さらに,妻の死によって,妻の母親から妻が受け継いだ遺産80億円相当が,そのまま総裁の手に入ることになります。

 さらに,もう1枚の収支決算では,ここ数年,赤字続きで経営困難な状況であることが記載されていた。


 【シーン3】

 運転手は地図を拡げていた。そして,崖のある場所,川に渡している橋のある場所などにチェックをしていた。その地図の隣には総裁の亡き妻の写真が置いてあった。運転手は,その写真に向かってある誓いを述べた。

 運転手「これらの場所で,運転ミスすれば確実に死亡するはずです。奥様,あと数日の辛抱です。ご主人をそちらに連れていきます。わたしも一緒にお供します」


 ーーーー


 夏江は,慌てて,彼の腕に接触させている右手を離した。彼女は,すぐに彼のオーラを診た。彼の寿命を示す赤色のオーラは,長生きするオーラを示しているが,何か曇りガラスのようなもので覆われているようだった。


 夏江はオーラを診ることはできるが,オーラがちょっと変わった変化をした場合,どのように解釈すればいいのか,まだ経験の浅い夏江にはよくわからない。


 夏江「あっ,ごめんなさい。ついついわたしの手が腕に接触してしまって」

 運転手「いいえ,別にいいですよ,それくらい。わたしが接触させたらセクハラになるかもしれませんが,夏江先生なら全然問題ありません」

 夏江「ありがとう,そう言ってくれて。ところで,運転手さんは,いつからこんな仕事をしているのですか?」

 運転手「亡くなられた奥様に拾われて,運転手をさせていただきました。かれこれ10年ほどになります」

 夏江「そうですか。その奥様と運転手さんは,仲がよかったのですね」

 運転手「まあ,そうですね。同級生でしたから」

 夏江「なるほど,そうでしたか。あっ,そうそう,わたし,自分の名刺があります。運転手さんにも渡しますね」


 夏江は,運転中にもかかわらず,自分の名刺を彼に渡した。彼は,それを受けとって,一目でそれを見た。


 運転手「『爆乳除霊師・夏江』? 夏江先生が爆乳なのはよくわかるのですが,除霊師だったのですか?」

 夏江「ええ,今は臨時で教師をしていますが,本職は除霊師です。教師の仕事は,ここ1,2週間のうちに辞める予定です」

 運転手「そうなんですね?」

 夏江「フフフ。実は,今回,総裁邸にお邪魔するのも,たぶん,愛人契約の件ではなく,除霊師として呼ばれたのだと思います」

 運転手「除霊師としてですか? 総裁は何か呪いかなにか,受けているのですか?」

 夏江「今はわかりません。ですが,総裁の命はあと数日で尽きると,前回の訪問の時に,わたしが総裁に言い残しました。それを受けて,今回,わたしが呼ばれたんだと思います」

 運転手「あと,数日の命ですか,,,」


 運転手は何か考えているようだった。


 夏江「まあ,そんなに気にしないでください。わたしの総裁への除霊が成功しようが失敗しようが,運転手さんにはさほど影響しないと思いますよ」

 運転手「そうですね。気にしないでおきます」


 夏江は,差し障りの内容で留めた。運転手の『思い』を映像で見たものの,まだまだ情報が足りないと思ったからだ。それから,夏江は,さしさわりのない,過去に除霊に成功した話をおもしろおかしく運転手に語った。


 ー 総裁邸 ー


 総裁邸に着いて,女中のラナ子が出迎えた。彼女は夏江総裁の書斎に連れていっこうとした。その途中,夏江は,重たい超爆乳のためか,重心を上手くとれず,つまずいて転んでしまった。


 夏江「痛ッーー」

 ラナ子「え?どうしました?」

 夏江「おっぱいが重たくて,転んでしまいました。すいません,わたしの体を支えて起こしていただけませんか?」

 ラナ子「はい,わかりました」


 ラナ子は夏江の体を支えて,なんとか夏江を起こして立たせた。その際,夏江は,自分の手をしっかりとラナ子の腕を掴んた。


 ヒィヒューーーー!(夏江の頭の中に,ラナ子の映像が飛び込んでくる音)


 ー 飛び込んで来た映像シーン ー

 【シーン1】

 ラナ子が裸になって,総裁に抱かれようとしている時,ラナ子は総裁にプレゼントをおねだりした。総裁はポケットからブレスレットを取り出した。その時,総裁の逸物が急に萎えてしまった。かつ,総裁の燃えるようなピンク色が色褪せていった。ラナ子は奪うようにそのブレスレットを受けとった。ラナ子の全身ピンク色のオーラも急に消えていった。


 【シーン2】

 総裁の亡き妻のお墓の前で,ラナ子の母親スミ子とラナ子が会話している映像が浮かんだ。会話の内容もはっきりと聞こえた。その内容とは,総裁を腹上死させる作戦が失敗に終わったこと,亡き妻が母親のスミ子の復讐を肩代わりしたこと,その代わり,ラナ子が総裁の愛人や総裁に近づく女性に薬を盛ったり,陰湿な嫌がらせをしたりしたこと,さらに,亡き妻がラナ子の指輪に精神攪乱を引き起こすパワーを与えたことなどだ。


 ーーー

 夏江は,ラナ子に支えられながら,しっかりとラナ子のオーラを間近で観察した。以前見た黒っぽい霧のようなオーラは消滅していた。たぶん,総裁の腹上死作戦失敗が原因だと思った。それに,彼女のオーラから推測するに,今すぐに総裁に手を出すとは思えない。それでも,ラナ子は総裁を殺害するつもりなので,彼女を総裁から遠ざけるほうがいいと思った。


 そんなことを思いながら,夏江はラナ子に支えられて,総裁の書斎に連れられた。

 

 総裁「夏江先生,どうぞソファにお座りください」

 夏江「ありがとうございます。それで,何の用事でわたしをここに呼んだのですか?」

 総裁「竜姫という霊能力者を知っているなか?」

 夏江「竜姫? そう言えば,以前,刑事をしていたときに,一度,会ったことがあります」

 総裁「ほほう,それほど有名なのだな? その竜姫さん曰く,結局のところ,夏江先生に診てもらいなさいと進言された。夏江先生,どうだろう? 爆乳除霊師として,きちんとわたしを診てくれないだろうか? 以前,あなたが言っていた数日の命,という運命を変えてくれないだろうか?」

 夏江「ということは,総裁があと数日の命ということを信じているのですね?」

 総裁「信じたくはないが,竜姫さんがそう言った以上,信じるしなかない」

 夏江「確かに,竜姫さんはすばらしい霊能力者です。はい,わかりました。ですが,あの,,,謝礼の方は,,,??」

 総裁「あと数日の命,というのを避けることができれば,報酬100万円を差し上げよう」

 

 夏江は,ケチな総裁だと思った。


 夏江「すいませんが,成功報酬は,最低1000万円をいただくことになっています」


 夏江は少々金額をふっかけてみた。


 総裁「一千万円? 何をバカな!」

 夏江「嫌なら結構です。数日後にどうぞ死んでください」


 夏江は,ゆっくりと立ち上がって,去ろうとした。


 総裁「夏江先生,待ちなさい。わかった。成功報酬一千万円でいい。数日とは,3日くらいのことか?」


 夏江は,ソファに座って,総裁のオーラを詳しく診た。総裁の寿命オーラは,すでに黒い霧のようなものでは覆われていなかった。代わりに,曇りガラスのようなもので,覆われていた。それは,運転手のオーラとよく似ていた。たぶん,このままでは,2,3日の内に,運転手によって殺される運命だと思った。


 夏江「はい,このままでは,3日以内に死亡します」


 夏江は,断定的に言った。

 

 総裁「そうか。では,1週間,生き延びることができたら,もう心配はいらないのだな?」

 夏江「はい,その理解で結構です」

 

 総裁はしばらく考えてから言った。


 総裁「では,1週間生き延びたら400万円,1ヶ月生き延びたら300万円,3ヶ月生き延びたら,残りの300万円を支払う」

 夏江「・・・」


 夏江は,その内容で了解した。総裁は秘書に連絡して契約書を準備するように指示した。


 契約書ができたので,それにサインした。夏江は少なくとも1週間は生き伸ばすことは可能だと判断した。


 総裁「それで? 夏江さんの見立ては,どうかな?」

 夏江「はい,この契約書にもあるとおり,この3ヶ月間は,わたしの言うことを守ってください」

 総裁「もちろん,そのつもりだ」

 夏江「では言います。この屋敷の女中2名と運転手を即刻首にして,この屋敷から追い出してください。では,1週間後に謝礼400万円をもらいに来ます。あっ,そうそう,運転手ですが,わたしをアパートに送ってから解雇してくださいね。以上です」

 総裁「・・・」


 総裁は怪訝な顔して夏江に聞いた。


 総裁「その理由を聞いてもいいかな?」

 夏江「直感です。理由はありません」


 夏江は,竜姫と協力すると,自分の見立てをわざわざ細かく言う必要がないことに気がついた。なんとも楽な金儲けなど思った。これからも竜姫と協力するのも悪くないと感じた。夏江に,元警察官という自覚はすでになくなっていた。

 

 夏江は,これ以上,ここに居ても意味がないので,さっさと総裁邸を後にして,リムジンカーでアパートに送られた。


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